49 ドンの過去
◆◇◆
これは今よりも少しだけ昔の話……
「いよいよだなぁ!」
「ここがパトレイシア・クレストか……」
「さっさと終わらせて帰ろうぜぇ」
おれたちはオアシス都市・リヴィラから少し離れた場所にあるイルシプ最難関のダンジョンであるパトレイシア・クレストの目の前にまでやってきた。
広大な砂漠地帯の中に聳え立つ巨大な建造物……意匠を凝らした巨大な柱が等間隔で周囲を囲み柱廊を形成しているかのようだ。その中を覗いてみると、広い空間に敷き詰められた石畳の中心部に地下へと続く階段が見える。
あれがパトレイシア・クレストの入り口なのだろう。パトレイシア1世の財宝を保管した宝物庫のはずだが、侵入者を拒むような造りには見えない。鍵がかかっていないどころか扉もないからだ。……それとも侵入者を誘き寄せ、内部で始末するような仕組みになっているのか……
パトレイシア・クレストでは今まで多くの冒険者が犠牲になっていると聞く。その一方で途中で攻略を諦め帰ってくる者もまた多くいるので、立入禁止区域に指定されてはいない。だからといって危険なことに変わりはないのだが……果たしておれたちは無事に財宝を見つけ持ち帰ってくることができるのか……
「おい! ドンッ! 何難しそうな顔してんだよ!」
「ん……? あぁ、すまん! 少し考え事をしていた!」
「ったく、しっかりしろよ! ぼくらはこれから偉業を成し遂げるんだからな!」
おれに話しかけてきた男は幼馴染のギードだ。イルシプでも屈指の凄腕剣士であり、共に数多の死地をくぐり抜けてきた永遠のライバルだ。コイツと一緒なら何でもできる……そんな気にさせてくれる最高の相棒でもある。
「そうだな……! おれとお前が組めば不可能などないな!」
「ハッハッハ! 当たり前だっ!」
「おっと、このおれ様の存在なくしてお前らの活躍はなかったはずだ……それともおれ様はもうお払い箱ってか? 随分偉くなったもんだな?うん……?」
そう割り込んできたのはゴズだ。コイツは冒険者でも貴族出身という珍しい出自の男だ。ゴズはイルシプでも何人もの魔術師を輩出した名家の生まれなのだが、貴族同士の柵に嫌気がさして家出した後に冒険者になったのだ。コイツの魔術に助けられたことなど数えきれないな……
「すまん! そんなつもりではなかったぞ、ゴズ! 今回も頼りにしているぞ! なぁギード!」
「ふん……わかっていればいい……」
「ったくゴズ、お前は本当に面倒なやつだなぁ! ドンももっと言ってやれ!」
「……ギード……舐めた口を聞いてると後ろから撃つぞ……?」
「へへん! やれるもんならやってみやがれ! 腰抜け野郎が!」
「おいおい、ギードもゴズもその辺にしておけ! ……ラー! お前も止めてくれ!」
おれはパトレイシア・クレストの入り口を調べているラーに話しかけた。ラーは罠や斥候の知識を持っており、ダンジョン探索には欠かせない男だ。戦闘には積極的に参加しない代わりにチームの物資管理や交渉事も一手に担っており大変頼りになる。今も階段に罠がないか調べてくれていたのかもな……
「あぁ? 面倒くせぇなぁ。おい、ギードとゴズ。そのへんにしておかねぇとお前らの小遣い減らすぞ?」
ちなみにラーは商家の生まれであるため、金勘定も得意なのでチームの金庫番の役目も担っている。そのためラーの言うことを聞かないとこういうことになる。
「そ、それは……卑怯だ……!」
「むぅ……」
「はいはい、しっかりとお互い謝ったら許してやるから、なぁ?」
「くっ……ゴズ、すまなかった……!」
「……おれ様の方こそ悪かったな、ギード……」
ギードとゴズは渋々といった感じだがお互いに頭を下げて謝った。
「助かったぞ! ラー、ありがとう!」
「ドン、一応お前がこのチームのリーダーだろぉ? もっとしっかりしろよなぁ?」
「お、おう……だが、リーダーだなんて酒の席で決まっただけの名ばかりの役職なんだがな……」
「それでもみんなお前がリーダーであることを認めてるんだよ。ギードもゴズも……もちろん、このおれもなぁ」
ラーは口角を上げながらそう言った。そしてその後ろからギードとゴズが歩いて来る。
「そうだぜ! ドン、お前がリーダーなんだ! もっとどっしり構えてろ!」
「あんま腑抜けていると、後ろから撃つからな……」
ギードとゴズがそう言う。
「あぁ……そうだなっ! これからおれたちが挑むのはイルシプでも最難関のダンジョンだっ! とりあえず今は目の前のことに集中しようっ! 女王陛下に捧げる財宝の回収……必ず達成しよう!」
おれは力強くそう言った。
「ハッハッハ! それでいい! 必ず何とかなるぞ!」
「いつも通りやれば問題ない……」
「まぁ、さっさと終わらせて帰って酒盛りでもしようやぁ。なんなら女王陛下が酌でもしてくれねぇかなぁ?」
我ながらなかなか癖のあるチームだと思うが、実力は確かだ。今まで数々の困難をこのメンバーで乗り越えてきた。
無事に【パトレイシア1世の秘宝】の依頼を達成して、アルハンドラへと凱旋する。そして女王陛下に謁見し、これまでの功績で銀へと昇級し冒険者としてさらなる躍進を、と。
そのときは確かに、そうなる未来を思い描いていたのだ……
◇◇◇
おれたちがパトレイシア・クレストに入り込んでから2日は経っただろうか。
「今ぼくらがいるのはどこら辺なんだろうな?」
最後尾を歩くギードがそう言った。呑気そうに見えるが、後ろの警戒は怠っていない。
「まぁ、そろそろ浅層といわれる部分は終わりだろうなぁ。次に見えてくる階段を降った先から深層に入ることになる……お前ら、気ぃ抜くんじゃねぇぞ」
おれの前……先頭を歩くラーがそう答えた。罠や仕掛けがないか注意深く調べながら進んでくれている。
「いよいよ本番……ということだな……」
おれの後ろを歩くゴズが静かに呟いた。いつでも魔術を詠唱できるように冒険中は基本的に無口なゴズはそれだけ言うとまた静かになる。
「ここまでは特に脅威となる存在はいなかったな……まぁ、その分お宝になりそうなものもまったく見当たらなかったがな!」
おれたちが今まで歩いてきた場所は浅層といわれており、パトレイシア・クレストの中でも既に調査やマッピングが済んでいるエリアだ。襲ってくる魔物も外にいる魔物とほとんど変わらないので、ここまで来るのは難しいことではない。問題はここから先だ……
「まぁなぁ……だが深層は違う。舐めてかかると先達の冒険者たちと同じ目に遭っちまうからなぁ。……っと、あそこに階段がある。あれが深層への入り口だなぁ。一度あそこの手前で休息をとろうぜ」
ラーが地図を見て確認し、そう提案した。
「そうだな! ラーの言う通り休憩しよう! みんなもわかっていると思うが……あそこを降った先からが本番だ。しっかりと体を休め、装備や道具の点検も済ませよう!」
おれはラーの提案を受けてそう言った。
「ふぅ! やっぱり警戒しながら進むと時間がかかってしょうがねぇなぁ!」
「いくら浅層とはいえこの地下空間で油断するのは命取りだ……ここから先は尚更な……」
「案外ぼくらならあっさりと攻略してしまうかもしれないぞ?」
みんな喋りながらも各自栄養補給や装備の確認は怠らない。おれも早くやるべきことを済ませて休憩しよう……
「……パトレイシア1世といえばよぉ、【パトレイシア1世の悲劇】ってあるだろ? あれって本当だと思うかぁ?」
ラーが急にそんなことを言い出した。
【パトレイシア1世の悲劇】……それはかつてイルシプ王国を建国した稀代の女傑・パトレイシア1世の末路のことである。
彼女には弟がいた……名前をパトレイシスという。彼はとても平凡な子であった。パトレイシスは優秀で才能溢れる姉・パトレイシア1世と何かと比較をされて育ってきた。
何をしても姉との差を意識させられ、常に劣等感に煽られていた。失敗をすれば優秀な姉にしてこの弟か……と落胆され、成功をしても流石はあの方の弟だ……と姉を讃える装飾品のような扱いをされる。
故にパトレイシスは狂った。そして……パトレイシア1世をナイフで刺して殺した。そのナイフはパトレイシア1世がパトレイシスに贈ったものだった。非常に気に入っていたというそれを弟に……
それほどまでにパトレイシア1世は姉として弟のことを愛していたが、それはパトレイシスには伝わっていなかった。
非業の死を遂げたパトレイシア1世はその無念によって、魂はパトレイシア・クレストにまで行き着き、今も最奥の部屋にて嘆き苦しんでいる……
そんな感じの内容だったはずだ。
パトレイシア・クレストがダンジョン化したのは、パトレイシア1世の怨念によるものであると言う者が一定数いるのだが……ラーはそのことを言っているのだろう。
「馬鹿なヤツめ……怨念などあるはずないだろう……」ブルブル
「ぷぷっ……ゴズ、お前ビビってるじゃん! いつもスカしてるくせに、だっせぇ!」
「お前……やはり死にたいようだな……」
「なんでこうなるかなぁ……おい! ゴズ、ギード! ダンジョンでくだらないことで喧嘩するな! 小遣い減らすぞっ!」
ギードとゴズが戯れあい、ラーが諌める。それを困りながらも楽しく見ているおれ。いつもの光景だな。
「よしっ! お前たち! 仲がいいのは何よりだが、もう少し緊張感を持てっ! こっから先はその実態もよくわかっていない領域だ……怨念だろうが関係ない! 目の前の障害は排除するまでだ! 絶対に生きて帰るぞ!」
おれはリーダーらしくそう言い放った。
「……ドンも言うようになったな! ここはリーダーの顔を立ててやるか! 許してやるよ、ゴズ!」
「元はと言えばお前が……いや、いい。続きは帰ってからにしてやる……感謝しろ、ギード……」
「よっ! それでこそリーダーだなぁ」
その後は特にトラブルもなく、予定の時刻まで休息をとった。
目の前の階段を降ると、いよいよ深層である。
おれは目の前の階段に視線を向けた。
ここから階段の先を除こうとしても真っ暗で何も見えない。
暗闇に包まれたソレは、
何だかとても、
不気味に見えた。
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