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HSP限定アパートの日常

作者: 昼月キオリ

本編 HSP限定アパートの日常




水野

31歳女性。

週6日勤務の正社員から週3日のフリーターへシフトチェンジ!


桜田

24歳男性。

高校卒業後、4年間正社員として働いていたが22歳から引きこもりになり生活保護を受けて生活している。

 

紺君

座敷わらしになりたい子どものキツネ。


水たまりさん

水たまりの妖怪。年齢不詳。





生活費を減らす為、今より安いアパートを探すことにした水野は一番安いアパートを探した。

 

ワンルーム、家賃23000円、管理費込み、初期費用なし。

エアコン完備、バストイレ付き、バルコニー付き、

室内洗濯機なし、キッチンあり。

コインランドリー無料。


 

割と良いわね。

安いけど正直、事故物件だったとしても構わない。

ここなら職場から通える。

何より、HSP限定アパートという名前が気になる。

一体どんなアパートなんだろう?

入居するには詳しくルールがあるらしい。


今度は騒音とかキツイ匂いの隣人とかいないといいな・・・。

散々悩まされてきた人。



ルール

・音をなるべく立てない

・タバコ、酒、香水、匂いが強い柔軟剤禁止

・派手な服装は禁止

・強制ゆっくりデーの導入

・働くのは週に三日まで

・自然に行く時間を作ること



上半分は分かるけど、強制ゆっくりデーって何?

働くのは週三日までって・・・ヤバくない?

生活できないよ!

でも、とりあえず内見だけでもしておこう。(興味津々)

こんな面白い物件、もう出会えないかもしれないものね!



案内は大家さんに任されており、不動産屋の人は車で待機している。

アパートに着くと大家さんが来た。

が。


水野「!?」


そこに現れたのは水たまりを具現化したような透き通った水色の生き物。

くりくりとした目とにまにました口が付いている。


しかも、隣にいるのはおかっぱ頭の座敷わらしの格好した子どもが立っている。


何これ何かのドッキリ??


紺「お姉ちゃん、新しいアパートの住人?」

水野「え?う、うん、そうだよ」

紺「僕もここに住んでるんだぁ、紺って言うんだ、よろしくね」

にぱっと笑顔を向けられ思わずドキッとする。


か、可愛い!!

女の子かと思ったけど僕って言ってるし声もよく聞けば男の子だ。


水野「私は水野って言うの、紺君よろしくね」


紺「うん!あ、それでね、この隣にいるのが大家さんなの!」


水野「え?」


 

大家さん・・・?この水たまりみたいなのが?

嘘でしょ・・・ぬいぐるみ、ロボット、な訳ないか。

動くと体の中身(?)の水の部分がゆらゆら動いてるし

ちゃぽちゃぽ音もしている。

目もちゃんと瞬きしてるし口も動きがある。

体は透き通っていて向こう側が見える。

現代の技術では作りえない生き物だ。



紺「水たまりさんは喋れないんだ、だから僕が案内人するね!」


え、喋れないの?大家なのに?しかも子どもが案内するって??

現段階だけで頭の中があまりの情報量でパンクしそうだ。


紺「まず、ルールから説明するね!」


水野「う、うん」


ルールは最初に聞いていたものと同じだった。

ひとつだけ補足があり、週に1日は畑仕事を手伝って欲しいとのことだった。


水野「あ、あのね、畑仕事は良いんだけど

私、週6日で働いてるから週休4日は無理なんだけど、やっぱりそうなるとここには入れないかな?」

 

紺「週6日?・・・」

水たまりさんと紺君がポカンとした表情でこちらを見ている。


桜田「え、そんなおかしなこと言ったかな?」


紺「おかしいよ、だって週6って半分以上だよ?」


桜田「うーん、でも、大人の世界では週に5日とか6日って普通だから・・・」


紺「でも、お姉ちゃん顔色悪いよ、夜寝れてないんじゃない?」


水野「そんな顔色悪かったかな?誰も気付かなかったのに・・・うん、そうなの、寝る前に悩んでたら眠れなくなっちゃったんだよね」


紺「今すぐ仕事辞めて!」

水たまりさんも紺君の言葉にうんうんと高速で頷いている。

たぷたぷ揺れてる・・・。


二人がうるうるとした目でこちらを見てくる。


水野「そんなこと言われても・・・」


水たまりさんが紺にアイコンタクト(?)をする。


紺「ここにいたらちゃんと眠れるようになるから!」


紺君に関しては涙まで出てしまっている。


ひえぇ、泣かせた!

何で!?何で二人がそんな悲しい顔をするの!?

悲しくさせてるのもしかしなくても私なの!?


二人のうるうる光線は続き・・・。


水野「わ、分かったわ、仕事辞めてアパートここにするから・・・お願いだから紺君泣かないで」


子どもを泣かせるなんて例えどんな理由でもダメなのよ!

水野は両手で頬を押さえていやいやと首を横に振る。


その瞬間、二人の顔がぱああっと明るくなり、ハイタッチを始めた。

水たまりさんは手か何なのか分からないけど。


水野「あの、それで強制ゆっくりデーっていうのは?」


紺「これは何にもしないで自然の中でボーっとする日を作ろうって意味だよ」


水野「まさか一日中・・・?」


紺「まさかぁ、15分でも1時間でも好きなだけでいいんだよ」


水野「なるほど」


 

って!何なるほどって納得してるの!

私ってばもうすっかりこの二人(?)のペースにハマってしまっている!

でも、よくよく考えたら家賃安いし初期費用もかからないし

普段散財しなくて貯金もしてたからからとりあえずは何とかなりそうね。

さっそく週に3日で働けるバイトを探そう。

税金関係は収入が低ければ自動的に下がるし

いくらか免除してくれる。



畑仕事手伝ったらお米と野菜は食べ放題だから食費もかなり浮く。

元々、少食だから食費がほとんどかからない。

交通費だって通う日数が少なければ当然半分になる。

  


しかも自然豊かで静かで。

畑からは少し離れているのでカエルの鳴き声は遠くから聞こえる程度。

聞こえてくるのは虫の声と鳥の声だけ。


めちゃくちゃ快適なんですけど!?




入居して1か月後。

すっかりよく眠れるようになった水野は嘘みたいに肌艶が良くなっていた。


水野「ねぇ紺君、そういえばこのアパートって他に入居者はいるの?見かけないけど電気は付いてるの見たのよね」

紺「ん?このアパートは水たまりさんと僕とあの人、桜田のお兄ちゃんだけだよ」


紺君が指差す方を見る。

前髪で顔が隠れた男性がぬぼ〜っと部屋から出て来た。

一ヶ月も住んでて初めて見た。


桜田「どうも」


それだけ言うとその人はどこかへ出かけていった。

桜田っていうんだ。

あの人もなんか妖怪っぽいな。



紺「ねーねーお姉ちゃん」


紺君が服の裾をくいくいっと引っ張ってきた。

こういうふとした仕草が可愛い過ぎる。


水野「うん?なーに?」

紺「今日のお昼ご飯はもう食べた?」

水野「ううん、まだだよ」

紺「あのね、今日は僕も一緒に食べてもいい?」

水野「うん、いいよ」

紺「わぁい!ありがとー!」


天使かかよ!!


水野「あ、でも、食材買いに行かないとだ、紺君は何が食べたい?」

紺「んー、僕はよく分かんないや、お姉ちゃんは今日何食べたい?僕、同じものがいいな」


あーもう可愛いな!!今すぐ頭撫でたい欲求が・・・

ダメダメ我慢よ!!


水野「んー、今日はキツネうどん食べたいかな」

 

紺「え!?」

キツネうどん、と聞いた瞬間、紺君が怯えながら水たまりさんの後ろにさっと隠れた。

水たまりさんは半透明なので紺君の姿は透けて見えているのだが。


水野「え、キツネうどんがどうかしたの?」


めちゃくちゃ怯えてる。

私なんかまずいこと言ったかな?

 

紺「だ、だってキツネうどんってキツネでしょ!?

僕食べられちゃう!!」

水野「何言ってるの、紺君を食べるわけないじゃないの・・・って、わ!?」

 

水たまりさんが何かに気付いたらしくポヨンポヨンと慌てながら跳ねている。

紺「水たまりさん、なーに・・・あ!!」


紺君のお尻から尻尾が出てる!!

ってことは・・・。




紺「僕、本当はキツネなんだ、幸せを呼ぶ座敷わらしじゃなくてガッカリした?・・・」

 

紺君の両耳と尻尾がしゅんっと下に下がってしまっている。


水野「ううん、ガッカリなんてしてないよ」

紺「そっかぁ、良かった!!幸せを呼ぶ座敷わらしがいたら入居者がいるかもって思ってたんだけど、

僕がキツネだって分かるとガッカリされたり、入居辞めちゃう人もいたからさ」


水野はしゃがむと紺の頭を撫でた。

とても心地良さそうにしている。

良かった、つい撫でてしまったけど嫌がってはないみたい。


水野「紺君はいい子だね」

紺「ほんと?僕っていい子?」

水野「うん」

紺「じゃあ、また頭撫で撫でしてね!」

水野「キュンッ、うん、もちろんだよ」

紺「わぁい!!」


何この生き物尊過ぎるんですけど!?しんど!!





スーパーに買い出しに行って来た後、共同キッチンでキツネうどんを作る。

私一人なら冷凍もので済ませてしまうけど

せっかくなのでお出汁を作ってみようとレシピを見ながら作ってみることにした。

上手くできるといいな。


紺「わぁ、お出汁の良い匂い〜!!」


机から乗り出してこちらを見ている紺君を見るとなんとも微笑ましい気持ちになって思わず頬が緩む。


その時、扉に隠れてこちらを覗く人影が見えた。


水野「あれ?あの人さっきの人」

紺「あ!お兄ちゃん!」

紺君に声を掛けられ、ハッとしている。


紺「あのね、この人は水野さんっていうんだよ!」

 

桜田君にチラッと見られて思わず会釈をすると桜田君も遠慮がちに返してくれた。


紺「桜田君も匂いに釣られて来たの?」

桜田「ごめんなさい、美味しそうな匂いがしたからつい・・・」

 

壁から覗いていたのがバレて赤面している。

 

水野「あの、良ければ一緒に食べませんか?」


桜田が無言でこくこくと頷く。


なんか、桜田君まで可愛く見えてきてしまった私は

もうこのアパートにすっかり馴染んできてしまったなと思った。



 

共同キッチンにあるテーブルに皆んなが座った。

部屋にも小さなキッチンがあり、普段は一人分だけ作ったり作り置きしたりしてるけど

今日は皆んながいるので共同キッチンを使わせてもらっている。


私、紺君、桜田君、水たまりさん。


凄い絵面だ・・・。



ホカホカの湯気に包まれながら4人(?)は手(?)を合わせた。

水野「頂きますー!」

桜田「頂きます」

紺「いただきまーす!んー!美味しー!」

水たまり「(にまにま)」


水たまりさんはどうやって食べるんだろう・・・と見ていたら案外食べ方は普通だった。

うにょんとした右手らしきもので器用に箸を掴み、またもう片方のうにょんとした左手らしきもので器を支えている。


ヤバい、水たまりさんも何か知らんが可愛いく思えてきた。

そう、最近気付いたことがある。

水たまりさんを見てると癒されるということに!

(ドーン!!)



 


食べ終わると4人はまた手を合わせた。


水野「ごちそうさまでしたー!」

桜田「ごちそうさま」

紺「ごちそーさま!!」

水たまり「(にまにま)」



桜田君は立ち上がると洗い物をし始めた。


その時、水たまりさんが紺君にアイコンタクトをする。

紺「水たまりさんなーに?うんうん、分かった!

ごめんね二人とも、僕今から水たまりさんのお手伝いがあるから洗い物任せてもいいかな?」

水野「分かったわ」

桜田は黙って頷いた。




二人で洗い物を黙々とする。

ちょっと気まづいな・・・なんてことを考えていたら桜田さんが話しかけてきた。


桜田「あの」

水野「何でしょうか?」

桜田「キツネうどん、ありがとうございました」

 

あ、この人、ちゃんとお礼言ってくれる人なんだ。


水野「いえいえ、お口に合いました?」

桜田「はい、とても美味しかったです、いつもご飯と野菜を洗ったものを齧るだけなので」

水野「え、ご飯と野菜だけですか・・・?肉とか魚は」

 

桜田がふるふると首を横に振る。


マジか。


水野「それだと栄養が足りないですよ、ちゃんとお肉や野菜も食べないと・・・あ、すみません、人の食事に口を出してしまって」

桜田「いえ、あの、タメ口でいいですよ、俺、歳下なので気にせず」

水野「あ、ほんと?じゃあそうさせてもらうね」

 






数日が経ち、水野はまた共同キッチンでご飯を作っていた。

そして匂いに釣られた桜田がまた顔を出してきたので声を掛けた。


お金は皆んなが少しずつ出してくれた。



食事をしていると桜田君はポツリポツリと自分の話をしてくれた。

桜田君は現在、生活保護を受けて生活しているそうだ。

水たまりさんの畑のお手伝いは週に三日ほどしている。

ゲームが好きで部屋に引きこもってずっとやっているらしい。



紺「お兄ちゃんが野菜以外を食べてるってなんだか新鮮だね」

桜田「うん、温かいご飯美味しくて」

水野「ご飯って基本温かい気がするけど、そっか、お米はともかく野菜ってそのまま食べたら冷たいものね」


桜田「俺、家にいた時から温かいご飯をあまり食べたことなくて冷たいご飯ばかりだったんです」

水野「え・・・?」

紺「それ酷いね」

 

桜田「両親は仕事で忙しかったのでお金渡されてコンビニ弁当とかパンを食べてました、

両親は俺が普通じゃないと分かると愛想を尽かして距離を置くようになりました、

俺がいると家の空気が悪くなる、それで一人暮らしを始めたんです、両親は俺がいない方が良かったんです、

はっ、すみません、俺のこんなくだらない話を長々と!」

 

水野「くだらなくなんかないよ」

紺「そうだよー」

水たまりさんも静かに頷いている。



桜田「家族にも見放されて国に頼って、引きこもりになって俺ってダメな奴ですよね」

水野「桜田君、桜田君」

 

水野が桜田に向かってにま〜っとした顔を向ける。


桜田「??」

桜田が首を傾げる。

 

水野「水たまりさんの真似」


桜田「ふっ、何ですかそれ」


あ、笑ってくれた。


水野「ふふ」

桜田「なんだかその顔見てたら力抜けました」


水野「桜田君、ゆっくりいこうよ」

桜田「ゆっくり、ですか?」


水野「うん、今はいっぱい休む期間ってことで、

桜田君は何にも悪いことしてないんだから」

桜田「水野さんは俺を否定しないんですね」


水野「だって否定する理由がないもの、

だからね、自分を責めないで自分のこと大事にしていこうよ」

桜田「大事に、ですか・・・」


その言葉を聞いた桜田の表情が和らぐ。


桜田「今日の生姜焼きも美味しかったです」


そう言って桜田君は立ち上がり部屋に戻っていった。


美味しいって言われると素直に嬉しいな。


 


紺「桜田君の家って複雑なんだなぁ・・・」

水野「そうね、詳しくは分からないけどきっと冷めてたんだろうね、態度もご飯も・・・」

紺「あのね、お姉ちゃんの負担にならない分だけでいいんだ、これからもお兄ちゃんにご飯作ってあげてくれないかな?」

水野「分かったわ」

紺「それでそれで、僕と水たまりさんの分もいい?」

水野「うん」

紺「ってすでに何度か作らせちゃってるんだけどね」


紺君がてへへと頭を掻く。


水野「ううん、私も週に数回作って後は作り置きだから

負担にはなってないよ、

それに、紺君たちと一緒に食べた方が美味しいし」

紺「ありがとー!お姉ちゃん優しいね!」

水野「そんなことないよ〜」




このアパートには不思議なことがいっぱいある。

水たまりの大家さん、座敷わらしの格好をしたキツネの紺君、ゲームが好きな引きこもりの桜田君、

そして、週6日勤務の正社員から週3日のフリーターへシフトチェンジした私。


 

そんなしっちゃかめっちゃかな人達による

しっちゃかめっちゃかな日常がスタートしたのだった。

 






本編 アパートの案内


HSP限定アパート。いや、妖怪アパートと言うべきか。


アパートの外観は赤い屋根にベージュ色の壁。

二階建てで部屋は六つある。


一階の左から桜田君、紺君、水たまりさん。

二階の一番左の部屋が私の部屋で、ちょうど真下が桜田君になる。

後の二部屋は空き部屋らしい。


部屋はワンルームでフローリング。

小さなキッチンが付いている。一人ならば充分なサイズだと思う。


バストイレはセット。

洗濯物を干せるバルコニーが付いている。

南向きなので日当たりが良くて洗濯物がよく乾くので助かる。

太陽が当たることで精神的にも晴れやかな一日をスタートできる。


 

共同キッチンは水色のタイルが貼られている。

置いてある鍋やフライパン、おたまやフライパン返しは赤やオレンジ色の花柄。

レトロで可愛いらしいキッチン。

お皿やスープ皿やカトラリー類はシンプルな木製のもので温もりある空間となっている。

パンとシチューが合いそうなキッチンだと思う。



少し離れた場所に水たまりさんの田んぼや野菜を育てる場所があるのだけど

水たまりさんと紺君は基本毎日、私は週に一日、桜田君は週に三日手伝いに行っている。

 


けれど、ほとんど水たまりさんがうにょんとした両手を伸ばし、高速で作業をする為、他の皆んなは補助をする係だ。

顔は依然としてにまにましているので側から見たらかなりシュールな光景だ。



けれど、よく見ると水たまりさんの目がキリッとしてるらしい。

私も見てみたい!!


簡単に説明するとまぁこんな感じ。







番外編 ゲームの世界に飛び込んで!?


HSP限定アパートの住人達は

紺の術によってゲームの世界に入り込んだ。


"勇者が風邪で寝込んでしまったので代わりに旅に宝を見つけて欲しい"



入り込んだ世界はヨーロッパの建物が並ぶ綺麗な街だった。

宮殿、雲の上に要塞、ドラゴンが空飛んでる!

 

水野「わぁ、本当にゲームの世界だ、すご・・・」


紺君は知らない世界に来て心細いのか座敷わらしの姿のまま私の手をずっと握っている。ああ可愛い。

 

水たまりさんはいつもと変わらずにまにましている。


桜田君は・・・。


 

桜田「これがゲームの世界!まだ行けてない場所にも行けるチャンスが!」



目がキラキラしててめちゃくちゃ嬉しそうだぁ・・・。 

そりゃそうか、大好きなゲームの中に入れたんだもんね。

私だって好きなアニメや漫画の世界に入れたらめちゃくちゃ嬉しいもん。



桜田「はっ、ご、ごめんなさい、俺、一人ではしゃいでしまって・・・」

水野「いいんだよー、ゲームの世界に来れて良かったねぇ」

桜田「水野さんって保護者みたいですね」

水野「そう??」

 


だってアパートでも・・・。

"プリンあるよ、桜田君も食べるー?"

"ゲーム勝ったの?凄いじゃない"

 


紺君と俺に対する態度があまり変わらないとゆーか・・・はっ、てことは水野さんにとって俺と紺君は同じ扱い?いや、別にいいんだけどね!?


 

水野「桜田君どうかした?大丈夫?」

桜田「いえ、問題ありません、行きましょう」

水野「うん、そうだね、えーと最初は・・・」


桜田「やはり最初は武装じゃないでしょうか」

桜田の目がキランと光る。


水野「そっか、じゃあまずは武器屋さんを探して・・・」

桜田「武器屋はあそこです」


さすが桜田君だ・・・。



武器屋「装備類はこれとこれと、ああ、勇者になる人はこれを付けるんだよ、誰が付けるんだい?」

武器屋が頭に付けるリングみたいなものとマントと剣を

出した。


サイズ的に紺君と水たまりさんは無理そうだ。


水野「あ、じゃあ彼にお願いします」

桜田「え、いいんですか!?」


水野「うん、一番やりたそうだったから」

嬉しそうだなぁ。


桜田「俺、そんな分かりやすかったですか・・・」

水野「うん」

 

紺「お兄ちゃん似合うよ!!」

水野「THE勇者って感じだね」

水たまりさんもうんうんと頷いている。


桜田「ありがとう」



水野「皆んな着替えたわね・・・って!私の服、ミニスカートじゃない!

武器屋さん、長い丈のものないかしら?この歳でミニスカートは恥ずかしいわ・・・」

 

武器屋「すまないねぇ、うちには動きやすさ重視のものが多くて長い丈のものはないんだよ、だけど、とても可愛らしくて似合っているよ」

水野「あ、ありがとうございます・・・」


ないなら仕方ないよね。

恥ずかしいけど、正直動きやすいし短いので行くしかないか。


紺「お姉ちゃんすっごく可愛いよ!こんなに似合ってるのに長いの履いたらもったいないよ!」

水たまりさんも紺君と一瞬にポヨンポヨン跳ねている。


水野「ありがと紺君、水たまりさん・・・」

桜田「(ポカン)」

水野「あの、桜田君、変じゃないかな?・・・」

桜田「はっ、す、すみません、つい見惚れ・・・いえ、とてもよく似合ってますよ」

水野「本当?ありがとう!」


皆んながこのゲームの世界のこと知らなくて良かった。

だって俺が好きなキャラクター、水野さんにそっくりなんだもん・・・装備すると瓜二つだ。


水野「紺君と水たまりさんもとってもよく似合ってるわ、カッコいいよ」

紺君「ほんとー!?わぁい!!」

紺君と水たまりさんがぴょんぴょん跳ねる。

水野「ふふ」


か、可愛い・・・はっ、いかんいかん!宝を探しに行かないといけないんだった!




街を歩いているとさっそく絡まれた。

大柄の二足歩行の獣だ。

 

「ふん、弱っちそうな奴らだな、まぁいい、持ち物全部奪っていこう」


獣が紺君と水たまりさんに掴みかかろうとする。


桜田「ちょっと!やめて下さい!」

「あん?何だお前、勇者の格好なんかしやがって」

獣が桜田の胸ぐらを掴んで引き寄せる。


桜田「うわっ!?」

紺「お兄ちゃん!!辞めろー!」

紺君と水たまりさんが獣に対抗しようとした。

が!それより先に水野が動いた。


水野「せやっ!!」

「ふぎゃ!!」

獣は水野の背負い投げされ、地面に倒れ込んだ。


水野「こんな小さい子たちを虐めるんじゃないわよ」

カンカンカーン!!


桜田「(ポカン)」

水野「桜田君、大丈夫?」

桜田「あ、はい、ありがとうございます・・・」

紺「お姉ちゃんつよ〜い!!」

水たまりさんはポヨンポヨンと跳ねて喜んでいる。


水野「そ、そうかな?」


倒れていた獣が立ち上がる。


桜田「水野さん危ない!」

水野「!」


ゴゴゴッと獣がオーラを放ち・・・。

「あねさん、良い背負い投げだったぜ、格闘技か何かをやってらしたんで?」

桜田「え、ええ、昔柔道をやっていたの」

「こんな華奢な身体で柔道を!見事な一本背負いだった、あねさん、どうか俺をあんたの弟子にしてくれ」


「「!?」」


水野「え、いや、弟子って・・・」

「頼むあねさん!!俺は用心棒でも何でもする、だからこの通りだ!」

そう言って獣が頭を下げる。


水野「そうねぇ・・仲間だったらいいわよ」

「本当ですか!!」

水野「ただし、二度とこの子達に手は出さないでね」

「もちろんです!!」


紺「うそ、さっそく仲間できちゃった・・・」


桜田は勇者のグッズを体から外すとスタスタと水野の元へ行き、スッと水野に付けた。


水野「あの、桜田君?」

桜田「勇者は水野さんがいいです」

 

キラキラした目で見つめれ、思わずタジタジになる。

 

水野「え、でも桜田君、勇者やりたかったんでしょう?」


桜田「いいえ、これは勇敢なあなたにこそ相応しいです」

紺「わぁ、お姉ちゃんカッコいい〜!!」

水たまりさんは高速でうんうんと頷いている。

「あねさん、とってもよくお似合いですよ」



水野「・・・行くわよ皆の衆!!」

(実はこの世界を一番楽しんでいたのは水野だった)


水野が剣を空に向けると皆んながパチパチと拍手をする。

こうして勇者水野とそのお供たちの旅が始まったのである。






番外編 桜田君のバイト


HSP限定アパートの住人達がゲームの世界で旅をしていた時のことだった。


少年が泣きながら壊れたオルゴールを持って歩いていた。

そんな時、桜田君が工具を借りて直してくれた。


少年「わぁ!!お兄ちゃんありがとう!!」

桜田「直って良かったね」

紺「お兄ちゃんすごーい!!」

水野「桜田君、手先器用なのね」

桜田「機械系は得意なので」

その時の桜田君の表情はなんだか柔らかくて嬉しそうだった。




ゲームの世界で思わぬ特技を見つけた桜田君はその能力を活かしたいと現実世界に戻ると修理屋のバイトをすることになった。

週に二日のバイトだった。

収入ができた為、全額だった生活保護から足りない分を生活保護費でもらう形に変えた。


そしてそのお給料で花屋に行き、買ってきた花をキッチンに飾ってくれた。


水野「ありがとう桜田君、とっても綺麗ね」

紺「うんうん!お花っていいね」

桜田「喜んでもらえて良かったです」


紺「でも、どうしてまた花を?」

桜田「自分が稼いだお金で花を買いたかったから・・・

皆んなが喜ぶかなって思って」

水野「ありがとう」

紺「お兄ちゃんありがとう!!」

水たまりさん「(にまにま)」


桜田「言ってもまだ月に数万だし俺なんてまだまだです」

水野「そんなことないよ!桜田君はしっかり成長してるよ!」

紺「うんうん、お兄ちゃん頑張ったね!」

水たまりさんも嬉しそうにうにょんとした両手を揺らしている。


桜田「あ、ありがとう・・・」



その時、紺君が椅子で足をパタパタさせながら呟いた。


紺「いいなぁ、僕も皆んなを幸せにしたいなぁ・・・本当の座敷わらしじゃないけどさ」

水野「紺君、確かに紺君は座敷わらしじゃないけど、

でも私、紺君と出会ってから幸せなこといっぱいだよ!

だから紺君はちゃーんと幸せを運んできてくれてるよ」

紺「え、ほ、本当に・・・?」

 

水野はコクンと頷く。


紺「お姉ちゃあん!!」

 

紺は椅子から降りるととてとて歩いていき、水野に抱き付いた。

感極まって泣いている。

 

水野「よーしよしよし」

水野が紺の頭を優しく撫で撫でする。


桜田と水たまりはそんな二人を微笑ましい気持ちで見守るのだった。









番外編 産まれてくるのは俺じゃない方が良かった


最近、桜田君の顔を見ていない。

大丈夫だろうか。

夜中にコンビニに行っているみたいだから何かしら口にしてはいると思うけど心配だな。

 

だって彼はある日突然、海に身を投げてしまいそうな首を吊ってしまいそうな儚さがある子だ。


紺君や水たまりさんも心配しているけど声を掛けるのをためらっているようだ。

私もそうだ。でも、ずっとこのままなのは寂しい。



私は夜中に彼が部屋から出るのを確認して声を掛けた。

水野「桜田君、私もついて行っていい?」

桜田「え、水野さん?何で・・・」

水野「どうしても甘いもの食べたくなっちゃって、迷惑なら私行ってくるけど何がいい?」

桜田「ダメですよ、こんな時間に女性一人で出歩くなんて」


 

二人並んで歩く。



水野「最近調子どう?」

桜田「いえ・・・すみません、本当は俺を心配してついて来てくれたんですよね?」

水野「うん、まあね」


少しの間を置いて桜田君が話し始めた。


桜田「産まれてくるのは俺じゃない方が良かったんです、家族だってそう言ってた、お前じゃなくて普通の息子が欲しかったって、

その言葉を思い出したらネガティヴ思考が止まらなくなって、

そしたら皆んなに会うのが辛くなってしまったんです」


水野「そっか・・・それは辛いよね・・・でも、話してくれてありがとう」

桜田「どうして水野さんがお礼を言うんですか」

水野「だって、桜田君が何も言ってくれなかったら苦しんでることを知らないままでいた、それは私も苦しいよ」

桜田「こんな暗い話してるのに否定しないんですね」


水野「桜田君、さっき産まれてくるのは俺じゃない方が良かったって言ってたよね、

でもね、両親や桜田君がそう思っていても

私は産まれてきたのが桜田君で良かったよ」

桜田「え?・・・」

水野「だって、桜田君も紺君も水たまりさんもこのアパートも私の幸せの一部だもの」

桜田「俺も・・・?」

水野「うん」


桜田「そう、ですか・・・」

水野「ごめん、こういうの嫌だった?」

桜田「いいえ、嬉しいです・・・あの」

水野「うん?」

桜田「一緒にアイス食べませんか?」

水野「あ、いいね、食べよう食べよう」



コンビニで同じアイスを買って二人で食べた。


水野「ん〜!ジャイアントコーン美味しい!夜中のアイスって罪な味してる!」

桜田「本当ですね・・・あの水野さん」


水野「んー?」

水野がアイスに齧り付きながら返事をする。

 

桜田「また一緒にご飯食べてもいいですか?」

水野「もちろんだよ!紺君と水たまりさんも喜ぶよ」

桜田「あの二人にも心配かけてしまいましたよね、謝らないとな・・・水野さんやけに嬉しそうですね」

水野「え、そうかな?」

桜田「水たまりさんみたいな顔になってます」

 

水野「こう??」

にまにま。


桜田「ふはっ、相変わらず似てますね笑

でも、アイス食べれただけでそんな嬉しかったんですか?他には特別なことなんて何もなかったのに」

水野「桜田君が生きていてくれたらそれはもう特別なことだよ」

桜田「え、そうなんですか?」

水野「うん」


桜田「水野さんって変な人ですね」

水野「あはは、よく言われるよ」





次の日。

紺「あ!お兄ちゃん来た〜!!」

紺君が水たまりさんと一緒にぴょんぴょん跳ねる。

久しぶりに桜田君に会えて嬉しいみたいだ。


桜田「心配かけてごめんなさい」

紺「いいんだよー!」

水野「じゃあ、今日はハンバーグを作るわね」

紺「わぁい!ハンバーグハンバーグ〜!!」

水たまりさん「(にまにま)」



水野「さ、どうぞ、いっぱい食べてね!」

紺「わー美味しそ〜!!頂きまーす!」

桜田「頂きます」

水たまりさん(手を合わせる)


紺「んー!美味しー!!」

桜田君が目に涙をいっぱい溜めている。

水野「ど、どうしたの桜田君、そんなに口に合わなかった!?」


桜田は首をふるふると振った。


桜田「美味しいです、ハンバーグ・・・」

水野「本当?良かったぁー」

水野がほっと胸を撫で下ろす。

桜田「俺、生きてて良かったです・・・」


水野と紺君と水たまりさんが顔を見合わせると微笑み合った。


紺「良かったね!お姉ちゃんパワーいっぱいもらえて!」

桜田「うん・・・ん?いっぱい?」

紺「だって昨日、二人で夜中にコソコソ出かけてたんでしょー?」


紺君と水たまりさんがこっちを見てにまにましている。


水野「コソコソって、ちょっとアイス買いにコンビニに

出かけただけよ?」

桜田「そ、そうだよ、俺はまだ何もしてないし・・・はっ・・・」

水野「え、まだ?」


紺「ふ〜ん、本当かなぁ?ねぇ水たまりさん」

水たまりさん「(にまにま)」

すると、水たまりさんがにまにましながら

うにょんとした両手でハートマークを作った。


桜田「ちょっ、水たまりさん!本当に違うんだって!」

水野「何もなかったのよ本当に!」


こうしてしばらくの間、焦る桜田と水野、にまにました紺君と水たまりさんが共同キッチンで対面していたそうだ。








番外編 皆んなで温泉


水野「はぁー」

水野が共同キッチンのテーブルに座り、首を抑えながらため息を付いた。

そこへ紺がひょこっとやって来た。


紺「お姉ちゃん肩痛いの?」

水野「あ、紺君・・・痛くはないんだけど首の凝りが酷くてね」

紺「あ、じゃあちょうど良かった!」

水野「え?」

紺「はい、これあげる!」

 

紺が水野に小さな紙を渡す。


水野「温泉のチケット?」

紺「うん、水たまりさんからお姉ちゃんにも渡してって預かってたの、

水たまりさんの友達が経営しててね、時々くれるの」


水野"水たまりさんの友達・・・?どんなだろう・・・"

水野の頭の中で水たまりさんと同じ姿の生き物が浮かぶ。

 

水野「でも、いいのかしら」

紺「うん、皆んなの分あるから、一緒に行こー」

水野「ありがとう、一緒に行きましょうか、水たまりさんと桜田君は行くの?」

紺「んー、水たまりさんはいつも一緒に行くけど、お兄ちゃんはいつも僕にチケットくれるからあんまり行かないみたい、でもお姉ちゃんが誘えば付いてくると思うよ」(にやにや)

 

水たまり「(にまにま)」

その時、背後からぬっと水たまりさんが出てきた。


水野「そ、そうかな?・・・あ、水たまりさん!温泉のチケットありがとうございます」

水たまり「(にまー)」


水野"どう致しましてって意味のにまーだな、

最近、水たまりさんと意思疎通ができ始めている気がする‼︎"




ピンポーン。

水野が桜田の部屋のチャイムを鳴らす。

水野「桜田君、私だよー」

ガチャ。

桜田「水野さん、どうかしましたか?」

水野「温泉一緒に行かない?」

桜田「え!?///」




15分後。

紺「わぁい!温泉だ、温泉だー!」

桜田は手を繋ぎながら目の前を歩いていく水野と紺を見つめていた。


桜田"ですよね‼︎いやまぁ分かってましたけどね‼︎"


水たまりさんが右手をうにょんと伸ばし、桜田の肩をポヨンポヨンと叩いた。

桜田「水たまりさん、ありがとう・・・」

謎の意思疎通をする二人。


 



アパートから15分ほど歩くと小さな旅館が見えてきた。

"楠木旅館"

古い温泉宿で日帰りもある。

旅館の玄関に着くと60代半ばくらいの浴衣と羽織を着た男性が立っていた。

 


楠木(くすのき)(旅館のご主人)「おや、水たまりさん、来てくれたんですね」

水たまり「(にまー)」

紺「やっほーごしゅじ〜ん!」

楠木「おやおや、紺君、こんにちは・・・桜田君も来てくれたんですね珍しい」

桜田「はい、たまにはと思いまして」

 

紺「(にやにや)」

水たまり「(にまにま)」



楠木「そちらのお嬢さんは最近アパートに来た方かな?」

水野「あ、はい、水野と言います」

楠木「初めまして、私はこの旅館の主人の楠木です、どうぞよろしくお願いします」

水野「こちらこそよろしくお願いします」



紺「はい!チケット4人分!」

楠木「チケットのご利用ありがとうございます、どうぞ中へ」

水野「あのー、チケットこんなに配ってしまって大丈夫なんですか?回数券ですよね?」

楠木「ああ、このチケットは水たまりさんへのお給料なんですよ」

水野「え、お給料??」

 

楠木「はい、水たまりさんがここの旅館の清掃を手伝ってくれているんです、それはもう高速で動くものですからあっという間に綺麗になるんですよ、

ただ、水たまりさんはお金だと受け取ってくれないので温泉のチケットを渡すことにしてるんです」


水野「なるほど・・・でもそれなら水たまりさん、私までもらっちゃっていいんですか?水たまりさんのお給料なのに・・・」


水たまり「(にまー)」

水たまりさんがにまーっと笑うとうにょんとした右手でOKマークを作った。

普段は隠れていて分からないが、意外とどんな形にもなれる器用な手だ。


楠木「水たまりさん、皆さんと一緒に温泉に入るのが嬉しいみたいですよ」

水たまりさんが高速で頷くとちゃぽちゃぽと音がする。


水野「うぅ、水たまりさん優しいですね・・・」

桜田「え、何で泣いてるんですか!?」

水野「歳を取ると涙脆くなるのよ」

楠木「何をおっしゃいます、まだお若いじゃありませんか」

水野「いえ、そんな・・・」





楠木「こちらが女湯、こちらが男湯です、今は他にお客さんがいませんので心置きなく楽しんで下さいね、

どうぞごゆっくり」

水野「ありがとうございます」


紺は水野と手を繋いだまま女湯に入ろうとする。

桜田「ちょっと待った!!」

その声に水野と紺が振り返る。


桜田「なにナチュラルに女湯入ろうとしてるの、

君はこっちでしょ!」

紺「えー、僕お姉ちゃんと入りたい〜」

桜田「男の子なんだからダメだよ」

紺「キツネなのに〜?」

桜田「姿は人間でしょ!」

水野「んー、でも、人間も小さい子はお母さんと一緒に女湯入ってるけどねぇ」

 

紺「じゃあいいじゃん〜!あ、ひょっとしてお兄ちゃんもお姉ちゃんと一緒に入りたかったの?」

桜田「え!?///ち、違うよ!」

水野「いやいや、桜田君はこんなおばさんの裸なんて見たくないよ紺君」


水野がパタパタと手を振る。

 

桜田「見たくないなんて言ってません!はっ、いや、今のはその・・・ごにょごにょ」

桜田は顔を真っ赤にしている。


楠木「あっはっは、お若い者たちは賑やかでいいですなぁ、元気をもらえますね」

  

水たまりさんが頷いている。


水野"そう言えば水たまりさんって何歳なんだろう"





結局、桜田に紺が連行され、水野は一人で温泉に入った。

水野はシャワーで体を洗った後、ぬるめのお風呂に入った。

温泉は露天風呂で熱めのお湯とぬるめのお湯の二種類ある。


ちゃぽん。

水野「はーいいお湯〜」


紺「お姉ちゃーん、お湯加減どー?」

隣りの男湯から紺の声がする。


水野「うん!とってもいい感じよー、そっちはどう〜?」


紺「うん!いつも通りすっごくいいよー!ね!お兄ちゃん!」

桜田「え?う、うん」


水野「そう言えば桜田君、久しぶりだって言ってたものね、どう?久しぶりのお風呂気持ちいいー?」


桜田「は、はい、気持ちいいです・・・ぶくぶく・・・」

紺「わぁ!?お兄ちゃんもうのぼせちゃったの!?大丈夫?」

桜田「だいじょーぶ・・・」


ざばっ!!

水たまりさんが溺れかけた桜田をうにょ〜んと伸ばした両手で華麗にお姫様抱っこをしがらお湯から上げた。


水野「ええ!?ちょっと、桜田君大丈夫ー!?」


桜田「だいじょーぶですー」

桜田の小声の大丈夫という声とともにパタパタと運ばれていく音がする。


水野「心配だし私も出よう」



休憩所で横になった桜田を皆んながうちわで扇ぐ。

そこへご主人がやって来た。


楠木「大丈夫ですか?氷持って来ました」

紺「ありがとー」

桜田「すみません・・・皆さんにご迷惑をかけてしまって」

楠木「ご迷惑だなんてとんでもない、それにしても桜田君はのぼせやすい体質だったのですね、気付きませんですみません」

桜田「あー、えーとこれは・・・」

 

紺「お兄ちゃん、お姉ちゃんと話してたらきゅーにぶくぶくし始めたんだよ、何でだろ?」

紺がうーんと考えている。

桜田「ちょっ、そんな恥ずかしいこと暴露しないで!」


楠木が桜田と水野の顔を交互に見ると何やらニヤニヤし出した。


楠木「ふむふむ、なるほどなるほど、若さとはいいものですなぁ」

水野「あの、なるほどって何がですか?」

楠木「春が来たということですよ、お嬢さん」

水野「え、春?」

紺「何言ってるのごしゅじん!今は冬だよー?」

楠木「おやおや、そうでしたね」

紺「もー!」



温泉に入って体がホカホカした4人とそんな4人を見て心がホカホカしたご主人。

今日はいい夢が見れそうだなと思う楠木なのでした。


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