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浜辺の粘菌 Slime on the beach  作者: 外山淑
第二部 邂逅
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A Princess in Exile

 ひめさま、姫様か。身分が高そうだなとは思っていたが、姫様か。すると、怪我した方はお付きの侍女ということか。

「…まなくあおきめ…」話してるのは、怪我をした女だな。

 まなこあおきめ、眼青き女か。インガ達のことだな。

「…ねぷりたりて…」さらに言葉が続く。

 めむりたりて、眠りたりてか。眠ってしまったからか。

「…のかれる…」

 のがれる、逃れるか。逃げるつもりなのか。今、逃げられてしまったら、面倒だな。

 わざと音を立てて女達に近づく。はっと、息を呑む気配がした。女達を縛っている縄の様子を確認する。大丈夫だ。緩んではいない。

 これで一先ず釘を刺したことになる。暫くは大人しくしてるだろう。


 この一件以外何事もなく朝を迎えた。女達の縄を解き、朝のルーティンのため沢に下りる。警戒のため、朝飯は家の前で火を焚いて作る。

 朝飯の後、インガ、エンマ、そして、お姫様を連れて、昨日女達と出会った場所を目指す。女達がどこを通ってやって来たか確認しなければならない。

 しかし、お姫様と侍女を引き離す際、かなり揉めた。お姫様と引き離されると分かった侍女が騒ぎ出したのだ。最終的には、自分達全員が、弓と弩で女達を狙う様子を示し、脅さざるを得なかった。

 お姫様は、諦めた様子で、自分達に挟まれて山を登っていく。昨日出会った場所に着くと、身振りでどこを通って来たかを尋ねる。お姫様は、何とかこちらの意図を理解したようだ。

 自分が予想した通り、お姫様は低い崖の上を指差す。自分は崖を登り、辺りを確認する。一先ず安全なようだ。インガにお姫様を連れて登ってくるように指示する。

 全員崖の上に登った。お姫様にさらにどの方向から来たか尋ねる。お姫様は北の方角を指差した。

 回りを警戒しながら、お姫様が来たという方向に1キロ位歩く。歩く道筋はどんどん険しくなっていく。

 1キロ程の所から更に進むと尾根に出た。尾根のところでふたたび来た方角を尋ねると、更に北を指差した。その方角には高い山々が連なっている。この山々を越えてきたというのか。

 辺りをざっと調べてみたが、人の通った形跡は見えない。一人二人通った程度なら痕跡は残らないだろう。少なくとも大人数の集団は通っていないようだ。

 とりあえず、大きな脅威は差し迫っていないと考えて良いか。ひとまず、ここで引き返そう。

 帰り道も辺りを警戒しながら下りる。お姫様と最初に出会った所まで戻った。途中、変わった様子は無かった。

 慎重に辺りを警戒しながら行き来したため、かなり時間が掛かった。もうすぐ夕方になる。警戒しながらも足早に家に戻る。


 家に着いた。侍女はお姫様を見ると大きな声を出して泣きながら、お姫様に抱きついた。二人して何か言葉を交わしているが、早すぎて聞き取れない。

 昨日と同じく早めに夕飯を済ませる。

 食事の後、自分達は女達に害意を持っていないことを示すために、名前を名乗る。自分を指差し、「ジュリ」と名乗る。インガが自分に続き、ヘルガまで全員名乗った。

 ああ、しまった。古代の日本では真名(まな)は明かさないんだっけ。まあ、仮名なら名乗ってくれるだろう。

 お姫様は、自らを指差し、「つぁぎ」と言葉を発した。さぎ、鷺か?

 侍女は、驚いたようにお姫様の方を見た。もしかして、真名を名乗ったのか?

 お姫様は、侍女の方を見て、名乗るように促した。

 侍女は慌てて「てぃ…てぃどり」と吃りながら名乗った。ちどり、千鳥か?二人共鳥の名前から取っているのか?


 今夜も昨晩と同じ組み合わせで見張りを行う。ただし、今夜は、女達を縛らずに寝かせる。先程の名乗りと同様に、こちらに害意が無いことを示すためだ。

 それに、侍女の方が足を怪我しているので、お姫様1人では逃げ出さないだろう。また、下手に攻撃を仕掛けたら、お姫様の命を危うくすることは侍女も分かっているはずだ。

 昨夜、ささやき声で話をしていたのは、回りが寝静まった頃合いを見計らっていたからだろう。そうすると、今夜も同じ頃に話し合いをするかもしれない。

 自分達がお姫様達と違う言葉を話していることは分かったはずだ。だが、自分達が起きている状態で知らない言葉を使って話し合いをすれば、怪しまれる。だから、話をするのはみんなが寝静まった頃だ。

 夜中、インガに起こされて見張りに立つ。暗闇の中、音を立てないようにお姫様達の寝ている場所に近づく。

 押し殺した話し声が聞こえた。

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