A Stalking Shadow
目覚めたの時は既に夜になっていた。ヒルダは自分の横で眠っている。彼女を起こさないようにして、寝床を出る。身支度を整えた後、家を出る。
崖の見張りは、ヘルガからアーデルに変わっていた。アーデルの側に行き浜の様子を尋ねる。今のところ何も異常は無いようだ。
暫く二人で腹ばいになりながら浜辺を眺めていた。満月に近い形の月が昇っている。浜辺は月の光を受けてよく見える。
自分の出血は満月の日に始まる。あと3日で自分の出血が始まるはずだ。その1日後にはヒルダの出血があるはずだが、…
その時、アーデルが口を開いた。"Is Hilda OK?" ヒルダは大丈夫?と聞いてきた。
"She is sleeping." ヒルダは寝ている、と自分は答えた。
"No. I mean, about her leg." そうじゃなくて、脚の事よ、とアーデルが返した。
"Ah. Maybe we have to cut her leg." ああ、もしかしたら脚を切らなきゃいけないかもしれない、と答えた。
"That bad! How cruel!" そんなに悪いの!酷いわ!とアーデルは驚きの声を上げた。
自分が言葉を続けようとした時、視界の端で何か動いた。自分は、指を唇に当て、その後、動く影の方を指差した。
アーデルの視線が自分の指の指し示す方向に向く。
人影だ!川の方から人影が現れた。一人だ。辺りを警戒するように、舟を引き上げている場所に向かっている。生き残っていた奴か?
敵の死体は35人分しか確認していない。残りの5人の中に生存者がいてもおかしくない。影は、ゆっくりと辺りを探るようにしながら、舟に近づいていく。
影は舟の舳先のところに立った。影は舳先の側に真っ直ぐ立っているように見える。おかしい!舳先の高さから見て、身長がかなり小さい。
敵の奴らの死体を確認したが、その身長は大体160前後位だったはずだ。その位の身長だったら舳先の所から頭が突き出るはずだ。
だが、この影は直立していると思われるのに頭は舳先の下に隠れている。こんな小男がいたのか?
影は、舟を押し出そうとしている。だが、舟は動かない。影は別の少し小型の舟にところに行き、再びその舟を動かそうとするが、舟は動かない。
今浜に上げてある舟を水上に押し出すためには、少なくとも大人5人の力を合わせないと無理だろう。
小さな影は舟を押し出すことを諦めたのか、元来た方向へ戻っていく。つまり、川の方だ。
川の方から来て、かなり小さい者か。直ぐに、花組と浜組の子達が頭に浮かぶ。あの中の誰かか?
彼女達が攫われてきた集落に帰りたいのであれば、昼に浜でそう願い出ても良いはずだ。あそこには鷺姫がいたから、意思疎通に問題は無かったはずだ。
それに、彼女達の集落に帰りたいのであれば、全員が浜辺に来て舟を押し出せば良いはずだ。だが、影は一人だけだった。
スパイか?敵がこの場所を知っていた様子は無かったから、ここを探るためのスパイとは考えられない。
そうか、奴隷か!奴隷が逃げ出す際に音を立てたりして、仲間に知らせ、その逃亡を妨害する役割を与えられているサボタージュ要員というこのなら十分あり得る。
鹿嶋っていうのは相当やばい奴らだ。盾の壁を作ったり、砕けやすい石の鏃を使って敵のダメージを大きくしたり、奴隷の逃亡を防ぐためにサボタージュ要員を奴隷の中に潜り込ませる。
かなり巧妙であざとい手段を使う油断できない相手だ。
影は川上の方の暗がりに溶け込んで、もう判別できなくなっていた。
自分は、アーデルに浜辺の監視を継続するように言って、山を下りる。
山の入口近くに設けられた野営地で見張りをしていたのは、グエンだった。グエンはエンマと千鳥の看護も兼ねているし、花組と浜組の子達からだいぶ離れたところにいる。
警戒はどうしても外部からの敵を想定しているので、中から外への動きは目につきにくい。
自分は寝ているインガを揺り起こし、辺りに聞こえないように囁きながら、事情を説明する。
自分はインガと共に、寝たふりをしながら、小さなスパイの帰りを待つ。




