In the Cave
陶磁器が出来た次の朝、上げ潮に乗って、洞窟を目指し、舟を出した。
今回、連れて行くのは、インガ、ヒルダ、そして、エンマだ。
アーデルとグエンは出血が始まったので、当然、連れていく候補から外れる。そういえば、フレイヤも一緒の周期だから、出血が始まったはずだ。
硝石の採取が目的のため、硝石を入れる蓋付きの壺を3個積む。そのため、舟に乗る者を1名減らす。
漕ぎ手が1人減るため、腕力の強い者を揃えなければならない。したがって、一番小さいヘルガも候補から外れた。
硝石は水に濡れるとすぐに溶けてしまう。水に触れないように蓋付きの陶磁器を用意したのだ。
それに、ちょっとした衝撃で発火するおそれがあるため、麻袋に入れて運んでいて発火すると爆発的な炎を上げてしまいかねない。
このため、前回の探検時には、コウモリが飛び出てきた段階で、洞窟内に入ることを断念したのだ。
今回は、洞窟内に硝石が析出している前提で事を進めなければならない。
まず、自分達は舟に乗り込んだ時点で服を身に着けていない。
どうせ、洞窟の前に舟を停めた時点で服は脱がなければいけない。
さらに、洞窟の中はコウモリの糞尿の匂いに満ち溢れている。自分達が服を着ていたら、その匂いが服に沁み込んでしまう。その服は暫く着ることができなくなるだろう。
そして、最も重要なことは、硝石の側で静電気を生じさせることは避けなければならないのだ。
自分達が身に着けているのは、天蚕糸布と麻布だ。天蚕糸布は絹と同じだ。絹と麻は静電気を帯びにくいと言われる。
しかし、あくまで帯びにくいだけだ。状況によっては、絹や麻だって静電気を生じることがあるのだ。
硝石の側で静電気を生じさせてしまえば、発火する。そして、洞窟内には、おそらく、大量の硝石がある。
自分達が持ち込んだ松明は勿論、場合によっては、自分達自身も燃料となって大爆発を引き起こしてしまうだろう。
そして、洞窟内から硝石を採取して、舟に乗せた場合にも問題がある。
狭い船上で服を脱いだり着たりすることで、乗せた硝石に、余計な刺激を与える可能性がある。
例えば、壺を倒したり、着替えの際に静電気を生じさせてしまうケースが考えられる。
こういった危険を予め排除するために、最初から服を着ないことにしたのだ。
ただ、インガ達には、服が臭くなるためとだけ言っておいた。
硝石の危険性は、実際に、爆発や発火の様子を見なければ分からないだろう。
洞窟の前に着いた。前回同様、インガが綱を持って水に飛び込み、茂みの根本に綱を結びつける。
インガに続いて、ヒルダとエンマが水に入る。自分は、蓋付きの壺を水の中のエンマに手渡す。エンマはヒルダに、ヒルダはインガへと壺を手渡していく。
3つの壺を安全な場所の移動させた後、みんな、弓や弩などの装備を持って水から上がる。松明に火を点け、洞窟に向かう。
洞窟の入り口で、前回同様、しばらく待っていると、入り込んだ松明の煙に驚いてコウモリがドンドン飛び出してくる。
その後から強烈な臭気が襲ってくる。コウモリが出尽くして暫くすると、臭気は段々と収まってくる。
今だ。松明を持つヒルダとエンマに、少し離れて後ろからついて来るように指示し、洞窟内に入る。
強烈なアンモニア臭が目と鼻を襲う。鼻は片手で被うことが出来るが、目はそうはいかない。
目に涙を浮かべながら洞窟の奥を目指す。灯りは、ヒルダ達が持つ松明の光だけだ。
薄暗い中、足元に注意しながら、慎重に足を進める。すると、前の暗闇の中にかすかに白っぽく光るものが見えた。
複数の白く光るものが見える。後ろのヒルダ達にその場に止まるように合図する。
白く光るものに近づいてみると、表面にゴツゴツした白い結晶状の塊がいくつも付いた石だ。これが硝石だ。
衝撃を与えないように、慎重に石を剥がす。剥がした石を、抱えて持ってきた壺に入れていく。
手持ちの壺がいっぱいになったら、蓋をして麻紐で固定する。いっぱいになった壺をヒルダに預け、代わりの壺を受け取る。
全部の壺がいっぱいになった。この臭気から退散する頃合いだ。
壺を落とさないように慎重に引き返す。
洞窟の入り口から出た!
壺を地面に置き、みんなで川に飛び込む!川の水で体に染み付いた臭気を洗い落とす。
やっと、まともに呼吸することができた!




