鉄を作る
ここで鉄を作る時に必要なものは3つある。そのうち2つはここに存在する。
1つ目は砂鉄で、浜辺に沢山ある。
2つ目は炭で、既に作って保存してある。
しかし、3つ目が問題だ。うまく手に入れることが難しい。強い風だ。
砂鉄を炭で加熱するだけでは、温度か低すぎて、鉄にならない。鉄にするためには強い風を送り込み、温度を上げなければならない。
強い風を生み出すため、普通は鞴を使う。鞴を作るためには、木材、布等が必要になる。
そんな物資は殆ど無いし、たとえ、鞴を作ったとしても、鞴を使って強い風を作り出す作業は過酷で、人一人でできるものではない。
したがって、鞴という選択肢は無い。
後は、自然に風を作り出す方法しか無い。どうすれば、自然に強い風を作り出せるか?
答えは、高い煙突を持った炉だ。高い煙突の下で炭を燃やせば、上昇気流が発生する。
その上昇気流を狭い煙突を通すことで上昇気流の速度が上がる。それに伴い、炉に空気を引き込む力が強くなる。
この方法であれば、鞴は要らない。
炭焼き場の側の地面を整地し、そこに直径30センチ程の円を太い粘土の棒で作る。
粘土の棒を積み重ねて空洞の円柱にする。円柱の高さが20センチ程に成ったところで、円柱の中で炭化しきれなかった薪を燃やし、内側から焼き固める。
円柱が焼き固められたら、円柱の脇を50センチ程掘る。掘ったところから、円柱の下に穴を掘る。
粘土の棒を積み重ねて、円柱をさらに高くし、掘った穴で薪を焚いて、内側から焼き固める。これを繰り返し、高さ2メートル程の煙突を作る。
煙突を焼き固める間、平皿と壺を持って浜辺に向かう。
波打ち際の黒い砂の部分を平皿に採り、海水の中で揺らす。砂鉄は比重が重いので、水の中で揺らすことで、下に貯まっていく。こうして、比重の軽い白い砂を取り除き、残った砂鉄を壺に入れる。
煙突を作る合間にこの作業を行い、大きな壺4つ分砂鉄が貯まった。
煙突の脇を掘り下げた所に炉を作る。空気の流れを確保するため、粘土で格子状の枠を作り、炭を大量に載せる。この上に粘土でドームを作る。ドームには、炭と砂鉄の投入口を開ける。
これで、炉が出来た。
炉が出来た日の次の朝、製鉄を開始する。
小枝の束に火を点け、格子の下に放り込む。
煙突からは、最初は白い煙が上がっていたが、段々と炎となり、更に炎の噴き出す速さが増してきた。
今だ!これからは、砂鉄と炭を交互にひたすら投入するだけだ。
しばらくすると、炉から白熱した液体が流れてきた。スラグだ。
再び、砂鉄と炭を交互に投入し続ける。夕方近くまでに、壺2個分の蹉跌を投入した。
ドームの一部を壊し、炉の中を竹ばさみでかき回す。あった!拳より大きい位の白熱した塊が出た。鉄だ!
用意しておいた平らな石の上に置き、4分の1程を石斧を使って切り離す。
大きい方の塊を炉に戻し、小さい塊を丸石で叩いて15センチ程長さのの平たい棒状に伸ばす。
伸ばした棒を水を入れた壺の中に放り込む。ジュッという音とともに水蒸気があがる。
鏨ができた。
炉に戻した塊を再び取り出す。平石に乗せ、丸石で叩き、短い円柱の形に整形する。
円柱の真ん中に出来たばかりの鏨を当て、鏨を丸石で叩きながら、四角い穴を穿つ。
穴が完成したら、その円柱を壺の水の中に入れる。
これに竹で作った取手を付ければ金槌の出来上がりだ。
鏨と金槌ができれば、これからの作業がぐっと楽になる。
次の日、煙突を確認する。煙突の下部は高熱のため、損傷が激しい。しかし、後一回くらいは鉄の生産に使えそうだ。
炉を補修した後、2度目の製鉄を開始する。煙突はなんとか持ちこたえた。
2度めに得た鉄で、長さ30センチ程のナイフ、槍の穂先、30個程の鏃を作った。
やはり、最初に金槌と鏨を作っておいて良かった。丸石と石斧ではこういったものを作るのは難しかっただろう。
初めて、鉄器と呼べるものが出来た。
浜辺で目覚めてから、151日目、10月24日のはずだ。