A Moral Dilemma
ロケットを作っただけでは、起爆の問題は解決していない。
ロケットの先端に、火薬を詰めた筒を載せて発射し、着弾の際に撒き散らされた火薬に、ロケットの残り火が引火して爆発する。十分ありそうなシナリオだ。ただ、それで十分な殺傷力があるかというと疑問が残る。
相手を驚かすのには爆発で十分だし、爆風などで多少の負傷者は出るだろう。だが、その程度では、想定される戦力の差を縮めることは期待できない。
さて、どういう方法が考えられるか。
もうそろそろ夕方になる。夕食の支度をするために、ヘルガとグエンが竈に薪を入れ、ファイアピストンで火を起こしている。
それだ!ファイアピストンで起爆すればいいんだ!
ロケットに載せる弾頭の先端にファイアピストンを装着する。ファイアピストン内には普通の火口ではなく、火薬を入れる。
ロケットが敵のいる場所に落ちると、ファイアピストンが押され、内部の火薬に着火し、爆発する。その爆発が、弾頭本体の火薬を誘爆させる。
ファイアピストンが雷管になるのだ。
勿論、ファイアピストンが上手く押されない場合もあるだろう。その場合は、ロケットからの引火に期待するしかない。
どちらも上手くいかなければ、不発弾ということだ。不発弾となった場合には、火矢を打ち込んで誘爆させる位しか方策がない。
一応、火矢の準備もしておくか。
まず、ファイアピストンを使った弾頭を製作する。太い竹筒に土器やスラグの欠片を敷き詰め、その上から火薬を詰める。土器やスラグの欠片は、いわゆるシュラプネル(shrapnel)というやつだ。
イギリスの軍人Henry Shrapnelが発案した、砲弾や爆弾に相手の兵士への殺傷能力を最大限に持たせる工夫だ。まあ、本来の意味とは多少違うのだが、今ではこの類の仕掛けをシュラプネルと言っている。
上手く爆発してくれれば、付近にいる敵は大怪我をするはずだ。
残酷な仕組みだが、この世界は、文字通り食うか食われるかの世界だ。戦いに負ければ、自分達にそれ以上に残酷な運命が待っている。手段を選んではいられない。
いや、この世界だけではない、21世紀の時代にあっても、残酷な兵器は至るところで使われている。綺麗な、人道的な戦争なんて、実際のところ、絵空事だ。
戦争に、綺麗も汚いもない。戦争はみんな等しく汚いのだ。
冥きより 冥き道にぞ 入りぬべき 遥かに照らせ 山の端の月
和泉式部の歌だ。今の自分は正にこの歌の通りだろう。
自分は、自分や自分の仲間を守るために人を殺してきた。これからも人を殺すことになるだろう。どれほどの人を殺すことになるかは分からない。自分の行動の正否は、天から見ている者に判断してもらうしかない。
筒に詰めた火薬の上に、中に火薬を入れたファイアピストンを突き刺し、回りを藁で被う。藁の上から粘土を被せ、乾燥させる。これで、とりあえず、弾頭は完成した。
弾頭の乾燥を待つ間、インガとヒルダと一緒に、浜辺で火矢の訓練を行う。
インガとヒルダは鹿革の胸当てを直に着けている。まだブラジャーが出来ていないのだ。天蚕糸布の使い道は、まず、全員の褌を作ることだ。
今、褌を身に着けているのは、自分とインガ、そして、ヒルダだけだ。他の子の褌が揃ったら、その次にブラジャーを作る。だいぶ先のことになるな。
インガ達は、やはり、胸に直接触れる皮の胸当てが気になるようだ。可愛そうだが、ここは我慢してもらうしか無い。
矢の鏃の付け根から麻紐を巻き付けていく。巻き付けた麻紐に獣脂を塗り付ける。紐に燃えている薪を近づけ着火する。獣脂なので着火するまで少し時間がかかった。
この状態のまま矢を番えていると、麻紐の炎は風圧で消えてしまう。矢の先端に、鏃に引っ掛かって外れない大きさの穴を開けた細い竹筒を被せる。この筒が、風除けになって、矢の炎を守ってくれるのだ。
炎が弓に近づきすぎないように矢を番え、射る。何回か火矢の練習を繰り返す。火矢を射ることには、インガもヒルダも、特に問題はない。まあ、火矢を使う羽目にはなってほしくないものだが。
グエンとヘルガがちょっと不満そうな顔をしている。弓を使いたいのか?




