54 王弟殿下
「あなたは……イーシス殿下……!」
突如俺らのいる応接室にドカドカと入り込んできた王弟……イーシス殿下。いくら王族とはいえ少し失礼じゃないか? ノックするなり何かしらの確認を取ってから入れよ……
「ドン……やはり貴様だったか。ラージイーグルについては既に確認した。貴様くらいしかあの依頼をこなせるヤツがいないとは……冒険者というのも程度が知れるな」
いきなり冒険者に喧嘩を売るような発言をし始めた。それにしても一体何しにきたんだ?
「もう一度だけ聞いてやる。ドン、私の直属の配下になれ」
「いえ……おれには過ぎた身分であると……」
「チッ……銀などと持て囃され、いい気になりおって……」
ドンさんの勧誘に来たのか? 話を聞いた感じ、以前にも同じように勧誘されたようだが……今回も断られてしまったようだ。可哀想に……
「ん……? 貴様は誰だ」
イーシス殿下が俺の存在に気づき、尋ねてきた。もしかして俺勧誘されちゃう?
「イーシス殿下、こちらはおれとチームを組んでいるノヴァスです。今回のラージイーグルはこのノヴァスが捕獲しました」
ドンさんが俺が返事する前にイーシス殿下にそう紹介した。まるで俺が迂闊なことを言わないようにといった感じで。いや、俺だって敬語使えるからな……
「ノヴァスだ……です」
ほらなっ! 見たか!
「ノヴァス……いけ好かない名だな。それにその冒険証石は白ではないか。何故そんなゴミがこの王宮に足を踏み入れている。碌に礼儀作法も知らないようだ。さっさと立ち去るがいい。……それにドンよ。私を虚偽報告で騙そうとはいい度胸だな。冒険者資格を剥奪されたいのか……?」
言い過ぎだろ……流石にゴミは傷つくわ……
これには流石のドンさんも言葉を選んでいるようで言い返せずにいる。王族相手だし慎重にならざるを得ないしなぁ。
「イーシス殿下よ、その辺にしてやってはくれませんか。儂には彼らが嘘をついているようには見えませんぞ?」
ルサール侍従長がそう言って俺たちを庇ってくれた。まぁ俺が白なのは事実なのでイーシス殿下の言い分だってわからなくはないんだがな。
「ルサール……元近衛兵長だからといってあまり調子に乗るなよ? いかに貴様が豪傑であろうと年老いた身……数には勝てんはずだ。今ここでその身にわからせてやってもいいんだぞ?」
イーシス殿下の後ろに控えていた兵士たちが俺たちを囲むように展開される。俺らを脅しているつもりか?
「イーシス殿下、そのようなことはおやめなさい。流石に女王陛下が黙ってはいませんぞ? ……少し友達付き合いについても考えた方がよいのでは?」
そう言ってルサール侍従長が周りを囲む兵士を見渡す。俺もそれに倣って視線を動かす。
ん……? 応接室内にいる兵士は10人くらいだが、髪の色が明るく肌が白くてスラッとしているな。これは一体……
「それは我々がイーシス殿下に悪い影響を与えている……とでも言いたいのですかな? ルサール殿?」
俺たちを囲む兵士のうち比較的立派な格好をした男が一歩前に出てそう言った。
「おっと、そちらの方は初めましてですね。自己紹介が遅れました。私はドラコニア帝国外務局外交武官のソルツと申します。どうぞお見知り置きを」
その男……ソルツ外交武官が俺に向けて丁寧に自己紹介してきた。俺も会釈くらい返しておくか……ペコリ。どうやらコイツはドラコニア帝国の者らしい。……ということはこの周りにいるのもドラコニア兵ということか。何でコイツらがイーシス殿下についているんだ?
「いやいや、そうは言っておりませんぞ。ただ……ここはイルシプ王国。あまり外国の方に好き勝手行動されてはこちらとしても困りますのでな」
「女王陛下の弟であるこの私……イーシスが頼んでついてもらっているのだ。貴様ごときがごちゃごちゃ口を出すな」
イーシス殿下とソルツ外交武官の2人がどういう関係なのかはよくわからないが、少なくとも何かしらの目的があって一緒にいるのか。それにしてもドラコニア帝国か……その名前、最近よく聞く気がするなぁ。
アルが言っていた魔術研究に力を入れている国の名前がそうだったし、ヘビ吉の体内から出てきたのと城塞都市カーメリアに着く前に遭遇した盗賊が持っていたソリドル貨はドラコニアの通貨であるとドンさんから聞いた。
もしかしてコイツらがイルシプ内の治安悪化させている中央大陸の連中をドラコニアから連れてきたのか? いや、そんな単純なわけないか。仮にそうだとしてもなんでそんなことするのかって話だしな。
「フンッ……まあいい。ここにいても時間の無駄だな。戻るぞ、ソルツよ」
「かしこまりました。……それでは我々も失礼させていただきます」
イーシス殿下とソルツ外交武官がそう言うと兵士たちも俺たちの包囲を解いて2人の後ろに戻る。そしてそのまま部屋を出て行ってしまった。扉も閉めずに。
「何だったんだ……? あいつら」
俺はソファの背もたれに体を預けてそう言った。。終始雰囲気が重かったし、何やらきな臭いものを感じたせいか、精神的にドッと疲れてしまったようだ。
「すまなかったなノヴァス。お前が貶されても何も言い返すことが出来なかった……」
ドンさんが申し訳なさそうに謝るが、王族相手に食ってかかるわけにもいかないだろうし何も言い返さなくて正解だろう。
「ドンさんは悪くないだろ。あのイーシスとかいうヤツが全部悪い……覚えていろよ、あの野郎……」
「それは流石にやめておけ、ノヴァスよ……」
あいつは一度泣かしてやらないと気が済まないな! 俺のことをゴミとか言ったしな!
「お2人とも申し訳ない。せっかくここまで足を運んでいただいたのに不快な思いをさせてしまって……」
ルサール侍従長が扉を閉めてソファに戻ってから、俺たちに対して頭を下げて謝ってきた。
「頭を上げてください、ルサール殿! あなたは何も悪くない! それにおれたちなら大丈夫です!」
「そうだぞ。っていうかイーシス殿下って普段からあんな感じなのか? 女王陛下に会うのが怖くなってきたんだが……」
あいつの姉だろ? 同じようなヤツだったらちょっと嫌だなぁ……
「ご安心くだされ! 我らが女王陛下は大変素晴らしいお方ですぞ! 冒険者に対しても理解がある方ですので!」
「その通りだ! ノヴァスよ! 安心するといい!」
ルサール侍従長とドンさんが食い気味でそう言ってきた。まぁ、少なくともイーシス殿下よりはまともなようだな。ただ……
「女王陛下はあいつの振る舞いについて何も言わないのか? いくら王弟だからといって依頼を受けた俺たちや侍従長に対してあの態度は流石に目に余ると思うんだが?」
あの失礼な態度や自国の兵士ではなく他国の兵士を引き連れて歩いているのって普通に考えてダメだろ。
「儂もそう思うのですが……イーシス殿下はイルシプ人にしては運動が苦手で体も弱く……そのせいか女王陛下もイーシス殿下には昔から甘くて……」
甘やかしてたらあんな風になってしまったということか?
「それにイーシス殿下も可哀想なお方なのです……優秀な姉に弟というまさに【パトレイシア1世の悲劇】と似たような状況であることを幼い頃から陰で囁かれてきたのです。いつか女王陛下を害するのでは……と。」
「それが強いコンプレックスになって周りに攻撃的になってしまう、と」
「あのように外国の者を側につけているのもそれが原因なのではないかと……故に女王陛下もイーシス殿下のやることには迂闊に干渉せずにいるということなのです。」
それはそれでまるで腫れ物扱いなような気もするが……まあどうでもいいか。そこらへんの事情に俺が首を突っ込む必要もないか。
「まあ俺らも今度から気をつけるとするよ。……ドンさん、そろそろ街の方に戻って宿を探した方がいいんじゃないか? ラージイーグルの引き渡しも済んだことだしな」
「む、それもそうだな! ……ルサール殿、おれたちはそろそろこの辺で失礼します!」
「そうですなぁ……では宿をとったらその場所を教えてもらえればこちらから使いの者を出すので、女王陛下との謁見の日程はそのときに……」
コンコンッ
俺らが話していると扉がノックされた。今度は誰だ?
「入るといい!」
ルサール侍従長がそう言うと。
「失礼いたします」
そう言ってからゆっくりと扉を開けて1人のイルシプ人の少女が入ってきた。黒髪を後ろでお団子にまとめており、クラシックなメイド服を着た少女が俺たちに対してお辞儀をした。その背後には女王陛下への謁見の確認にいった兵士がいた。
「おぉ、シンディではないか! 一体どうしたのだ? ……もしかして……」
「はい」
メイド服の少女……シンディさんが一言だけ返事をして、すぐに俺とドンさんの方に向き直った。
「私は女王陛下の側仕えをしておりますシンディと申します。……女王陛下がこれから御二方にお会いになるようです。これから玉座の間までご案内させていただきます」
シンディさんが淡々とそう言った。この子、めっちゃ可愛くね? 俺が思うにバレェとかしたらとても映えそうな気が……
って……え!? もう謁見できるの!?
俺は隣のドンさんを見る。
「まさかその日のうちになるとは……」
ドンさんもかなり驚いているようだな。どうやら普通のことではないらしいな。
「やはりそうであったか! それでは儂もついて行きましょう! シンディ! 案内するのだ!」
「かしこまりました。それではついてきてください」
ルサール侍従長が勢いよく立ち上がり、シンディさんと一緒に応接室を出て行った。
まじか……なんだかんだ先延ばしにされるのかと思っていたが、いい意味で予想が外れたな。
とうとう女王陛下とご対面か……
イーシス殿下のせいで少し不安だが、まずは会ってみないことにはその為人はわからない。
イルシプの女王をこの俺……偉大なる竜の王が見定めてやるとしよう。
「ノヴァスよ! 女王陛下をお待たせするわけにはいかない! おれたちも行くぞっ!」
「そうだな。よしっ、行くか」
俺とドンさんは2人の後を追いかけるべく応接室を飛び出した。
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