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68 叛逆

 イーシス殿下が玉座にて俺、ドンさん、イーシアを見下ろしている。周囲にはドラコニア兵が並んでおり、何やら嫌な雰囲気が漂っている。



 パトレイシア・クレストから帰還した俺たちを歓迎しているようには見えないな。まるで罠に()めるべくこの場に誘い込まれているかのようにも思える。



 俺たちが留守の間にアルハンドラ宮殿にて何かあったのだろうか。以前見かけたイルシプ兵たちやルサール侍従長にシンディさんはどこにいるんだ?



 「イーシスよ、お(ぬし)は何をやっておるのだ?」



 イーシアがイーシス殿下に対して堂々と言い放った。先ほどまでは困惑していたにも関わらず、既に気を取り直して状況確認に努めているようだ。流石の胆力だな。俺はドンさんと同じようにしばらく黙っていた方がいいかもな……



 「それはこちらの台詞だ、姉上。宮殿を抜け出して何をしておられるのだ。一国の君主としての自覚はおありか?」



 「うっ……よく気付いたな……」



 イーシス殿下のド正論によって出鼻をくじかれてしまったようだ。



 「107回だ」



 「…………は?」



 「姉上が今までに宮殿を抜け出した回数だ。誰にもバレていないと高を(くく)っていたようだが……私は気付いていた」



 「…………そうか」



 「他の頭の悪いイルシプ人と一緒にしないでいただきたい。その詰めの甘さがこういう事態を引き起こすのだ。……おい、あの者を連れて来い」



 イーシス殿下が命令すると右奥の扉から数人のドラコニア兵が出て行った。誰かを連れてくるつもりなのだろうか? 一体誰だ……?



 「仮にそうだとして、このような行動は誉められたものではないぞ」



 イーシアは気を取り直し、そう(たしな)めた。イーシスのやっていることはつまるところクーデターのようなものだろう。立派な反逆行為といえる。



 「説教はやめていただきたい。一度この国は生まれ変わるべきなのだ。だが、低脳なイルシプ人には荷が重い。中央大陸の五大帝国の一角……ドラコニア帝国の助力を得ることで初めて達成できると判断したまでだ。そしてそれは私にしか出来ない……ククク」



 「ドラコニア帝国の属国に成り下がるつもりか?」



 「……いや? 逆だ。魔術大国と名高いドラコニア帝国の協力の元、イルシプ王国はさらに力をつけ南方大陸を手中に収め、中央大陸進出の足がかりとするのだ。むしろこちらが利用してやる……」



 それがドラコニアの連中と連んでいた理由だったのか。



 「イルシプの平穏を脅かすことになってもか? ここ最近のイルシプ内の治安悪化や盗賊の多発化……それはイルシプのためになるのか?」



 「それも必要なことなのだ。……イルシプ人がどうなろうとどうでもいいしな……むしろ浄化してしまいたいくらいなのだが……今のところそこまでするつもりはない、安心するといい」



 「……イーシスはこう言っているが、貴様らもそのつもりなのか?」



 イーシアがソルツ外交武官に尋ねた。



 「ドラコニア帝国としてもイルシプ王国との結びつきが強くなるのは歓迎するところ……」



 ソルツ外交武官は淡々と述べた。その表情には笑みを浮かべているが……何を考えているかはわからないな。



 「何が目的かは知らぬが……大方(おおかた)、イルシプ内で貴様らが好き勝手するための口実なのだろう? そのために(くみ)し易いイーシスを利用しているだけで……」



 「黙れっ!」バンッ!



 イーシス殿下がイーシアの言葉を遮って、玉座の肘掛けを殴りつけた。



 「そうやっていつも私を見下しやがって……私を侮った結果がこれだっ!」



 イーシス殿下が立ち上がって手を広げると同時に右奥の扉が開いた。先程誰かを連れてくるように言っていたが、やっと到着したようだな。そこには……



 「なっ!? シンディ……お前、そのケガ……」



 「も、申し訳ありません……女王陛下……」



 シンディさんがいた。手を後ろで縛られ、顔を赤く腫らした状態で数人のドラコニア兵に連れてこられていた。そして玉座の下の方まで移動した。



 「イーシス……何故このようなことを……」



 流石のイーシアもこれには動揺が隠せていない。



 「本当は姉上を攫うのが1番楽だったのだが……盗賊ごときには荷が重かったようでな。仕方なくこうすることになった。まぁ、この侍女を人質にすることでルサール含めた姉上派のイルシプ兵を容易に無力化できたがな。そして私に従わない役立たずは全員地下牢に叩き入れてやったわ!」



 そういうことだったのか。ルサール侍従長らがこの状況を許すと思えなかったのだが……人質がいたのなら話は別だな。屈強なイルシプ兵を人質で封じて、アルハンドラ宮殿を掌握したということか。



 「イーシス、シンディを解放せよ……」



 「おやおや、まだ立場を理解しておられないようだ。……やれ」



 「ハッ……!」バキッ



 「うぐっ……」



 イーシス殿下がそう言うと、シンディさんを囲っているドラコニア兵の内の1人がシンディさんの顔を殴りつけた。酷いな……



 「やめよっ! イーシス!」



 「ククク……解放して欲しいのならこちらに来るといい。大人しく縄につくのであれば悪いようにはしないぞ?」



 「……言う通りにすればシンディを解放するのか?」



 「するかもしれない」



 「はぁ……致し方あるまい…………ノヴァスよ、これを。何かの役に立つかもしれない……」



 イーシアが俺にだけ聞こえる声でそう言った後にこっそりと何かを手渡した。これって……



 その後、イーシアは観念した様子でイーシス殿下の方に歩いて行く。



 そしてイーシアがイーシス殿下の目の前にまで辿り着くと、ドラコニア兵がイーシアの手を後ろで縛った。イーシアは特に抵抗することもなく、シンディさんの方を心配そうに見ている。



 そしてイーシス殿下がイーシアが身につけていたカバンをひったくって中身を確認する。



 「……なんだこの古臭い本とナイフは? こんなもののためにパトレイシア・クレストまで行ったのか。馬鹿らしいな」



 「パトレイシスの手記、そしてパトレイシア1世のナイフと思われるものだ……」



 「ほぅ……ではこのナイフで姉上を殺すというのも一興か。忌々しい悲劇の再現とでもいくか」



 そう言ってイーシス殿下が手記には目もくれずに、ナイフをジックリと眺める。



 「イーシス……お前……」



 「ククク……そう睨みつけるな。楽しみは後にとっておこう。……それより先にコイツらの方を処理をしてしまおう」



 イーシス殿下がそう言うと今まで蚊帳の外だった俺とドンさんの方に振り返った。それと同時に側面の壁に並んでいたドラコニア兵らが俺たちを包囲するように移動した。



 「ドン、そして……たしかノヴァスとかいったか? 今一度チャンスをやる。私の配下になれ」



 イーシス殿下はそう言い放った。俺とドンさんは一瞬だけ視線を交わす。



 「イーシス、その者らは関係ないであろう……」



 「姉上は口を出さないでいただきたい。……それでどうする? 貴様ら次第では穏便に済ませてやらないこともないぞ?」



 さて、どうしようか……イーシアを裏切るなんて選択はしたくないんだけどな。



 ……………………よし、閃いた。



 「ドンさん」



 俺はドンさんにだけ聞こえる程度の声量で話しかけた。



 「何だ、ノヴァス」



 「地下牢の場所はわかるか?」



 「知らないが……それがどうした?」



 「地下牢に捕らえられたルサール侍従長やイルシプ兵たちの救出を頼みたい。わざわざ人質なんて手法をとったんだ。正面からぶつかれば屈強なイルシプ兵側に分があるはずだ。この反乱もきっと鎮圧できる」



 俺とドンさんが制圧してもいいんだが、下手に手を出せば面倒なことになりそうだからな。正規の兵士に任せたいところだ。



 「なるほど、しかし場所がわからんぞ?」



 「正面にいるシンディさんを一瞬で救出してから向かうってのはどうだ? ケガをしているようだが……抱えながらであれば案内くらいできるはずだ。今なら周囲のヤツらも油断しているからいけると思う」



 ラージイーグルの籠を担いでの旅を可能とするドンさんならそれくらい容易いだろう。



 「ふむ……それならいけるな。だが、この場に残るお前と女王陛下が危険ではないか?」



 「少し面倒だが……巨大石像の相手よりかはマシだろ? 俺も同時に動いてイーシアを解放する。これを合図としよう」



 俺はドンさんにだけ見えるように()()を見せた。



 「……ハッハッハ! 流石はノヴァスだな! そういうことなら任せろ!」



 少し無茶な注文かと思ったが、どうやら問題ないらしい。流石は(2等級冒険者)だ。いや……流石はドンさんと言うべきだな。



 俺たちが急に動き出せば、虚を衝くことができる。その隙を縫ってそれぞれイーシアとシンディさんを救出する。ドンさんは地下牢の解放へと、俺はこの場で時間稼ぎだな……



 「おい! 何を小声で話し合っている! さっさと決めろ! この状況をわかっているのか? 私の命令一つで貴様らなんぞ……」



 イーシス殿下がイライラした様子で急かしてきた。あまり焦らして警戒を煽るのはよくないな……



 「あぁ、すまない。それならもちろん……」



 俺とドンさんは玉座に向けて飛び出した。



 「お断りだっ!」



 俺はそう言うと同時に()()を上の方へと投げつけた。玉座の間にいる全員が上を向く。俺とドンさんは目を伏せる。そして……



 ピカー!!!



 光源の魔道具が眩い光を部屋中に放った。真っ暗なパトレイシア・クレストの深層を照らすほどの輝きだ。出力全開の光を直視しようものなら……



 「ぐわっ!?」「目がっ……」「何も見えん!?」



 想定通りドラコニア兵らは目を焼かれている。



 「ぬぁっ!? 貴様らぁ……!」



 イーシス殿下も顔を抑えているな。今がチャンスだ!



 周囲のドラコニア兵が怯んでいる隙に俺はイーシアを、ドンさんはシンディさんを回収した。そしてドンさんはシンディさんを脇で抱えながら、その勢いで後ろの扉目掛けて駆け出す。



 「きゃっ!? これは!?」



 「シンディ殿、ドンだ! 地下牢への案内を頼む!」



 「……!? かしこまりました。では扉を出たら左へ……」



 ドンさんとシンディさんは大丈夫そうだな。後はルサール侍従長とイルシプ兵らが解放されこちらへと来るのを待つだけだ。その時間稼ぎなのだが、どうしようかなぁ……



 「ノヴァス! よくシンディを解放してくれた!」



 俺は肩に担いでいるイーシアの方を見る。イーシアは目が眩んでいないようだな。光る前に目を瞑ったのか?



 「なぁ、イーシア。何であれを手渡してきたんだ?」



 結果的に役立ったけど。



 「咄嗟に手に届く範囲にあったのがアレしかなかったのだ……まさかこんな風に使うとはな……」



 そんな適当な感じだったのかよ。まぁそれはいいとして……俺もここまで上手くいくとは思わなかったわ。少し気を逸らせれば上出来と思っていたんだけどな。




 バキンッ!!




 突如、破壊音が聞こえた。それと同時に輝きを失った光源の魔道具が地面に落下した。



 俺は周囲を見渡した。そして1人のドラコニア兵が杖のようなものを上空へ向けて立っていた。一足早く視力が回復し、光源の魔道具を撃ち落としたようだな。あれは……ソルツ外交武官か。



 「まったく小賢しい真似をしてくれるものですね」



 ソルツ外交武官はそう言うと、俺たちの方に杖のようなものを向けてきた。あれは攻撃の魔道具のようだな。



 「きっ貴様らぁ!! もう許さぬっ! ソルツよっ! そいつらを殺せっ!」ガキンッ



 イーシス殿下が怒り狂ったように叫んだ。先ほどまで手にしていたパトレイシア1世のナイフを地面に叩きつけて怒りをあらわにしている。形振(なりふ)り構わないといった感じだ。



 「ふむ、イーシア様をこの場で殺すのは避けたいですが……王族なら防御の魔道具くらい身につけているはずですね。……それではこの場でこの男に集中砲火を浴びせます。配置につけっ!」



 ソルツ外交武官が玉座の間にいるドラコニア兵に命令を出した。視力が回復したドラコニア兵たちが俺たちの前にて隊列を組む。そして全員が杖のような魔道具を向けてくる。



 「あなたも余裕そうですね。ドン殿みたいに尻尾を巻いて逃げればいいものを……」



 そう、俺たちは現在イーシアを担いだ状態で玉座の間の後方の扉を背に立っている。逃げることも可能だったのだが、ここにいる連中をこの場に繋ぎ止めておくためにあえてとどまったのだ。ドンさん、間に合ってくれよ……!



 「まぁ……余裕だろ。人質なんて卑怯な手を使う連中なんて」



 「……少しは腕が立つようですがあまり調子に乗らないことです。冒険者ごときがドラコニアの軍人相手にどうにかできるとでも?」



 やけに自信満々だな。ソルツ外交武官らが向けてくる杖のような魔道具はそこまで凄い兵器なのだろうか?



 「その杖はそんなに凄いのか?」



 「はぁ……無知なあなたは知らないかもしれないですが、これはカテナログ4式魔導機杖……かのドラコニア・神聖オルドレイク戦争にて神聖オルドレイク軍を焼き払った我がドラコニア帝国が誇る魔導武装です。旧式にはなりますが……その威力は健在です」



 それは……凄いかもしれないな……何やら難しそうな単語がいっぱい出てきてほとんど理解できなかったが、戦争で実際に使用されるレベルの兵器ってことだよな? 耐えられるかなぁ……



 「ノヴァス、マズいぞ……」



 イーシアも正面から激ヤバ兵器を向けられている状況に不安が隠せないようだ。まぁ、俺もなんだが。



 「イーシア、防御系の魔道具があれば全部全開にしとけ……あとそのマントで身体中覆っとけ」



 「あぁ……わかった!」



 俺はイーシアを脇に抱え直した。そして全身に身体強化魔法を巡らせて集中する。パトレイシア・クレストで巨大石像と対峙したときと同じくらいに……



 「無駄話もここまでにしましょう。……それではさようなら、ノヴァス殿…………発射用意っ! 撃てっ!」



 ソルツ外交武官が言うと同時に周囲のドラコニア兵も一斉に杖のような魔道具……カテナログ4式魔導機杖から魔術を放った。



 杖の先から高密度の熱量を持った火球が顕現し、こちらに高速で迫ってきた。その威力はおそらく紅蓮の翼の火球魔法にも引けを取らないだろう。




 まさに絶体絶命とも言える状況……




 俺は迫り来る脅威に身構えた。



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