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57 歓迎会

 「皆の衆! 盃は持ったな? ……それではこれより我が客人であるノヴァスとドンの歓迎会を執り行う! ……乾杯っ!」



 「「「「「乾杯!!!」」」」」「「「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」」」「「「「「女王陛下、万歳!!!」」」」」



 演習場での手合わせが終わってからあれよあれよという間に歓迎会という名の宴会が始まった。



 ここは中央の王宮内にある大部屋でパーティーのような催しをする際に使うらしい。シャンデリアや綺麗な調度品が備えられており、今は宴会ということで長机に多種多様な酒や料理が並んでいる。立食パーティーみたいな感じだな。



 玉座の間ほどの荘厳さはないが、華美な雰囲気に開放感のある空間となっている。まさかこんな場所での歓迎会になるとは……



 「ノヴァスよ! 飲んでおるか!」



 「ん? ……あ、女王陛下とシンディさん」



 「…………(ペコリ)」



 「どうしたのだ、ノヴァス! ……って、お(ぬし)!? 全然酒が進んでいないではないか!? 冒険者ともあろう者が遠慮などするでないぞ!」グビグビ



 部屋を眺めていると、イーシア2世がシンディさんを引き連れて目の前にまでやってきた。いや、酒が進んでないもなにも今始まったばっかじゃん……って!? 凄い勢いで酒を飲み干しているな、この女王様……



 そんなペースで飲んだら体が保たないだろう……



 配下が止めてやれよ……俺はそう思いながら周囲を見渡すと……



 「ゴクゴク……プハ〜! もう5杯も飲んじまったぞ!」「はぁ? 少なすぎだろ! おれなんて既に10杯は……」「甘すぎるぜ……! おれは口だけでなく鼻からも……」「オウゥェェェ」「こいつ、もう限界らしいぞ! だっせぇ!」「ガハハハハ」「お! ドンよ、なかなかいい飲みっぷりだな! 流石は(2等級冒険者)だな!」「このくらい食前酒にもならんぞ! ハッハッハ!」「女王陛下、万歳!」



 なるほど、ここは地獄か。アルハラなんてもんじゃないだろ。そういえばアルハラとアルハンドラってなんか響きが似てるなぁ……ゴクゴク



 「よぉ! ノヴァス、さっきは世話になったな!」



 「ふん、一応……礼は言っておいてやる」



 今度は後ろから話しかけられたので声のした方を振り返る。そこには先ほど俺と手合わせをした門番兵士とエリート魔術師が盃を片手に立っていた。



 「おぅ、お前たちか。体は大丈夫か?」



 さっきまでぶっ倒れていたはずなのに、既に酒を飲んで大丈夫なのか……?



 「……そんなもん、酒を飲めば治るに決まっているではないか! お前ももっと飲め!」



 「ふん、当然だ。おれは近衛兵最強の魔術師だからな。それよりも酒が減ってないぞ? 酒の勝負なら負けそうにないな……ククク」



 門番兵士が意味不明なことを言いながら俺の盃に追加で酒を注いできた。エリート魔術師も俺を煽るようなことを言ってくる。クソ、舐めやがって……俺だって本気を出せば……ゴクゴクゴクゴク



 「……また、いつか手合わせを頼むぞ! ではな!」



 「ふん、勝ち逃げは許さんぞ……」



 あ! 俺が頑張って飲んでいるというのにどっか行きやがった! 損した気分だぜ……



 それにしてもこの酒美味いな。葡萄酒のようだが……冒険者ギルドの酒場に置いてあるような酒とは一線を画している気がする。芳醇さというか香り高さというか……ゴクゴクゴクゴク



 「ノヴァス殿、楽しんでいますかな?」



 ん? 今度はルサール侍従長か。相変わらず厳ついな。



 「あぁ。それにしてもすごい歓迎会だな」



 「女王陛下の命令ですからな! このくらいならいつでも開催できるというもの! ……それよりもノヴァス殿、儂とも是非手合わせを……」



 そもそも女王陛下が宴会好きで頻繁に開催されるのか。それにしてもこのジジイどんだけ俺と戦いたいんだよ……



 「ルサール殿! そんなに体力が有り余っているのなら今度はおれと戦いましょう! 酒を口に含んで顔面を殴り合い、吹き出した方がこの樽を一気飲みするというルールはどうですかな!」



 イルシプ兵たちと酒を飲んでいたドンさんがこっちにやってきて、そんなことを言い出した。どうやら既に泥酔しているようだ。シラフでこんなこと言っていたら頭が悪すぎるからな。



 「ほぅ、ドン殿。実を言うとあなたとも一度競い合いたかったのです! それではあちらでお相手しましょう!」



 そしてドンさんとルサール侍従長がデカい樽を抱えながら、(ひら)けた場所まで歩いていった。うん、目に毒だから視界から外しておこう。まったく、せっかくの酒を無駄にするようなことを……ゴクゴクゴクゴクゴク



 「ルサールのやつも年寄りのくせに無茶をしおって……ときにノヴァスよ。お(ぬし)は一体何者なのだ?」



 おっと、イーシア2世が少し真面目な顔で聞いてきた。警戒……とまではいかないが、どこか俺を見定めようとしているかのように感じる。そうだなぁ……



 「実は世界中を旅していまして……ドンさんとは成り行きみたいな感じで……」



 ドンさんにも変な嘘をつくなと言われたし、素直にそう答えた。



 「ふぅん……まあ、よいか。シンディよ、ノヴァスの盃は常に限界まで満たしておけ!」



 「かしこまりました。では、ノヴァス様……」トクトクトク



 全然飲み切っていないにも関わらず、シンディさんによって盃になみなみと酒をつがれてしまった。えっと……



 「あの……白状するまで飲まされ続けるみたいな感じですか……?」



 もしかして身の上について言及しなかったことが気に障ったか?



 「そうは言っておらん! ただ、どうにも(わらわ)との間に距離を感じるのでな。緊張をほぐしてやろうと思ってな! それ、どんどん飲むといい!」グビグビ



 「いや、距離ってなんのこと……」




 バタァンッ!




 突如、大部屋の扉が乱暴に開け放たれた。何事かと思い、一旦言葉を切って扉の方に顔を向けると……



 「……相変わらず下品だな」



 そこにはドラコニア兵を引き連れたイーシス殿下が顔を(しか)めながら立っていた。ドラコニア兵の中にはソルツ外交武官もいる。



 「イーシス……」



 ついさっきまで上機嫌だったイーシア2世もイーシス殿下を見て表情が硬くなる。



 盛り上がっていた場の雰囲気もイーシス殿下の登場によって徐々に萎えていった。



 明らかにお呼びではないのに、何しにきたんだ?



 イーシス殿下が室内を見渡す。そして俺と目が合い……何故か俺の方に向かって歩いてきた。俺に何か用か……?



 とうとうイーシス殿下が目の前にまでやってきた。



 「先ほどの演習場での戦いぶり……(7等級冒険者)にしてはなかなかだったな。どうだ、今なら私直属の配下の末席に加えてやってもいいぞ?」



 そんなことを言い放った。コイツ手合わせをこっそりと見てやがったのか……そしてわざわざ勧誘しに来たというわけか。



 「俺はゴミなんじゃないのか?」



 ゴミ呼ばわりしといていざ俺の実力を知った途端にこれは都合がよすぎるだろう。牽制の意味も込めてそう尋ねた。



 「なんだ、怒っているのか? そんな一時の感情によってせっかくのチャンスを不意にするというのか? ……腕っ節はあっても頭はどうにもよくないらしいな」



 こ、この野郎……まじで舐めてやがる……まじで一回ぶん殴ってやろうか……



 「イーシス。ノヴァスは現在、(わらわ)の客人として迎えているのだ。そのような物言いは関心せぬぞ」



 俺が心の中で憤慨しているとイーシア2世が俺たちの間に割って入ってきた。



 「私が何をしようと姉上には関係のないことです。姉上だってこんなにも無駄に金をかけて何をしているのですか。民の血税をこんな品のないくだらぬことに使って……冒険者に媚びるのも大概にしていただきたい。それほどまでに初代女王の財宝に執着しているのですか?」



 イーシス殿下がイーシア2世にそう言い捨てた。まぁ冒険者を迎えるのに豪華すぎとは思ったが、この場でそれを追求するのは少々無粋にも感じる。それに今のイーシア2世の発言は至極真っ当なものであっただろう。話をすり替えやがって……



 周囲のイルシプ兵もイーシス殿下に冷たい視線を向けている。せっかくのお祭り気分に水を差されたようなものだからな。そして、それにイーシス殿下が気付く。



 「はぁ、これだからイルシプ人には辟易としてしまう。ガサツで騒がしく、乱暴で考えなし……ドラコニア人とは大違いだ。そうは思わぬか、ソルツよ?」



 イーシス殿下がそう言って後ろにいるソルツ外交武官を振り返る。ソルツ外交武官は何も言わずに微笑んでいるのみだ。発言はしていないがまるで肯定しているかのようにも見える。



 気に食わねぇ……まぁガサツで騒がしく、乱暴で考えなしという点に関しては同意だが……



 イーシス殿下の言葉に場の空気が少し張り詰めたような気がした。さっきから好き放題言われっぱなしだからな。まぁ立場上、王族に楯突くわけにもいかないだろうしな。ならば俺の出番か……



 「随分とコンプレックスを抱えているみたいだな」



 俺は挑発するようにイーシス殿下に言った。



 「…………何だと?」



 イーシス殿下の声が一段階低くなった。さらに目を鋭くして俺のことを視線で射抜く。



 「本当は俺たちに混じって酒飲んで騒ぎたいんじゃないのか? ……どうせ、そんな態度ばかり取ってるから後に引けなくなってドラコニア人とつるむことしかできなくなったんだろう? ……素直にお願いすれば混ぜてやってもいいぞ」



 「誰にものを言っている……? そこまでの無礼を許した覚えはないぞ……?」



 「お前に言ってるんだよ。それにイルシプ人のくせにネチネチしやがって。運動でもしてストレス発散しろ。体ヒョロヒョロすぎんだよ」



 「貴様……いい度胸してるな……ここまで正面切ってコケにされたのは初めてだ……貴様を消すことなど容易いぞ……?」



 「やれるもんならやってみろよ。まぁ、そんなこと言っているから初代女王の弟……パトレイシスみたいに嫌われるんだよ。……常に仏頂面浮かべやがって、少しは女王陛下を見習え」



 ふん、言ってやったぜ。



 「ノ、ノヴァスッ!? それは……」



 ん? イーシア2世が慌てている。いや、イーシア2世だけでなく周囲の全員がもれなく緊張した面持ちになっている。あれ……? もしかして言い過ぎた?



 「黙れ……」



 イーシス殿下が俯きながら身体中をワナワナさせている。どう見てもブチギレているな。……そういえばイーシス殿下って【パトレイシア1世の悲劇】の件を持ち出すこととかイーシア2世と比べることはタブーなんだっけ。それにイルシプ人のくせにとか言っちゃった!



 やべぇ!? これはやってしまったかもしれん……



 「な、なーんてな! 嘘だよ嘘! 冗談だって! ほら今までのことは全部水に流して一緒に酒を飲もうぜ!」



 俺はなんとか誤魔化すべく、酒をついだ盃をイーシス殿下に手渡そうとしたが……



 パァンッ! ……ガシャーン!!



 イーシス殿下がそれを手で振り払った。盃は床に叩きつけられて粉々に割れてしまった。



 「貴様……! 絶対に許さん……! 必ず殺してやる……!」



 そう言うと、さっさと大部屋から出ていってしまった。ドラコニア兵たちも急いでイーシス殿下の後を追った。



 しばらくは大部屋の中は静寂に包まれていたが徐々に喧騒が戻ってきた。



 「なんだよ、あれ!」「せっかくの宴会が台無しになるとこだったぜ!」「イーシス殿下には困ったもんだぜ!」「あれで本当にイルシプ人なのか?」「女王陛下を見習えってんだ!」「それにしてもあの兄ちゃん、なかなかやるなぁ……」「流石は女王陛下が認めた男だ!」「女王陛下、万歳!」



 各々イーシス殿下に対する不満を口にしている。イーシス殿下を庇うような発言はほとんど見受けられない。むしろ俺を褒めるようなやつまでいる。振る舞いに関しては終わっていたイーシス殿下だが、ここまで人望がないのも少し可哀想だな……



 「すまないな、ノヴァス」



 イーシア2世が気まずそうな顔でそう謝ってきた。



 「いや、女王陛下のせいでは……俺も言い過ぎたっぽいし……」



 「弟の不始末は姉である(わらわ)の責任でもある。どうか気を悪くしないでくれ。(わらわ)もどうにかしなければとは思うのだが……なかなか上手くいかなくてな……」



 さっきまで活き活きと笑っていたイーシア2世が今は力のない笑みを浮かべている。ルサール侍従長も言っていたが姉弟間で複雑な事情があるみたいだな。



 うーん、どうにも調子が狂うな。よし……



 「まあまあ、女王陛下。俺が言うのもなんですけど今は酒でも飲んで面倒なことは忘れましょう。俺もこっからペース上げていくんで。ほら飲んで飲んで」トクトク



 俺はイーシア2世の盃に酒を注ぐ。



 すっかりイーシス殿下が来る前の騒がしい空間に戻ってきたのに俺たちの周囲だけどんよりした空気ってのも居心地が悪い。イーシス殿下のことだって今に始まった問題ではないはずだ。すぐに解決するようなことでもないだろう。それなら今は楽しく飲もうじゃないか。



 それに俺も基本的にチビチビ飲むのが好きだが、疲れたときやイライラしたときは豪快に(あお)ることもあった。今日くらいはそれに付き合うのも悪くない。



 「……それもそうだな。よしっ! 皆の衆! 気を取り直して……今日は思う存分に飲み明かすといい! ……ノヴァスよ、(わらわ)に酌をするとは覚悟はできておるのだろうな? 今夜は寝かさぬぞ! ……シンディ、樽をありったけ持ってくるのだっ!」グビグビ



 「かしこまりました。……ノヴァス様、ありがとうございます」ペコリ



 イーシア2世もとりあえずは調子を取り戻したようだ。そしてなんかシンディさんに感謝された。あ、遠くの方でルサール侍従長もドンさんとの頭の悪い勝負を中断して礼をしてきた。……俺は酒を飲んだ。



 ……なんか純粋な感謝の気持ちをぶつけられるとむず痒くなるよな……ゴクゴクゴクゴクゴクゴク



 「おう、兄ちゃんいい飲みっぷりだなぁ!」「もっと飲めよ!」「酒の強さなら負けないぜ!」「おれの酌だ……当然飲めるよな?」「女王陛下と飲むなんて羨ましい! おれも混ぜろ!」「女王陛下、万歳!」



 いつの間にか周りを大勢のイルシプ兵に囲まれていた。そして酒で満たされた盃をこれでもかと押し付けてくる。鬱陶しいなぁ! もう全部飲んでやるよ! よこせっ! ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク



 一悶着あったがすっかり元の騒がしい宴会へと移り変わっていった。



 そして夜は更けていく。



 ドラゴンのときならいざ知らず、人化状態の俺は別に大して酒が強くないらしく、意識は次第に混濁していき……




 あるときを境に視界が完全にブラックアウトしたのだった。



この作品に興味を持っていただき、ありがとうございます!


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