Typhoon
みんなそれぞれ割り当てられた作業をこなしている。
その中で、炭作りが一番早く作業を完了した。
炭窯を作り、流木や鹿嶋の集団が持ち込んだ筏の材木を切ったり割ったりして整形し、窯に運び込む。
運び込んだ木材を蒸し焼きにした後、火を落とし、冷やして取り出す。
炭窯作りは、陶器の窯作りの経験があるので、ほどんど問題なく進んだ。炭を焼く作業も経験済みで、要領は分かっている。グエンが現場に復帰した日が、炭出しの日だった。
炭焼き専用の窯を使って炭を焼くと、これまでの方法に比べて、十分に炭化していない半端物がかなり少なくなった。これで製鉄に十分な木炭が確保できた。
二番目に完了したのは陶器だ。陶器用の窯は既に出来ている。ただ、陶器の場合、素焼きと、釉薬を掛けてからの本焼きの二段階の手順を踏まなければならない。
そのため、どうしても作業にかかる時間は長くなる。陶器が完成し、窯から取り出されたのはグエンの熱が引いた日から4日後だ。
製鉄は、原材料が揃わないと始められない。高炉自体は、グエンが倒れた次の日には完成していた。だが、木炭と砂鉄がまだ揃っていない。
木炭は確保できたので、後は砂鉄だ。全員で浜辺に出て、砂鉄集めに精を出す。
鷺姫と千鳥は、何故、黒い砂を集めるのか分からないようだ。そうすると、鹿嶋の周辺では鉄を使っていないのか?それにしては、鉄の鏃やナイフに驚いている様子は無かったが。
やはり、製鉄の技術は機密事項として秘匿されているのか?それとも、鉄は他の場所から輸入しているということか?
いずれにしても、関東の勢力が鉄を利用していることは留意して置かなければいけない。製鉄が自分達の独占技術ではないことを前提として行動しなければならない。
砂鉄を集め始めてから3日目、昼頃から海が荒れてきた。嵐が来る。今は8月の末のはずだから、台風が来るのか。
砂鉄採りを早々に切り上げて、家に戻る。家や小屋の壁は泥を熱く塗ってあるのである程度の雨風は問題ないはずだ。屋根には大きめの石を載せて飛ばないようにする。
念の為、竹ロケットと収穫したエンバクの半分を、新しく発見した洞窟の奥に運び込んだ。この洞窟の奥は結構乾燥していて、最近水が入り込んだ様子がない。こういった物の保管場所としては最適だ。
沢水を新しく完成した壺に5日分程汲んで貯めておく。豪雨の後の沢水は3日位飲むことができない。雨が長引く場合は、雨水を飲料水とすれば、その分沢水を使わずに済む。
新しく作った残りの壺に、エンバクを詰め込んで蓋をする。
台風への備えを一通り終えた夜から、風が吹き始めた。次の朝から、強風に雨が加わった。風が強いため火が使えない。みんな、鹿肉の燻製を齧って朝飯にする。
風が強く雨が降っているため、外での作業はできない。薄暗い家の中で、ヘルガとアーデルが機を使って天蚕糸布を織っている。既に、インガ、ヒルダ、エンマ、そして、アーデルが褌を着けている。
今織っている布は、ヘルガとグエンの褌に成る予定だ。この布はもうすぐ完成しそうだ。褌が全員に行き渡ったら、次はブラジャーを作る予定だが、全員分を作るには天蚕糸がたぶん足りない。
エンマは鷺姫と千鳥に英語を教えている。エンマの授業の間、自分は他の子に対して、英語の読み書きを教える。エンマは他の子よりかなり先を行っているので、自分の助手みたいな形になっている。
突然大きな音が響いた。外に出て辺りを見回すと、高炉の煙突が無い!高炉の煙突は根本から折れて倒れてしまっていた。中に心などの補強が無く、ただ粘土を積み重ねたものだから強風には一溜まりもない。
風雨が強い中では手の打ちようがない。後で作り直すしかない。そのまま家に戻る。体はびしょ濡れだ。ブラジャーと褌を脱ぎ、毛皮に包まる。
夕方近くになっても、雨風が治まる様子はない、朝と同じく、鹿肉の燻製を齧って夕飯にする。
暗くなった。そのまま寝ようとするが風の音が大きく中々寝つけない。
いつの間にか眠っていた。目覚めると既に朝の光が見える。風の音も雨の音も聞こえない。外に出ると生暖かい空気が自分を包む。風はほとんど吹いていない。雨も降っていない。
西の方を見ると暗く重そうな雲が横たわっている。見ると、みんな外に出てきていた。
"The storm is over!" 嵐は終わったのね!と、ヘルガが嬉しそうに叫んだ。
"Not yet! Here comes another one!" まだだ!もうひとつやって来る!と、西を指差して言った。
"Prepare the meal before it comes!" 食事の準備をしろ、嵐が来る前に!と叫んだ。
みんな急いで食事の支度をする。火を使えるのは今だけだ。




