Tidori's Narrative
千鳥は地図の息栖の印を棒の先で指し示しながら語りだした。自分が分からない言葉に首を傾げると、何回か言い換えて、自分の理解できる表現に言い変えてくれた。やはり、頭が良い。
「つぁぎびめばおきとぅがみこなり」さぎひめはおきすのみこなり。鷺姫は息栖の神子なりか、これは分かる。
「わばぴめがつかいなり」わはひめのつかいなり。私は姫の召使いですか、これも分かる。
千鳥は鹿嶋の印に棒の先を当てる。「かぢまばわれらがかたきなり」かじまはわれらのかたきなり。鹿嶋は私達の敵です。
「かぢまばいとこばち」かじまはいとこはし。鹿嶋はとても恐い、いや、強いか。
千鳥の持つ棒の先は、次に、神崎神社の丸の所に移動した。
「こまとぅばわれらがぱらからなり」こまつはわれらのはらからなり。小松は私達の同胞です。神崎神社と息栖神社は同族ということか。そういえば、どちらも天鳥船命を祭神として祀っていたな。
棒の先は香取の印に移る。「かとりばこまとぅがかたきなり」かとりはこまつのかたきなり。香取は小松の敵です。
利根川を挟んで、勢力を拡大する鹿嶋と香取という大勢力と、それに抵抗する息栖と小松という同族のグループという図式か。
棒は、香取と鹿嶋の印を行き来した。「かぢまとかとりばたがいにあだなり」かじまとかとりはたがいにあだなり。鹿嶋と香取は敵同士ですか。
「かたき」ではなくて「あだ」という言葉を使ったぞ。「あだ」だと「かたき」より更に強い意味だろう。仇敵位の感じか。要は、この地域は、三つ巴、いや、四つ巴の勢力争いが展開されているということか。
自分の知識では、息栖神社は鹿嶋神宮の摂社だったし、ここでは小松となっている神崎神社は、香取神宮の摂社ではなかったが、明らかに香取神宮の影響下にあった。この世界でも、そうなる流れなのだろう。
「つぁがむがぱらからよりたよりありて」さがむのはらからよりたよりありて。相武、つまり、相模と武蔵のことか。相模・武蔵の同族から連絡があったということか。
「やまとなるこばきいくつぁきたりと」やまとなるこわきいくさきたりと。大和という強い軍事集団がやって来たと。
「かれらとぅぐとくしたがべばあだなちと」かれらつぐ、とくしたがえば、あだなしと。彼等は告げた、早くこちらに下れば、害は及ぼさないと。
「われらぱかりて、やまとぅにしたがぶをえらぶ」われらはかりて、やまとにしたがうをえらぶ。私達は協議して、大和に下ることを選択した。
現状のままだと、鹿嶋と戦い、鹿嶋の配下にされてしまうことは避けられない。鹿嶋の配下として大和勢力と戦って、鹿嶋が負ければ、敗者の手下ということになり、悲惨な未来しか見えない。
ここで大和に、直接、恭順の意を示して、その配下に入れば、たとえ、鹿嶋と戦うことになっても、大和が後ろ盾になってくれる。そうすれば、鹿嶋に勝つ算段があるということか。
「つぁぎぴめばおきつとこまとぅがみなちろなり」さぎひめはおきすとこまつがみなしろなり。鷺姫は息栖と小松の御名代なり。鷺姫が息栖と小松の代表ということか。まあ、実質は人質だな。
「おかばあやぶち、なれば、うみをわたりていかむ」丘は危うし、なれば、海を渡りて行かん。陸路は危ないので海路で行こうとしたか。息栖と小松の使者であれば、鹿嶋と香取はどちらも敵地ということになる。確かに危ない。
「なれど、かぢまがぷねにおばれ、おかにあがるぽかつべなち」なれど、かじまのふねにおわれ、おかにあがるほかにすべなし。しかし、鹿嶋の舟に追われて、上陸する以外に方法がなかった。
「やまにいりてのがれかくれ、ここにいたる」山に入りて逃れ隠れ、ここに至る。山に入って逃げ隠れてここに辿り着いた。
自分が口を挟む。「ながぱらからばいかに」汝が同胞は如何に?お前の仲間はどうした?と尋ねた。
「ちらず、うてぃとられてちあも」知らず、討ち取られてしあも。分からない、討ち取られてしまったのかもしれない。と、千鳥が答えた。
千鳥の傍らで、鷺姫が涙を浮かべている。鷺姫が俯く。嗚咽の声が聞こえた。




