51 首都アルハンドラ
「ここがアルハンドラか……!」
俺たちはようやくイルシプ王国首都・アルハンドラへと到着した。俺とドンさんは無事に都市内に入ることができ、商隊の連中とも街門で別れた。
ここに着くまでの道のりは長く、キツいものであったが、街の光景を目にして一気に疲れが吹き飛んでしまった。
街並みは城塞都市カーメリアと似通っているが、その規模が桁違いだ。道も建物も何もかもがスケールが大きく、まさにイルシプ王国最大の都市という名に相応しい様相だ。
都市内の建物は全体的に白色や砂色とシンプルなように見えるが、屋根がドーム状になっていたり、装飾が非常に細かく緻密でそれぞれに違った特徴が見受けられるものが多い。まさにアラビア世界の中心地のような印象を受ける。
そして都市を南北で真っ二つに突っ切るように流れているイルシプ川……その壮大さには思わず圧倒されてしまった。両岸間の移動には船がなければとてもじゃないが厳しそうである。これだけの広大な大河の恵みによってこの国は発展していったのだと想像するに難くない。
そのアルハンドラ内を流れるイルシプ川のど真ん中……都市の中心地にあたる場所には島がある。そこには他の建物よりも一層壮大で豪華な城のような建物があった。あれはアルハンドラ宮殿……イルシプの王族の住居であり政を執り仕切る官庁でもある一際豪華な建造物だ。あそこに噂の女王陛下がいるというわけか……
景観もそうなのだが、その人の多さにも驚かされた。何より人の行き来が段違いである。そこにいる人たちには活気が溢れており、皆懸命に暮らしているようだ。それだけでこのアルハンドラが経済的な中心地でもあることはよくわかる。
……まぁ、その分ガラの悪そうなヤツらも多くいるのだがな。
「てめぇ、何見てやがる?」「見物料として金貨100枚よこせ!」「おれたちにあんま楯突かない方が賢明だぜ?」「ちょ、あいつ筋肉すごくね……?」「なんかおっかねぇ魔物も連れてるぞ……」「し、仕方ねぇ、今回だけは許してやるよ」「さっさと行きなっ!」
……取るに足らないようなヤツらなので放置しておこう。
気を取り直して……
まさかこれほどの街が見れるとはな……正直めちゃくちゃ感動している! これは帰らずの森に引きこもらずにわざわざ飛び出してきた甲斐があったというものだ!
そんな俺の様子を見てドンさんはどこか誇らしげであった。自分の国の最大都市にこんな反応されたら嬉しくてたまらないってか? まあ、そんな表情をしたくなる気持ちはわかる。これは凄いわ……
アルの故郷であるニルヴァニアにも俄然興味が湧いてきたな……!
まあいつまでもそうしているわけにもいかないので、俺とドンさん(+雛ラージイーグル)は大通りの端の方まで移動してこれからの予定について話そうとしていた。
「ドンさん、まずは教会に行くのか?」
俺はそう話しかけた。冒険から帰ってきたらまずは教会、上級冒険者の間では常識だったはずだ。
「うむ! ……と、いいたいところだがな。まずは冒険者ギルドへ行ってラージイーグルの引き渡しと依頼達成の手続きを済ませてしまおう。その後には宿も探さなくてはならないし……教会はその後になってしまうな!」
まあ状況に応じてその辺のルーティンは柔軟に変えるものか。カーメリアではドンさんの宿に居候、これまでに経由した街でもドンさんと一緒に泊まったことだし、アルハンドラでも同様かな。
俺はふと鳥籠の中にいる雛ラージイーグルを見た。コイツもだいぶ俺に慣れてきたようで、どこか達観しているかのような顔つきになっている。コイツと一緒にいるのもあと僅かか。
「お前とももう少しでお別れだな」
俺がそう呟くと、
「ピ? ピィ!? ピィィィィィィ!!(え? まじで!? よっしゃぁぁぁぁ!!)」
急に元気になってはしゃぎ出した。いきなりどうしたんだ?
「まあいいか……とにかく、そういうことならさっそく冒険者ギルドに行くか。……あ、そういえば女王にはいつ会うんだ?」
「あぁ! 女王陛下に会うには窓口で謁見に関する手続きをしないとだからな。どんなに早くても明日以降になるだろうな!」
そりゃそうか。仮にも一国の君主だもんな。会えるかもしれないってだけで十分凄すぎるってもんか。
「では冒険者ギルドに向かうとしよう! 行くぞっ、ノヴァス!」
ドンさんがそう言って大通りを歩き出したので、俺もそれに続いて冒険者ギルドを目指した。
周囲の異国情緒溢れる景色を楽しみつつ、足取りはたしかに前を向いていた。
◇◇◇
「ここが冒険者ギルド・アルハンドラ支部だ!」
俺たちはアルハンドラの冒険者ギルドの目の前に辿り着いた。
カーメリアの冒険者ギルドよりも建物は大きく、ところどころ意匠は凝っており豪華なのだが、概ね同じような造りになっているな。
「カーメリアの冒険者ギルドとそんなに変わらないな」
「冒険者ギルドの役割はどの街でも似たようなものだからな! 細かいところや一部に違いはあるだろうが、大体は同じだ。だが冒険者の数はかなり多いと思うぞ! イルシプで冒険者を目指す者はまずここから始めるからな!」
なるほど、それもそうか。街ごとに特色を出すようなものでもないか。観光地ってわけでもないしな。
それにドンさんの言う通り、外から見ているだけでも建物内の熱気が伝わってくるくらいには賑わっている。イルシプ最大都市なだけあって依頼の数も多く、その分働き口は引くて数多といったところか。
「さあ! さっさと用事を済ませてしまおう! 行くぞっ、ノヴァス!」
ドンさんが大股で冒険者ギルドの扉をくぐった。俺もそれについて中に入った。
冒険者ギルドの内部はやはりカーメリア支部と似通っているが、その規模はかなり大きいように思える。
正面には3方向に展開された受付カウンター、そしてその両脇には上階へと続く階段が設置されている。右手には依頼紙が大量に張られた掲示板と周辺地図や世界地図があり、左手には酒場が広がっている。そして入り口付近にはハイテーブルがいくつも置いてあり、冒険者たちが各々情報交換に精を出している。
これだけ多くの冒険者たちが滞在していると、その盛況ぶりに圧倒されてしまう。これが国内最大級の冒険者ギルドか……
冒険者ギルドに入ってきた俺たちを周囲の冒険者たちが一斉に見て少し場が騒つき始めた。
「おい……あれドンじゃねぇか……」「ほう、あいつが噂の銀か……」「パトレイシア・クレストから財宝を持ち帰ったという、あの……」「たしかに強そうだな……」「見ろ! ラージイーグルだぞ!」「流石というべきか……」「隣のヤツは誰だ……?」
皆ドンさんを見て驚いているようだな。銀ってのはやっぱりすごいらしい。俺たちの周囲だけがやけに静かになってしまい、少し居心地が悪いな……
隣にいるドンさんはというと……特に気にしている様子ではないな。もしかしたらこういうのに慣れているのかもな。
俺たちはラージイーグルの引き渡しに関する手続きをすべく受付カウンターまで歩いて行った。
「少しいいか! ラージイーグルをここまで運んできたのだ! 手続きをよろしく頼む! これがおれの冒険証石だ!」
ドンさんは受付カウンター内に座っている職員の女性に声をかけた。その際に依頼に関する資料と銀の冒険証石をカウンターの上に置いた。俺もちゃっかり便乗して白の冒険証石を横に置く。
「ようこそ、冒険者ギルド・アルハンドラ支部へ! 依頼に関する手続きですね。それでは拝見させていただきます。……って、あなたは銀のドンさん!? すごい! 本物だぁ……!」
受付嬢さんが営業スマイルを崩して目をキラキラさせながらドンさんを見つめている。まるで有名人に出会ったかのように……まあ銀ともなれば有名人なのか。女王陛下に推薦を受けて昇級したんだもんな。……ちなみに俺のことは微塵も気づいていないようだ。クソッ……!
「ハッハッハ! それよりも手続きを頼む! 少しこの後にやるべきことがあるからな!」
「あ……申し訳ございません! 少々お待ちください! ……あ、この依頼はたしか……」
ドンさんもああいった反応には手慣れているようだな。軽くあしらっているのが、なんか無性に腹立つ。受付嬢さん! 俺も実は帰らずの森では結構有名なんですよ! あ、目が合った! 不思議そうな顔で軽く会釈をされた。別にいいもん……
「……こちらのラージイーグルの移送に関する依頼なのですが、引き受けた冒険者の方がお越しになった場合にはアルハンドラ宮殿までラージイーグルを届けるために出向くよう依頼者様から言付かっていまして……」
アルハンドラ宮殿ってたしか王族の住居だったはずじゃなかったか? ……あぁ、たしか【ラージイーグルの捕獲】ってイルシプ王室が依頼者なんだっけ?
「あぁ……そういえばそうだったな。了解した! 手続きが済み次第そちらへ向かうことにしよう! ……ノヴァスもそれでいいか?」
「ん? 必要なことなんだろ。まさか今日行くとは思わなかったがな。とうとう女王陛下とご対面か……」
早くても明日以降って話だったのが、今日会えるかもしれないのだから断る理由なんてないだろう。
「まあ正確には依頼者は女王陛下ではないのだがな!」
「え? そうなのか?」
「あぁ! 【ラージイーグルの捕獲】の依頼者は女王陛下の弟君であるイーシス殿下なのだ!」
王弟ってことか。なんだ、じゃあ女王陛下に会うのはまだ先のことか。だが、こんな簡単に王族に会えるって考えるとすごいな……いや、雛とはいえラージイーグルの捕獲って難しいんだっけ?
「じゃあこれが済んだら次はアルハンドラ宮殿か」
「あぁ! 行く途中に教会があるからついでにそこにも寄ってしまおう! ……やりたいこともあるしな」
そういうことならさっさと手続きを終わらせてしまおう。
その後依頼の完遂についての手続き、報酬の受け取り等を済ませ冒険者ギルドを後にした。
俺たちはアルハンドラに到着したその日にこの都市の中心地たるアルハンドラ宮殿に行くことになった。
これからこの世界の王族に会うのか……前世の常識では考えられないことだな。
まあ、女王に会う前の予行演習とでも思えば少しは気が楽になるか?
そんなことを考えながら俺たちはアルハンドラ宮殿を目指して大通りを歩き出した。
「ピィ?(あれ? お別れじゃないん?)」
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