55 イルシプの女王
ここはアルハンドラ宮殿の中央の王宮内のとある一室。
さっきまでいた応接室と比べて室内は広く、天井も高いので開放感がある。天井には大きく何層にも重なったシャンデリアがあるが、それを邪魔に感じないくらいには広く感じる。
さらに床には真っ赤で美しい紋様で彩られた絨毯が広がっていたり、壁にはこれまた同じように繊細で複雑な装飾が施されており、豪華で煌びやかな空間となっている。
部屋の奥には一つの豪華な椅子……玉座が設置されている。背もたれと座面は赤いクッションとなっており、それ以外の部分は金で覆われている。その玉座は階段によって俺たちがいる場所よりも高い位置に存在している。
奥の壁には巨大な窓が張られているので、その玉座に座った人物はまるで後光が差しているように見えることだろう。おまけに階段で高くなっているせいで見上げる必要があるので、嫌でも立場の違いを意識してしまう。
そして側面の壁にはイルシプ兵が並んでおり、部屋の中央にいる俺とドンさんは囲まれた状態ということになる。厳重な警備は頼もしくもあるが、少し緊張するな。
そう、俺たちがいるのは玉座の間である。俺とドンさんはこの玉座の間で片膝をついて跪いて女王陛下の到着を待っているのだ。
ルサール侍従長とシンディさんが俺とドンさんを置いてどこかにいってしまったので、仕方がなく隣にいるドンさんの真似をしているのだ。
うーん、暇だ。
「なぁ、ドンさん。今更なんだが女王陛下との謁見って何が目的なんだ?」
隣にいるドンさんに小声で話しかける。
「ふむ、そうだな……まずは以前【パトレイシア1世の秘宝】に挑戦した後に碌に冒険の話もせずにアルハンドラを発ってしまったことに対する謝罪、そして今度はノヴァスと共に挑戦する旨を話そうと思っているぞ!」
ドンさんも小声で返してきた。
なるほどな。まあ女王陛下から直接銀に推薦されたドンさんだからこその特権みたいなものだし、俺がその場にいてもいいのか若干気になったが共に挑戦することを話すのなら俺の存在も違和感はないか。
そんなことを考えていると、
バタンッ
右奥の方から扉が開く音が聞こえた。
俺らは後ろの扉から入ってきたが、どうやらあの玉座に座る人物はあそこから入ってくるようだ。
俺とドンさんは慌てて姿勢を直した。目線を下げているので、誰が入ってきたかはわからない。
しばらく待っていると玉座に人が座る音が聞こえた気がした。いよいよ謁見が始まるということだな。
軽く目線を上げてみると、玉座は見えないが階段の下にルサール侍従長とシンディさんが玉座を中心として左右対称になるように立っているのが見えた。玉座に座る人物を守る門番のようだ。
俺たちはそのときを待った。
そして……
「面を上げよ……」
玉座に座る人物が鈴を転がすような声で俺たちに命じた。
俺はゆっくりと顔を上げる。そして玉座に座る人物を仰ぎ見た。
そこにいたのは……
絶世の美女であった。
純白のワンピースドレスの上から金や宝石をあしらった首飾りや腕輪といった装飾品で身を包んでいる姿はまさに富の象徴であるかのようだ。フィット感のあるワンピースドレスによって体の線が浮き出ている様は艶かしくもどこか神々しさを感じてしまう。
肌は健康的に感じるように浅黒く、濡羽色と表現すべき黒髪をストレートに腰まで伸ばし、先の方を髪留めで結んでいる。頭には一層煌びやかな髪飾りがあり、その立場を示すのに相応しいものと言えるだろう。
顔立ちはハッキリとしており、美しさの中に芯の強さも感じられる。その黒い瞳を見ていると思わず吸い込まれてしまいそうな感覚に陥ってしまう。
この女性が……
「よくぞ参られた。妾がイルシプ王国女王・イーシア2世である。楽にするといい。冒険者に礼儀を求めるような無粋な真似はしない主義なのだ」
女王陛下……イーシア2世がそう言ってニコリと笑った。
先ほどまではまさに完全無欠の女傑といった雰囲気を醸し出していたが、今のその表情は……
どこにでもいる普通の少女のように見えた。
◇◇◇
楽にしろと言われた手前、跪いているのも逆に失礼と思い俺は立ち上がった。隣にいるドンさんもそうしているし大丈夫そうだ。
「お久しぶりです! 女王陛下!」
ドンさんが堂々と挨拶をする。
「ドンか……久しいな。その様子だと既に立ち直ったようだな。これでも心配していたのでな、安心したぞ」
「その節は大変申し訳ありません! 何とか心の整理はつけました! これからも女王陛下から賜った銀のランクに恥じぬ振る舞いを心がける所存です!」
おぉ、ドンさん気合い入ってるなぁ。自国の君主を前にしてはそうなるのも不思議ではないがな。
「うむ、期待しておるぞ。……して、そちらの者は……?」
おっと、イーシア2世がこちらに視線を向けた。俺も気合いを入れて自己紹介するか!
「えっと、ノヴァスです……よろしくお願いします……」
ふぅ……どうやら女王のオーラに当てられて少し緊張しているようだな。
「ほぅ、ノヴァスというのか。よき名だ。……その冒険証石は白であるな。これからも精進するといい。其方の活躍にも期待しておるぞ」
え、めっちゃいい人……イーシスのカス野郎と姉弟とは思えないほどに優しい……
さっき面と向かってゴミと言われたことは自分でも思っていた以上に傷ついていたようだな。優しさが染み渡るぜ……
「……何故泣いておるのだ……? 何か気に障るようなことでもあったか……?」
「泣いてません……これは雨です……」
「ノヴァスよ! 女王陛下を困らせるのはやめておけ!」
横にいるドンさんがうるさい。何だよもう……イーシア2世の優しさを噛み締めていたってのに!
「フフフ、お主面白いヤツよなぁ」
イーシア2世が手で口を抑えて笑っている。俺の体から溢れ出るユーモアに当てられてしまったようだな。フッ、罪な男だぜ。
「そんなことよりも……女王陛下! おれはこのノヴァスと共に【パトレイシア1世の秘宝】の依頼を引き受け、パトレイシア・クレストにもう一度挑もうと考えています!」
そんなこととは何だ! ……って言えるような空気ではないな。
ドンさんがそう言うと玉座の間が少しざわついた。
「おいマジかよ……」「銅のチームでも犠牲を出したのに……」「しかも白と2人なんて……」「無謀だ」「しかしアイツの筋肉もなかなか……」「おぅ、本当だ」「あれならもしや……」
壁際の兵士が主にざわついているようだな。ルサール侍従長とシンディさんも少し驚いているようだ。当然、イーシア2世も……
「それは本気か……?」
イーシア2世が少し鋭い目つきでドンさんを射抜く。雰囲気が少し変わったな。何かを見定めようとしているかのように真剣なようだ。
「はい! たしかにノヴァスはランク自体は白ですが、実力はおれ以上です! ラージイーグルの成体を一撃で無力化するほどの力を持っています! ノヴァスとならきっと達成できるとおれは信じています!」
ドンさんが堂々と言い放った。
周囲はさらにざわつき始めた。いくらドンさんが口で説明したところで実際の俺の実力はわからないしな。
「ドンよ、お主が嘘をつくとは思えん……が! かといって全面的に信じることもできん」
イーシア2世がそう言った。うん、まぁそうだろうな。ドンさんの過去の話を聞いた感じ、生半可な気持ちで行くような場所ではないからな。嫌がらせとかではなく純粋に命に関わることだから慎重になるのは当然だ。
「……故に、ノヴァスよ!」
イーシア2世が俺の方を向いて声をかけてくる。
「お主は実際に妾たちの前でその実力を証明してみせよ! 妾を納得させなければパトレイシア・クレストに行くことは禁ずる!」
えぇ……それは困る。仕方がない、俺の実力を見せてやるとするか……えーっと……
「どうすれば、いいですかね……?」
ここは素直に聞いておこう。
「……それでは、こういうのはどうだ?」
そう言ったイーシア2世の表情はどこかワクワクしているように見える。あれ……? なんか遠足前の小学生みたいなキラキラした目でこちらを見ているな。
「これからこの王宮の裏の演習場に向かい、そこで我がイルシプ王国の精鋭と手合わせをするのだ! 真に実力を有しているのなら容易いことであろう? どうだ……?」
……もしかして、心配してるとかじゃなくて純粋に俺の実力を見たいだけだったりする……?
「どうした? もしかして臆したのか? この程度のことも出来ないのであれば、お主の実力とやらも大したことはなさそうだな……ぷぷぷ」
めっちゃ煽ってくるじゃねぇか……イーシア2世がメスガキ感を出してきやがった。嫌いじゃないけどね……!
「ノヴァス! お前なら何の心配もいらないだろう! 頑張るのだぞ!」
ドンさんがそう言って俺を励ます。
あぁ! その通りだ! こうなりゃ、この女王様の度肝を抜いてやるくらいに圧倒してやるぜ!
「やってやるぜ! 俺の強さにビビって腰を抜かすんじゃないぞ!」
「フフフ、それは楽しみだ……それでは行くぞっ! ついて参れ皆の衆っ!」
イーシア2世がそう言って玉座から飛び降り、扉からさっさと出て行ってしまった。元気な女王様だな……流石はイルシプ人か。
「お、お待ちを! 女王陛下!」
「急に飛び出しては危ないですよ、女王陛下」
慌ててルサール侍従長とシンディさんが後を追い、それに玉座の間にいた兵士たちがさらに続く。
「ノヴァスよ! 力加減を誤るなよ!」
ドンさんがそう言ってきた。
「まぁ、うまくやるさ」
うん、何とかなるだろう。ドンさんの先程の発言に説得力が出る程度にほどほどに力を見せれば十分なはずだ。
俺たちもイーシア2世を追う兵士たちに続くように玉座の間から出た。
そして演習場があるという王宮の裏側を目指して走って行った。
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