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浜辺の粘菌 Slime on the beach  作者: 外山淑
第二部 邂逅
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Old English?

 視界の端で何かが動いた。

 ヘルガだ。

 ヘルガが周りの子達の様子を伺うような動きをしたのだ。

 周りの子達はずっと怖い化け物を見るような視線を自分に向けている。

 ヘルガはそれを見て、意を決したように、ハーゲンを抱きながら、ゆっくりと、自分に近づいてくる。

 自分の肩を抱き、耳元で何かを言った。

「いちるふぃあてーじゅり」と聞こえた。

 完全に意味が分かった!

 古英語で"ic lufie þē, Juri"つまり、現代英語では"I love you, Juri."と言ったのだ。

 古英語はほとんど知らないが、様々な言語で"I love you."をどう言うかを調べた記憶がある。その中にこの言葉があった。

 "ic lufie þē, Helga"と答え、その後、"I love you, Helga!"と一語一語区切りながら大きな声で話した。

 ヘルガは自分の頬にキスをして、自分の肩に顔を預けた。


 他の子達は、自分とヘルガの様子を見て、何かの呪縛が溶けたようだ。ハッと我に返ったような表情を浮かべた。

 一斉に自分に駆け寄り、口々に"ic lufie þē, Juri"と繰り返す。

 インガとグエンは泣いていた。

 自分は全ての子に"I love you!"と繰り返す。


 皆んなの興奮が落ち着いた頃を見計らって、籠の中からハマグリを取り出す。

 "Shellfish!"と言うと、"Shellfish!"と返ってくる。

 採り方を教えるため、皆んなに海に入るよう促す。

 皆んな服を脱いで海に入り、その冷たさに驚く。

 浅いところでハマグリの採り方を実演して見せる。

 皆んな楽しそうにハマグリを採り始める。

 この子たちにとっては、初めてのハマグリ採りは遊びだ。

 さっきあったことを忘れたかのようにはしゃぎながら、ハマグリを採る。

 直ぐに籠は一杯になった。

 採り終えた後、火の周りで暖を取りながら、採ったばかりのハマグリを焼き、食べる。


 帰路についたのは昼過ぎだった。

 御者役はヒルダとインガに任せた。

 自分は荷台に座り、左の乳房をハーゲンに吸わせ、右の乳房をフレイヤに吸わせている。


 乳を与えながらさっきの出来事について考える。

 この子達は古英語を話している。

 古英語は古い英語だから、当然、英国の言葉だ。より正確には、5世紀から12世紀頃までのイングランドの言葉だ。

 そうすると、この子達のいた世界は、5世紀から12世紀頃までのイングランドということになる。

 しかし、気になることがある。

 この子達の名前だ。全て、ゲルマン系の名前ばかりだ。キリスト教に関係する名前が全く無い。

 MaryとかSarahなんかがあっても良さそうなんだが。イングランドにキリスト教が定着する以前の時代だったのか?

 それだと、かなり初期の時代になる。


 かなり初期の時代だと、あの場所がイングランドではない可能性もある。

 デンマークか北ドイツ地方の可能性もある。

 ブリテン島にゲルマン人が侵攻して出来た国がイングランドだ。

 このゲルマン人の中心になった部族が、アングル族、サクソン族、そしてジュート族だ。

 これらの部族は、元々、デンマークから北ドイツ辺りに住んでいた。

 初期の古英語に近い言葉は、こういった部族が元々住んでいた場所でも話されていただろう。

 それに北ドイツからデンマークであれば、その時代、キリスト教がまだ広まっていなかったはずだ。


 グエンという名は、ケルト系でも、ウェールズに多い名前だ。「白い」、「清い」、あるいは、「神聖な」という意味の言葉から来ている。

 もしあの場所がイングランドであれば、ウェールズは隣の国だ。

 グエンがウェールズ辺りから連れてこられたとしても、地理的には不自然ではない。

 やはり、あそこはイングランドのどこかなのか?


 まてよ、少女達のいた世界とこの世界は同じなのか?

 同じであれば、虹の門を通った時、昼夜が入れ替わったことは肯ける。

 ここが日本で、あの場所がイングランド辺りであれば、地球の反対側だから可怪しくない。

 ああ、完全にここを地球と考えてしまっているな。ここが地球と同じとは限らない。

 あの場所の月はどうだったか?いや、月を見る余裕など無かった。


 山の麓についた。

 早速、採ってきたハマグリを燻製にしなければ。

 さあ、忙しくなるぞ。

 余計なことを考えている暇はない。


 燻製作りの作業で、夕食がだいぶ遅くなってしまった。

 夕食を食べ終えた頃には月が登っていた。

 月を指差し、"Moon!"と言うと、"Moon!"と返ってくる。

 月を見上げた少女達に変わった様子はない。

 ここの月は彼女達にとって当たり前の月だ。

 彼女達がいた世界はここと同じ惑星上にあるんだ!


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