第三話 遺構
「さて、じゃあ出発するぞ」
休憩を終え、荷物を纏めたバルトがソリで引くような大きさの皮袋をひょいと背負った。
オートマトンの可動部やまだ微弱な魔力の残ったエネルギーセル(成形された魔石)をかなり詰めているが、彼にとっては関係ないらしい。
とはいえ、彼らは機体を全て納めた訳ではない。余った部分……というか取引については一悶着あった。
「ダメです! 全てバルトが回収します!」と息巻くシェラの横に、外装とアタッチメントが外れ、内部機構を顕にしたが未だに巨大なオートマトンがあり、それに寄りかかったバルトがうんざりした顔で「あのなぁ、分解も楽じゃないんだぜ……分解方法とか、教えて貰う対価に一つやってもいいんじゃねえのか?」とため息をつく。
「そうだぞ! 分解ほうほーだって、誰も知らないほうほーかもしれないんだぞ!」
ニコがおどけると、シェラはハッとした。
「確かに……」
そんな訳で、分解方法の披露にビーム機構周りを分解し、空になった魔石数十個を取り出した。小容量を並列で使用するこれらの魔石は再充填が早く、一つ一つの容量も人の魔力で足りるほど少ない。
日常的に使用するランタン程度の小容量な魔道具に対して使い勝手が良く、それなりの値段で売れる筈だ。当面の資金源になるだろう。
「おぉ〜!」
目を輝かせる三人。
「では、これを報酬に頂いてもいいですか? 機体にはまだまだ巨大な魔石がありますし……?」
三人はグッと顔を引き締めると、目の前の魔石と、オートマトンと、お互いの顔をジッと見た後、二人がバルトにサムズアップした。
「……わかった。だが、解体は最後まで手伝えよ?」
「もちろんです!」
そんな訳で取引が成立し、晴れて奇妙なパーティは出発した。
「……で、まだ探索するのよね?」
ラミアは時間を気にしていた。とはいえ、その辺はバルト達の都合になってしまうが……
「いや、これ以上集めても載らねえからな。一旦戻っても良いだろう」
「一旦って……」
周囲の景色は山脈の只中で、少なくとも山を一つ越える必要があるように思えた。
「知らないのか? そうなると……まあ、魔石があるし、なんとかなるか」
バルトは真面目な顔で私たちに忠告した。
「いいか、先に言っておくけどな、魔石二、三個は気前よく握らせて通るんだぞ。どうなっても俺たちは知らんからな」
それに無言で頷くと、バルト達はズンズン進み斜面が崩れ山肌が露出した場所の前で立ち止まった。
「この辺りか。シェラ、頼む」
「はい。岩よ、土の神の名の下に道を開けよ」
シェラが取り出した杖を振ると、地響きと共に硬質な部材で構築された無機質な廊下が現れた。
「俺たちが乗ろうとした所に、勝手に飛び込んで来た。そういう事にするからな」
そう言って廊下を進むバルト。
「ほら、入らないとシェラが閉められないだろ!」
「おわっ」
ニコからグイグイと押されて中に入ると、暗闇に青白い光──誘導灯が先を浮かび上がらせる。そこは、地下を走っていたゴンドラ式モノレールのプラットフォームだった。
地殻変動で地上まで露出していたのか……
「ニコ、頼む」
「おう!」
ニコが操作盤まで走ると、ボタンを幾つか操作した。遠方からゴンドラが起動した音が、レール越しに伝わってくる。
「シェラは操作しないんですか? こういうの好きそうですが」
聞いてみるとシェラはムッとした顔で、しかし直ぐに諦めたようにため息をつくと、ニコを見ていた。
「連邦軍に認められるような大きな商会や、傭兵団の所属じゃないと教えて貰えないんですよ。彼女は深層書庫商会でも一角の人物ですからね」
「シェラ〜……? 勝手に人を売るのはよくないぞ! 次は金額二枚は取るからな!」
「ひえ……所属くらい良くないですか? どうせあなたは目立つ、こほん、有名ですし」
「甘ぁい! そんなだからウチのパトロンを得られないんだぞ! 学者をやりたいなら情報の扱いには慎重にしろよ!」
「あっ、すみません……」
「まあまあ、どうせハルゼナに行けば分かる事なのは本当だろう」
「シェラの姿勢の話だよ! だって、この二人組がアヤシイのは変わってないし」
「あはは……怪しくてすみません」
「でも詮索は無し、でしょ? エディのおかげで稼げた訳だし」
「それはそうだけど〜……じゃあ、ここは一つさ、お互いのアンシンの為に、ひとぉつくらい話してくれても良いんじゃない?」
ピンと人差し指を立て、体躯に合わない獰猛な笑みを浮かべるニコに、私はニヤリと笑った。
「そうですね……私は人間ではない。と言っておきます」
「へぇ〜! そうなんだ! おもしろ〜!」
ペタペタと体を触り始めるニコ。
「じょ、冗談ですよね?」
信じられない、という顔のシェラ。
「確かに私の冗談はスベりますが、今回は違います」
それを聞いて、戦慄したように冷や汗を顔に浮かべてメガネを掛け直した。
「正確に言えば、人間という事象は再現できるので人格を認めるかは受け手によるのですが……あでっ」
膝を後ろから蹴り上げられ、呆気なく地面に手をついた。
「おわっ! 何すんのさ!」
「ちょっとエディ、喋りすぎ」
「すいません。反応が面白かったのでつい」
「はぁ〜……優秀なのに残念なのよね……」
ラミアは片手で顔を覆って大きなため息をついた。
「次からそれ公開するの禁止ね!」
「分かりました」
「……ひどい扱いだなぁ。なぁエディ、嫌だったらいつでもウチに来てくれて良いからな?」
ニコに手伝われて起きると、もうゴンドラは到着していた。
「お断りします。もう行きましょう」
「ふーん、ま、気が向いたらでいいからさ!」
ゾロゾロと乗り込むと、座席に腰を下ろしたバルトが苦虫を噛み潰したような顔で頭を掻いた。
「バレなきゃなんでも良いけどよ……とにかく、降りたら上手くやってくれよ?」
「はい。なんとかしますよ」
微妙な緊張感を乗せて、ゴンドラは滑るように動き出した。
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