Painful Surgery
インガとヒルダを呼び、鷺姫の体を引き出す。鷺姫の心臓の位置に手を当てる。心臓の鼓動がある!生きてる!気を失っているだけだ。
だが、全身血まみれで傷の有無が確認できない。インガ達に、鷺姫の衣服を脱がせ、小川の水で洗うよう指示する。
自分は残り2人の敵の確認をしなければならない。残りの2人は自分が射倒した奴らのはずだ。
敵の本隊の位置からかなり離れた所に、1人仰向けに倒れている。心臓に向けて矢を放つ。反応はない。こいつは右胸を撃ち抜いた奴だ。
残りは腹に矢が当たった奴のはずだ。少し離れた草に血が付いた所がある。血の付いた体を引きずった痕跡がある。痕跡を辿って少し歩くと、叢に男がいた。
生きてる。自分を、怯えながらも、睨みつけている。心臓を狙って、矢を放った。
死体から矢を回収した後、他に敵がいるかどうかを確認するため、ヒルダを呼び、一緒に矢を番えながら川に向かう。
ヒルダに敵が現れた時の状況を聞きながら、川岸まで歩く。川岸には、大きな筏が繋がれていた。
筏は2つあった。どちらも、太さがまちまちな材木を蔓で結び付けたものだ。明らかに、川にぶち当たったので、その場で手に入るもので間に合せで作ったっていう感じだ。
辺りをヒルダと一緒に捜索してみたが、他の敵が潜んでいる様子は無い。全員倒したということか。ずっと張り詰めていた緊張感が抜けていく。
戻ると、小川の側に鷺姫が横たえられていた。側にはインガとグエンがいる。血まみれだった貫頭衣は切り裂かれて、姫の横で小さな山になっている。
鷺姫の体は小川の水で洗い清められていた。鷺姫の左の腹部から太腿に掛けて、少し大きな穴が3つ開いていて、そこから血が流れている。
多分、弾頭のシュラプネル が食い込んだんだろう。これから傷を切開して、破片を取り出さないといけない。
ナイフを取り出し、インガに火を焚くように指示した。ヒルダには、沢水を壺に用意するよう指示した。グエンに止血帯を取りに行かせた.
鷺姫は気を失ったままだが、ナイフで処置をしている最中に暴れ出されては困る。エンマとアーデルに鷺姫を押さえつけるよう指示しかけた時、千鳥の事を思い出した。
エンマとアーデルに、千鳥を連れて来るよう指示した。ただし、手の縄は縛ったままでと、付け加えた。
千鳥がエンマとアーデルに引っ立てられてきた。千鳥は鷺姫が横たわっているのを見ると、駆け寄ろうとして、エンマとアーデルに腕を取られて、その場に膝まづかせられた。
「ぴめ、いくるべち」
自分が姫は生きてると言うと、千鳥は驚いて自分を見つめる。自分が言葉が分かることに驚いているのか、それとも、鷺姫が姫様だと知っていることに驚いているのか。まあ、今はどうでも良いことだ。
「われ、ぴめ、いやつべち」
自分は姫を治療するつもりだと言うと、千鳥はほっとした表情をみせた。
「なれ、つぁわぐなかれ」
お前は騒ぎを起こすなと言うと、千鳥は大きく頭を振り、頷いた。エンマとアーデルに合図して、千鳥の手の縄を解かせた。千鳥は鷺姫に駆け寄り、姫の頭を掻き抱いた。そのためか、鷺姫の意識が回復した。
改めて、エンマとアーデルに鷺姫の手足を押さえつけるよう指示した。
おっと、その前に確認すべきことがあった。インガとグエンに鷺姫の血まみれの服を小川で洗って来るように指示した。みんなはなぜそんな事をするのかという顔をしたが、インガ達は黙って服を小川で洗って持ってきた。
インガ達に服を裂いた時の様子を確認しながら、洗った服を仔細に確認する。左の脇腹に相当する部分に小さな穴があった。穴は一つだけだ。そうすると、一番上の脇腹の穴に弾道の破片と衣服の破片が入ってることになる。
鷺姫に小枝を差し出し、顔の動作で小枝を噛むように促した。鷺姫は素直に小枝を噛んだ。
「やむべち」
自分が痛むぞと言うと、鷺姫が目を見開いた。鷺姫は驚いて千鳥を見上げる。千鳥が頷く。
自分は、側の焚き火でナイフの先を焼き、脇腹の傷口に差し込む。鷺姫が、小枝をきつく噛み締めながら呻き、腰を持ち上げようとする。エンマとアーデルが慌てて腰を押さえつける。
ナイフの先に硬いものの感触がある。その硬いものの端を探り、その少し奥の部分までを引っ掛ける感じで引き出す。1センチに足りないくらいの黒い塊が出てきた。その端に繊維みたいなものがくっついている。
グエンにそれを渡し、小川で洗ってくるように指示する。黒いスラグの破片に布の繊維が引っ掛かっている。繊維を引き剥がし、洗った服の穴に当て嵌める。ピッタリと一致した。傷口を沢水で洗い、止血帯を締める。
残りの2つの傷は、土器かスラグの破片だけだ。最初の傷に比べれば楽勝だ。
しかし、鷺姫にとっては、楽勝の傷など無い。2つめの傷の処置の際に、再び気絶した。
3つの傷全ての手当が終わった。




