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追放された魔術師は、神に観測されながら暮らしている〜生活魔法しか使えないのに、加護が止まりません〜  作者: 灰音 澪


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17/65

第17話 温泉湖に集まる乙女たちーー神の投げ銭が止まらないーー

 湯楽郷は、ようやく誰もが「落ち着いた」と言える段階に入っていた。


朝の受付。

湯札の管理。

食事処の回転。


どれも村人たちの手で自然に回っている。


指示がなくても声が飛び、

詰まれば誰かが気づき、

気づいた者が当たり前のように補う。


ゼノは、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


(回っている。

 俺がいなくても、回る)


それは支配ではない。

完成だ。


「……もう、大丈夫だな」


誰も気づかない。

だが、詰まりは起きなくなる。


――これが最強。


視界の端が、淡く点る。


《視聴者数:183,257》


〈コメント:経営安定期きた〉

〈コメント:主が離れても崩れないの強い〉

〈コメント:最強ってこういうこと〉

〈コメント:裏方支配者ゼノ〉


《神コメント:場の定着、良好》

《神コメント:生活術式・定着 恒常化》


空気がほんのわずか、澄む。


《生活補助:場安定(常時)》

《生活導線:最適化(弱)》


(朝は、視聴者が減る。まあそれでいい。

夜に上げればいいからな)


隣でガルドが笑う。


「最初の頃が嘘みてぇだ。人は、慣れるもんだな」


ロイドは帳簿から顔を上げ、穏やかに言った。


「出入りも安定してきました。それに――」


視線の先。


湖の向こうから、見慣れない男たちが歩いてくる。

日に焼けた顔。

逞しい腕。


隣接する村の男たちだった。

戦場や街で働いていたが、湯楽郷での仕事を聞き、戻ってきた者たち。


「ここで、働かせてほしい」

「家族と一緒に、暮らしたい」


深く下げられた頭に、村人たちは迷いなく応えた。


その結果――


まだ開けていなかった酒樽宿が、ついに動き出した。


〈コメント:即決〉

〈コメント:村人の成長速度よ〉

〈コメント:リーダー育ってる〉


《神コメント:人材吸引力 上昇》

《神コメント:経済循環、安定域へ》


『人が育たないと、次に行けないからな』


――


 酒樽宿には、様々な人達が、様々な思いで泊まる。


次の街へ向かう途中の旅人。

戦に疲れ切った戦士たち。

家族連れ、年配の夫婦、手を繋ぐ恋人たち。


通り過ぎるための宿ではなく、少しだけ心を置いていく宿になっていた。


それぞれが、それぞれの意味を持って酒樽宿に泊まる。


「疲れが嘘のように抜けた」

「山ですっごく高くまで登れたよ!」

「……静かで、落ち着くわ。あなた、連れてきてくれて、ありがとう」

「湯上がりの酒は最高だ」

「こんな素敵な時間……幸せ」


癒しは、明日の力になる。


《視聴者数:191,540》


〈コメント:こういう宿が一番残る〉

〈コメント:戦場帰りには刺さるな〉


――


この夜も。


温泉湖の舞台で、歌姫団が歌っていた。


リィナ。

エレナ。

ミュラ。


三人の歌声は、もう“演奏”ではなかった。


その場にいる人のための――時間だった。


気づけば同じ顔が、何度も客席にいる。


「また来れた」

「今日も聴けてよかった」


拍手は、前より長く、温かい。


《視聴者数:204,611》


〈コメント:完全にファン付いてる〉

〈コメント:通う理由ができたな〉

〈コメント:湯と歌は反則〉


湯気の向こうで、笑い声がほどけていく。

誰かの肩が下がり、

誰かの呼吸が深くなる。


この場所は、ちゃんと“戻している”。


――


 歌が終わったあと。


ゼノは、三人を呼び止めた。


「少し、話がある」


並ぶ三人の顔に、緊張が走る。


「……歌姫団の人数を、増やす」


一瞬、空気が止まった。


「え?」

「増やす……?」


ミュラが不安そうに言う。


「……私……だめ……にゃ?……」


「違うよ」


ゼノは、はっきり言った。


「もっとお前たちが輝けるようにだ。

7人まで増やそうと思っている」


リィナが息を呑む。

エレナが小さく頷いた。


「……仲間、ですね」


「そう」


ゼノは続ける。


「近隣と街に告知を出し、歌姫の選定をする」


《視聴者数:228,933》


〈コメント:拡張回きた〉

〈コメント:ユニット完成するやつ〉

〈コメント:七人編成は強い〉


『そそるだろ』

 

――


 告知は、想像以上に広がった。


(……集まったか。予想より多いな)


ゼノは、並ぶ少女たちを見渡しながら、

ほんのわずかに目を細めた。


(告知の出し方は間違っていない)


(歌える場所じゃない。“輝ける場所”と出したのが効いた)


村。

街。

宿場。


「歌える場所がある」

「輝ける舞台がある」


集まった少女たちは、数十人。


期待と不安を抱えて、酒樽宿の広間に並ぶ。


――


 選定当日。


酒樽宿の広間。

簡素だが、音はよく響く。


少女たちは一人ずつ、前へ出る。


震える手。

揺れる声。


上手く歌える者もいれば、声が詰まる者もいる。


だが――歌が上手いだけでは、足りない。


上手い。だが残らない。

技術はある。だが“立った瞬間に見たくなる力”が足りない。


次々と少女たちが歌い、数十人から十二人が第二選考に選ばれた。


一人ずつ動機を聞き、第二選考で四人を選ぶ。


《視聴者数:231,400》


〈コメント:6番の子残してくれ〉

〈コメント:3番の子は残ると思う〉

〈コメント:全員可愛い、全員残せ〉

〈コメント:コメント欄が選考委員会で草〉


《神コメント:投資対象、拡張》

《神コメント:干渉不可》

《神コメント:選択はゼノに委ねる》


《構造認識(声質)》

《感情解析(微)》

《可能性測定(非表示)》


『俺に任せろ』


――


 そして――


全員の動機を聞いた上で、四人の少女たちを歌姫団として迎えることにした。

選んだ理由は、全員のキャラが被りにくく、一人一人が輝けるために。


同じ色を重ねても広がらない。

違う光が並んだ時、初めて“群れ”ではなく“星座”になる。


(声質、感情、動機――)


(この四人で“完成する”)


ゼノは、ゆっくり立ち上がる。


「……この四人を、迎える」


選ばれた少女たちは目を見開き――

次の瞬間、涙を浮かべて喜んだ。


《視聴者数:242,118》


〈コメント:うおおお〉

〈コメント:決まった!!〉

〈コメント:キャラ被ってないの天才〉


――


 最初に名を呼ばれたのは、月光みたいな静けさを纏った少女だった。


① セレス・リューン

種族:月人(つきびと/人族亜種)

年齢:18


淡い銀髪に、月光を宿したような薄紫の瞳。

肌は白磁のようで、感情が高ぶると耳元の紋様が淡く輝き、衣装映えする静謐系美少女。


歌・舞

・高音域が澄み切っており、湖面に反響する歌声

・動きは少ないが、所作が祈りのように美しい


動機

「月人は“人前で歌うべきではない”と言われて育ちました。

……でも、歌うことで誰かの心が温まるなら、それは罪ではないと思ったんです」


――


⑤ ミルファ・カナリス

種族:鳥人族(カナリス系)

年齢:17


小柄で健康的。

背中に淡い黄色の羽根、喉元に歌鳥特有の羽毛。

笑うと八重歯が覗く、愛嬌の塊。


歌・舞

・声量とリズム感が抜群

・跳ねるような舞で、自然と観客の手拍子を誘う


動機

「羽根をむしられて売られそうになったことがあって……

この場所で、“歌う私”として生きたいって、思ったんです!」


――


⑥ ナディア・ヴァルグ

種族:狼人族

年齢:19


赤褐色の髪と鋭い金眼。

引き締まった身体で、踊るとしなやか。

一見クールだが、照れると耳が垂れる。


歌・舞

・低音が魅力のハスキーボイス

・戦舞を基にした、力強く艶のある踊り


動機

「戦士としては半端だった。

でも……歌っている間だけは、“私でいられる”気がするんです」


――


⑪ リーシャ・エデル

種族:人族

年齢:16


素朴で清楚。見た目以上に胸元が豊か。

黒髪を一つに結び、湯上がりのような色白肌。

派手さはないが、“隣にいたら恋してしまう”タイプ。


歌・舞

・技術は平均だが、感情の乗せ方が異常に上手い

・歌うと表情が一変し、聞く者の胸を締め付ける


動機

「家族を養うためです。

……でも、歌うことを諦めたくないんです」


――


 選ばれた四人と、リィナ、エレナ、ミュラが呼ばれた。


ゼノは七人を見渡し、言った。


「今日からこの七人で、歌姫団だ。

歌舞殿が出来たら、四人のお披露目をする。

それまでは、リィナ、エレナ、ミュラを主体に練習をするように」


「頑張りましょう」


七人の少女が、同じ方向に向かって歩き出す。


七人が並んだ瞬間、それまで三人のものだった空気が、明らかに広がった。


――ぽうっ。


淡い光が、夜空に一つ、灯った。


雪でも、星でもない。

祝福そのもののような光。


次の瞬間。


それは、降ってきた。


光の粒。

色はそれぞれ違う。


金色、銀色、淡い翠、紫がかった白。


歌姫たちに触れた瞬間、音もなく溶けるように消えていく。


(来たな)


ゼノは、空を見上げない。


代わりに、七人の立ち位置を見た。


(……散らさせるな)


《生活魔法:場制御(微)》

《感情導線:収束》


光は暴れない。


七人へ、均等に落ちる。


(これでいい)

――これで、“崩れない”


「……あったかい……」

リーシャの声が、震える。


《視聴者数:247,900》


〈コメント:投げ加護きたー〉

〈コメント:今回は直接型か〉

〈コメント:いいぞいいぞ〉

〈コメント:神が本気出してる〉


《神コメント:観測値、良好》

《神コメント:情緒が育っている》


《投げ加護:微細祝福(累積)》

《影響範囲:歌声/場の安定/安心感》


光は止まらない。


降り注ぐ。

舞い落ちる。

包み込む。


歌姫たちの肩に。

髪に。

胸元に。

足元に。


触れた瞬間、温かさだけを残して消える。


「……気持ちいい」


セレスが、そう呟いた。


ナディアは胸に手を当てる。


「……守られてる」


それは、確信だった。


《視聴者数:259,118》


《神コメント:過剰付与は避けろ》

《神コメント:生活圏が壊れる》


ゼノは、自分のこと以上に感謝する。


――金じゃない。

――力でもない。


これは、意思だ。


期待。

評価。

「続けろ」という意思。


《神コメント:加護を投げる》

《神コメント:ただし、干渉はしない》


次の瞬間。


ゼノの視界に、淡い表示が浮かぶ。


《神域熱量:上昇》

《観測干渉レベル:微上昇》


「……なるほど」


派手な奇跡は起きない。

誰も急に強くならない。


だが――


この場は、壊れなくなる。

恐怖が入り込まなくなる。

人が、また来たいと思う場所になる。


それこそが、加護。


《神コメント:良い使い道だ》

《神コメント:金に換算するなよ》


温泉湖の夜は、静かだった。


だが確かに、神々の“投げ加護”は降り続いていた。


〈コメント:当たり回〉

〈コメント:選考間違いなし〉

〈コメント:現地行きたい〉


《視聴者数:262,004》


――


 その夜。


ゼノは、設計図を広げていた。


「温泉湖の舞台だけじゃ、足りないな」


ガルドが頷く。


「専用の、歌う場所だな」


「歌舞殿を作ろうと思っています」


ロイドが静かに言った。


「……いいですね」


〈コメント:目の前で見たい〉

〈コメント:全員推し〉


観客との距離は近すぎず、離れすぎず。


そして何より、彼女たちの魅力を最大限活かせる場所。


人々の心を掴み、憧れられる存在になり、

自信をつけることで、更に輝ける。


だからこそ舞台も拘らなければいけない。


(前世にアイドルステージ見とけば良かったな……)


――


 湯楽郷は、また一歩、広がる。


次の回で、七人は“お披露目”に向けて、同じ呼吸を覚える。


湯気の向こうで、

まだ名もない伝説が、形になり始めていた。


《視聴者数:278,020》


〈コメント:次は絶対見逃さない〉

〈コメント:ここから本番だろ〉


ゼノは、設計図を閉じた。


(……客は、増える)


(なら――もっと回す)


「歌舞殿、急ぐぞ」


湯楽郷は、まだ“序盤”だ。


――――

次回

 第18話 神の推しが決まった夜ーー七人が舞台に立つ

 

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