製塩
土器が出来たことで、塩作りを始めることができるようになった。
まず、大きめの土器の鍋を3個浜辺に持っていった。
鍋に海水を注ぎ 入れ、日に当てて鍋の中の海水を蒸発させる。
浜にハマグリを採りに行く度、これらの鍋に海水を注ぎ足し、海水の塩分濃度を上げていく。
10日ほどこの作業を繰り返した後、流木を集め火を焚き、鍋の海水を煮詰める。
鍋の底に、白い結晶が出来る。塩だ。
これを竹べらでかき取って、小さな壺に入れ、麻布で蓋をした。塩の量は、3個の鍋を合わせても、多分、50グラムもいかないだろう。
この結晶には、硫化カルシウム、つまり、石膏や、塩化マグネシウムや硫化マグネシウムなどのニガリ成分も含んでる。
塩化ナトリウム、すなわち、食塩はこの中の8割弱位のはずだ。まあ、響きの良い言い方をすれば、ミネラルが豊富な塩ということだ。
石膏やニガリなどの不純物を取り除くためには、大きな鍋が必要だ。土器の鍋では無理だ。鉄か銅の大鍋が必要になる。
鉄の鍋を使うことができるようになるのは、だいぶ先のことだ。そうだ、鉄を作る準備も必要だな。
取り敢えず、今のところは、得られる塩の量は少ないけれど、この小さい鍋を使った作業を地道に繰り返していかなければならない。
3回目の製塩中に鍋が一つ壊れた。
素焼きの土器で、水を入れ加熱すると、どうしても割れやすくなる。
製塩用の鍋だけではなく、食事の煮炊きに使う土器も同様だ。
こういった土器は所詮消耗品だ。それも、利用できる期間が極めて短い。
土器も定期的に作り続ける必要がある。
土器が出来て、塩も出来た。これで、食料を安全に貯蔵することができるようになる。
手始めに、ハマグリの燻製を作ることにしよう。
竹材で、小さな燻製小屋を作り、燻蒸材としてヤマザクラの枝を集める。
ハマグリを、いつもの倍の数採り、その日に食べるものを除き、一旦焼いた上で、麻紐で燻製小屋に吊るしじっくり燻蒸する。
ハマグリの汁には塩分が含まれているので、この燻製には塩を加える必要があまりない。
こうして、燻製にしておけば、海が荒れて、ハマグリを採れない場合の備えになる。
また、今のところ殆ど無いことだが、獣や鳥などが罠にかかって肉が余った場合は、塩を振って燻製にできる。
この場所が、地球と同じシステムの日本に位置しているのであれば、そろそろ台風が来る季節になる。
台風のような嵐になれば、海には入れない。
それどころか、沢水も濁ってしばらく利用できなくなる。そして、火も使えないはずだ。
そのような場合に備えて、水や食料を備蓄しておかなければならない。
そうだ、台風だけじゃなく、冬にも備えなければならない。
冬に備えて、この場所で保存できるものって何があるだろう?
タンパク源は、まずハマグリ、そして、獣や鳥の肉、魚だな。
炭水化物は、ここの植生から考えるとクリや穀物などが考えられる。しかし、そういったものはまだ見つけていない。これからはしっかり探すことにしよう。
そうだ、クズの根から葛粉が採れるはずだ。クズはそこら中にたくさん生えている。しかし、葛粉の精製にはかなり手間がかかる。
ビタミン源としては、野草か果物か。野草で保存可能なものは、今のところ、スベリヒユぐらいしか見当たらない。
ここの植生で考えられる保存可能な果物には、柿があるはずだ。だが、柿の木もまだ見つかっていない。
こんなことを考えながら、塩作りを続け、3度目の出血が始まる頃には、塩がようやく300グラム程貯まった。