土器作り
これまで、ハマグリの採取や、鳥獣捕獲の罠の設置や見回りの際に、土器作りに適した粘土を探してきた。浜から沢までの道の途中の斜面に白っぽい粘土質の地層が露出している場所があった。糸巻きに使う粘土を採った場所だ。その場所は、沢からはかなり離れている。
土器の制作には水が必要だ。この場所は他の水場からも離れていて、作業場を設営できるようなところではない。
土器制作は、沢の側でやることにする。そうすると、大量の粘土質の土を沢まで運んでこなければならない。運ぶための道具が必要だ。
幸い、この通り道にはクズがいっぱい生い茂っている。クズの蔓を使って背負い籠を作ることにしよう。
石斧を使って道沿いのクズの蔓を採取する。長い蔓を2巻、小屋に持ち帰る。クズの蔓を編んで背負い籠を作った。背負い紐は麻紐で編んだ。
このままでは裸の背中にクズの背負い籠が直接当たって痛いので、麻紐を編んで当て布を作った。当て布はゴワゴワしてそれほど快適ではないが、背負い籠が直接当たるよりは遥かに楽だ。
これで、粘土を運ぶ道具はできた。
沢水の流れの側に大きく深い穴を掘る。その穴に沢水を引き込み、小さな池にする。
これで、粘土を運ぶ準備が出来た。
小屋を作る時に使ったシャベル代わりの竹を持ち、粘土の採掘場に行く。竹を使って粘土を掘り、背負い籠に入れる。粘土が入った背負い籠を池まで運ぶ。粘土を池に放り込み、脚を使って水の中で細かく砕き練る。
この一連の作業を池が粘土で一杯になるまで繰り返す。粘土は水の中で足で砕かれ揉まれることで、小石や砂などが下の方に沈殿し、滑らかな粘土が上の方に溜まる。
池が粘土で満杯になったら、沢から引いていた水を絶つ。水は周りの土壌に吸収されて、加工しやすくなった滑らかな粘土が残る。
沢の側にある比較的平らな面をもつ岩の上で、粘土を捏ねて土器を作る。轆轤が無いので、粘土を細い棒状に纏め、その棒を積み上げ、接着していく。粘土が厚いと乾燥しにくくなり、薄すぎる形を保てなくなる。丁度よい加減が難しい。
壺や鍋、碗、皿、杯など、様々な形の土器を作ってみる。うまく出来たものは、雨の当たらない所に置き、陰干しする。
用意した粘土が無くなった時点で、焼成の準備をする。
土器の焼成には大量の薪が必要だ。浜の流木や山の中の枯れ木を3日かけて集める。整地した地面の上に薪を敷き詰め、その上に陰干しした土器を並べ、さらに、薪で土器を覆う。その上に乾燥した草を敷き詰め、草の上に泥を載せ、熱が逃げないようにする。薪に点火し、燃え尽きるまでそのままにしておく。薪が全て燃え、火が消え、土器が冷えるのを待つ。
焼き上がった土器を一つ一つ確認する。いくつか割れて使い物にならないものがあったが、大体うまく出来上がった。
早速、うまく出来た壺に沢水を汲む。土で作った竈の上に、土器の鍋を載せ、壺から水を注ぎ、ハマグリ、ヤマドリの肉、アザミの葉を入れて煮る。火が通ったところで、麻のあて布で鍋の縁を掴み、竈から下ろす。暫く冷ましてから、ヤマドリの肉を食べる。ちょっと薄味だが、ハマグリの出汁と塩味がしっかり感じられる。旨い!初めてまともに料理と呼べるものを食べることができた。
皿に、タンポポの根を入れ、乾煎りする。鍋に水を注ぎ、乾煎りしたタンポポの根を入れ、火に掛ける。温まった鍋から杯に中身を注ぐ。香ばしい香りが鼻を突く。杯に口をつけ、中の液体を飲む。苦いが、不快な苦さではない。まあ、コーヒー代わりとしては十分だな。
これで土器が完成した。
浜辺で目覚めてから25日目のことだ。