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新たな疑念

 気を取り直して、南の山裾の探索を続ける。


 山裾の藪を漕ぎながら、1キロ程も進んだか。

 少し異臭がする。卵の腐ったような匂いだ。

 硫化水素だ。

 そんなに強い匂いではないし、この場所は開けているから、危険は無いだろう。

 湿原で何かが腐っているのかと思い、海の方角を見る。何かが腐敗して硫化水素が発生しているようには見えない。

 山裾の方を見ると、小さな、水の流れが見えた。その水の流れの所々に黄色や白いものが見える。硫黄泉があるのか?

 その水の流れの上方を見ると、山の中腹より少し下がったところからかすかに水蒸気が上がっている。温泉だ。

 流れを辿って登るには、傾斜が急だそれに嵐で濡れているので、滑って危ない。後日、中腹を辿って確認することにしよう。


 さらに、藪を漕いで進む。栗の木があった。

 実が沢山成っているが、栗の実はまだ青く、収穫には早い。

 もう少し時間をおいてから、収穫に来よう。


 今のところ、湿原には、さっきのイネ以外、目ぼしいものはなかった。

 山裾と湿原の両方に目を配りながら進む。


 湿原に目を配って何回目か、ヒエが目に入った。5株ほど、湿原の中に点在して生えている。

 熟してはいるようだが、嵐の後だから濡れている。後で収穫させてもらおう。


 かなりの距離を歩いてきた。湿原の端が見えてきた。

 湿原を抜けた。眼の前はススキの草原だ。


 ススキの草原と山裾が接する所に柿の木があった。

 柿の実はまだ青く熟していない。


 もう、笑ってしまう。

 アワ、イネ、ヒエ、栗、柿。自分が欲しいと思っていたものが全部出てきた。

 自分の願望を読み取って、その願望を「彼ら」が実現させたとしか思えない。


 いや、本当にそうか?


 いままで、自分は自律的に思考し、自律的に行動してきたつもりだ。

 しかし、本当に自分は自律的に、自分の自由意志に基づいて行動してきたのか?

 逆ではないのか?

 自分は「彼ら」のシナリオに沿って行動しているだけなのではないのか?

 この世界にアワ、イネ、ヒエ、栗、柿などが存在する。

 だから、自分はそれらを欲しいと思うように「彼ら」に誘導されたのではないのか?

 そして、欲しいと思ったものを発見するように「彼ら」に誘導されたのではないのか?

 自分の「自由意志」は、自分が自発的に生み出したものでなく、「彼ら」によって誘導されたものではないのか?


 “Cogito ergo sum” 我思う。故に我有り。

 デカルトのこの言葉は、「自分は自律的に思考している。だから、自分はこの世界の自律的な存在である。」ということを表している。

 だが、自分の「思考」が自律的であることはどうやって保証されるのか?


 例えば、ゲームの世界のNPCを考えてみよう。

 彼らが自由意志を持っているのかどうかという問題だ。

 ゲームのプレイヤーから見れば、NPCは、設定上決められた動きをしているだけなので、自由意志はないと考える。

 しかし、NPCの立場から考えれば、彼らは自分の「意志」で行動しているだけで、他から強制されたわけではない。

 いや。彼らは、他から強制または誘導されたと認識することができない。したがって、NPCの行動は彼らの「自由意志」の結果だ。


 自分はこのNPCと同じ立場ではないのか?

 いや、それどころか、自分がNPCなのではないか?


 そういえば、今日は浜辺で目覚めてから、101日目だ。

 ここがゲームの世界だとすると、自分にイネなどが与えられたことは、ゲームの上のボーナスだとも考えられる。「100日間生存おめでとうボーナス」とか。

 もしそうだとしたら、1年目とか、1000日目とか、節目ごとに特別なイベントか報酬が提供されるのかもしれない。


 いろんな可能性を考えていると、もう訳が分からなくなる。疑心暗鬼に陥ってしまう。


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