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62 巨大地下神殿 浅層

 オアシス都市・リヴィラから南東方向に少し離れた場所……砂塵吹き荒れる砂漠地帯の小高い丘の上に(そび)え立つは巨大な神殿。



 見上げるほどに高い柱が等間隔に並んで神殿を囲んでいる様は壮大であり、宝物庫でありながら建造物自体が一つの芸術品のように思えてしまう。うまくやればイルシプの立派な観光資源にもなるだろう。観光地にするにはたどり着くまでが少しハードすぎる気もするが……



 内部は石畳が敷き詰められた地面が広がっており、その中心部には地下へと続く大きな階段がある。この階段の先こそが財宝が眠る真の宝物庫となっていることだろう。



 「これがパトレイシア・クレスト……」



 俺たちはこの巨大な建造物……パトレイシア・クレストの目の前にいる。オアシス都市・リヴィラにて必要な準備を済ませ、これから挑もうというところだ。



 「そうだ。とうとうここまで来たか……」



 俺の隣に立つドンさんがそう呟いた。その表情は険しくも、どこか懐かしんでいるようにも見えた。かつての仲間全員を失った場所に一体どんな感情を抱いているのか……それは俺にはとてもじゃないが想像できない。きっと複雑な思いが心のうちを巡っているのだろうな。



 「相変わらず見事なものだ……」



 ドンさんの反対側に立つイーシアはというと……普通に感動しているようだな。俺と似たような反応をしているように思える。



 「イーシアはここに来たことがあるのか?」



 俺はイーシアにそう尋ねた。



 「ん? ……あぁ。リヴィラを公務で訪れる際はここにも立ち寄るからな。ここまで近づくことはなかったがな」



 そうなのか。まあ一応危険なダンジョンってことだし王族が近づくのはよろしくないのかもな。



 「それにしてもこんな場所にこれほどの大きな建物を……しかも地下がメインなんだよな? この世界の建築技術はどうなってるんだよ……」



 首都アルハンドラも凄かったが、これほどの建造物はなかった気がするんだがな……



 「こんなもの……現在のイルシプの最新技術をもってしても造るのは不可能だぞ。パトレイシア1世がどのようにしてパトレイシア・クレストを建造したのかは未だに解明されておらん」



 ロストテクノロジー的なやつか? いや、技術の問題にしても限度があるだろ。もっとなにか人知の及ばない力のようなものを感じるのだが……



 「今気にしても仕方がないか……じゃあ、そろそろ行くか」



 俺が気持ちを切り替えてさっさと内部に入ろうとしたら……後ろから肩を掴まれた。



 「ノヴァスよ、先導はおれがする。お前は最後尾を頼むぞ!」



 あぁ、そういえばそうだったな。先頭はドンさんで最後尾が俺、そして真ん中がイーシアという配置でいくと決めたんだっけ。



 「俺が先頭でもいいけどな」



 その方が安全な気もするが……



 「おれはここを探索したことがあるからな! それにパトレイシア・クレストのようなダンジョンでは案外後ろからの奇襲が怖いのだ……お前だからこそ任せられるというわけだ! 頼りにしているぞ!」



 ほぅ、そういうことなら頼りになる俺が殿(しんがり)をしっかり守ってやろう。



 「フッ……最後尾は任せておけ」



 「お(ぬし)、単純だな」



 イーシアが何か言っているが、どうせ大したことではないだろう。俺は気にしないことにした。



 「じゃあ、先頭は任せたぞ! ドンさん!」



 俺は最も危険であろう先頭を行く予定のドンさんにそう声をかけた。



 「あぁ! 必ず生きて帰ろう……」



 ドンさんもやる気は十分なようだ。今回の挑戦に最も強い気持ちを抱いているのはきっとドンさんだろうしな。



 「うむ! その意気だぞ、2人とも! (わらわ)がしっかりと見届けてやる!」



 イーシアがなんか偉そうに言っている。……だが、案外悪くない。



 最初は連れて行くのが面倒だと思っていたが、こうして女王陛下の鼓舞を直々に受けることができるのなら、それだけで連れてきた甲斐があったというものだ。絶対に守らなければいけない存在でもあるし、2人だけの時とは覚悟の入りようも違うだろう。



 こうして覚悟の決まった俺たちは階段の前まで辿り着き、そのまま階段を降った。



 今まで数々の冒険者を追い払い……葬ってきた……深い闇に包まれた地下空間へと足を踏み入れたのであった。



 ◇◇◇



 「意外と明るいな……」



 俺たちはパトレイシア・クレストの浅層といわれている領域を進んでいる。



 通路は3人並んで歩いても余裕があるほどに広く、壁の模様が視認できるくらいには明るい。迷路のようにいくつもの道に枝分かれしていたり、所々に小部屋があったりと複雑なダンジョンのようだ。



 「実に興味深い……文献や人伝(ひとづて)の情報とはまた違った印象を抱くのぅ……」



 イーシアも周囲を観察しながら歩いている。



 「パトレイシア1世は何のためにこんなのを造ったんだろうな? 宝物庫にしては大袈裟だし、場所もアルハンドラから遠い。権威を知らしめるにしても……やりすぎだろ?」



 まじで意味がわからん。権威というより……気味が悪いんだが……



 「稀代の英傑の成したことだ。……(わらわ)には到底理解できん」



 「パトレイシア1世の気持ちくらい理解できなけりゃ、パトレイシスやイーシスの気持ちも理解できないぞ?」



 「お、おい! そういうのは冗談でも言うんじゃない!」



 「うぉっ!?」



 イーシアが盛大にこちらを振り返って慌てながらそう言った。もちろん冗談のつもりだったが、思ったよりも反応が大きくて俺も驚いてしまった。少し思慮が足りなかったようだな、反省反省。



 「びっくりしたぁ……余所見して大丈夫か?」



 「お(ぬし)がいい加減なことを言うからに……いや、油断しているつもりはないのだぞ。ただな……」



 イーシアがそう言って、前の方を指差す。俺はその指の先に目をやる。



 「うおぉぉぉ! くらえぇっ!」



 「キャウゥゥン!?」バキッ!!

 「ピィェェェェ!?」グシャッ!!

 「ギャァァァァ!?」メキッ!!



 ドンさんが身の丈にも及ぶ巨大な柱のような鉄の棍棒を縦横無尽に振り回しながら魔物を蹴散らしていた。圧倒的な質量による打撃の嵐は魔物からしても恐ろしいようで、意識を失っているやつを除いてどんどん逃げ出していった。



 「あの通り魔物が現れてもドン1人で十分過ぎるようでな。意外と暇なのだ。」



 「相変わらずスゲェな。本当に人間か?」



 俺たちはドンさんの蹂躙劇をしばらく見ていた。



 「なぁ、ドンさんのかつてのチームを知っているよな?」



 俺はイーシアにそう尋ねた。



 「当然だ! イルシプでも名の知れた者たちであったぞ。4人とも恐ろしいほどに強かったと聞いておる」



 「そのチームが1人を除いて全滅するって……改めてこのダンジョンは凄いな……」



 自信満々で来たけど、大丈夫かなぁ……ちょっと不安になってきたわ……



 「そ、そうであるな。……おい、ノヴァスよ。もしかして(わらわ)はとんでもないところに来てしまったのか……?」



 イーシアがちょっと不安そうな顔で聞いてきた。いや、今更かよ……だから言ったじゃん。



 「ふぅ〜、いい汗かいたぜ! ……おーい、2人とも大丈夫かぁ?」



 お、ドンさんが魔物の群れを片付けたようだ。汗を拭いながら手を振ってきた。



 「流石だな、ドンよ! お(ぬし)は本当に頼りになるな!」



 イーシアがドンさんを褒めている。



 「いえいえ、そんな! 女王陛下のことはおれとノヴァスでしっかりお(まも)りするのでご安心を!」



 「おい、その呼び方と敬語はやめよ! 不要だと言ったであろうに!」



 「む、むぅ……慣れぬなぁ」



 ドンさんは自国の女王に対して気軽に接することに慣れないようだな。俺なんかすっかり慣れてしまったがな。イーシアもこの旅の間くらいは対等な仲間として扱ってほしいのか、少しムキになっているようだ。その姿はまるでワガママなお嬢様だな。



 「「「「「ヴゥゥゥゥゥゥ……」」」」」



 そんな2人のやりとりを見ていると、後ろから何かが近づいてくる気配を感じた。振り返るとそこには人間サイズの狼のような魔物の群れがいた。先程ドンさんが蹴散らした魔物の仲間か?



 後ろから不意打ちしようとは卑怯者め……これでもくらいやがれっ! ハム(よし)流奥義! タコ殴りっ!



 ハムハムハムハムハムハムッ!



 「ギャゥゥゥン!?」「キャイン!?」「ギャァァァァ!?」「ギィィィィ!?」「キャインキャイン!?」



 瞬く間に狼の魔物たちがボロ雑巾のように変わっていった。辛うじて意識のあるヤツらは脱兎の如く逃げていった。フンッ! 雑魚め……



 「ふむ……流石はノヴァス! おれなど足元にも及ばぬな!」



 「お(ぬし)も大概ではないか、ノヴァスよ」



 数が多くて面倒そうだったからハム(よし)の必殺お仕置き技を使ったのだが、2人にはバッチリ見られてしまったな。



 「俺も頼りになるだろ!」



 まぁ別に見られて困るもんでもないし、開き直ってしまおう。



 「あぁ、安心して背中を任せられるというものだ! 今度おれにもその技を伝授してくれ!」



 「(わらわ)の出番は当分なさそうだな」



 ふむ、いつかドンさんをハム(よし)の更生施設に招待できたら面白いかもな……それとイーシア、本来お前の出番なんてない方がいいんだぞ?



 浅層程度では俺たちの行く手を阻むことは出来ないようで、その後も魔物を蹴散らしながら順調に進んでいった。



 ◇◇◇



 「ここまで辿り着いたか……」



 先頭を歩くドンさんがそう言って立ち止まった。前の方を注視すると、そこには下層へと続く階段があった。今までも階段はいくつか降りたと思うのだが……



 「その階段がどうかしたのか?」



 俺はドンさんに尋ねた。



 「ん? あぁ、あの階段が深層の入り口なんだ。浅層とは雰囲気がまるで違うからな。……よしっ! あそこの前で休息をとろう!」



 なるほど、そういうことか。深層はたしかドンさんのかつてのチームでも進むのに苦労した領域だったよな。お気楽気分もここまでかな?



 俺たちは階段の目の前にまで辿り着いた。



 「それにしてもここまで随分早く到着したような気がするぞ?」



 イーシアが地面に座って水を一口飲んでからそう言った。たしかにそうだよな。いくら魔物との戦闘が順調とはいえ、数日かけて進む予定だと思っていたんだが……



 「ここまでの道のりは頭に入っているからな! それに浅層では危険な罠もない。順調に進めばこんなもんさ!」



 流石はパトレイシア・クレスト経験者といったところか。頼もしい限りだ。



 「ただ……深層からはこうはいかないだろう。……イーシア、ここまで連れてきておいて聞くのもなんだが……本当についてくるのか?」



 ドンさんが真剣な表情でイーシアに確認した。



 「あぁ、それでも頼む。この通りだ」



 イーシアがそう言ってドンさんに頭を下げた。



 「なっ!? ちょ、頭を上げるんだ!」



 ドンさんが面白いくらいに慌てている。王族に頭を下げさせるなんて、ドンさんもなかなかやるな。



 「王族に頭を下げさせるなんて、ドンさんもなかなかやるな」



 「ノ、ノヴァスッ!? 人聞きの悪いことを言うなっ! ……イーシア、わかったから頭を上げてくれ!」



 おっと、心の声が漏れてしまったようだ。



 「迷惑をかける。ノヴァス、其方(そなた)にもな」



 イーシアが今度は俺の方に向き直った。



 「安心しろ。イーシアが何でもしてくれるってことだしな。だから俺には頭を下げなくていいぞ」



 「おい、ノヴァス……おれだって不本意だったのだぞ……」



 ドンさんが何か言っているが……うん、どうでもいいな。



 「あぁ、その通りだ! ドン、もちろんお(ぬし)もだ! (わらわ)に出来ることなら何でも言うがいい!」



 「むぅ、そう言われてもなぁ……あ、それならこういうのはどうだろうか……」



 ドンさんが俺に聞こえないくらいの小声でイーシアに何かを伝えた。



 「その程度でよいのか? お(ぬし)は本当に無欲なヤツよなぁ」



 「そうか? こんなこと、普通はいくら金を積んでも叶えられるようなことではないと思うがな……」



 おい……一体何を頼みやがった。この筋肉野郎、まさか……



 「おい、スケベ筋肉」



 「…………」スーン



 あ、無視された! ちょ、ごめんて。まさか筋肉という単語にすら反応しないとは……あまり女王陛下関係の冗談は言わない方がよさそうだな、気をつけよう……



 「お(ぬし)は何を言っておるのだ…本当に子供のようなヤツだな……まぁよい。ノヴァス、お(ぬし)も何か考えておくのだぞ」



 イーシアが呆れたような表情で俺にそう言った。



 うーん、まあそういうことなら何かしら考えておくことにしよう。なんてったってイルシプの最高権力者なんだもんな!



 「考えておくよ……そうだ、イーシア……これ着ておけ」バサッ



 俺は自分の着ていたマントを脱ぎ、イーシアに投げ渡した。



 「おっと、これは……?」



 「俺のマントだ。素材は秘密なんだが……結構丈夫でな。それ着とけば多少は防御力が上がるだろ」



 これはローブを作るときについでに一緒に作ったマントだ。俺の鱗や牙を素材に作り出したから、多少の攻撃は防げるはずだ。イーシアを死なせたらイルシプが混乱しそうだし念には念をな。



 「ふむ、なんとも不思議な……ありがたく頂戴しておこう」



 え、一時的に貸すだけのつもりだったんだけど……まぁ、いいか。貴重なもんでもないし。



 「そう言えばここまでまったく財宝を見かけなかったな。イーシアはパトレイシア1世の財宝も目当てなんだっけ? 依頼出してたよな?」



 「あれは代々受け継がれるイルシプ王家の伝統のようなものだ。まぁ、気になるものもあるのだがな……」



 ふぅん、たしか財宝を回収できた者は女王陛下との謁見も許されている、だったっけな? 俺の場合、女王陛下とは謁見するどころか一緒に旅をする仲になってしまったので依頼については正直どうでもいいんだが……少しは気にしておくか。



 「2人ともしっかりと体を休めておけよ! ここから先はいつ休息をとれるかわからないからな! 最初は俺が見張りをしておくから仮眠しておくといいぞ!」



 「そういうことならしばらく見張りを任せるぞ、ドンよ。……ムニャムニャ」スースー



 イーシアが一瞬で眠りについた。すげぇな、この女王様。こんな環境でも寝ることが出来るとは……これが一国の王の胆力か……俺が渡した最強のマントを掛け布団にしてスヤスヤしてるよ。



 さて、俺も少し休むとするか。




 俺は仮眠する前に一度、目の前の階段に視線を向けた。




 階段の先は真っ暗で何も見えないな。




 まぁ、関係ないか。やるべきことは変わらない。




 俺は特に気にすることもなく、体を休めるため硬い地面に横になり……そして目を(つぶ)った。



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