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延命の檻  作者: なおパパ


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第五章 教授の論理

お立ち寄り頂き、ありがとうございます。

第五章 教授の論理


米倉孔明は、

解剖実習室の片隅で、

佐々木功教授が献体を片付ける姿を黙って見つめていた。


教授の動きは、いつも通り滑らかで、

まるで長年使い慣れた道具を扱うように迷いがない。


「米倉君、今日の助手作業も完璧だったね。」


佐々木が声をかけた。

その声は穏やかで、

まるで日常の雑談でも始めるかのようだった。


米倉は、胸の奥に沈む違和感を押し殺しながら頷いた。


「……教授。

ひとつ、お聞きしたいことがあります」


「なんだい?」


「献体の……入手ルートです。

あまりにも状態が良すぎる。

冷蔵保存されたものとは思えません」


佐々木は、少しだけ目を細めた。

だが、その表情は怒りでも焦りでもなく、

むしろ“待っていた”というような落ち着きがあった。


「……やはり、気づいていましたか。流石、米倉君。」


教授は解剖台の横に立ち、

静かに語り始めた。


「米倉君。

医学の発展には、

“新鮮な人体”が必要だ」


「……しかし、それは……」


「もちろん、正規の献体制度はある。


だが、現実には足りない。

学生たちに十分な教育を施すには、

どうしても限界があるんだ」


教授の声は淡々としていた。


「だから私は、別の方法を考えた。

末期患者に“治療”を提供し、

その後のケアとして協力してもらう」


米倉は息を呑んだ。


「……治療……?

まさか……」


「そう。

賢者の石だ」


佐々木は、まるで誇らしげに言った。


「賢者の石は、肉体を完全に治癒させる。

どんな病気も、どんな損傷も。

だが、脳の損傷だけは完全には戻せない。

意識が戻らないこともある」


米倉の胸に冷たいものが走った。


「……意識が……戻らない……?」


「植物状態だよ。

反応はない。

苦痛も感じない。

だから、倫理的な問題はない」


(……本当に……?)


米倉の心の中で、

疑念が膨らんでいく。


「教授……

しかし、それは……

殺人では……?」


佐々木は、静かに首を振った。


「違うよ、米倉君。

私は“殺して”いない。

治療しているんだ」


「しかし……!」


「手術でも、心臓を止めることはある。

臓器を取り出すこともある。

だが、患者は生きている。

それと同じだ」


教授の声は、

まるで教科書を読み上げるように冷静だった。


「私は、患者を救っている。

そして、医学の未来を救っている」


米倉は言葉を失った。


(……この人は……

本気でそう信じている……)


「米倉君。

君は真面目で、倫理を重んじる男だ。

それは素晴らしいことだ」


佐々木は、優しい声で続けた。


「だが、医学は“理想”だけでは進まない。

犠牲なしに発展した科学など存在しない。

君も医者なら分かるだろう?」


米倉は、拳を握りしめた。


「……しかし……

せめて……麻酔を……」


「必要ないよ」


佐々木は即答した。


「植物状態の患者に、

高価な麻酔を使う理由はない。

反応もない。

痛みも感じない」


(……本当に……?

あの指先の動きは……

気のせいだったのか……?)


米倉の胸に、

小さな疑念が再び浮かび上がる。


「米倉君。

君も、私の研究を支えてくれないか」


佐々木は、

まるで弟子に未来を託すような口調で言った。


「これは、医学の進歩のためだ。

誰かがやらなければならない。

そして私は、君なら理解してくれると信じている」


米倉は、

教授の穏やかな笑顔を見つめた。

その笑顔は、

優しさにも見えたし、

狂気にも見えた。


(……この人は……

どこまで本気なんだ……?)


米倉の胸に、

言いようのない不安が広がっていく。

そして彼はまだ知らなかった。

教授の“治療”を受けた患者の中に──


自分の親友がいることを。



お読み頂き、ありがとうございました。

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