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浜辺の粘菌 Slime on the beach  作者: 外山淑
第二部 邂逅
133/135

Cruel Operations

 千鳥の左腕は、矢傷の上の所を麻紐で縛っているため、縛った所から指先まで鬱血していて、赤黒く変色していた。自分が、毒矢の傷だから縛ったままにするよう命じていたのだ。

 このまま縛ったままでいると、左手は壊死してしまう。だが、紐を解けば、トリカブトの毒素が体に回ってしまう。左手が壊死した場合でも、壊死した部分を放置していると、細胞の損傷がどんどん拡大してしまう。

 どちらにしても左腕を切り落とすしか方法がない。自分は千鳥に向かいこの残酷な事実を告げなければならない。

「ながかいなわるきものいりてきりぱなつぽかつべなち」汝が腕悪き物入りて切り離す他術無し、と千鳥に告げた。

 千鳥は覚悟していたようで、驚いた表情は見せなかった。「わりなち」理なし、仕方がないと短く答えた。

 エンマも重い表情で頷いた。エンマは、鷺姫や千鳥に英語を教えながら、鷺姫達の言葉を学習していたので、自分と千鳥の遣り取りはだいたい理解しているはずだ。

 "I have to do the same to your leg." お前の脚にも同じことをしなければならない、とエンマに告げる。

 "I know." 分かってる、と答えた。エンマの左脛もだいぶ鬱血が進んでいる。

 インガとグエンに小川の側で火を焚き、インガの世界から持ってきた剣を2本用意するよう指示した。アーデルと鷺姫にはありったけの壺に沢水を入れておくよう命じた。

 準備ができたようだ。自分は千鳥を両腕で抱え、小川の辺の焚き火の側に運んでいく。千鳥の体はもうだいぶ熱を持っている。

 藁を敷いた地面に千鳥を横たえる。鷺姫が千鳥の頭を胸に抱き、千鳥の右腕に脚を乗せて、動かないようにする。千鳥の脚にはグエンが乗り、固定する。鬱血した左手はインガが抑える。

 自分は千鳥に少し太い木の枝を差し出し、「かむべち」噛むべし、と言った。千鳥は木をきつく噛んだ。

 自分は剣を焚き火で炙る。余計な雑菌が付かないようにするためだ。十分に熱した剣を手に、千鳥の左腕の前に立つ。一瞬で事を決めなければ、千鳥が余計に苦しむだけだ。

 剣を振り上げ、一気に振り下ろす。みんな、一斉に顔を背ける。千鳥の押し殺した、だが大きい悲鳴が辺りに響く。だが、その後、千鳥の悲鳴は消えた。千鳥は気を失ったのだ。

 千鳥を抑えていた者は、直ぐに、壺の水で傷口を洗い、止血帯や包帯で傷の手当を手早く行う。千鳥を毛皮で包み、焚き火の側に寝かせる。千鳥の側には鷺姫が容態を見るために付き添っている。

 敷き藁を取り替え、壺の水を補充する。自分はエンマを抱き上げて運ぶ。

 "I love you, Juri. I truly love you." 愛してる、ジュリ、本当に愛してる、とエンマが囁く。自分は、涙が出そうになり、それを抑えようと、顔をしかめた。

 "It's not your fault. I'm OK." あなたのせいじゃないわ、わたしは大丈夫よ、とエンマが続ける。

 自分は藁を敷き直した地面にエンマを下ろす。グエンがエンマの頭を抱き、右腕に乗る。ヘルガが左腕に乗り、エンマの顔に手を添える。アーデルがエンマの右脚に乗り、インガが左足を抑える。

 自分は、エンマに木の枝を差し出し、"Bite this." これを噛め、と言った。エンマは自分を見つめながらそれを噛む。

 千鳥と違って今度は脚だ。より力を入れないと失敗する。エンマを余計に苦しめることになる。この瞬間は鬼になれ!

 自分が剣を振り上げると、他の者は目を背けたが、エンマだけは自分を見つめている。顔を歪めながら一気に振り下ろす。

 エンマは悲鳴を上げなかった。ただ、木の枝を強く噛み締めた後、大きく息を吐き、気を失った。

 グエン達が、一斉に動き出し、必要な処置をしていく。自分は暫くぼうっとしていた。インガに肩を叩かれ我に返った。

 みんな返り血を浴びている。エンマを毛皮で包み、火の側に寝かせると、みんな、服を脱ぎ、小川に入り、汚れを洗い落とす。

 後は、ヒルダの怪我の治療もしなければいけない。ヒルダの矢傷は毒矢のものではないから後回しになっていた。

 ああ、忘れていた。浜の見張りも立てないといけないのだった。最初の見張りをヘルガに頼み、ヒルダのいる所に向かう。

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