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覚醒

 背中が熱い。焼けるようだ。背中の熱さで目が覚めた。

 眼を開けると目の前が砂だ。濃厚な磯の匂いが鼻を突く。自分は砂浜にうつ伏せになっている。波打ち際に横たわり、腰のあたりまで水に浸かっている。

 太陽が照りつけてしばらく経っているようだ。

 背中が熱い。だが、背中以外は冷えきっていて感覚が無い。

 頭を(もた)げて周りの様子を見ようとした。そして、気づいた。自分は何も身に着けていない。

 周りを見回しても、服とおぼしきものはどこにも見当たらない。

 自分は左右に長く伸びた砂浜に横たわっている。周りには誰もいない。自分の近くには流木や海藻などがかなり打ち上げられている。

 自分は何故こんな所にいるのか?船に乗っていて嵐で遭難でもしたのか?それならなんらかの服を着ているはずだ。

 まったく訳が分からない。

 いや、自分がここにいる理由どころか、自分についての記憶がない。

 自分は一体誰なのか?

 思い出せない。

 しかし、今、大切なことは自分が誰かについて思い悩むことじゃない。この冷たい海から離れ、身の安全を確保することだ。

 ひとまず、砂浜の上の方に向かおうと、身を起こした。


 何かがおかしい!体に違和感がある。

 胸が揺れている。

 自分に胸がある。いや、乳房がある!

 自分には乳房は無かったはずだ!

 今の自分には、はっきりとした記憶が無い。しかし、自分の乳房が揺れることにこれだけ違和感がある。これは以前の自分には乳房が無かったからだ。

 自分は男だったはずだ!

 慌てて自分の股間を見る。寒さで萎えて小さくはなっているが陰茎はしっかりある。陰茎を摘んでその後ろを確認する。固く縮んでいるが陰嚢がちゃんとある。陰嚢をまさぐてみる。大きな睾丸が二つ確認できる。睾丸が大きい。自分の睾丸はこんなに大きかったか?

 他にも違和感がある。陰嚢の後ろが何か変だ。

 右手の指を陰嚢の先に進めていく。鋭い刺激を感じた。小さいけれど敏感な突起に触れたのだ。

 突起の奥に更に指を進める。指は濡れた粘膜の穴に入り込んだ。同時に体の中に異物が入り込んだ異様な感覚がした。肛門に異物が入った場合とは全く違う感覚だ。

 左手で尻の方から確認する。肛門に触れた。肛門は別にある!右手の指が入り込んだのは、明らかに、女性器の膣だ。その前の敏感な突起は陰核だ。

 この身体には男性器も女性器もある!自分は両性具有だったのか?

 いや、自分は自分の体に乳房や膣があることに驚いている。しかし、陰茎があることには驚いていない。そう、女性器があることに対してだけ強烈な違和感がある。したがって、以前の自分は男性だったはずだ。

 自分は誰なのか?いや、今の自分は、元の自分とは明らかに違う体になっている。だから、自分は誰だったのかと言うべきか?


 改めて自分の体を確認してみる。肌は白く傷跡一つ無くなめらかだ。かなり若い体だ。十代後半か二十代前半といったところか。こんなふうに、かなり若いと感じるのは、以前の自分がもっと歳をとっていたからだろうか?

 乳房はかなり大きい。手で覆ってもかなりの部分がはみ出てしまう。乳暈は寒さで収縮している。乳首は寒さのためか硬く勃起している。乳房を揉んでみると柔らかく自然に形を変える。外科的な手段で大きくしたような不自然さはない。膣口の辺りも(まさぐ)ってみる。不自然な引きつりなどは感じられない。やはり、外科的な方法で後から作られた感じはしない。

 ただ、乳房は堅く張り詰めた感じがする。表皮が伸び切って余裕がないような感じだ。この乳房は全く垂れておらず、つい最近膨んだようにも思える。もしかしたら、この体の年齢は、さっき考えた年齢より若いのかもしれない。十代半ばか、あるいはもっと若いか。そういえば、陰毛もかなり細くて薄いように見える。この陰毛は生え始めたばかりの可能性もある。あるいは、体質的に体毛が薄いのかもしれない。


 待て待て。今一番大事なことは、自分の体について考察することじゃないだろう。まず、この場所がどこかを確認することだ。そして、自分の身の安全を確保することのはずだ。

 砂浜の上部に向かって歩き出しす。動くたびに揺れる乳房に違和感を感じながら。

 砂浜の一番高い所に立ち、辺りを見回す。砂浜の向こう側には丈高い草が深く生い茂った草原が広がっている。いや、よく見ると下に水がある。草原と言うより湿原のようだ。その湿原の1キロほど先に、山がいくつか連なっている。今、太陽を背にして見ているから、向かって左側が西のはずだ。山の西側はなだらかに低くなっていき、山が途切れているように見える。対して、東側は、いくつもの山が連なり、山の端が見えない。湿原の向こう側には民家や建物などは見えない。道路すら見えない。人工物が一切見当たらない。つまり、この辺りに人が住んでいるような気配は全くない。

 今の自分は何も身につけていない裸の状態だ。目の前にある丈の高い草が生い茂った湿原を横断することは無謀だろう。取り敢えず、山が途切れているように見える西の方角に、砂浜を伝って行ってみることにする。

 こんなに人の気配のしない場所では、蛇、いや、もしかしたら、もっと大きな危険な動物に出会う可能性がある。

 浜辺に打ち上げられていた流木の中から適当な木を選び、余計な枝を払い、2メートルほどの長さの棒にした。とりあえず、これを身を守る武器として持っていこう。

 傾斜のついた砂浜を、漂着物を避けながら歩く。歩く度に、乳房が上下に揺れる。常に、自分に乳房があることをいやでも意識させられる。そして、乳房の重さでどうしても重心が前の方に傾き、前かがみになりがちだ。そのため、常に、意識的に胸を張る形をとる。

 走っているわけでもなく、急な段差があるわけでもない。乳房がそんなに大きく揺れるわけではない。しかし、自分は乳房があることに慣れていない。だから、常に乳房の動きを意識してしまう。

 もちろん、陰茎や陰嚢も歩くたびに揺れる。だが、こちらの方はそれほど気にならない。やはり、元の体が男だったからだろう。

 乳房だけでなく、尻が揺れることも気になる。たぶん、骨盤が男性だった場合より広くなっているのだ。尻が揺れに意識が集中しているためか、陰嚢の奥、膣の辺りが微妙に()ねられている感じがある。

 歩いていると、太陽の強い日差しを浴びているせいで体が暖かくなってきた。寒さで縮んでいた乳暈は大きく広がっている。直径は4センチ程もあるだろうか。縮んでいた陰嚢も長く伸びて左右に揺れている。

 しばらくすると、乳房や尻の揺れで刺激されたのか、それとも、膣の辺りの擦れが刺激になったのか、陰茎が勃起し始めた。半ば勃起した状態でそのままさらにしばらく歩く。

 陰茎は完全に勃起して硬くなってしまった。足を進めるたびに陰茎が左右に大きく揺れ、太ももを激しく叩くまでになった。

 このままでは歩きにくい。海に入って陰茎を冷やすことにする。冷たい海に入れば、この勃起はすぐに鎮まるはずだ。

 海に入り、腰まで冷たい水に浸かっていると勃起は次第に鎮まってきた。ただ、完全に萎えたわけではなく、半萎えの状態で留まっている。

 しばらく海中を歩いていると、足の裏に硬いものが何回か触れた。足で弄ると、ゴツゴツした感じはなく、滑らかな形をしている。ちょっと潜って手に取ってみる。ハマグリだ。随分と大きいハマグリだ。幅が10センチ程もある。

 これまでの様子からすると、この辺りに人の気配は全く無いようだ。この場所でまともな食事がすぐに摂れることは無いだろう。他に食べ物が得られる可能性が大きいとは思えない。このハマグリを食料として採っておくことにする。

 10分もかからないうちに10個採れた。これらを腕に抱えて持ち運ぶのは大変だ。打ち上げられた海藻を集めて編み、即席の手提げを作る。その手提げに採ったハマグリを入れた。ハマグリが大きいので多少網目が粗くても落ちることはないだろう。

 ハマグリを採ったことで、食べられるものを意識しながら、砂浜の縁を歩いていく。赤紫色の太い茎を持った植物に気がついた。茎は赤紫色で太く、葉っぱは小さいが厚い。スベリヒユだ。確か、食べられる野草のはずだから、これを採っておこう。不思議なことに、自分に関する記憶は思い出せないが、こういう知識は簡単に出てくる。

 少し離れたところにはハマボウフウも生えていた。これも採っておく。スベリヒユは世界中どこにでも見られる野草だ。しかし、ハマボウフウは日本やその近辺にしか生えないはずだ。ハマボウフウがあることからすると、この辺りの植生は明らかに日本かその近辺のものだ。


 2、3キロ程も歩いたか。ようやく、砂浜が切れているところが見えてきた。そこは大きな川の河口だった。やはり、この川にも全く人の手が入っている様子が無かった。川の対岸にも建物などは一切見えない。

 ここまでの道すがら、浜辺に打ち上げられた流木や海藻などの漂着物を見てきた。漂着物自体はかなり多かった。しかし、その中に人の手が加わっていると思われる物はまったく見られなかった。

 おかしい。今どき、どんな辺鄙な海岸でも、人工のゴミが打ち上げられていない浜なんて無いはずだ。プラスチックのゴミが全く無い砂浜なんて、頻繁に清掃されているリゾートビーチでもありえないだろう。ましてや、この浜には人の手が入っている様子は無いのだ。


 だいぶ、喉が渇いてきた。何を置いても、飲み水は確保しなければならない。しかし、眼の前の川の水は緑がかった茶色に濁っている。この水を飲む気は起きない。ひとまず、この川に沿って上流の方に向かい、支流を探す。もし、支流が見つからなければ、この濁った川の水を飲まざるを得ない。その時はその時だ。

 川沿いの草が疎らなところを選んで、手に持った棒で草を打ち払いながら歩くと、意外なほどすぐに小川に出会った。小川の水は透き通っている。しかし、底が泥で、ところどころ、油膜の様なものが浮かんでいる。この油膜状のものは多分鉄バクテリアの繁殖によるものだろう。つまり、この水には細菌や寄生虫などが多く存在している証拠だ。この小川のもう少し上流に行って、沢があるかどうか確認しよう。沢水のほうがここの水より安全なはずだ。

 もちろん、沢水も生水に変わりはない。だから、沢水が100パーセント安全なわけじゃない。山の斜面の動物の糞尿や死骸から、細菌などが入り込んでいる可能性もある。だが、この小川の水温は比較的高いが、沢水はより水温が低い。細菌の繁殖も抑えられているはずだ。もう少し我慢しょう。渇きが我慢できなくなったら、いつでもこの小川の水が飲める。常に真水が側にある安心感が不思議と喉の渇きを軽くした。


 小川の上流を目指して東に向かって歩く。その先は、最初に砂丘から見えた山とその奥の山に挟まれた小さな扇状地になっている。

 向かって右側の山、つまり、海側の山の端は、傾斜がなだらかな丘になっている。その斜面には木は少なく、大半が丈の高い草で覆われている。風が吹くと丈の高い草の葉が裏返り、白く光っている。

 向かって左側の山端も、傾斜が緩やかだ。こちらは竹が繁茂している。

 草をかき分けながら、小川に沿ってゆるい傾斜を登る。扇状地の扇の要の位置にたどり着いた。辿ってきた小川は沢になっていた。沢の底は泥ではなく小石になっている。水は綺麗で冷たい。この沢水でようやく喉を潤した。

 これから休む場所を探さねばならない。しかし、夜に沢の側に留まることは危険だ。動物が水を飲みに来るかもしれない。あるいは、寝ている間に雨が降るかもしれない。逗留する場所は雨を避けられる高台が良い。

 沢から、海側の山を登る。頂上付近の少し開けた場所に出た。この開けた場所の中心には大木が倒れていた。雷に撃たれたのか、太い幹の部分が裂けた状態で立ったまま残っていた。倒れたのは比較的最近のようで、丈の高い草や灌木などはまだ生えていない。背の低い草が一面に生い茂っている。この開けた場所の海側の縁は丸くなった岩の崖になっていた。その崖からこれまで歩いてきた海岸線が一望できた。沢が近くにあり、背の高い草木もあまり生い茂っていない場所がある。取り敢えずここを拠点にしよう。


 まずは火を起こさないといけない。乾燥した枯れ草と薪になる木の枝を集める。幸いにも、倒れた大木の枝は乾燥していて簡単に折り取ることができた。また、大木の陰になったところから枯れ草も取ることができた。枯れ草を細かく解して火がつきやすくした。細い枝を選び、余計な小枝を除き、一本の真っ直ぐな棒にした。胡座をかき、両足で乾燥した別の枝を固定し、棒の先端をあてがい、棒を両手で挟んで素早く回転させた。乳房が激しく揺れた。歩いているときもかなり揺れたのだが、それとは比べものにならない。力を込めて棒を素早く扱く度に、乳房が何度も腕に激しくあたってしまう。乳房の揺れのせいか、なかなかうまく棒を回転させることができない。

 下の枯枝から白い煙が出るまでかなりの時間がかかった。煙が出ている部分に細かく裂いた枯れ草を載せ、手で囲って、口から息を何回か吹き込むと炎が上がった。この炎に枯れ草と小枝を重ねてようやく安定した焚き火を得る事ができた。

 石をいくつか拾ってきて、火の側にハマグリを載せる台を作った。

 腹が減ったので、ハマグリを台に載せ焼いて食べた。砂出しなど出来なかったので、多少砂が入っているのはしょうがない。海水の塩味と貝の出汁の自然な旨味で美味しかった。

 ハマグリの合間に、道すがら見つけて採ったハマボウフウやスベリヒユを沢の水で洗って生のまま食べた。ハマボウフウはちょっと苦く、スベリヒユは酸味がある。ぢちらも、かなり青臭い。しかし、食えないことはない。

 自分自身に関する記憶はないが、何故か、食べられるもの食べられないものに関する知識はある。これが不思議だ。

 採ってきた10個のハマグリの内5個を食べた。残りの5個は、明日の朝食にするため、一旦焼いた後、虫などが入らないように石を重ねて殻を閉じておいた。

 日が落ちてきた。見知らぬ土地を暗くなってから歩くことは危険だ。今日はここで寝ることにしよう。

 野生動物を近づけないためには火を消さないようにした方が良いのだが、集めてきた薪は朝まで保つだろうか。

 日が落ちる前に、縁の崖の岩に、石を使い、日没の方向に線を引いた。うまくいけば、季節やこの場所を解明する手がかりに使えるかもしれない。

 日が落ちた。辺りは暗くなった。崖から周辺を見渡しても、灯りと思しきものはなにもない。ただ、月明かりだけが辺りを照らしている。

 そして分かった。

 ここがどこか


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 いや、正確には、ここがどこで無いかを理解した。

 明るい月が出ている。その月は地球の月ではなかった。大きさは地球の月とほぼ同じ位だが、月面の模様が全く違っている。

 空には満天の星が満ちている。しかし、見覚えのある星座がまったくない。

 ここは地球ではない。

 自分は異星人に拐われてきたのか?

 しかし、空に見慣れた星や星座が全く無いことからすると、ここは地球からかなり離れているはずだ。10光年や100光年単位では測れないほどの距離だろう。異星人は光速を超えて移動できるのか?

 それに、ここは地球ではないのに、周りにあるのは地球の植物だ。それも、明らかに日本かその周辺の地域の植生だ。

 地球ではない惑星に地球の現代の環境を再現させるためには、惑星改造、いわゆる、テラフォーミングを行う必要がある。そのためには、少なくとも、数万年から数十万年単位の時間が必要だ。

 光速を軽々と超えて、数十万年単位の時間をものともしない異星人がいるとしたら、それは人間から見て遥かに高位の存在だ。神と呼んでもいいかもしれない。

 いや、神ということなら、フェッセンデンの宇宙という可能性もある。フェッセンデンの宇宙は、エドモンド・ハミルトンのSF小説で描かれた、マッドサイエンティストが自分の研究室内に宇宙を創ってしまうというお話だ。この小説が発表された1930年代であれば、荒唐無稽で壮大なホラ話で済んだはずだろう。しかし、今は違う。

 コンピュータを使って仮想空間内に宇宙をシミュレートすることは論理的に可能だ。つまり、コンピュータ内に宇宙を創れるのだ。もちろん、この宇宙がコンピュータによって生成されているとしたら、そのコンピュータは膨大な計算量を瞬時に処理する能力を持っていなければならない。今のスーパーコンピュータや量子コンピュータを遥かに超える能力が要求されるだろう。

 いや、宇宙全体ではなく、一つの惑星全体でもなく、自分が知覚してるものだけをコンピュータが生成してるとすればどうだろうか?つまり、空に見える月や星はもちろん、自分の周りの海、土、草などが「自分専用の夢」として用意されたものだとすれば、コンピュータの計算量はそれほど大きくないだろう。今のスーパーコンピュータや量子コンピュータなどでも計算可能かもしれない。

 光速や時間をものともせずに宇宙を飛び回る異星人よりは、コンピュータを使って仮想空間内でシミュレートされた「夢」の中にいると考える方が、今の自分にとっては、技術的に妥当なように思える。

 そういえば、「今」って何時のことだ?自分は何時のことを「今」と言っているのだ?

 自分はエドモンド・ハミルトンのことを知っていて、スーパーコンピュータや量子コンピュータのことも知っている。量子コンピュータという言葉は21世紀になってから生まれたはずだ。

 自分にとっては、遅くとも21世紀初期までは「過去」のようだ。

 ともあれ、かなり可能性は低いが 、超光速で宇宙を跋扈する異星人によって拐われた場合でも、コンピュータでシミュレートされた「夢」の中にいる場合でも、「今」の自分より技術的に進んでいる存在が関わってることは明らかだ。どちらの場合でも、その存在が、元の自分、多分、高い年齢の男性の記憶または意識を、両性具有のかなり若い肉体に移植して、地球ではないが地球と同じ生態系を持つ惑星に配置したという構図自体は変わらない。

 何のために?何が目的なのか?

 ふと、粘菌コンピュータの実験の話が頭に浮かんだ。その実験では、粘菌が生体コンピュータとして働くことを示すため、関東地方を模した培地を作り、関東の主要都市に相当する位置に餌を置いた。その培地で粘菌を繁殖させ、粘菌が都市間の交通網の最適解に近いネットワークを形成することを示したのだ。

 この粘菌の立場から見れば、それまで住んでいた「惑星」からまったく異なる「惑星」に置かれたようなものに違いない。実験の対象である粘菌の時間感覚と、実験を行う人間の時間感覚もまったく異なるに違いない。

 自分は技術的に高位の存在から見ればこの粘菌と同じようなものではないか。そうすると、自分は砂浜に置かれていたので、さしづめ、「浜辺の粘菌」といったところだろうか。

 こんなことを考えているうちに意識が途切れた。


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