山繭
土器が出来たらすぐに、山を探索するつもりだった。しかし、月経の出血が始まったため、山の探索は延期しなければならなかった。
ここの植物相から考えると、この近辺には、熊や狼といった肉食動物がいる可能性が高い。血の匂いを振り撒きながら山の中を歩き回ることは危険だ。
出血が始まってから5日後、出血が止まった。陰茎の勃起は、発情期以前の状態に戻っていた。おそらく、出血の時点で、性ホルモンの分泌が下がり、体内に貯まっていた性ホルモンが、出血期間の間に減って元の状態に落ち着いたのだろう。
沢で陰部を丁寧に洗浄し、籠を背負い、石槍を手に山の中に入った。
目当てのものはすぐに見つかった。罠の見回りの際にいくつか見かけたことがあったから、どういう場所を探せば良いかある程度わかっていた。
薄緑の繭が楢の木から垂れ下がっている。ヤママユガの繭だ。石槍の先で絡めて採る。まだ羽化していない。良かった。間に合った。ヤママユガの羽化の時期は8月頃だから、大丈夫だとはわかっていたが、実際に見て安心した。
山繭からは絹と同様の繊維が採れる。山繭の糸は天蚕糸と言う。釣りなどに使われるナイロン製の糸をテグスと呼ぶが、その名はこの糸から来ている。
次に見つけた繭は既に羽化したものだった。繭は緑色が薄れていて黒ずんで、穴が開いている。羽化した繭からも繊維は採れるが、繊維が食い破られているから、その繊維は短く、糸に紡ぐのは難しくなる。
確か1反の布を織るために必要な蚕の繭の量は2000個以上だったはずだ。1反は、幅36センチ程、長さ12メートル程だ。自分が今必要とする布を作るためには500個位は必要だ。はたしてそれだけの量を集められるか。
丸一日かけて山の中を歩き回る。採れた繭の量は90個程で、その3分の1は羽化したものだった。7日かけて周りの山を探索し、やっと羽化していない繭を400個以上採ることが出来た。計画していたものより少ないが、後で、もう一度採取すれば良い。
羽化していない繭を火にかけた鍋で煮る。煮ることで繊維を接着させている蝋成分を融かし、繊維を取り出しやすくするのだ。5個の繭から繊維を取り出し、糸を紡いでいく。この糸が天蚕糸だ。
羽化した繭は、羽化していない繭と同様に煮るが、紡がず、既に開いている穴に棒を入れ引き伸ばし、袋状にして重ねる。よく、木綿の繊維を真綿と呼ぶが、蚕や山繭から採ったものが本来の意味の真綿だ。
10日かけて、すべての繭を処理し、天蚕糸と真綿に変えた。
竹材を使って、簡単な機織り機を作った。この機械を使って、まず、幅が15センチ程、長さが1メートル程の薄緑の布を織った。
この布を織り終えた頃、そろそろ2回目の出血が始まりそうだった。織りたての天蚕糸の布を使い、越中褌を作った。止血用の袋も天蚕糸の布で作り、中には真綿を詰めた。
出血が始まり、新しく作った止血用の袋を充てがい、越中褌 を締めた。前回の麻紐を使った止血帯とは比べものにならない。柔らかく、まったく邪魔にならない。格段に快適な着け心地だ。
この越中褌は、布地の幅が狭いため、少し歩き回ると、尻が完全に露出し、Tバック状態になった。
褌の前部は、陰嚢や陰茎を辛うじて隠す程度で、陰毛がはみ出ている。ただ、この体の陰毛は、ボーボーと繁茂しているわけではないから、そんなに気にならない。まあ、自分以外に気にするものはいないのだが。
とにかく、歩いている時に、陰茎や陰嚢がブラブラして太腿に当たらないことがありがたい。今までは、朝のルーティンで朝立ちを解消しても、歩いている時に陰茎が勃起することがしばしばあった。これからは、そういうことも起きにくくなるだろう。
次に、ブラジャーを作った。15センチ四方の布を2枚織る。それぞれの両端を筒状に縫い、下側の端に1本の紐を通す。上側の端にはそれぞれ別の紐を通し、上側の端を絞って紐を留める。ブラジャーを胸に当て、下側の紐は胸の前で結ぶ。上側の紐は首の後ろで結ぶ。
このブラジャーを着けると、今まで感じていた乳房の重みがかなり軽減された。歩いた時、乳房はもちろん揺れるが、これまでより抑制された動きで、かなり快適だ。何より、歩く度に乳房が踊る様子が目に入らないことが良い。踊る乳房を意識していまうと、どうしても勃起してしまうのだ。
そういえば、2回目の月経期間には、1回目の場合と違って、強烈な切迫感に襲われることが無かった。自分の体が性ホルモンの量の変化に対応できるようになったのだろう。出血時の肉体的な痛みは感じるが、心理的な落ち込みや不安感は特段感じなかった。ただ、陰茎の勃起の状態は、前回と同用に、月経期間の前半と後半では異なっていた。だから、多分、性ホルモンの量の推移は前回と同じなのだろう。
2度目の出血が止まったのは、59日目。地球の暦では、7月24日に当たるはずだ。




