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浜辺の粘菌 Slime on the beach  作者: 外山淑
第二部 邂逅
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Among the Great Powers

 気絶している鷺姫の介護は千鳥に任せて、自分達は敵の死体の回収をしなければならない。

 アーデルに馬車を引かせ、インガとヒルダと一緒に荷台に敵の死体を載せて行く。死体の中には、人の形を留めていないものもある。それを見たヒルダは、口を押さえて駆け出し、叢に胃の中のものを吐き出した。

 インガは、不快そうな表情を見せながらも、気丈に耐えている。インガは向こうの世界で、親しい者達の凄惨な死体をいくつも目にしている。あそこで見たものに比べれば、見も知らぬ敵の死体など、感情を激しく揺り動かす程のものではないのだろう。

 死体を回収しながら、敵の持っていた武器を調べる。鏃や槍の穂先はみんな石だ。金属は全く無い。こいつらの集団に鉄は無いか、あってもかなり貴重な物だということだ。

 敵の1人の左腕に黒い丸の入れ墨があった。敵の中で一番体格の良い奴だ。おそらく、この部隊を率いていた奴だろう。

 ヒルダに千鳥を連れてくるように指示した。千鳥が来ると、自分は死体の入れ墨を指し示した。

「なにものか?」何者か?と聞いたつもりだが、千鳥はちょっと悩み、やっと自分の聞いていることが分かったようだ。

「かぢまがもの」かじまのもの?鹿嶋の者か?鹿嶋!常陸国の鹿嶋神宮のことか?

 鹿嶋神宮の集団と対立している勢力だと香取神宮が考えられるが。

 自分は横たわっている鷺姫を指差して、

「かとり?」香取か?と尋ねた。

 千鳥は、一瞬驚いた顔をしたが、即座に首を横に振り、「おきつ」と呟いた。

 おきす?ああ、息栖(いきす)神社のことか!鹿嶋、香取と並ぶ、東国三社の一つだ。

 そうするとこの場所は関東の東岸に位置するのか。

 現代の茨城県の海岸はほとんど東向きだから、ここが茨城県に位置するとは考えにくい。

 千葉県の北部の海岸も東か東南向きだし、海岸の側に険峻なやまは無かったはずだ。やはり、無理があるな。

 千葉県南部、安房に相当する辺りだと考えればどうだろうか?地形的には符合するな。

 ここが安房近辺に位置するとすると、鹿嶋、香取、息栖が支配する地域からはかなり距離があるぞ。鷺姫達がこんなに本拠地から離れた場所に逃げてくるからには、何か複雑な事情がありそうだ。

 だが、片言の会話では中々意志の疎通が難しい。詳しい事情が明らかになるにはかなり時間が掛かりそうだ。

 鹿嶋は、古墳時代から飛鳥時代に掛けての大勢力だ。そうでなければ、「神宮」という高い格式の神社となるはずがない。

 関東に進出してきた大和勢力にとって、「神宮」として祭り上げなければいけない程の勢力だったはずだ。

 自分達は鷺姫を保護することによって、そんな大勢力の集団と敵対するはめになってしまった。これはかなりやばい。

 しかし、そんな大勢力が直接ここに押し寄せる可能性は極めて低いはずだ。

 ここが安房かその近辺であれば、あまりに遠すぎる。そのうえ、鹿嶋とここの間には、香取という鹿嶋と同程度に強力な大勢力が存在する。

 大軍を動かすのは難しい。しかし、今回と同じ程度の部隊を送り込んでくる可能性は十分ある。これは気が抜けないな。

 千鳥を鷺姫の所に戻し、死体の回収を続ける。

 回収を終え、死体を川に流す。嫌な仕事だが、誰かがやらなければいけない。


 鷺姫の所に戻ると、姫は目覚めていた。

 止血帯で押さえつけた所から血が滲み出ている。不味いな。鷺姫は、自分やインガ達と違って、止血能力が高められていないし、免疫機能も弱い。

 インガ達は、ハーゲンに母乳を飲ませるついでに、自分の母乳を飲ませた。だが、今の自分はもう母乳が出ない。

 そうだ。血だ。母乳は血液から作られる。だったら、直接、血を飲ませれば母乳と同等以上の効果があるはずだ。

 鷺姫の頭の側で胡座をかき、ナイフで自分の左の乳首の下を力を入れながら引く。やはり、痛い。乳首の下から血が球になって盛り上がる。

 鷺姫に自分の乳首の血を指差し、「つうべち」吸うべし、と言った。

 鷺姫は驚いた表情を浮かべ、回りを見回す。千鳥は鷺姫と同様に驚いているが、他の子達は頷いて、自分の言葉に従うように促している。

 鷺姫は恐る恐る血が浮き出ている自分の乳房を口に含む。

 鷺姫が暫く乳首を吸っていると、両方の乳首にツーンという刺激が走った。母乳が出る時に感じた刺激だ。

 右の乳首を強く絞ると、白い小さな球が浮かんでくる。鷺姫と千鳥が目を見張る。

 そのまま、鷺姫に乳を吸わせていると、鷺姫の髪から、シラミが数匹現れた。インガが、千鳥に、出てきたシラミを指差して、何か偉そうな顔をしている。何でだろう?

 千鳥は、鷺姫の髪からシラミが逃げ出す様子を、口に手を当てながら凝視している。鷺姫も頭からシラミがポロポロ落ちる様子に困惑している。


 浜辺で目覚めてから1159日目、3年目の7月29日のことだ。


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