53 王宮
俺たちはオルトノヴァク大司教と別れ、アルハンドラ大聖堂を後にした。
その後は特に寄り道することもなく、【ラージイーグルの捕獲】の依頼者である王弟・イーシス殿下のいるアルハンドラ宮殿を目指した。
アルハンドラ宮殿はこの街のど真ん中にしてイルシプ川のど真ん中に浮かぶ島に位置しているので、そこへ船で渡るためにまずは船着場まで向かったのだ。
俺たちが入った街はどうやらアルハンドラ北部のようで、船着場から船で川を渡ってアルハンドラ南部やアルハンドラ宮殿のある島まで行けるようだ。……ちなみにオアシス都市・リヴィラに行くにはアルハンドラ南部にある街門を通る必要がある。
アルハンドラ宮殿行きの船は特別な事情でもない限り行くことはできないようだが……俺たちはしっかりと行くべき理由があるので問題なし! 【ラージイーグルの捕獲】で捕まえた雛ラージイーグルを届けに来たと説明したらあっさりと通してくれたよ。まぁ、わかりやすく鳥籠を担いでいるしな……
渡し船は櫂というオールみたいな棒で漕ぐタイプの船だった。縦に細長い形状であり、10人以上は乗れるくらいの規模だったので問題なくイルシプ川を渡ることができた。
そして渡し船を降りてアルハンドラ宮殿の目の前までたどり着いた。近くで見ると本当に見事な建造物だなぁ……
アルハンドラ大聖堂も立派だったが、ここは別格だ。まず敷地面積が桁違いに広い。アルハンドラ内を流れるイルシプ川のど真ん中に位置するこの島のほとんどが船着場を除いて宮殿の敷地となっている。その宮殿全体を回廊になっている城壁が正方形に囲んでおり、それぞれの四辺の中央に屋根がドーム状の複雑な装飾が施された要塞のような建物が聳え立っていた。
城壁の内部は解放感のある広場になっているのだが、その中心部にはアルハンドラで最も壮大で絢爛な建物があった。形状は他の建物とそこまで変わらないが白色や砂色を基調としたものとは異なり、金や青の宝石が散りばめられ煌びやかなものとなっていた。緻密な装飾との調和によって一層豪華な存在感を放っている。
「ここはアルハンドラ宮殿である!」
「お前たち! 何の要件でここへと来た!」
門になっている城壁から覗く光景に見惚れていると、門の前で門番を務めている2人の兵士に話しかけられた。
「ハッハッハ! 連れがすまないな! ラージイーグルを届けに来たのだ! 取り次ぎを頼みたい!」
ドンさんは特に動じることもなく門番へと要件を説明した。俺も少し気が抜けすぎていたようだな。しっかりとしよう……
「ん……? おぉ! お前はドンではないか! 久しぶりだな!」
「その鳥籠はラージイーグルか! 流石は銀だな! ……担当の方に伝えてくる! 少し待っていてくれ!」
どうやらこの門番たちとドンさんは顔見知りのようだな。ドンさんはここに来たことがあるようだし、そのときからの顔馴染みってところか?
一通りやり取りを終えると、片方の兵士が宮殿内へと向かって走っていった。対応してくれる人に知らせにいってくれたみたいだな。それまではこの場で待ちか。
「それにしてもたった1人でラージイーグルを捕まえてくるとは……相変わらずの腕だな!」
残った方の兵士がドンさんにそう言った。普通はそう思うよな。どちらかというと俺が1人で捕まえたようなものなんだが……
「ハッハッハ! 実はこのラージイーグルの雛を捕獲したのはおれではなく……この男なのだ!」
俺が心の中で思ったことをドンさんが口にした。少しびっくりしたぜ……
「ほぅ……お前が……たしかになかなかの筋肉を持っているようだな! おい、名前はなんて言うんだ!」
兵士がそんなことを言う。イルシプ人ってなんでそんなに筋肉が好きなんだよ……まぁ、名前を問われたからには答えてやろう。
「俺はノヴァスだ。よろしくな。これ、冒険証石」
俺は名乗った後に首に掛けていた白の冒険証石を見せた。
「おう、ノヴァスだな! ……それにしても白とはな、ドンが言うからには実力は確かなんだろうが……」
「おーい、中央にある王宮で対応してくれるらしいぞ! 案内するから着いてきてくれ!」
兵士が俺を見定めるような視線を向けていると、門の奥から先ほど宮殿内へ走っていった兵士が叫びながら戻ってきた。
中央にある王宮とはここからも見える金と青の豪華な建物のことか。おそらく王族の住居はあそこなのだろうな。依頼者は女王の弟だしあそこで対応してくれるということか?
「……おう、もう来たか。仕方がない……ノヴァス、お前とはまた会うことになりそうだ……」
いや何それ……? たしかにここの門番やってるならまた会うことはありそうだけど……うん、深く考えるだけ無駄だな!
「それでは行くぞっ! ノヴァスッ!」
ドンさんが先に兵士について歩いて行ってしまった。俺も続かなければ。
「今行くっ! ……じゃあ、またな兵士さん」
それだけ言って、俺は案内をしてくれる兵士とドンさんの後を追って中央の王宮へと向かった。
◇◇◇
俺たちは今、中央の王宮内のとある一室にてソファに座って人が来るのを待っている。
室内には大きなローテーブルを挟んで2つの高品質そうなソファが向かい合って並んでいる。壁やインテリアにはところどころ金が施されており、外観ほどではないが豪華な造りになっている。おそらくここは応接室だろう。俺たちは扉側にあるソファ……いわゆる下座に座っている。
俺はやけに質の良いソファを撫でながら、隣に座るドンさんを見る。いつも通りの様子であることに少し関心する。これから王族に会うってのに緊張しているように見えないからだ。
ん……? 今ふと思ったんだが、王族がわざわざ対応してくれるのか?
「なぁ、ドンさん。王弟が対応してくれるのか?」
暇だし聞いてみよう。
「いや、おそらく侍従長が対応してくれるだろう。もしかしたらその後にイーシス殿下が顔を出す可能性はあるが……確実ではないな!」
おぅ、まじか。てっきり会うもんだと思い込んでたわ。
「この機会に侍従長に女王陛下との謁見を申し込むつもりだからな! 女王陛下にはきっと会えると思うぞ! 数日後になると思うがな!」
仕方がない、今日のところは侍従長で我慢してやるか。
コンコンッ
そんなことを考えていると、扉がノックされた。俺とドンさんは立ち上がり、相手が入ってくるのを待つ。振る舞いについてはドンさんに合わせとけば問題ないだろう。
扉を開けて入ってきたのは1人の老人だった。高齢に見えるが背筋はピンッと伸びており、まだまだ現役であることがよくわかる。その顔に刻み込まれた皺とガッシリとした体格は歴戦の猛将のように見えなくもない。これが侍従長か……将軍の間違いではないよな?
老人の後ろには2人のイルシプ人の兵士がついている。一応、冒険者に会うわけだから護衛としてつけているんだろうな。
「お久しぶりですなぁ! ドン殿!」
老人がドンさんにバカでかい声で話しかけた。
「お久しぶりです! ルサール殿! ラージイーグルの引き渡しに来ました! それと、こちらは今チームを組んでいるノヴァスです! ……ノヴァスよ、こちらがイルシプ王室の侍従長であるルサール殿だ!」
「ほぅ、これはまた……儂はイルシプ王室に仕えるルサールと申します! よろしく頼みますぞ! ノヴァス殿!」
「あぁ、どうもよろしく。ルサール侍従長」
老人……ルサール侍従長は随分元気のいいジジイのようだな。っていうかイルシプ人自体が元気の有り余ったようなやつらばかりだし、ルサール侍従長に限った話でもないか。
お互い紹介を終え、ルサール侍従長が上手側のソファに腰掛けたのを見て俺たちも座った。
「それで、そちらが例のラージイーグルですかな!」
ルサール侍従長が床に置かれた鳥籠を見てそう言った。
「そうです! ノヴァスが捕獲しました!」
ドンさんがそう言うと、ルサール侍従長が俺を視線を向ける。
「まあ、そういうことだ」
一応、返事しておく。
「それはそれは……女王陛下が聞いたら大変興味をお持ちになるでしょうな! ではこの鳥籠はこちらで預かりますぞ! ……おい! 持っていくのだ!」
ルサール侍従長が後ろで控えていた兵士に命じると片方が鳥籠を持って部屋を出て行った。
「それと女王陛下への謁見を希望したいのですが……」
ドンさんがついでとばかりにそう尋ねた。侍従長という立場ならこういうことも可能なのかもな。
「ほぅ! 女王陛下も以前はあまりお話が出来なかったと残念がっておりましたので、きっと喜ばれることでしょう! ……おい! 確認してくるのだ!」
ルサール侍従長が後ろで控えていたもう1人の兵士にそう命じ、残った兵士も部屋を出て行った。……あれ? 護衛じゃなかったの?
「あの兵士たち、護衛じゃなかったのか……?」
俺は思わず聞いてしまった。
「あやつらを控えさせておくと何かと便利でしてな! それに儂には護衛などいりませんぞ! あやつらよりも儂の方が強いですからな!」
兵士を雑用扱いかよ。何者なんだよ……このジジイ……
「ルサール殿は昔アルハンドラ宮殿の近衛兵長だったお方だ! 今でもイルシプ兵の間では恐れられているらしいぞ!」
やはりただのジジイではなかったか……
「ガハハッ! それも昔の話ですからなっ! 今の儂なんて10人くらいに囲まれたら、ギリギリ相打ちに出来るかどうかくらいですぞっ!」
「ちなみにこの10人というのはアルハンドラ宮殿の近衛兵のことで上級冒険者にも引けを取らないと言われている精鋭だ! おれでも流石に厳しそうだというのに……流石はルサール殿だ!」
「なぁに! ドン殿だって負けてはおりますまい! ……それにノヴァス殿もなかなかやりそうだ! どうですか? この老骨とお手合わせでも……」
そんな余裕あるならお前がラージイーグル捕まえてこいよ……
「いやぁ……あ! そういえば気になっていたんだが、なんでラージイーグルなんか欲しがっていたんだ?」
実はずっと気になっていたのだ。あんな魔物捕まえてペットにでもするつもりなのか?
「それは儂もよくわからないのです! イーシス殿下が何やら裏でこそこそとしているようですが……」
バタンッ!
「貴様らには関係ないことだ。余計な詮索はよしておけ」
突如俺たちの会話を遮って、誰かが乱暴に扉を開けてそう言い放った。俺は声の主の方を振り返った。
そこにはイルシプ人にしては線が細く、どことなく高貴な雰囲気を漂わせる美青年がいた。その青年は後ろに数人の兵士を引き連れて、この部屋の中に入ってきて俺たちの側にまでやってきた。そして睨みつけるように俺たちを見下ろす。
「あなたは……イーシス殿下……!」
ドンさんが目の前の青年……イーシス殿下を見ながらそう言った。
こいつが王弟ということか。
俺としては一国の王族だし友好関係が築ければいいなぁと思っていたのだが……
とてもそのような雰囲気ではないことに少し面倒な気分になった。
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