59 いざ南へ
「ドン殿! ノヴァス殿! もう行ってしまわれるとは残念ですなぁ!」
「ルサール殿! わざわざ街門までお見送りしていただけるとは! 感謝します! なぁ、ノヴァスよ!」
「うん……そうだね……」
イーシア2世に無茶なお願いをされた夜から数日後、俺とドンさんはオアシス都市・リヴィラに向かうためアルハンドラ南部の街門を目指して歩いている。……流石にあの後速攻出発とはいかずに準備に数日を要したのだ。
現在、ルサール侍従長が俺たちをご丁寧にお見送りしてくれるということなのでアルハンドラ南部の街の大通りを3人で並びながら進んでいる。
「それにしてもノヴァス殿! あの歓迎会からイーシス殿下には何かされませんでしたか? かなり揉めていたようなので」
ルサール侍従長がそんなことを聞いてきた。
「あぁ、特に何もなかったよ」
殺してやる! と面と向かって言われたが、特に身の危険を感じるようなことはなかった。まぁ、宮殿内でたまたま顔を合わせたときは睨みつけられたり舌打ちをされたりと悪感情はぶつけられまくっていたがな。
「それはよかったです。女王陛下もお2人のことを心配されていたので、ご安心されることでしょう!」
「そうだね……」
「ところでルサール殿、女王陛下は大丈夫なのですか? 昨晩から体調が優れないということだったので……」
実は女王陛下は謎の体調不良に襲われて自室に篭っているようで、結局俺たちはお別れの挨拶ができなかったのだ。
「心配いりません! 女王陛下は普段から元気すぎる方なのでな! たまには寝込むくらいで丁度いいでしょう! シンディも付きっきりで見ているようですしな!」
「それもそうですね!」
「…………」
シンディさんも付きっきりで看病をしているほどに寝込んでいるということなので仕方がないのだ……うん……
ゴンッ
ぼーっとしながら歩いていたら、1人のガラの悪い男とすれ違いざまに肩がぶつかってしまった。
「痛ぇなぁ……どこ見て歩いていやがる!?」
「ん? あぁ、すまん」
「謝ればそれで済むと思ってんのかぁ? ……ってこの2人でけぇな……ケッ……気をつけやがれっ……」
因縁をつけられそうになったが、ドンさんとルサール侍従長にビビったようで大人しく引いていった。
「それにしてもアルハンドラでも中央大陸人が増えましたね……活気があるのはいいことですが、どうにも治安が……城塞都市カーメリアの方でも難民崩れのチンピラや盗賊が増えているのですが……ルサール殿は何かお知りで?」
ドンさんが逃げて行く男の背中を見ながらルサール侍従長に話しかけた。
「イーシス殿下がドラコニアの外交官と懇意にしていたでしょう? 何やら交渉事があったようで、それが関係しているのかもしれませんな……イーシス殿下にその件についてそれとなく尋ねても『貴様には関係ない』の一点張りで……」
イーシス殿下って……そんな国ぐるみの政策だったの? だったら普通に失敗のように感じるけどな。一体どんな密約がされたのか……
「女王陛下はそれについて追求しないのか?」
俺はルサール侍従長に聞いた。イーシス殿下が暴走しているのなら最高権力者であるイーシア2世の出番だろうに。
「あの姉弟も複雑な間柄なのでな……それにドラコニアとの関係を一任した手前、干渉するのは憚られるというもの。なかなか難しいのでしょう!」
「ふぅん、使えないな」
ガタガタッ
「ノヴァス! 滅多なことを言うんじゃない!」
ドンさんに強めに注意された。俺の発言は王族批判みたいなものだし、ルサール侍従長のいる前で言うことでもなかったか。まぁ、本気で言っているわけじゃないから安心してくれ。
「それにしてもノヴァス殿、ずっと気になっていたのでしたが……その大きなカバンは何ですか? そんな大荷物を持っての旅は大変ではありませんか?」
ルサール侍従長が不思議そうな顔で俺が担いでいる大きなカバンを見ながらそう聞いてきた。やっぱおかしいと思うか……
「これは……オヤツだ。ちなみにめっちゃ重いし大変。正直置いていきたいくらいだ」
ッ!? ガタガタッ
「そ、そうですか……なにやら動いているようですが……ドン殿、これは大丈夫なのでしょうか?」
「ノヴァスは不思議なヤツですが……きっと何か考えがあるのでしょう! それにラージイーグルの鳥籠も同じくらいのサイズですしノヴァスなら問題ないでしょう!」
「それならよいのですが……是非どんなオヤツか見せていただいても? とてつもなく気になるのですが……」
そう言ってルサール侍従長が大きなカバンに手を伸ばしてきた。
ガタガタガタガタッ!
「い、いやダメだ! 実はこれは女王陛下から貰ったもので……俺以外のものに中身を見せたら、見た者は死刑になるそうだ……ルサール侍従長、アンタも例外じゃない……」
「な、なんと!? それは失礼しました!」
ルサール侍従長は慌てて手を引いた。もう少しでその全貌を暴かれるところだった……ふぅ〜、危ない……
「お! 街門が見えてきたぞ!」
おぉ、本当だ。ということはルサール侍従長ともそろそろお別れか。
「では儂はこの辺で……ドン殿、ノヴァス殿。どうかお気をつけて! パトレイシア・クレストが危険なダンジョンであることは承知のことでしょうが、お2人ならきっと大丈夫でしょう! またお会いできることを楽しみにしておりますぞ!」
ルサール侍従長が迫力のある笑顔で俺たち2人に向けてそう言った。
「ここまでの見送り、感謝します! ルサール殿! それではっ! ……行くぞっノヴァス!」
ドンさんもそれに笑顔で応えてから街門の方に歩いて行った。俺もそれに続こうと思った……が、その前に……
「あの、ルサール侍従長……仮の話なんだけど……もしも女王陛下を宮殿の許可なく勝手に街の外に連れ出したら……どうなるんだ……?」
一応な……?
「そんなのはもちろん拷問の末に死刑……いや、鎖で縛って街中に晒す刑ですかな……? とにかく楽に死ねるとは思わん方がよいでしょう! それがどうしたのですかな?」
へ、へぇ〜……少なくともこの国にはいられなくなりそうだな……
「い、いやぁ……? 別に……そ、それじゃあな! 見送りありがとう!」
俺はそう言ってさっさとドンさんの後を追うため走り出した。
「ガハハッ! 本当に不思議な方ですな! どうかご武運を! 次の機会には是非儂と手合わせを……」
走る俺の背中にルサール侍従長がそう叫んだが、俺は最後までそれを聞くことなく走り続けた。
◇◇◇
アルハンドラを出てから、しばらく経った。
後ろを振り返ってみると……すっかりアルハンドラの街は見えなくなっている。結構離れたようだな。
周囲を見渡しても街門前にはチラホラいた冒険者や商隊の連中も見当たらなくなっていた。
「この辺でいいか……よいしょ……」ドサッ
俺は担いでいた大きなカバンを地面にゆっくりと置いた。できるだけ中に衝撃を与えないように丁寧にするよう心がけた。
「こんなところまで来てどうしたのだ? ノヴァスよ」
ドンさんが後ろから声をかけてくる。
俺たちはオアシス都市・リヴィラ行きの商隊の出発を街門で待っていたのだが、時間がまだ大分余っていたのでドンさんに一言断ってここまで来たのだ。まあ結局ついてきたようだが……
「それにそろそろそのカバンの中身が何なのか教えてくれてもよいのではないか? 実はおれも気になっていたのだ!」
そしてドンさんが興味津々といった表情でカバンを見る。あぁ、そういえば言うの忘れてたな。
「あぁ、是非見てくれ……」
モゾモゾ
「とうっ!」ピョーン
そんな掛け声と共にカバンの中から飛び出してきたのは……
「よくぞ妾をここまで連れ出した! 褒めて遣わすぞ! ノヴァスよっ!」
1人の美女であった。
格好こそ平民が着ているようなシンプルな衣服を身につけているが……その全身からほとばしる高貴なオーラが隠せていない気がする。その人物は……
「じょ、女王陛下っ!? 何故ここにっ!?」
そう、イルシプ王国女王……イーシア2世がそこにいた。
当然、知らなかったドンさんはめちゃくちゃ驚いている。まぁ、俺もめっちゃ驚いたしな……
今朝いよいよ出発しようと俺のために用意された部屋の扉を開けたら、目の前に大きなカバンを抱えたシンディさんがいたんだからな。
まさかこんなにも頭の悪い方法で街を脱出する気だったことに思わず目眩がしたのだが……普通に成功してしまった。
宮殿内の兵士や使用人もカバンを担ぐ俺を見ても特に疑問を抱くこともなく、カバンの中身を改められることがなかったので助かった……
最後の最後にルサール侍従長に尋ねられたときは終わったかと思ったが、あらかじめイーシア2世に教えられていたセリフを言ったことで事なきを得た。
もう、ここまで来れば大丈夫だろう。よし! ではパトレイシア・クレストの近くにあるというオアシス都市・リヴィラを目指して出発だ!
「待て待て! これ流石に不味くないか? バレたら終わりじゃないか? ……それに遊びに行くわけではないのだぞ! これからおれたちが向かうのはパトレイシア・クレストだ……女王陛下を連れて行くには危険すぎるぞ!」
ドンさんが歩き出そうとした俺の肩を掴んで必死な様子で捲し立ててきた。いやぁ、気持ちはわかるけど女王の命令みたいなもんだし仕方なくね?
「なんだドンよ。お主、今更そんなことを気にしても仕方がないであろうに……もう妾をここまで連れ出してしまったのだ! 後戻りはできないぞ!」
「で、ですが……」
「妾を連れて行かないのであれば、お主らを王族誘拐の罪で国際指名手配にするぞ。よいのか?」
「…………」
これには流石のドンさんも何も言えずにいる。イーシア2世の意思があったものの、俺たちがここまで大きなカバンを運んでいた姿は多くの人が目にしている。そこでイーシア2世が誘拐された! と言えば女王陛下を崇拝しているイルシプ国民なら誰も疑うことはしないだろう。
「ごめんな、ドンさん。俺が責任を持って女王陛下のお守りをするよ」
俺はドンさんの肩に手を置いてそう言った。決死の覚悟で敵討ちをしに行くというのに、こんな状況にしてしまったのは申し訳ないが……
「…………ひとまずオアシス都市・リヴィラまではこのまま行くとする。……パトレイシア・クレストに入るときは……そのときに考えよう。……たしかに既に起きてしまったことに頭を悩ませても仕方がないな! ……女王陛下! くれぐれも危険なことはなさらないように!」
ドンさんもどうしようもないということに気づいたようだ。まぁ、この女王様はパトレイシア・クレストにも入るつもりだろうけどな……
「それでこそ妾が認めた銀だ! ……あぁ、それからこの先は妾に敬語は不要だ。呼び方についても女王陛下ではなくイーシアと呼ぶがいい。変に敬う姿勢を見せると怪しまれるからな! ……それでは行くぞっ!」
そう言ってイーシア2世……イーシアがフード付きのマントを上から被り、顔の上半分を隠して走って行ってしまった。
「お、お待ちを……いや……待つんだ! イーシア! 危ないだろう!」
それをドンさんが慌てて追いかける。
まったく……ただでさえドンさんを死なさないように気を遣うってのに、もっと死なせちゃまずいイーシアまでついてくるのだ。俺もこれまで以上に気を引き締めなくてはならないな!
アルハンドラまでの旅では俺とドンさんと雛ラージイーグルの3人(内2名は人外)だったが、
オアシス都市・リヴィラまでの旅路では新たにイーシアが仲間に加わったのだった。
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