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74 少年の災難

 ◆◆◆



 ミティス支部長とドレスマルク伯爵との会合から数日が経った。



 あれから特に変わったことは起きていない。もしかしたらミティス支部長から何かしらの接触があるかもしれないと思って、こうして冒険者ギルドに顔を出したりしているのだが……現在までにそういった様子も見られない。



 調査隊の派遣は大分(だいぶ)先の話になりそうだ。まぁ、いきなり「今から行ってこい」って言われるよりかはいいんだけど。



 そういうわけでオレは現在、冒険者ギルド・ニルヴァニア支部に併設されている酒場で昼飯を食っている。ここは酒も提供しているが料理のメニューも豊富なので、飯だけ食いにくるという人も少なくない。



 ちょうど昼ということもあって混雑しており、他の席からは「あそこに行ってきたぜ!」や「これから長期の依頼に行ってくる!」といった内容がガヤガヤ聞こえてくる。昼間っからやかましいことこの上ないな。



 さて、いつまでもここに居座っているわけにはいかないな。今日は午後から実家の酒場の手伝いをする予定なのだ。まだまだ雑用の範疇を越えない仕事しかさせてもらっていないが、やると決めたからにはしっかりとやらねばな!



 オレは目の前にある骨つき肉とスープを一気にかっ喰らおうと姿勢を正すと……



 「おぉ! アルじゃねぇか! 奇遇だな!」



 おっと、オレの名を呼ぶ声が聞こえる。オレは声が聞こえた方に視線を向ける。この声はおそらく……



 「あぁ、やっぱガスさんか。……それにボブさんも」



 そこにはガスさんとボブさんがいた。それぞれ(3等級冒険者)(4等級冒険者)のベテラン冒険者の2人だ。やけに気が合うらしく、こうして2人で連んでいるところをよく見かける。



 「おれたちも今から飯でも食おうと思ってな。座る場所がねぇかなぁと思っていたんだが……同席してもいいか?」



 「そういうことならどうぞ」



 特に断る理由もないのでオレは席に座るように促した。オレの許可を得た2人は着席した。ガスさんはいつも通りだが、ボブさんが若干元気がなさそうに見えるな。何かあったのだろうか……?



 「……そうだ、聞いたぜ? 例の調査隊の話」



 ガスさんが他の人には聞こえないくらいの小声で話しかけてきた。例の調査隊というと……帰らずの森の件か。既に2人にはミティス支部長から事情を伝えているようだな。



 「いやぁ……まさか調査隊の代表なんかに選ばれるとは。ガスさんとボブさんのチームも同行してくれるんでしたっけ? 心強いですけど……頼りっきりになりそうです」



 「ガハハッ! 何言ってんだよ! 支部長から直々に頼まれたんだから、どっしりと構えてろ! もちろん参加させてもらうぜ! おれたちも冒険者だ……未知の探求ともなれば腕が鳴るぜ……」



 ガスさんは豪快に笑いながら言った。立入禁止区域の調査だというのに臆する様子は一切見られない。しっかりと経験を積んだ冒険者というのはこうも頼もしいものなのか。



 「それにしてもまさかアルが(3等級冒険者)になるとはなぁ……最近(6等級冒険者)になったってのは知っていたが、出世したな!」



 そうなのだ、ランクだけでいえばガスさんに追いついてしまったことになる。正直オレなんてまだまだなんだけどな……



 「なんかズルしたみたいで申し訳ないですね……」



 「ま、冒険者ギルドが認めたことだ! 当日はよろしく頼むぜ! リーダー!」



 ガスさんは特に気にしていないようだが、オレとしては若干の罪悪感があるので(おご)ることなくランクに見合う働きを心がけよう!



 「そうですね、当日はよろしくお願いします。……それで、ボブさんはどうしたんですか?」



 さっきから会話に加わることなくずっとションボリした様子のボブさんを見ながら、ガスさんに尋ねた。



 「あぁ……コイツなぁ、最近ニルヴァニアに新しく出来たカジノで有り金全部スったらしいぞ。バカだよなぁ……」



 「くそぅ……途中までは勝っていたんだ。あそこでやめておけば……! だが、もう間違えない! 次こそは大丈夫だ!」



 「そんなんだからモテねぇんだよ。……見ての通りコイツは冒険者の依頼でもやってないとアホなことしかしねぇようでな。一回帰らずの森にでも行って頭を冷やすべきだろう」



 「それは、なんていうか……大変でしたね……」



 おぉ……そんなことになっていたのか。オレもカジノに行くことがあれば楽しむ程度にとどめよう。まぁ、それは置いといて……



 調査隊のメンバーとはいずれ正式に話し合いが行われるだろうが、それまでに連携の確認など出来ることもあるはずだ。事前の準備をしっかりしておかなければ、以前のようにヘルフェニクスに囲まれるような危機に陥るかもしれない。



 ちょうど2人もいることだし、その辺の話をしてもいいかもしれないな。オレはそう思い2人に声をかけようとしたとき……



 バタンッ



 冒険者ギルドの扉が開く音が聞こえた。別にその程度珍しいものでもないのだが、オレはふと冒険者ギルドの入り口の方へと目をやった。



 するとそこには……美しい女性が立っていた。



 白銀の鎧に身を纏った、いかにも騎士といった装い。ストレートの長い金髪に白磁のような肌、その碧眼は美しくも気高さを感じるかのように力強い。



 女性が冒険者ギルドに入った瞬間に、その場にいた全員の意識が女性へと向き、先ほどまでの騒がしい空気とは打って変わって静かになった。



 それほどまでに女性の(まと)う雰囲気は尋常ではなく……どこか神々しく感じる。それに加えてその容姿だ。オレが今まで見てきた人の中で最も美しいといっても過言ではない。



 おそらく、この場にいるすべての人が同じ思いを抱いているのではないだろうか。皆呆気に取られた表情で彼女を見ている。



 こんな状況を作り出した張本人は、あちこちに視線を巡らせている。まるで誰かを探しているかのようだ。相手は一体誰なのだろうか……



 そんなことを考えていると女性と目が合った。とても美しい碧眼だ。ずっと眺めていたくなるほどに鮮やかに輝いている……だが同時に少し恐怖した。まるでオレという人間が見透かされているような感覚を覚えた……



 思わず目を逸らしてしまった。



 まぁ、どうせオレには関係ないことだしな。オレは気を紛らすように飯を一気に掻きこんだ。そのせいで味はよくわからなかったし、一気に詰め込んだからか胃が少し痛い。コップに入った水を飲んで、ようやく一息ついたと思ったら……



 「少しいいですか?」



 ん……? 近くから鈴を転がすような声が聞こえた。



 顔を上げると……先ほどの女性が目の前にいた。そしてその視線はオレのことを射抜いている。まるでオレに話しかけているようだな……



 「え? オレですか?」



 一応、確認しておこう。もしかしたら別の人に話しかけている可能性もあるからな!



 「そうです。あなたに聞いています」



 はい、違いました。いや、なんでオレなの……? オレなんかやったっけ? ニルヴァニアに戻ってからは真面目に生きてきたつもりなんだが……



 周囲を見渡すと全員オレに注目している。そりゃそうか、突如現れた美女が話しかける相手は気になるもんな。



 「そちらのお二方、席を譲っていただけますか?」



 「え……? あ、あぁ! ……おい、アル! おれたちは少し邪魔みたいだし別の席に行くぜ!」



 「ア、アル……! その美しい女性を紹介してくれ……! めちゃくちゃタイプだ……」



 「いいから行くぞ! アホ!」



 オレがボーッとしている間にガスさんがボブさんのことを引きずりながら別の席に行ってしまった。そして先ほどまで2人が座っていた席に女性が腰掛ける。



 な、なんだ……この状況……オレはただ昼飯を食っていただけなのに……



 女性はジッと見ているだけで何も話しかけてこない。うーん、気まずい。



 「あの、何か注文します?」



 この空気に耐えきれずオレの方から切り出した。



 「そうですね。そういうことなら……すみません、オススメの肉のステーキを10皿ほどお願いします。」



 「え……? あっ、ハイ! かしまりました!」



 突然女性に話しかけられたウェイトレスが慌てながら厨房の方へとかけていった。ステーキ10皿って聞こえたが……おそらく聞き間違いだろう。気にしないでおこう。



 「……お待たせしました!」



 しばらくすると先ほどのウェイトレスが数回に分けて分厚いステーキ10皿を持ってきた。聞き間違いではなかったようだ。



 そして女性が物凄い勢いでステーキを食べ始めた。凄い速さで食べているのだが……不思議なことにとても上品に見える。顔や服が汚れることは一切なく、あっという間にすべてを食べ尽くしてしまった。一連の行動はまるで芸術作品かのように……



 待て待て。そんなことはどうでもいいんだ。ヤバい、ずっと圧倒されている。本当になんなんだこの人!? 



 「ご馳走様でした。……では、そろそろいいですか?」



 女性はそう言いながら、懐から球体のような魔道具を取り出して机に置いた。



 「これは……?」



 「盗聴防止の魔道具です。範囲はかなり狭いですが、この机での会話には有効でしょう。」



 そんな魔道具があるのか。じゃあ今オレたちが話している内容も周りの人には聞こえていないということか。そんなものを使ってまで一体何を聞こうとしているんだ?



 「自己紹介が遅れましたね。私はミリアウリス教会聖竜騎士団所属のルーツェと申します。よろしくお願いします。」



 目の前の女性……ルーツェさんは聖竜騎士だったようだ。ミリアウリス教会といえば聖竜神教の総本山である聖地ミリアウリスを本拠地に活動する教団だ。いや……団体というにはあまりにも規模と影響力が大きく「聖国」と表現することもあるが、今は置いておこう。



 聖竜騎士は聖地ミリアウリスを守護する存在であり、個人の戦闘力においては世界最強ともいわれている。そんな人物がどうしてオレなんかに……?



 「えっと、オレはアル=ヴァートルです。それでルーツェさんはオレに何か用で……?」



 「はい、あなたが帰らずの森で出会ったという謎の賢者について話が聞きたかったのです」



 謎の賢者とはオレがノヴァス様の存在を誤魔化すために使った設定だ。



 「あぁ、そのことですか…………って、なんで知ってるんですか!? このことは冒険者ギルドにしか共有していないんですけど……」



 冒険者ギルドの本部には伝わっているはずだが、ミリアウリス教会は関係ないはずだよな?



 「それなら冒険者ギルドを脅しt……お願いしたら快く教えていただけました。それにそんなことはどうでもいいです」



 どうでもいいのか……? 冒険者ギルドの信用問題に関わるんじゃないのか? それとも、もしかしたらルーツェさんはとんでもない要人なのかもしれないな………慎重に対応することにしよう。



 「そ、そうですか。なんでそんなことを?」



 「あなたが出会ったという人物が、私の探している人の可能性があります。なのでその方について知っていることを教えてください」



 探している人、か。少なくともノヴァス様は人ではないはずだが……



 「会ってどうするんですか?」



 そこは是非確認しておきたい。ノヴァス様は人との交流に興味を持っていたし、友好的ならむしろ喜ぶかもしれないからな。



 「会ってから決めます。ですがご安心を……偽物であれば殺しますので。」



 「こ、殺すっ!?」



 ……急に物騒なことを言い出したな。



 殺す。その言葉に嘘はないのだろう。何故ならルーツェさんの目を見れば分かる。あれは……本気の目だ。



 いくら聖竜騎士が相手とはいえノヴァス様がどうにかなるとは思えないが……少し恐いな。



 「偽物って何ですか? それに本物か偽物かはどうやって判断するんですか?」



 「見れば分かります」



 「……そうですか」



 ルーツェさんは多くを語るつもりがないのか、それ以上は言わなかった。見ればわかるって……そんな曖昧な判断の仕方だと不安なんですけど……



 「教えるといっても……正直わからないんですよね。帰らずの森にいたということしか」



 これは本当だ。実際のところオレはノヴァス様のことをあまり知らない。1年近く一緒にはいたがドラゴンということと規格外の存在であることしかわからない。今思えば不思議な存在だったよなぁ……



 「そうですか。わかりました。……ちなみにですが、そちらの剣はどちらで手に入れたのですか?」



 ルーツェさんが今度は机に立て掛けられているオレの剣を見ながらそんなことを聞いてきた。



 この剣はノヴァス様がつくってくれたものだ。ノヴァス様の鱗や牙を素材とした、深緑色の鞘に金色の剣身で構成された宝剣だ。



 変に目立つのが嫌だったので鞘を装着した状態で殴る武器として使っていたのだが……これが案外強いので困る。最初は変な目で見られていたが、最近ではすっかり周りの冒険者も慣れたようで今ではオレのトレードマークとして機能している。



 だがこの剣については冒険者ギルドに提出したレポートにも書いていないはずなのだが……この剣から何かを感じとったとでもいうのだろうか……?



 「謎の賢者にもらったものです。銘はカイザースペシャルキングオブキングゴッドドラゴンデラックスです!」



 変に嘘をつくと見破られそうな気がするので、剣を両手でかかげながら正直に答えた。ノヴァス様につけてもらった素晴らしい銘とともに!



 「なるほど、不思議な剣ですね。銘は酷いですが……」



 ルーツェさんはなんだかとても可哀想なものを見るような目でそんなことを言い出した。オレ、なんか変なこと言ったかな?



 「その剣を譲っていただくことは可能ですか?」



 おっと、そういう話だったか。



 「いや、それは……勘弁してください。オレが頂いたものなので……」



 流石に譲るのは無理だ。いくら金を積まれたとしてもな。これはオレとノヴァス様の友情の証みたいなものだからな!



 「そうですか。なるほど……わかりました」



 ルーツェさんはそう言うと席を立ち上がり、盗聴防止の魔道具を懐にしまった。



 「しばらくはこの国に滞在する予定なので、何かわかればニルヴァニア大聖堂まで連絡していただけると幸いです。それでは……」



 そしてそのまま冒険者ギルドを出て行ってしまった。



 なんていうか凄い人だったな……急に現れたかと思えば急にいなくなる。まるで嵐のようだ。



 周囲の冒険者たちはオレの方をチラチラ見ながら何か小声で話している。とても居心地が悪い……



 今日のところはさっさと帰ってしまおう。オレは会計をするために受付に行く。今日の昼食の金額なら……大銅貨1枚あれば十分に足りるはずだ。



 「えーっと、あと銀貨5枚ほど足りません……」



 ん〜? おかしいな。



 銀貨5枚といえば大銅貨に換算すると50枚になる。どう考えてもあの料理がそんなに高額になるはずがないのだが……



 「先ほどの女性が注文されたステーキ10皿分の金額になります……」



 あぁ、そういうことか。言われてみればたしかにあの人会計もせずに出ていったな。



 「え……オレが払うんですか……?」



 「同じテーブルで食事をされていたので……」



 「マ、マジですか……あの、ツケでお願いします。これ冒険証石です……」



 チクショウ!! あの女、オレになんの恨みがあんだよ!!!



 自分が食った分くらい払ってから帰れよ!!



 正直よくわからないことだらけだが、一つだけ確信をもって言えることがある……



 あのルーツェとかいう女は危険人物だ!!



世界地図です→https://ncode.syosetu.com/n5542ju/1/


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