表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された魔術師は、神に観測されながら暮らしている〜生活魔法しか使えないのに、加護が止まりません〜  作者: 灰音 澪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/64

第19話 道は、未来へ続く

ゼノは家で、今後のことを考えていた。


温泉郷ができ、人が増え、客も増えた。

湯に浸かり、歌を聴き、果実酒を飲み、笑って帰る――

ここまでなら、もう回っている。


だが、ホスト時代の癖が抜けない。


「……売上が伸びてる店ほど、“裏”が先に詰まる」


独り言みたいに言って、湯気の残るカップを置く。


食料。日用品。調理器具。薬。布。灯り。

全部、村の外から運んでいる。


「このままじゃ、詰まるな」


忙しさが増えるほど負担も増える。

誰かが無理をすれば、歪みは必ず全体に回る。


――止めない。

止めたら、“熱”は二度と戻らない。


だったら、先に整える。


村に店があればいい。

全て村で賄えれば、手間も減り、

商人から仕入れる事で、商人達も潤う。

近くの村も、街に行くより、ここに来る方が近い。

温泉郷に来た客も、ついでに買って帰るだろう。

 

以前、商人たちが店を出したいと言っていた。

待ってもらっていたが、良い機会だ。


ゼノは、静かに息を吐いた。


だが、まず必要なのは、建物じゃない。

人と物が、無理なく行き交う“道”だ。


「まずは、入口で詰まらせない」


ホストなら、入口で空気を決める。

一歩目で“ここ、いい店だ”って思わせる。


そして中で飛び切りのもてなしで、夢を与える……


《視聴者:148,816》

 

《神コメント:物流、重要》

《神コメント:導線設計、分かってる》

《神コメント:では、これを》


 ――落ちてきた。


眩い光ではない。

音も、衝撃もない。


淡く、重い“何か”。


粒子のようなそれは、床をすり抜け、ゼノの足元へ溶けていく。


《投げ加護:路床形成補助》

《効果:整地精度向上/圧着定着補正》

《副次効果:耐水性・耐摩耗性》


『サンキュー。見とけよ。』

 

俺の力じゃない。別の力で生かされている。


この手の加護は、派手じゃない。バズらない。

でも、店を“続ける”には一番効く。


――使い方次第で、未来が変わる。


――


翌朝。


湯楽郷は、いつもより少し騒がしかった。


人が増えた、というより――

人が「次はいつ来よう」と考えている空気がある。


歌舞殿の余韻が、まだ漂っていた。


湯から上がった客が果実酒広場に腰を下ろし、

杯を傾けながら、昨夜の話を続けている。


「リィナの高音、反則だよな」

「ナディアの低音、腹に響いた」

「今日も公演あるって?」


自然と、今日の予定が“もう一日”延びている。


流れはいい。

だからこそ、今整えなければならない。


歌姫団は、温泉郷の看板の一つになっている。


――


ゼノは長老の家を訪ねた。


「長老。以前、商人たちが村で商いをしたいと言っていた件ですが、そろそろ受け入れようと思います」


「湯楽郷に面した道沿いに、まずは二十軒ほど。建ててもよろしいでしょうか」


長老は、しばらく考え込み、頷いた。


「住民も増えた。買い出しの負担も大きい。良い判断じゃろ」


「商人は募集します。店の地代は、村の発展に使ってください。

子供も増えるでしょう。今の学校では、いずれ手狭になります」


長老は、目を細めた。


「……もう、そこまで考えておるのか」


「教育は大事なので。その時はサラさんにも協力して頂きたい」


――


村の入り口。


踏み固められ、ところどころ抉れた土の道。

馬車が通るたび、轍が深くなり、雨が降ればぬかるむ。


「……ここから、だな」


ゼノは道の中央に立った。


ガルドと、数人の村人が少し距離を取って見守る。


「道を作るって……掘るのか?」

「石を敷くんじゃないのか?」


誰もが、人手と時間のかかる作業を想像していた。


ゼノは首を振る。


「違います」


静かに息を整え、地面に手を当てた。


《路床形成補助》


 ――地面が、応えた。


轍がゆっくりと盛り上がり、凹凸が消えていく。

石は沈み、根はほどけ、草は土へと還る。


まるで道そのものが、

「本来あるべき形」を思い出しているようだった。


「……平らになっていく」


ガルドが、思わず声を漏らす。


村人たちも、まるで夢のような出来事に、言葉すら見つからずにいる。


ゼノは歩きながら、さらに魔法を重ねた。


《整地精度向上/圧着定着補正》


見えない圧が、地面に染み込む。

踏めば沈まず、だが硬すぎない。


「……これ、足が疲れにくいな」


村人の誰かが、試すように歩いた。


最後に、ゼノは手を翳す。


《耐水性・耐摩耗性》


地表がわずかに黒く締まり、艶を帯びた。


水を弾き、削れにくい。

石畳より静かで、土道より強い。


 ――草原までの長い一本道。


「……これが、道?」


「こんな道、見たことがない……」


馬車を押すと、車輪は音もなく進んだ。


《視聴者:172,345》

 

《神コメント:静音性、高評価》

《神コメント:みんな、喜ぶぞ》

《神コメント:人の流れが安定する》


ゼノは、静かに頷いた。

『どうだ。いけてるだろ。まだまだこれからだぜ』


「この道があれば、店を並べても詰まりません」


そして、少しだけ“ホストの声”になる。


「来る人に、無理させない。歩かせない。待たせない」


ガルドが苦笑した。


「……言い方が、商売人だな」


「商売ですから」


ゼノはさらりと返す。


「湯も歌も、“いいもの”だけじゃ足りない。

気持ちよく辿り着いて、気持ちよく帰れる――そこまでが商品です」


《神コメント:接客脳、いいな》

《神コメント:入口から帰り際まで“設計”》

《神コメント:こちらも増やせるか》


『そっちも増やしてやるよ』


この道は、

これから商人を呼び、

歌声を運び、

推しの熱狂を広げていく。


湯楽郷の未来へと続く、

最初の“血管”だった。


――


道が完成した、その日の夕方。


草原に沈む夕日が、新しく整えられた道を橙色に染めていた。

昼間のざわめきが嘘のように静かだ。


ゼノは、道の端に腰を下ろし、完成したばかりの景色を眺めていた。


明日から、店の建築が始まる。


《コメント:次は建築フェーズ》

《コメント:区画整理、重要》

《コメント:ここ、センス出る》


ゼノは、小さく息を吐いた。


頭の中では、すでに“街の形”が出来ている。


――道の両側に、店を並べる。

まずは十店舗ずつ、合計二十。


道幅は、この先も混雑しないよう、余裕を持たせてある。

馬車がすれ違い、人が立ち止まり、会話が生まれる幅。


「詰めない……詰めない、だな」


“賑わい”と“窮屈”は紙一重。

詰めた瞬間、客の笑顔は減る。

減った笑顔は、戻すのが一番難しい。


建物を増やすことは、簡単だ。

だが、詰めれば流れが止まる。


人が歩きにくい場所には、長く留まらない。

店が近すぎれば、声がぶつかり、熱がこもる。


《神コメント:分かってる》

《神コメント:導線に余白あるの、強い》

《神コメント:伸び代、残してるの評価高い》


ゼノは、道の先を見る。


今は草原だ。

だが、ここは空白でもある。


「人が増えたら、また増やす」


二十で終わりじゃない。

三十、四十――必要なら、いくらでも。


だが、最初から作りすぎない。


店が増えるということは、

人が増え、

生活が増え、

責任も増えるということだ。


「村の負担になったら、本末転倒だ」


商人が潤い、

村が回り、

客が困らない。


その三つが、同時に成立しなければ意味がない。


《神コメント:インフラ思考》

《神コメント:これは“街づくり”》

《神コメント:もう村じゃないな》


ゼノは、苦笑した。


『まだ、村だ』


声に出して答える。


『……でも、ちゃんと育てるぜ』


誰かの欲を満たす場所じゃない。

誰かが無理をする場所でもない。


来て、使って、休んで、帰れる。


また来たいと思える――

そんな場所を、積み重ねたいだけだ。


ゼノは立ち上がり、道をゆっくりと歩いた。


左右に、まだ何もない空間。

だが、そこにはもう“未来”が見えている。


商人の声。

人の足音。

荷を下ろす音。

笑い声。


そして――

その奥で、歌舞殿で繰り広げられるステージ


《視聴者:192,659》


《神コメント:投資、続行》

《神コメント:この先も、見届ける》

《神コメント:次、何を整える?》


ゼノは、空を見上げた。


『……明日は、建築だ』


静かな声だったが、確かな決意があった。


この道は、完成じゃない。

始まりだ。


――人と人を繋ぎ、

暮らしと熱狂を運ぶ、最初の血管。


湯楽郷は、もう一歩だけ、先へ進む。


――――

次回

 第20話 街になる前提


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ