Yet Another Secret of Myself
グエンが目を開けると、2つの綺麗な緑色の瞳が自分とエンマを見つめる。
2つの緑の瞳?グエンの右目の瞳は白濁していたはずだ!
グエンも戸惑っている。たぶん、いつもと見え方が違っているのだろう。以前の右目は視力がほとんど無かったはずだ。
グエンは、慌てて、両手を出し、左手で左目を隠そうとした。たぶん、右目の視力を確認するためだろう。
しかし、その左手が途中で止まった。グエンが左手をじっと見つめている。自分とエンマもグエンの左手を見た。
グエンの左手の欠損した指があったはずの部分が少しだが盛り上がっている!指が伸び始めている!5本全部の指がだ!
自分とエンマはよく観察しないと分からない位だが、グエン自身は直ぐに分かったのだろう。
グエンは喜んで何かを叫んだ!多分、グエンの生まれ育った場所の言葉だろう。
グエンの叫び声を聞いて、みんなが集まってきた。みんな何が起きたのか分からないようだ。
しかし、グエンが、興奮しながら、右目を指差し、左手を差し出すと、みんな目を見張った。
左手の変化は少し微妙でわかりにくいが、右目の変化は一目瞭然だ。
インガとヒルダは、驚きと共に恐れのような表情を浮かべて、自分を見つめている。
まあ、自分も驚いている位だから、当然か。
グエンの様子が大丈夫そうなので、普段通りに朝食の準備をする。
朝食の際に様子を見ていると、グエンの食欲が旺盛なのは変わらないようだ。悪阻があるようには見えない。
妊娠している上に、手指の再生の必要があるから、栄養は十分に摂取しないといけないはずだ。
どうやってグエンの右目と左手が再生されるようになったのか?グエンとの性交が関わっているのは明らかだ。自分の精液に含まれているナノマシンのせいか?
自分は、今まで、母乳や血液を飲ませることで、みんなにナノマシンを与えてきた。母乳による効果は、止血、皮膚病の治癒、寄生虫の駆除、防虫効果、そして、おそらく、感染症に対する耐性だろう。
しかし、母乳では、グエンの目や手指の再生は起きなかった。自分の血液などの体液に存在しているナノマシン等は体の重要な部位の再生を促す効果は無い。したがって、性交時の精液に含まれていたナノマシンの効果ではない。
それに、ナノマシンが関わっている場合、シラミなどの寄生虫の例から明らかなように、その効果は直ぐに現れる。臓器の再生が始まったのは、グエンとの性交から20日も経った後だ。
残る可能性は遺伝子しかない。しかし、自分に全ての臓器を再生する能力をもたらす遺伝子があるとしても、普通、それはその遺伝子を持っている者に発現するだけではないのか。
自分がその遺伝子を持っている場合、自分がある臓器を失うとその臓器が再生される可能性がある。これは分かる。
そして、自分の子供もその遺伝子を持っていて、自分の子供が臓器を失っても再生される。十分あり得る。
しかし、グエンはその遺伝子を持っていないはずだ。にも拘らず、グエンの臓器は再生されている。
したがって、今回の件に遺伝子が関与してる場合、その遺伝子は、胎児の母体の臓器を再生させる能力を持っていることになる。
胎児が安全に出産されるためには、母体が健康であることが重要だ。そのため、母体に深刻な障害がある場合には、その障害を取り除く能力を持つ遺伝子を胎児に配置する。いかにも「彼等」が考えそうな作為的な設定だ。
問題は、この遺伝子が何処にあるかだ。精子にはある。グエンがその証拠だ。
卵子にもあるかどうか?あれば、自分が臓器を失った場合、誰かの精子に拘らず妊娠すれば、自分の臓器は再生するはずだ。しかし、あまりそういった状況に陥りたくはない。
自家受精の場合は、自分の精子が関与するので、当然再生する。
自分自身でこの仮説を検証するつもりはない。ただ、自分が大怪我で臓器を失った場合の対処の可能性として覚えておこう。
重要なことは、自分が妊娠させた相手の体の障害はそれがどんなものであれ取り除かれるということだ。
この新たな秘密は他に漏らしてはならない、絶対に。
食事が済んだ後、製鉄作業の再開を宣言し、みんなを従来の役割に復帰させた。
グエンは左手がまだ痛いと言う。だが、その顔には笑みが浮かんでいる。




