イネを探して
嵐の後の原っぱにエノコログサがたくさん戦いでいる。
エノコログサ、いわゆる、猫じゃらしだ。
エノコログサは、稲作に伴う史前帰化植物だ。
つまり、本来は日本に自生していなくて、イネと共に日本に入ってきた植物だ。
エノコログサがこれだけ繁茂してるってことは、ここにはイネもある確率が高い。
今日は、嵐の後だから、海が荒れていて入ることはできない。
イネを探すことにしよう。
イネは湿地を好む。
本拠地の山と向かいの山の間の扇状地は、ほとんどが湿地だ。
それに、本拠地の山と砂浜の間は湿原だ。
探す対象となる場所は広い。
一日では終わらないだろう。
今だったら、イネが実をつけている時期だから、発見しやすいはずだ。
たとえ、イネが見つからなくても、アワやヒエなど、他の穀物が見つかるかもしれない。
弓と石槍を持ち、矢や竹のシャベルなどの道具類を背負い籠に入れ、小屋を出る。
まずは扇状地を丹念に見て回る。
アワは何本か見つけた。アワは、エノコログサに似た穂をつけている。エノコログサと違うのは、アワの方が大きいことと、穂が小さい団子を連ねたように見える点だ。
今日は、嵐の後だから草地全体が濡れている。乾いてから収穫できるように印をつける。印といっても、少し大きめの木の枝を地面に突き刺すだけだが。
扇状地の下の方まで探したが、他の穀物は見当たらなかった。
イネでなくても、ヒエぐらいはあってもよさそうな気がするのだが。
明日は、浜辺と山の間の湿地を見て回ることにしよう。
この湿地は広い。
そういえば、自分が目覚めた砂浜の東側には行ったことがない。
この際だから、浜の東の果まで行ってみよう。何か面白いものがあるかもしれない。
次の日の朝、沢水で股間を洗った。前の日までは、沢水は茶色く濁り、飲むことはもちろん、体を洗うこともできなかった。今の沢は、いつもより水量が多く、流れが早いが、水は透き通っている。
この嵐の間、朝のルーティンをこなすことができなかったが、なんとか夢精にまで至ることはなかった。ただ、そろそろ排卵が始まる頃だ。注意しないといけない。
今日は、山の南の山裾に沿って、湿原を見ていくつもりだ。この山の南側は傾斜が急で、これまで、山繭採りや狩りのときもあまり足を踏み入れたことがない。湿原だけじゃなく、山の南側の斜面もチェックしていこう。
ただ、距離がかなり長くなるはずだし、いろいろ備えをしておいたほうが良い。竹の水筒2つに水を入れ、狩りをする際の装備を身に着け、鹿の皮を羽織り、出発した。
いつもの通り道の脇の藪をかき分け、突き進む。いつも日の出日の入りを観測している崖の下にたどり着いた。崖はほぼ垂直にそそり立っていた。ここを登ることは無理だな。
そして、海の方に目を向けた。
そこにあった。
イネが。
一株だけ。
湿原の中にはっきりと目立つように生えていた。
なんだこれは!
非常に作為的な匂いがする。
いつも暮らしている住居のすぐ側に、欲しがっていたイネが一株だけある!
まるで、「とても欲しがっていたから、ここに置いておきました。うふっ!」とでも言ってるみたいに!
ものすごく胡散臭い!怪しい!
やはり、自分は観察されている!
声に出して、「イネが欲しい」と言ったことはないから、多分、思考すらもモニターされているのだろう。
実験なのかゲームなのか、あるいは、他の何かわからないが、自分が観察されていることは確実だ。
どこからか、高笑いが聞こえた気がする。考えすぎか。
まあ、自分が実験かゲームか何かの駒であることは、今回初めて明らかになったことでもない。あまり気にしてもしょうがない。
取り敢えず、このイネはありがたく頂くことにしよう。
まだ完全に熟してはいないようだから、後で収穫させてもらおう。
さあ、探検を続けよう。