61 オアシス都市
オアシス都市・リヴィラ……そこは厳しい砂漠地帯の中にポツンと存在する、憩いの場所。
街の中心部には巨大なオアシスが形成されており、その周囲を囲うように都市が展開されている。十分な水源があるためか農業も可能なようで、さらに南北の通商路の中継地点としての役割もあるためか人々の行き交いも盛んなようだ。
砂漠地帯のど真ん中にも関わらずこんなにも都市が発展しているなんて無学な俺からしたら違和感を覚えてしまうのだが、これから国内最高難度のダンジョンに挑むということを考えると都合がいいので考えないことにした。多分いい感じに地下水脈から湧き出ているんだろう。
それにオアシス都市自体訪れるのは初めてではない。きっと広大な砂漠地帯を有するイルシプ王国では珍しいものでもないんだろう。俺は特に感慨を抱くこともなく、商隊連中と共に都市内へと入った。
その後は商隊と別れ、俺とドンさん、イーシアの3人は教会に寄っていつものルーティンをこなし、現在はリヴィラの教会前の大通りにてこれからの行動について話し合おうとしているわけだ。
「さてと、この後はどうする?」
俺はドンさんにそう話しかけた。こういうときは基本的にドンさん頼みなのでこれが1番早いのだ。
「うむ、まずはパトレイシア・クレストに潜るための準備が必要か……それから宿も取らなければならないな……どうだ? 試しにここは二手に分かれてみるか?」
「いや、3人だぞ?」
二手に分かれること自体は効率的な気もするが……
「おれが諸々の準備を済ませておこう! ノヴァスとイーシアは宿を探してくれ! ……ゆっくりと時間をかけてもよいのだぞ?」
ドンさんが下手くそなウインクしながら親指を立てたグッドポーズをむけてくる。この筋肉ムキムキ野郎はいつまで勘違いしてやがるんだ……いい加減腹立ってきたな……
「余計なお世話だぞ、筋肉ムキムキ野郎」
「ハッハッハ! そんなに褒めるな!」
うぜぇ……
「よく分からんが、準備に関してはドンに任せるのがよいであろう。その後に妾たちが確認すれば事足りる。……それではノヴァスよ! 妾たちは宿を探しに行くぞ!」
イーシアが俺のマントを引っ張ってくる。ちょ、やめろって。
「えぇ……宿もドンさんがとってこいよ。俺たちは後ろからボーッとしながら着いていくから」
「ハッハッハ! 遠慮をするな! 各々やることを終えたらここで待ち合わせとしよう! ……それではまた後でなっ!」スタスタ
そう言ってドンさんはさっさと大通りを歩いて行ってしまった。
「ほら! 何をしておる! 妾たちも行動を開始するぞ! あちらの方に宿がありそうだ! 早く行くぞっ!」
イーシアが急かしてくるので、俺も大人しく指示に従うようにしよう。
そもそも彼女を連れてきたのは俺だし、お守りもすると言ってしまったしな。
俺たちは宿が展開されていそうなエリアを目指して大通りを歩き始めた。
◇◇◇
俺とイーシアは適当にリヴィラ内をブラブラしながら宿を探していた。
「食べ歩きもたまには悪くないのぉ」ムシャムシャ
「そうだね」ムシャムシャ
屋台で売っていた鳥肉の串みたいなやつを食べながら歩いているのだが、これがなかなかどうして美味いから困る。
どう考えてもドンさんの方が時間がかかるだろうし、急ぐこともないと思ってのことだ。決してサボっているわけではないのだ。
「この肉はデザートピジョンといってだな! イルシプ人は皆コイツを食べて育つのだ!」
イーシアが肉について教えてくれる。この鶏肉はデザートピジョンというのか。塩味が効きすぎてる気がしないでもないが、ワイルドな料理と思えば悪くない。
そういえばラージイーグルも鳥だよな……
「デザートピジョンかぁ。ラージイーグルとどっちが美味いのかなぁ」
俺たちが捕まえた雛ラージイーグルは元気だろうか? アイツも小さかったけど美味そうだったよな……じゅるり
「お主、ラージイーグルなんて食べるのか……? やめておけ、あんなの固くて食えたものではないぞ」
「そうなの?」
「あぁ、やつらはその高い飛行能力を維持するために筋肉が発達しておるので不味いと言われておる。そもそもあんなのを狩って食べるくらいなら、他の魔物の方がよっぽど狩るのが楽で美味いだろうに」
ふぅん、まぁ俺の強靭な顎をもってすれば関係なさそうだけどな。いや、むしろ調理方法さえ工夫すれば美味くなるポテンシャルすらあるのではないか? 誰も見向きしていない今こそがチャンスかもしれない……
「魔物食……可能性しか感じない……」
「お主は本当に変わっておるな……」
俺には帰らずの森で多種多様な魔物を踊り食いした経験があるが、あくまで栄養補給の一環であったからな。今度からもう少し視点を変えて魔物を食うことを意識するべきか。
「まぁ既に研究しているやつもいるかもしれないがな」
「ふむ、中央大陸にある五大帝国の一角であるオルドレイク帝国は芸術や文化の最先端の地と言われておる。たしか美食の都と言われている街があったはずだ。そこにならあるかもしれぬな」
それは興味深いな。今までも何回か耳にする機会があったが、この世界では中央大陸の五大帝国というのが先進国代表らしいな。この世界を堪能するにはそこに行く必要があるみたいだな。
「いずれは中央大陸にも行ってみたいな」
たしかヴェルダーン帝国には竜がいると噂のダンジョンもあったよな? そしてこのイルシプの治安を脅かしているドラコニア人がいるドラコニア帝国があるのも中央大陸だな……
「フフフ、羨ましいぞ。妾は公務でもなければ外国に行くことなど滅多にないからな」
それもそうか。女王陛下なんだもんな。今回の旅は国内だからまだしも、外国となるとこんな無茶は出来ないだろう。そう考えると可哀想かもしれないな。
「それなら退位したら俺が世界一周の旅にでも連れていってやろうか? 今回みたいにこっそりと抜け出して」
俺の背にでも乗ればこの世界くらいすぐに回れるのではないか? まぁそんなことしたら目立ちすぎて旅どころじゃないかもしれないがな……
イーシアの方を振り返ってみると、なにやら狐につままれたような顔をしている。流石に突拍子なさすぎたか?
そう思っていたら、イーシアの表情が徐々に笑顔に変わっていき……
「フフフ、その言葉……忘れるでないぞ……?」
悪戯っぽい笑顔でそう言った。
女王陛下直々のご命令だ。しっかりと遂行せねばな!
「まぁ仲間外れは可哀想だからイーシスの阿呆も連れていってやるか?」
アイツも一度、世界を見て自分の視野を広げてもよさそうだ。いや、でもイーシアが退位する頃になってもあんな感じだと少し困るか……
適当に提案してみたのだが……
「フフフ……アハハハ! それはよい! 是非頼むぞ!」
俺の言葉に耐えきれないといった感じで大声を上げて笑い始めた。
俺には姉弟間の問題についてよく分からないが、何かが琴線に触れたようだ。
今は難しい関係のようだが……いつか分かり合える日が来るといいね。
◇◇◇
「宿はここでいいか?」
「うむ! 問題ないであろう!」
俺とイーシアはとある宿の目の前に立っている。
あれから本格的に宿を探し始めたら近くにいい感じのところを見つけたのでそこに決めようとしているところだ。
高級店ではないが建物は清潔に保たれており、大きさもそれなりの規模である。イーシアも女王として来ているわけではないので、ここでも十分だろう。
さっそく店内に入って部屋をとってしまおう。俺は宿の扉に手をかけた。
バタン
「お邪魔しまーす」
宿の中に入ると目の前には受付カウンターがあり、そこには1人のイルシプ人が頬杖をついて船を漕いでいた。何寝てんだよ……
ただ、建物内は掃除が隅まで行き届いていて綺麗である。冒険者が常用するような宿であるのに、常にこの状態を保っていると考えると好印象だ。
「ちょっといいか?」
俺は受付で寝ている男の肩を揺らして起こそうとする。
「んあ……? 何だ客か……何か用か?」
受付の男は目を覚ますと特に悪びれる様子もなくそう言った。こいつ客商売舐めてんのか?
「ここ3人で泊まりたいんだが、部屋は空いてるか?」
俺はできるだけ平静を装って、用件を伝えた。せっかくの客なんだからあんま無碍にすんなよ? ここ交易の要衝なんだからな。
「おぅ! 部屋なら空いてるぜ! 泊まるのはそこの2人と……もう1人は誰だ?」
「イルシプ人の筋肉マッチョだ」
「なるほどな。それなら1泊1人大銅貨5枚だ! 良心的な値段だろぅ?」
良心的かどうかは知らんが別に払えなくないので、俺は懐からルハーム銀貨1枚とルハーム大銅貨5枚を取り出して受付カウンターに置いた。これで宿は大丈夫だな。
「おい、これじゃ足りねぇぞ?」
受付カウンターの上に置かれた硬貨を見て、受付の男はそう言った。
「あれ? 計算間違っていたか?」
「違う、違う。お前、中央大陸人だろ? 大銅貨5枚はイルシプ人料金だ! お前は銀貨1枚だ!」
え?
少し驚いてしまった。この世界に来てここまで露骨に差別を受けたのは初めてだ。俺は少し固まってしまった。
「えっと、何で?」
一応、聞いておこうか。俺が何か気に触ることをした可能性もあるからな。
「あぁ、悪く思わないでくれ。ここ最近は態度の悪い中央大陸人が増えていてなぁ……先日もこの宿の設備を破壊したやつがいるんだ。全員が全員悪いんじゃないのはわかっているんだ……おれとしても苦肉の策なんだがな……」
俺が悪いわけではなかったので少しだけ安心したが、それにしてもイルシプ内の治安悪化はこのレベルまで来てるというのか。文句を言うのは余計印象を悪くするだけか。
「まぁ俺は中央大陸人ではないんだが…そういうことならわかったよ。……これでいいか?」
俺は言われた通りの額を改めて手渡した。
「お前はこの間のやつらとは少し違うみたいだな……すまねぇな。一時的な処置にしたいもんなんだがな。ったく女王陛下は何してるんだかな」
受付の男が手で受け取り、確認してからそう言った。
おっと、それはやめておけ。今お前の目の前にいるの……女王陛下だから。俺は後ろを振り返ると、そこには少し複雑そうな表情のイーシアがいた。
「すまぬな、宿屋の旦那よ」
イーシアが一歩前に出てそう言った。今は女王として来ているわけではないのだが、言わずにはいられなかったのかもしれないな。
「ん? 嬢ちゃんが謝ることじゃねぇよ。……って、めちゃくちゃ可愛いな! この娘! しかも物凄い高貴なオーラを感じる……! ……おい、兄ちゃん! その娘の料金は無料でもいいぜ!」
こいつ、この適当な経営でこれまでよくやってきたな。案外、ここで暴れたやつらも被害者だったり……それはないか。
これに対して肝心のイーシアはというと……
「いや、適正な価格を支払おう。だからお主も、人種で値段を区別するようなことをやめてくれたら嬉しく思う。仲間がそういった扱いをされるのは心苦しいのでな」
力ない笑みで、だがハッキリとそう言った。
「……それもそうか。すまねぇな、兄ちゃん、嬢ちゃん。おれも少しムキになっていたようだな。やっぱり大銅貨5枚でいいぞ。……それにしても嬢ちゃん、あんた何者だ? 嬢ちゃんの言葉は妙に心に響いたぞ」
まさか、イーシアの言葉一つでここまで態度が変わるとは。このふざけた男の変わりようを見るに、イーシアはその身分を隠していても女王としての威光までは騙せていないようだな。
「礼を言うぞ。……今はただの冒険者のようなものだ。気にするでない」
俺たちは適正な料金を支払って宿をとることができた。それではそろそろドンさんと合流しようか。
俺たちはドンさんとの待ち合わせ場所を目指して、宿を出発した。
◇◇◇
ドンさんとの待ち合わせ場所までの道のり……
「ノヴァスよ、すまなかったな……」
イーシアが少し落ち込んでいる。
「別にイーシアが謝ることじゃないだろ」
こんな民間の問題にまで責任を感じられても……
「いや、この現状は妾にも責がある。おそらくイーシスが進めている政策によるものだと思うのだが……今まで碌に干渉してこなかったことがこのような形で……決めたぞ、ノヴァス。妾はアルハンドラに戻ったら一度イーシスとしっかりと腹を割って話そうと思う!」
イーシアが決心のついたような顔で宣言した。どこか緊張しているようにも感じるが。
「イーシスの野郎が素直に応じればいいけどな」
この国の古い考えが一因だったとしても、あいつは既にかなり捻くれているようだしな。
「いや、今回は妾も逃げずにしっかりと向き合おうと思う。思えば今までイーシスには……対等な存在として接したことがなかったのだ……イーシスの尊厳をさぞ踏み躙っていたことだろう……わかっていたのだ……」
「まぁ、あまり思い悩むなよ? アイツにだって直すべきところはあっただろうし。そこも含めてしっかり話し合えばいいだろうよ。らしくないぞ?」
人並みな意見しか言えないのが申し訳ないな。
「ありがとう……」
「そんな調子で大丈夫か? パトレイシア・クレストは危険なダンジョンなんだからな。しっかりと切り替えないと同行を許さないぞ?」
ただでさえ辛気臭そうなダンジョンらしいからな。どうせなら元気な姿を見せてくれた方が気が紛れるというものだ。
「……フフフ、言うではないか。そうだな、ドンと合流するまでの間には整理をつけておく」
「おんぶしてやろうか?」
「それは別の機会に頼むぞ……」
その後、俺たちはリヴィラの教会前でドンさんと合流した。流石はベテランというべきか、準備は万端のようだ。ここからダンジョン内での立ち回りや物資の管理について細かい打ち合わせをしていくことになりそうだ。それが全て完了したら……いよいよパトレイシア・クレストだ。
ここまでとても長かったように感じる。正直大丈夫だとは思うが、油断しないよう気をつけねばな!
待っていろよ、パトレイシア・クレスト。
お前はイルシプ最難関のダンジョンかもしれないが……俺は帰らずの森の支配者だ。
怨念だかなんだか知らんが……俺を止められると思うなよ!
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