Thoughts about the Rice
倒れた煙突の修復、いや、再建を直ぐにでも行いたいのだが、辺りは大雨で泥濘んでいる。海はまだ荒れていて砂鉄の採取も難しい。沢は濁流になっていて、採った砂鉄の精選もできない。
このような有様なので、製鉄に関する作業を継続することは困難だ。製鉄は5日程先延ばしにすることにしよう。
空いた時間を台風の被害の精査とその修復に当てる。
まずは田畑から始めよう。
アワとヒエは既に丈高く育っていたので、ほとんどが風のせいで倒れてしまっている。もう収穫間近なので、穂が濡れた地面に接した状態では芽が出てしまう。まずい!早く引き起こしさなくてはいけない。引き起こした後は、穂が早く乾燥してくれることを祈るだけだ。
イネも大分倒れている。イネの方は、まだ収穫までは時間がある。暫く様子を見て、それでも倒れたままのイネは何らかの手当をしないといけない。
自分達はこんな小さな田畑でも、台風の後始末は大変な作業だ。全員総出でも足りないくらいだ。
鷺姫の実家に当たる息栖などはここの比じゃないだろう。息栖神社のある場所は、利根川水系の広大な湿地帯の中だ。
千鳥の口ぶりでは、息栖は何やら鹿嶋と対立関係にあるような様子だが、息栖も鹿嶋もこの台風では鷺姫どころではないだろう。
いや、台風の速度によっては、今この時に、利根川下流を台風が直撃しているかもしれない。ここに降ったと同等の降水量であれば、利根川流域は大洪水になっていてもおかしくない。
洪水の後始末とその後の収穫、鹿嶋や香取は、暫くは外に大人数の人を出す状況には無いはずだ。暫くは、鷺姫に関して侵入者が来る可能性は低くなるかな。まあ、あまり楽観的になってはいけないが。
平安時代には、息栖神社は鹿嶋神宮に支配下にあったようだ。神社の社格は、たぶん、大和政権に組み込まれた時の地方豪族の勢力を表していると考えられる。大和勢力が関東に進出したのは、5世紀から6世紀にかけてだろう。
その時点で、香取と鹿嶋は利根川を挟んで並び立つ大勢力だったはずだ。息栖はその2つには劣るがそれなりの勢力を持っていたはずだ。この3つの集団がなぜそんな勢力を持っていたか。
答えは簡単、米だ。この3勢力は全て利根川水系に沿った場所にある。回りは湿地帯。イネの栽培に適した土地だ。イネは、他のアワ、ヒエ、キビなどに比べて扱いやすく、収量も多い。
イネを容易に栽培することが出来る湿地帯を支配している勢力が、イネの生産力を背景にしてその勢力を拡大していく。
鹿嶋と香取の間には利根川本流という大きな障壁が存在しているため、直接の交戦は難しいか。勿論、小競り合いはあるだろうが、大規模な交戦は難しい。
だが、息栖と鹿嶋の間には利根川のような障壁は無い。鹿嶋が自分の勢力拡大のために息栖に圧力をかけているみたいな状況か。
いずれにしても、イネの栽培が、豪族権力の基盤になっていることは明らかだ。食い物を握っている者が権力を持つ。
ここでは、耕作する土地の確保が問題だ。今のところ、今ここに住んでいる者をギリギリ養えるかどうかという程度の耕地しか確保できていない。
崖の下に広がる湿地帯を耕地にすることができれば良いのだが。あそこは、今回みたいな嵐の場合は勿論、普段でも海から塩が入ってくる。イネの耕作には向いていない。
待てよ!今栽培しているイネは、その湿地に生えていたじゃないか!塩害で枯れているどころか、あの湿地の中でしっかり実っていたじゃないか!
何で、こんな大事なことを見落としていたんだ!この間抜け!
このイネは塩害に強いイネだ。崖の下に広がる巨大な湿地帯、これをすべて水田にすることができれば、人口は今の十倍になっても問題ない。そうだ、川の向こう側にも広大な湿地が広がっている。
ここでは、何事も偶然ではない。塩害に強いイネをここに配置した「彼等」の意図は何か?「彼等」の最終目的は何か?自分に何をさせたいのか?
ここで自分を繁殖させて、自分の王国でも築けとでも言うのか?グエンはその第一歩なのか?




