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浜辺の粘菌 Slime on the beach  作者: 外山淑
第二部 邂逅
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Old Japanese

 水浴びを終え、ついでに、女達の泥の付いた衣服を洗う。やはり、貫頭衣だ。布の材質は麻だな。しかし、かなり上質の麻布だ。麻の繊維が細く白い。

 こんな上質の布を纏っているということは、この女達は身分が高いのか?

 川から上がり、褌とブラジャーを身に着ける。女達は自分を興味深そうに見つめている。女達の視線は、自分の股間と胸を交互に行き来しているようだ。

 自分の陰茎と乳房ではなく、それを覆っているもの、つまり、天蚕糸布の方に注目しているみたいだ。天蚕糸布は、太陽の光を反射して輝いている。

 女達の着ていた布は上質ではあるが、日の光を反射して光るほどではない。

 この女達は絹を見たことがないのか?絹の製法は弥生時代には既に日本に伝わっていたはずだが。この土地には、まだ伝わっていないのか?

 上質な布を身に着けていて、他の布の材質に興味を持つのは、やはり普段の生活の質が高いからだろう。

 そんな身分の高そうな女が泥まみれの状態で、何故自分達の土地に入り込んできたのか?

 女達の顔や体には擦り傷や切り傷が至る所にある。山の中を無我夢中で走ってきたのか?

 やはり、誰かに追われていると考えたほうが良さそうだ。誰に追われているのか?そして、この女達は何者なのか?

 初めに出てきた女は、14か15才位か。足を怪我した女は20才前後だろうか。親子には見えない。

 二人の遣り取りを見ていると、身分差があるようだ。足を怪我した女が、常に、若い方の女に頭を下げてるように見える。

 最初に若い方の女が発した言葉は、たぶん、古代の日本語だ。この場所が古墳時代あたりの日本であるとした自分の予想と合致する。

 古代の日本語では、現代の日本語のサ行の音が、破擦音になる。つまり、現代日本語の「さしすせそ」は「つぁちつちぇつぉ」みたいに発音されるのだ。

 そして。ハ行の音は、両唇の破裂音になる。つまり、現代日本語の「はひふへほ」は「ぱぴぷぺぽ」みたいに発音される。

 清濁の区別は、語頭は清音、語中は濁音というように語内のどの位置にあるかによって変わる。

 漢字はまだ入ってきてないはずだから、漢語由来の語彙はない。

 このことを頭に入れておけば、ある程度、女達の言っていることは見当がつくはずだ。

 ただこのことは女達に悟られてはいけない。この女達の正体が何者であるか、どうしてこの地に入ってきたのか。

 それが分かるまでは、女達の言葉が分からない振りをしなければ。


 そろそろ夕方が近い。いつもより早いが夕食の支度をする。

 女達の追手か仲間が入り込んでいる可能性がある。そのため、警戒を厳重にしなければならないが、警戒態勢の構築には時間がかかる。早めに夕飯を済ませて、備えをしなければ。

 夕飯はいつもの粥だ。今日は燕麦とハマグリの粥だな。女達に、新しく焼いた釉薬を掛けた碗に粥を盛って差し出す。女達は器のガラス質の部分に興味を示し、撫でたり擦ったりしている。

 夕食を済ませた後、釜などの金属器を全て山の家に運ぶ。

 馬も厩舎から引き出し、山に連れて行く。ついでに、怪我をした女をブラウンに載せて、山の家に運んだ。

 女達は大きな馬に驚いている。馬を見たことがないのか。それとも、馬の大きさに驚いているのか。どちらだろうか?

 山の家に続くいくつかのルートに鳴子を仕掛ける。

 可愛そうだが、用心のため、女達の手足は縛らせてもらう。血流を阻害しない程度に緩く、抜けられない程度にきつく縛るのは難しい。両腕を後ろに回してしばることで抜けにくくした。

 今晩は、女達の監視も必要だから、二人一組で見張りに立つことにする。

 最初の見張りはヒルダとアーデル、二番手はインガとエンマ、最後は自分とグエンだ。

 これから暫く緊張した日々が続くだろう。寝れる時に寝ておかねば。

 夜中、インガに起こされた。今のところ何も異常は無いようだ。グエンを起こして、見張りに立つ。

 女達の様子を見に行くと、ささやき声が聞こえる。

「…ぴめつぁま…」という言葉が聞こえた。

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