7 交流
俺は森の魔物たちとの交流を深めようと、森を歩いている。
暇だからね……誰かとおしゃべりしたいし……
たしかに前はよく魔物どもを食い荒らしまわっていたのだが、魔力補給の結界のおかげで今ではすっかり食うこともなくなった。
もしかしたら以前のことは水に流してくれ、友好関係を築けるかもしれないと思ったのだ。
それに俺は思念通話なる魔法をつくりあげた。俺の言ってることが通じれば、向こうも俺の話を聞いてくれるかもしれないしな。
この森には多くの種類の魔物が生息している。スライムとかゴブリンみたいなヤツもいたな。雑多に入り乱れている感じだ。
その中でも特に大きな勢力をもつ魔物が5種類いる。この5種族が森の支配を巡り、日々争っている、という印象だ。まあ、俺が捕食の旅を始めてからは随分と大人しくなってしまったのだが……
その5種族を簡単に説明すると……
・真っ赤なシマエナガ(赤シマエナガ)
・血のように赤い目の黒いカラス(キモカラス)
・筋骨隆々な銀の毛並みの人狼
・巨大な棍棒をもつ褐色のミノタウロス
・白い鱗の大蛇
といった感じだ。
まあまず交流すべきはコイツらだろう。先に他の弱小勢力と交流して機嫌悪くされたら面倒だからな。
何を話そうか考えながら、俺は森の中を歩き続けた。
◇◇◇
うん、目が合った瞬間に全員が狂ったかのように逃げていったよ。
もうね、話しかける余裕はなかったね。そういえば捕食しまくっていたときもあんな感じだったかもなぁ……
あの必死さには、俺も流石に呆然としてしまったが、それもそうか、俺なんて天敵中の天敵なんだもんなぁ。
まあ、そんなことで俺が諦めるわけもなく、それぞれの種族の中で1番体がデカく踏ん反り返ってたヤツの首根っこを掴み、俺の生まれた中心部まで引きずっていった。
運んでいる最中はどいつもこいつもこの世の終わりみたいな真っ青な表情をしていたが、安心したまえ……多分食わないから。
目的地にたどり着いたので、5匹を解放してやる。
逃げても無駄だと悟ったのか、全員その場で大人しくしており、俺の出方を窺っている。
うーん……コイツら美味そうだな……
「じゅるり」
「チュッ!?」「グワッ!?」「ワフッ!?」「モウッ!?」「シャーッ!?」
おっと、怖がらせてしまった。そんなつもりはなかったのに、反省反省。思念通話っと……
『俺の言っていることがわかるか?』
「「「「「!?」」」」」
うん、さっき同様驚いているようだが、突然俺が話していることが理解できたことに戸惑っている、といった感じか? 先に大事なことを伝えておこう。
『俺はもうお前たちを含めた森のヤツらを食わない。魔力の補給の目処が立ったのでな。だから、安心するといい』
「「「「「…………」」」」」
俺の言っていることは伝わっているが、半信半疑といったところか? ていうかこれじゃあ俺が一方的に話してるだけになってしまうな。
『よし! お前たちに思念通話を教えてやる。覚えるまで帰さないし、覚えなかったら食っちまうからな。頑張れよ!』
全員の顔が真っ青を通り越して真っ白になってしまったな。まさに絶望といった感じだ。コイツら顔は動物なのに随分と表情豊かで面白いな。
ククッ
◇◇◇
『これで全員使えるようになったか?』
『はい……』『うむ……』『ああ……』『うす……』『ハイ……』
あれから時間をかけて丁寧に教えてやったら、無事5匹とも思念通話を使えるようになった。正直無理かもと思ったが、この短時間で習得するとは……流石はこの森の上位勢力だな。
『さっきも言ったがお前らのことはもう食わん。いきなり仲良くしようってのも無理かもしれないが……ひとまずよろしく頼む』
依然として怯えた感じは抜けないが、なんとか俺の言葉を受け止めているようだ。
『1つよろしいか……?』
そう言ったのは、キモカラスだ。それにしても、いつまでもキモカラスって呼ぶのもアレだな……
『なんだ?』
『我は宵闇の翼の長である……この森には随分長くいるのだが、其方のような者は今まで見たことがない……一体どこからやってきたのだ……?』
キモカラス改め、宵闇の翼がそうきいてきた。どこから来たも何も……
『俺はここで生まれたんだ』
『何っ!? じゃあここにあった卵はお前か!?』
人狼が驚愕といった感じで反応した。
『お前、俺が卵のときのことを知っているのか?』
『ああ……おっと遅れてすまねぇ。俺は銀風の牙の長だ』
と人狼改め、銀風の牙、
『あ、わっ私は紅蓮の翼の長です』シマエナガ
『俺……勇猛な角の長……』ミノタウロス
『ワタシハ白キ鱗ノ長』蛇
ここぞとばかりに自己紹介をしてきた。なんとも呼びにくそうな名前ばっかだ。そういえば俺名前ないな……まあ、今はいいか。
『ここには昔から卵があった。いつからあるのかはわからねぇ。ただめちゃくちゃ硬かったのが印象的だったな。どんなに強く殴ってもビクともしなかったから不思議だったぜ』
『お前、俺を殴ってたのか?』
『あ!? ちょ!? 違くて!? えっと……その……ごめんね?』
銀風の牙が慌てているが、正直どうでもいいな。俺はこうして無事だし。
『ま、特に気にしていない。これからはよろしく頼むな?』
『お、おう……もう、食うなよ?』
念を押されてしまった。もう食わないっての。
『あ、わっ私たちのこともお願いします。たっ食べないでいただけるとありがたいです』
『我らの一族もだ……よろしく頼む……』
『俺たち……自分よりも強いヤツには逆らわない……食わないでくれるなら……従う……』
『ワタシタチモ忠誠ヲ誓オウ。偉大ナル竜ノ王ヨ』
ファーストコンタクトとしては上出来かな? それよりも……
『偉大なる竜の王?』
何そのかっこいいの。
『アナタハ、竜トイウ偉大ナル存在、ソシテ森デ最モ強イ、ツマリ王デス』
白き鱗は話し方が片言で知能が低いのかと思ったが、少なくともネーミングセンスはなかなかのようだ。
それに他のヤツらに比べて敬意のようなものも感じる。同じ爬虫類系統だからか? この世界でもその分類があるかはわからんが。
もし、今度名乗ることがあったら使わせてもらおうか……ふふ……
そんな感じで、今日のところは終わりにして解散した。最後の方はだいぶ打ち解けていたのではないだろうか? まあ、こうした積み重ねが大切なのだ。いずれは俺に対する恐怖も消えてなくなるかもな……
何はともあれ、こうして俺は名実ともに、この森の頂点に君臨することになった。
これは余談だが、5匹の長がそれぞれの群れに戻ると、次の長を決める準備をしていたらしい。
俺に捕まった時点で死んだものと見做されていたようだ。
可哀想に……
一悶着あったらしいが、最終的には俺の元から無傷で生還したことが評価され、群れからの尊敬が爆増し、長としての立場がより盤石なものになったのだと。
うん、どうでもいいね。
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