60 女王との旅
俺とドンさん……そして新たにイーシアを加えたチームが結成されてから数日が経った。
もはや首都アルハンドラに引き返すという選択ができないくらいには離れたことだろう。
城塞都市カーメリアからアルハンドラまでの道のりも厳しい砂漠地帯だったが、オアシス都市リヴィラまでの道のりの方がより険しいように感じる。
肌に突き刺すような日差しはもちろん、むせ返るような熱気に、一面に広がる砂漠という不安定な足場……
商隊の連中は慣れているのだろうが、それでもこの一帯を通ることが大変なことに変わりはない。皆必死な表情で懸命に歩を進めている。
ドンさんは相変わらず元気そうだがな。なんならラージイーグルの鳥籠がない分、その歩みは弾んでいるかのようだ。化け物め……
一方のイーシアはというと……
「暑いのぉ……あぁ、ノヴァスよ、あまり揺れるでない。揺れが強いと妾も酔ってしまう。それに縦に揺れると体力を消耗してしまうぞ?」
何故か俺の背中におぶさっている。
「あぁ、すんません……」
途中までイーシアも普通に歩いていたのだが、急に俺の背中に飛びついてきておんぶせざるを得ない状況になり、そのまま現在に至るのだが……
「えっと、俺は何でおんぶしてるんですかね?」
一応聞いておこう。俺だから大丈夫だったが他の人だったらブチギレてもおかしくないだろうしな。……まぁ、背中に伝わる感触や匂いを手放すのが少し惜しかったのでそのままにしたというのは内緒だ……
「ん? お主がこの環境においてもかなり余裕そうであったからな。そうであるなら妾を運ぶくらい造作もないと思い、半ば悪ふざけで飛び乗ったのだが……本当に余裕そうだな……?」
いや悪ふざけって……この女王様なかなかにぶっ飛んでいるな。いくら俺が余裕そうでも普通はそんなことやらないだろ……
「悪ふざけなら降りてくださいよ……それにドンさんだってめっちゃ元気で体力有り余ってそうですよ? あっちに乗り換えては?」
ドンさんはカーメリアからの長い道のりをラージイーグルの鳥籠を担ぎながら踏破した猛者だからな。
「お主は何を言っておる。妾はこれでも王族の淑女であるぞ。むやみに異性と肌を触れ合わせていいはずがあるまい」
随分お転婆な淑女だな。宮殿を抜け出してこんなところまで来ておいて何を言っていやがる……って、そんなことよりも……
「俺も男なんですけど……?」
そう言えば俺が寝ている布団にも侵入していたよな?もしかして俺のこと好きだったりして……
「それが妾も不思議なのだが、お主からは……何というか……そうだ! ペットのような安心感を抱くのだ! 子猫や子犬相手にはオスかメスかなど関係ないであろう? それと同じだ! なんとも不思議よなぁ?」
おい、男として見られていないどころか人間として見られていないのはどういうことだよ。俺の人化に抜かりはないはずなのだが……
「あぁ、それと敬語はやめろと言ったであろう。正体を隠しているのでな。次敬語を使えば不敬罪でお主を捕らえるぞ」
敬語を使えば不敬罪になるって斬新すぎるだろ。次からは気をつけることにしよう。
「わかったよ……それにしても宮殿の方は大丈夫なのか? 流石にずっと体調不良で通すわけにもいかないだろう?」
むしろ体調不良が続くようであれば国が混乱するんじゃないのか?
「それなら大丈夫だ! シンディがいるからな!」
イーシアが自信満々といった感じで言い放った。
「いや、侍女1人でどうにかなるのかよ……」
「あまり詳しくは言えないのだがな……シンディには魔道具で妾に変装してもらっているのだ。それにシンディは優秀だからな! 今まで1回もバレたことはないぞ!」
変装の魔道具か。それはまた随分便利なものがあるんだな。1回もバレたことがないなら確かな精度なのかもしれない。
「……って、こうして抜け出すのは今回に限った話じゃないのかよ?」
「まぁ、たまにだがな! こっそり宮殿を抜け出して街を探検したり、冒険者として活動したり色々なことをやったもんだ! ……ほれっ。これはそのときの冒険証石だ」
そう言ってイーシアが俺の顔の前に紅色の石がついた冒険証石を持ってきた。
「これ、たしか……紅の冒険証石だよな? 結構なベテランじゃないか……」
「フフフ、それほどでもない。流石に上級冒険者以上になると目立ちすぎてしまうのでランクは紅どまりだが……そうだな、実力に関してはお主が宮殿内の演習場で手合わせをした2人にも負けないと思うぞ?」
それはすごいな……あいつらはイルシプ兵の中でも精鋭だったはずだ。そんなやつら相手に負けないって相当な手練れじゃないか?
「王族たる者、幼い頃から鍛錬を欠かさずにいたのでな! ……我が国の始祖であるパトレイシア1世はその腕っぷしでイルシプをまとめ上げた女傑だ! 妾を含めたイルシプ人の女全員の憧れの対象であり、少しでも近づこうと努力しておるのだ! イルシプの女は頼りがいがあるぞ?」
そう言えばイルシプ王国の成り立ちってそんなだったな。俺が今まで出会ったイルシプ人の女性といえばカリンさんにシンディさん、そしてイーシア……たしかに皆頼りがいがありそうだな。
「へぇ〜、それならイーシスは王族のくせに碌に訓練もせずにいたからあんなにもヒョロヒョロだったのか」
「……イーシスは仮にも妾の弟であるぞ? まぁ、無礼な振る舞いをし始めたのはあいつからだから仕方がないが……あまり悪く思わないでやってくれ」
おっと、弟の悪口を面と向かって言うのは配慮がなさすぎたか。反省しなくては。
「イーシス殿下も苦労してるんだっけ?」
「謂れのない妄言を幼い頃から受け続けておるのだ。それに加えてイルシプ人にしては体も弱くてな。常に周囲からは煙たがられていたのだ。あのように振る舞うことで自分を守る防壁としているのかもしれん」
たしかに俺から見てもイルシプ人ってのは筋肉バカで豪快で快活な印象だが……そうではない人だっているのだろう。それに結構鈍感というか細かいことを気にしないように感じる。イーシス殿下のような人からしたら、さぞ苦手な部類だろう。
「そうだなぁ……」
なかなか大変そうだなぁと俺が考えていると……
「盗賊が現れた! 総員、戦闘準備ぃ!」
そんな掛け声が耳を打った。場の空気が一気に引き締まったように感じる。どうやら盗賊が発生したようだな。いくら大人数で商隊を組んでいても襲ってくるやつは襲ってくるようだ。
先ほどの掛け声はドンさんのものだな。この商隊の護衛は銀であるドンさんがすっかり掌握しているようで無駄のない指揮をとっている。流石はチームリーダーを務めていただけのことはあるな。
「ノヴァスよっ! 女王へ……ゔぅん! イーシアをしっかり守るのだぞ!」
ドンさんが俺の方に振り返ってそう言った。うっかり女王陛下って言いかけていたな……危ねぇな……
「今更なんだが、イーシアって呼ぶのは大丈夫なのか?」
ドンさんがデカい声でその名前を叫んだことで不意に気になったので背中のイーシアに尋ねる。
「うむ、問題ないであろう! イーシアなんてイルシプでは珍しい名前でもないからな! それだけで妾と女王を結びつけることはないはずだ!」
そういうもんなのか。本人が大丈夫と言うのならきっと大丈夫なんだろう。俺は盗賊がいる方に注意を向ける。一応、ドンさんに任されたからな。しっかりと守り抜かなければな。
「イーシアだと……? ……あ、あれは!? おい! あの女を捕らえろっ!」「アイツが目当てのやつか……?」「捕まえれば一生遊んで暮らせる金が手に入るぞ!」「あの男をぶっ殺せっ!」
ん〜? なんか俺たちの姿……主にイーシアの姿を確認した瞬間に血相を変えてこっちに向かってきたぞ。
「なんかバレてね? どう考えてもあんた目当てのようなんだが……」
「むぅ、おかしいのぅ。そんなはずはないのだが……おそらく女だからであろう! このイルシプで女を舐めるとは他所者のようだが……命知らずであるな!」
そうしている間に数人がこちらまでたどり着いた。今回の盗賊は規模がデカいようだな。
「男はぶっ殺していいよな!」「当たり前だ! 女だけでいい!」「運が悪かったなぁ!」
仕方がない……俺も手を貸すことにしよう。
くらえっ! パンチ! パンチ! パンチ!
「ぐはっ……」「おえっ……」「かはっ……」ドサドサドサ
もはやお前らとの戦闘など細かく描写するまでもねぇ!
俺はあっさりと盗賊を撃退した。周囲を見渡すと他のところもあらかた盗賊は制圧できたようだな。盗賊の拘束や積荷等の確認をし始めている。
「ノヴァス! 大丈夫かっ! ……って人をおぶった状態で盗賊を無力化するとは……! 流石だな!」
「うむ! 流石は妾が認めた男だ!」
ドンさんが慌ててやってきたが俺たちを見て安心したようだ。すぐにぶっ倒れてる盗賊を拘束し始めた。イーシアに関しては盗賊が目の前まで来たってのに俺の背中から降りようともしなかった……それほどまでに信頼されているということなら悪い気はしないがな……
「イーシア、降りる素振りくらい見せたらどうだ……?」
別にあれくらい大丈夫だけどさ……
「フフフ、すまないな。だが、妾は今いくつもの魔道具を身につけておるのだ。耐毒や防御結界といった効果のな。妾を背負うだけで恩恵に預かれるものもあるぞ?」
ふぅん、そうだったのか。あれか? 女王ともなると警戒する場面は多くなるだろうから、その対策として身を守る魔道具が必要になる、みたいな。
「一応、そういう対策をしているんだな。まぁ降りてもらった方が全然楽だけどな」
「つれないやつよなぁ。……これからパトレイシア・クレストに行くのだ。最大限の準備はしてきたつもりだ」
話を聞いた感じ最低でも中級冒険者上位程度の実力はあり、魔道具で身を固めている、と……
思っていたよりも女王陛下を守るのは大変じゃないかもな。嬉しい誤算だ。
「ここでは少し目立ってしまうからな……妾の実力はパトレイシア・クレストでお見せすることにしよう……!」
そいつは楽しみだな。深層まで行ったらそんな余裕はなくなるかもしれないが、浅層では大いに活躍してもらうことにしよう。
「それならパトレイシア・クレストではたくさん働いてもらうか!」
「フフフ、それでは着くまでの間はお主が思う存分働くといい! ……それにしてもお主の背中は乗り心地がよいな……どうだ? この旅が終わったら妾の護衛兼乗り物として仕えるのは?」
ふむ……この美しい女王のペットとなるのも一興か……いや、森の魔物やアルに顔向けできないな……惜しいがやめておくことにしよう。
「魅力的な提案だがやめとくよ。ま、この旅の間くらいはそれでもいいけどな」
「フフフ……フハハハハ! 本当に愉快なやつよなぁ」
なんか楽しそうにしている。よくわからんが女王様のツボにハマったらしい。やはり俺の体から溢れ出るユーモアが……って、なんかドンさんが満足そうな顔でこっちを見ている。なんだよ?
「ほほう、なんとも仲のいいことだ! これは女王陛下に春が来る日も近いかもしれないな……」
うん、なんか盛大に勘違いしているようだ。仲良さそうに見えるかもしれないけど、俺さ……ペット扱いなんだぜ?
その後の道中でも盗賊に襲われるといったトラブルはあったが大事になることはなかった。
俺たちは商隊とともにオアシス都市リヴィラに向けて確実に歩みを進めていったのだ。
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