65 超上の戦い
◆◆◆
妾は夢でも見ているのか……
思わずそんな感想を抱いてしまうほどに眼前で繰り広げられている光景は現実離れしている。
「グルルアアアアアアアアアッ!!!」ザシュッバキッグシャッ!!
「……シアァァァァァアァァァァァァ!!!」バキンッズドドドォォォッグシャッ!!
ノヴァスに目を瞑れと言われたので、手で顔を覆い指の隙間からこっそり何が起きるのかを窺っていたのだが……
突然ノヴァスの体が光り輝き、巨大な魔物のような姿へと変貌してしまったではないか!
これがノヴァスの真の姿だとでもいうのか……? ただの人間ではないと思っていたが、まさかこんな正体を隠していたとはな……
その姿形は神話や宗教画に出てくる【竜】に似ている。数々の奇跡や天災を引き起こすという人知を超えた存在という話だが……実在したのか。
元々、変わったヤツだとは思っていたが……これは流石の妾でも想像できなかったぞ。
きっと何かしらの事情があって人間社会に溶け込んでいたのだろうが……こんなことが他の者にバレてしまったら大変なことになるであろうな。この場にいたのが妾と気絶しているドンのみでよかったかもしれぬ。
そして現在竜と化したノヴァスが巨大石像を一方的に蹂躙している。巨大な翼で空中を立体的に高速移動するノヴァスがあらゆる角度から巨大石像を切り裂き、叩きつけ、殴りつける。先程まで追い詰められていたのが冗談だったかのようだ。
巨大石像も負けじとノヴァス相手に反撃を仕掛けている。突如現れた脅威を排除すべく、全力を出しているようだが……今のノヴァスには大して効いているようには見えない。
一方的な戦いのように見えるが、それでも妾のようなただの人間からすれば到底立ち入ることのできない超上の戦いである。ノヴァスの攻撃はもちろん、巨大石像の攻撃を一撃でもくらえば妾などその時点で終わりであろう。
今の妾に許されているのは、目の前の戦いの行く末をただ見届けることだけだ。
「グルルアアアアアアアアアッ!!!」バキンッバキンッバキンッズザザザァァァァ!!
「……シアァァァァァアァァァァァァ!!!」バキッボコッバキンッズザザザァァァァ!!
それにしてもすごい……この広大な地下空間を存分に利用した激しい戦いは目が離せない。無数に天井に伸びていた巨大な柱など戦いの余波だけで軽く砕け散り、手前側は既に更地になっている。
柱だけでなく地面や天井に関しても、ノヴァスが思いっきり踏み込んだり、巨大石像を掴んで投げつけて叩きつけたりした影響で表面は大きく抉れ、壊滅的な状態になっている。
地下空間がいつ崩落してもおかしくないほどに好き勝手暴れている両者だが、時折砕け散った破片がこちらの方にまで飛んできたりもするわけで……
「痛っ!」ゴンッ!
こうして妾のいる所に破片が飛んでくるのでボーッとしていることもできん。ノヴァスがくれたマントが丈夫なおかげで大した怪我もせずに済んではいるのだが……気絶しているドンのことも守らなければならんのでこれが結構大変なのだ。
それにしてもパトレイシア・クレストは未だに謎の多い重要な歴史的建造物であるので、これ以上破壊されるのは……崩落の危険性もあるしな……
「グルルアアアアアアアアアッ!!!」バッゴォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
ぎゃー!? ノヴァスが口からとんでもない熱量のブレスを四方八方に放った! もはやその規模は巨大石像への攻撃のみにとどまっていない。地面に散らばっていた財宝など埋もれたか、破壊されたかのどちらかだな。既に見当たらん。
これ本当に崩落しないよな? というかノヴァスのやつは現在正気なのだろうか……巨大石像を始末した後に妾たちを襲うようなことはないよな? 少し怖くなってきたぞ……
「グルルアアアアアアアアアッ!!!」バッサバッサバッサ
そんなことを考えているとノヴァスが巨大石像の顔面を掴みながらこちらの方に向かって飛んできた。おぉ、妾たちが手も足も出なかった巨大石像があれほどまでにボロボロに……決着の時は近いようだな。
ノヴァスが妾たちの目の前の地面に巨大石像を投げつけた。物凄い破壊音を鳴らしながら巨大石像は地面に叩きつけられた。そしてその際に弾けた破片が妾たちの方に勢いよく飛んできた。
「ぐっ! 痛っ!」ゴンッバキッ!
今のは妾たちに対する攻撃ではないよな……? しっかりと防御の魔道具が作動しているのを確認した上でノヴァスから譲り受けたマントでガードをする。ふぅ……何とか怪我せずに済んだな。
そして目の前で倒れている巨大石像を見遣る。全身ヒビ割れており、所々砕けている。まさに満身創痍といったところか……もはや決着はついたようだな。
妾がジッと見ていることに気付いたのか、巨大石像がゆっくりとこちらに視線を向ける。そういえばこいつは妾を見た瞬間から様子が劇的に変わったようだが……一体何だったのか?
「……イシアァァァ……」
巨大石像は何かを言いながら、倒れた状態で尚こちらの方へ躙り寄ってくる。今にも命が尽きそうだというにも関わらず。
「……レイシアァァ……」
体を無理矢理動かしているせいか、どんどん体が崩れていっている。それでも動くのをやめない。何とか上体を起こした体勢になり、妾たちを……いや、妾を見下ろしている。その瞳に宿るのは……憎悪?
「パトレイシアァァァァァァッ!!!」
最後の力を振り絞るかのようにして、右腕を振りかぶった。こんな状態になりながらも妾を攻撃しようとするか……それにパトレイシアだと? この巨大石像は一体何なのだ……
妾は衝撃に備えて身構える。気絶しているドンを庇うようにマントでガードを……
「グルルアアアアアアアアアッ!!!」グシャッ!!!
だが巨大石像が妾たちを攻撃する前に、上空を飛んでいたノヴァスが急直下して巨大石像を思いっきり殴りつけた。今の攻撃がトドメとなって巨大石像はとうとう全身がバラバラに砕け散った。
「パト……レイシ……アァ……」ズドドドォォォッ
巨大石像は最後までその名を口にしながら……活動を停止した。もうここから蘇るなんてことにはならなそうなほどに体のパーツは損傷している。戦いは終わったのだ。
妾は巨大石像の上に鎮座する竜……ノヴァスに視線を向ける。ノヴァスは何やら驚いた様子でこちらを見ている。正気は保っているように見えるが……
『何故、目を瞑っていない?』
厳かで迫力のある声でそう聞いてきた。
「……す、すまぬな。お主らの戦いの余波でこちらの方にまで石の破片が飛んできたので、それから身を守るのに精一杯だったのだ」
あらかじめ考えていた言い訳を口にする。
『……それならやむを得んな……』
ノヴァスがそう言うと、またしても全身が光り輝き始めた。その巨大な体はどんどん収縮していき、輪郭も人間ものへと変わっていった。完全に動きが止まると光が徐々に弱くなっていき、とうとう収まった。
そこにはいつものノヴァスがいた。
「正体がバレてしまったな」
ノヴァスはバツの悪そうな顔でそう言った。
「あれだけ暴れればな。安心するがよい、言いふらしたりするつもりは毛頭ない。……ドンもちょうど気絶していて見ていないようだしな」
「そっか、それなら別にいいか。あ、ちょっと待ってろ」
ノヴァスが妾たちの方に手のひらを向けた。
「えーっと、【光に命ずる、眼前を、完璧に癒す、輝きとなれ】」
直後、妾たちの体が癒しの光に包まれ、徐々に傷が治っていった。ドンも心なしか顔色がよくなっているようだ。
「お主、こんなにも強力な治癒魔術が使えたのか……」
「もういいかなって。もはやこんくらい出来ても不思議じゃないだろ?」
「それもそうか……それよりもこの巨大石像は一体……何やら【パトレイシア】と言っていたようだが……」
「あぁ、俺が戦っているときもずっと【パトレイシア】って叫んでいたな」
そうだったのか。妾は最後の最後にようやく聞き取れたのだが、戦っている最中も叫び続けていたのか。
「もしかしたら、イーシアとパトレイシア1世を勘違いしていたのかもな」
「それは光栄なのだが……どういうことだ?」
「【パトレイシア1世の悲劇】だっけか? パトレイシア1世の魂がパトレイシア・クレストで嘆き苦しんでいる、とかいう」
「…………」
「パトレイシスはパトレイシア1世にとんでもない恨みを募らせていて、その最期のときまで誰にも理解されずにこの世を去った」
「まさか……」
「あぁ、死んでも死にきれない想いを抱えて怨念としてこの世にとどまっていたのは……パトレイシスの方だったのかもな」
「……妾をパトレイシア1世と勘違いして、なりふり構わず襲ってきたというのか……」
「あくまで妄想だけどな。俺と戦っているときもどちらかというとイーシアの方に常に意識が向いているように見えた。まさに怨念と表現したくなるほどの執着だったな」
「それほどまでにパトレイシスは……」
妾は力が抜けてその場に座り込んでしまった。
あまりに色々なことがあった。それに強い憎悪、殺意をずっと向けられていたせいか少し疲れてしまったようだ。
「こんだけ暴れても崩落しないとはパトレイシア・クレストは凄いな……財宝も瓦礫の下敷きになっちまったし……」
一方、ノヴァスはあれほどの激戦を繰り広げたにも関わらず元気そうだな。疲れている様子は見られず、財宝がないか周囲を見渡している。
「……ん? 何だこれ?」
ノヴァスがそう言って、巨大石像の胸元だった場所に手を突っ込んで何かを取り出した。その手には1冊の本……本の中央部にはナイフが突き刺さっていた。
「…………」パラパラ
ノヴァスが本に突き刺さっていたナイフを引き抜き、中身をパラパラと捲り内容を確認している。そして一通り目を通すと……
「ほらっ」ポイッ
妾の目の前に本とナイフを投げた。
「これは何だったのだ……?」
妾はノヴァスにそう聞いた。
「見ればわかるぞ。俺は少し探検してくるから」
ノヴァスは一言そう言って、さっさと歩いていってしまった。
仕方がないので妾も本を手に取り確認する。かなり古いもののようだ……所々破けて黒ずんでいる。それでも一部は解読できそうだ。
……………………なるほど、やはりそうだったか。
この本……
パトレイシスの手記のようだ。
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