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13/19

 朝起きると、海が荒れてきた。波がいつもより高く強い。嵐の気配がする。

 風はまだ強くないが、もうすぐ台風が来そうだ。


 嵐に備えなければならない。

 浜に置いた製塩用の鍋には土器の蓋をして、さらに、石を重しとして載せておいた。


 竹の小屋や燻製小屋は、風の影響を考慮して、周りの木々が防風林の役目をはたすような場所に作っておいた。しかし、念の為、それぞれ、風で吹き飛ばされないように、外側の壁は全て上まで泥を塗っておいた。屋根にも、石を重しとして載せておいた。


 昼過ぎ辺りから風が強くなってきた。

 燻製小屋は、火事にならないように、火床に土を被せ、火を落とした。燻製途中の鹿肉は、燻製小屋から、竹の小屋に一旦移し、梁から吊るしておいた。土器や他の道具類も、全て竹の小屋に入れた。


 薄暗くなり、風に雨が混じってきた。

 竹の小屋に入り、掛け布団代わりの草束を編んだものを纏って、寝台の上に横になる。

 寒い。

 小屋の中にいても、強い風が吹き込む。

 冷たい。

 雨も入り込む。


 外では、風が唸り、雨が屋根を叩く。


 腹が減った。

 火は使えない。

 そもそも火を起こすことができない。

 辺り一面雨で濡れている。嵐が終わっても、暫くは火を起こすことが難しくなる。


 乾燥したハマグリの燻製を少しずつ齧る。

 時折、壺に汲んでおいた沢水を少しずつ飲む。


 この嵐がいつまで続くかわからない。

 嵐が去っても沢水は当分使えない。

 濁りが消えるまでどれくらいかかるかわからない。


 夜になり、真っ暗な中、時折、稲妻の光が一瞬小屋に入り込む。

 暗い中、寒さに震えながら、ただ、時間だけが過ぎてゆく。


 いつの間にか眠っていた。

 いや、微睡まどろんでいたか。

 何か夢を見ていた気がする。

 でも、どんな夢かは覚えていない。

「ジュリ」

 この言葉だけが、頭に残っていた。

「ジュリ」

 自分の名前か?

 それとも他の誰かか?

 いや、人の名前とは限らない。

 これは一体何のことだろう。


 今までは、夢を見た記憶がない。

 なぜ、今日は夢を見た記憶があるのか?


 外が静かなことに気づいた。

 嵐が過ぎ去ったのか?

 外に出てみる。

 朝だ。

 雨は止んで、風もほとんど吹いていない。

 空は、まだ曇っている。

 西の空には、まだ厚い灰色の雲が続いている。

 多分、自分は台風の目の近く辺りにいるのだろう。

 これから台風の残りがやって来る。


 しばらくすると風が逆方向から吹いてきた。

 風がだんだん強くなり、雨も混じってきた。

 再び小屋に入り、嵐が過ぎ去るのを待つ。

 ハマグリの燻製を齧り、水をすする。

 風と雨の音が辺りを覆い尽くす。

 時間の感覚が失われていく。


 また微睡んでいたに違いない。

 いつの間にか真っ暗になっていた。


 虫が鳴いている。それ以外、辺りは静かだ。

 嵐は去ったようだ。

 小屋は無事のようだ。屋根も飛ばされていない。

 安心して寝床に横になった。


 起きると朝だった。

 外に出ると、空は晴れていた。

 小屋と燻製小屋はなんとか無事だった。

 屋外便所は飛ばされていた。

 海側の斜面に作ったから、風をもろに受けたのだ。

 辺り一面の地面は濡れている。暫くは火を起こすことができない。


 とりあえず、朝のルーティンをこなすことにしよう。


 今日は、浜辺で目覚めてから、丁度100日目、9月3日のはずだ。



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