67 違和感
「なんだかここも久しぶりな気がするな」
「うむ! 長い旅であったな!」
俺たちはパトレイシア・クレストを脱出した後、オアシス都市リヴィラや他の諸都市を経由して首都アルハンドラまで戻ってきた。
アルハンドラ南部の街門から街に入り、アルハンドラ中央部に位置するアルハンドラ宮殿を目指して大通りを歩いている最中だ。
そしてアルハンドラ宮殿にイーシアを送り届け、報酬等の手続きを済ませれば完了というわけだ。いやぁ、長かった。なんとか誰も欠けることなく無事に旅を終えることができて本当によかった。
今回のイルシプでの旅を通して人間の世界についてある程度理解が深まったと思う。帰らずの森から出たばっかの頃に比べて真っ当な振る舞いが出来るようになったことだし、いよいよ本格的な旅を始められるってもんだ。
次はどこに行こうか。アルの故郷のニルヴァニアがあるニルブニカ王国か、それともドラゴンがいると噂の竜鳴火山有するヴェルダーン帝国か、美食の街とやらがあるオルドレイク帝国か、色々ときな臭いドラコニア帝国か……選択肢が多くある分悩んでしまうなぁ。
「次はどこの国に行こうかなぁ……」
「そうか、ノヴァスはイルシプから旅立ってしまうのか……寂しくなるな」
俺の呟きが聞こえたようでドンさんが残念そうに言った。
「急ぐ旅でもないんだがな。しばらくは色々なところに行ってみたいんだよな」
「そうだな……おれたちは冒険者だからな! 外の世界に行き見聞を広めるのはいいことだ! お前ならきっと大丈夫だと思うが、何か困ったことがあれば頼ってくれ! 必ず駆けつけるぞ!」
ドンさんが笑顔でそう言ってきた。この人にも大分世話になったよな。
「ドンさんも困ったことがあれば帰らずの森に来るといいぞ。城塞都市カーメリアから近かったよな? 多分ホワイトサーペントが話を聞いてくれるぞ」
「ハッハッハ! その冗談はまだ続いていたのか!」
まぁ、普通は冗談と捉えるか。そもそもドンさんの場合は困ったらイーシアというイルシプの最高権力者を頼った方が確実だよな。
『……ふむ、帰らずの森か。城塞都市カーメリアの重要性について見直す必要があるか……』
なにやら俺が担いでいる大きなカバンから女性の声が聞こえるが気にしないでおこう。まさかこんなところにイルシプの女王陛下がいるわけないのだから。
「それにしてもノヴァスよ。女王陛下の引き渡しはどのようにすればいいのだ?」
「イーシアが言うには俺たちがアルハンドラ宮殿を尋ねたらシンディさんが迎えてくれることになっているらしいぞ。……だよな?」
『うむ! その通りだ! お主らは正面から堂々と入ればよい!』
うん、カバンの中にはイーシアがいます。行きと同じように大きなカバンの中に入ってもらいアルハンドラ宮殿まで送り届けなくてはならないのだ。正直生きた心地がしないんだよな……
「……今までも1人で抜け出したことあるんだろ? 今回も1人で戻ってくれた方が楽だったんだけど……別のヤツらにでも見つかったら女王陛下誘拐の罪に問われるかもしれないだろ……」
『そんな寂しいことを言うでない! 家に帰るまでは妾たちはチームなのだ! ……それにお主らへの報酬等の手続きもある。それならば一緒に行く方が二度手間にならなくてよい!』
まぁ、ここまで来といて今更感あるし、別にいいんだけどな。
「はいはい」
そう一言だけ返事をしておいた。そういえばイーシアが何か願いを叶えてくれるって話だったよな。まだ何も決めていなかったが、どうしようかな……
「お! 船着場に着いたぞ!」
ドンさんが正面を見てそう言った。
おっと、いつの間にこんなところまで辿り着いたか。話しながら歩いているとそこまで距離を感じないから不思議だ。いよいよイーシアとのお別れの時が迫ってきたか。
「いよいよゴールだな」
「そうだな!」
これからのことを考えるのも大事だが、とりあえずは目の前のことをしっかりこなすべきだな。
俺たちは船着場からアルハンドラ宮殿のある島を目指して渡し船に乗り込んだ。
◇◇◇
俺たちはアルハンドラ宮殿の目の前にたどり着いた。門の前にはいつも通り門番が2人いる。
「ここはアルハンドラ宮殿である!」
「お前たち! 何の要件でここへと来た!」
先に門番の方から話しかけられてしまった。以前とは違う兵士のようだが……常に同じヤツがいるわけないか。
「パトレイシア・クレストから帰還したので、女王陛下との謁見を希望する! 女王陛下の侍女であるシンディ殿が迎えてくれるとのことなので取り次ぎを頼みたい!」
ドンさんが門番に対して堂々と言い放った。あらかじめイーシアから聞いておいた文言をそのまま言ったので大丈夫なはずだ。
「あぁ、お前たちか。少し待っていろ」
片方の兵士が宮殿内へと向かって走っていった。以前に比べて対応が淡々としているのが少し気になるが……そういうときもあるか。
「おい、お前たち……」
残った方の兵士が俺たちに話しかけてきた。何やら神妙な面持ちをしている。ただの世間話って雰囲気ではなさそうだが、何か伝えたいことでもあるのだろうか?
「なんだ?」
俺は残っている兵士の方に振り返ってそう返事した。
「……気をつけろよ」
なんか意味深なことを言っている。気をつけろってどういうことだ?
「それって一体どういう意味……」
「お待たせ致しました」
俺の言葉を遮って誰かが話しかけてきた。少し不快な気分になりながら、そちらの方に振り返ると……
「あんたは、たしか……ソルツ外交武官……?」
そこにはイーシス殿下に付き従っていたドラコニア帝国のソルツ外交武官が立っていた。
「お久しぶりですね」
「あれ? シンディさんが迎えてくれるんじゃ……」
「彼女は少し手が離せないとのことなので代わりに私が参りました。ご案内致します、どうぞこちらへ」
ソルツ外交武官はそう言って俺たちを宮殿内へと案内しようとしている。
『妙だな……』
カバンの中にいるイーシアが訝しげにそう言った。
「……そうなのか?」
『シンディは妾を差し置いて別のことを優先するような者ではない。それにイルシプ人でもない此奴が代わりに来るのはおかしい……』
たしかにイーシアが帰ってきたにも関わらず事情を知るシンディさんが出てこないなんて少し違和感があるな……そして仮に手が離せないとして何でこいつが来るんだ?
「内緒話はその辺でよろしいですか?」
ソルツ外交武官が俺とカバンを交互に見ながらそう言った。……もしかしてカバンの中にイーシアがいるのがバレてる?
「ノヴァスよ、ひとまず行くしかないのではないか?」
ドンさんがそう言う。まぁ、たしかにここで悩んでいても仕方がないか。
「……そうだな。じゃあ案内してくれ、ソルツ外交武官」
「えぇ、お任せを。どうぞこちらへ……」
ソルツ外交武官が宮殿内へと先行する。俺たちは不信感を覚えながらもその後を追った。
◇◇◇
俺たちはソルツ外交武官に導かれアルハンドラ宮殿に入り、そのまま中央の王宮へと足を踏み入れた。そして現在、玉座の間に通じる扉の目の前にいる。
「なぁ、これはどういうことだ?」
俺はソルツ外交武官に思わず尋ねた。ここまで何の説明もなく連れてこられたのだが、何故玉座の間へと案内されたのだろうか?
「私は命令の通りに動いたまでです。……そちらの大きなカバンにはイーシア様が入っていらっしゃるのでしょう? そろそろ出てこられてはいかがでしょうか」
やっぱりバレていたのか。もはや誤魔化しても仕方がないようだな。俺は担いでいたカバンを地面に置いた。その後すぐにイーシアはカバンの中から出てきた。
「……貴様、誰の許しを得て妾の名を口にしている。少々無礼が過ぎるのではないか?」
イーシアは物凄く不機嫌そうだ。
「これは失礼いたしました」
ソルツ外交武官は頭を下げて謝る。その態度はどこか慇懃無礼に感じる。
「……それで? 何故こんな場所に妾たちを連れてきた。大方イーシスの差し金なのだろうが……」
「それはこの先に行けばお分かりになるでしょう。どうぞ……」
ソルツ外交武官はイーシアの疑問に答えることはなく、玉座の間へと繋がる扉を手で示す。さっさと中に入れということか。
「フンッ、その一国の君主に対するふざけた態度……ドラコニア帝国へと正式に抗議するとしよう」
「……チッ、劣等人種が……いつまで女王の気でいる……」
ソルツ外交武官が小声で穏やかではない発言をしたが、聞こえているのは俺だけのようだ。イーシアに聞こえていたらヤバかったかもな……
ここで話していても先に進まないので俺たちは扉を開けて玉座の間へと入った。そして中へと進み室内の中心部あたりで足を止めた。
豪華なシャンデリアに真っ赤な絨毯、正面には巨大な窓を背に一層豪華な椅子……玉座が設置されている。
以前にも訪れた玉座の間であった。ただイーシアと謁見したときとは明確に違うところがある。
まず側面の壁に並んでいるのがイルシプ兵ではなく、ソルツ外交武官と同じような服装のドラコニア兵であった。イルシプ兵も数人混ざっているが、主にドラコニア兵で構成されているようだ。
そして正面の玉座に1人の人物が座している。イルシプの女王のみが座ることを許されたその椅子にイーシアではない人物が足を組んで座っている。その人物はイルシプ人にしては線が細く、どことなく高貴な雰囲気を漂わせる美青年であった。
その青年は冷たい笑みを浮かべて俺たちを見下ろしていた。
「お連れいたしました。陛下……」
ソルツ外交武官が俺たちの前に出て、玉座の方へと向いて跪きそう言った。
「一体どういうことだ……」
イーシアがそう呟いた。目の前の光景が信じられないといった様子だ。ドンさんも困惑しているようだし……かくいう俺も驚いている。だってコイツは……
「ご苦労であった、ソルツよ。……久しぶりだな姉上、ドン、それから……貴様の名は何だったかな?」
青年……イーシス殿下が玉座にて俺たちを待ち受けていたのだ。
まるで自分がこの場で最も偉大な存在……国王であることを誇示するように不遜な態度で俺たちを見下ろしていた。
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