48 砂漠
俺とドンさんがアルハンドラ行きの商隊と合流し、城塞都市カーメリアを出発してから数日が経った。
現在、俺たちは突き刺すような太陽光が照り返った砂漠地帯を突っ切っている最中だ。めちゃくちゃ暑くてキツいのだが、日差しと水分にさえ気を付けておけば案外大丈夫なので特に問題もない。
商隊の連中とは軽く挨拶をしてから合流を許してもらったのだが、ドンさんの銀という肩書きのおかげかむしろ大歓迎されてしまった。まあ、それを抜きにしてもドンさんはカーメリアでは有名っぽいし歓迎されたような気もするがな。
俺に関しては誰? って反応だったが、ドンさんのチームメンバーなら……みたいな感じで特段邪険に扱われるようなこともなかった。人間関係によるストレスが少なくて助かるぜ……
雛ラージイーグルも随分と大人しいので逆に心配になるくらいなのだが、俺がお世話をしようとすると泣き叫んだり、気絶したりとリアクションがいちいち大袈裟なのでドンさんに一任している。面倒事を押し付けることができて嬉しい反面、怖がられていることに対して少し寂しかったり……とかはないな、うん。
商隊の配置はまず真ん中に大きな荷台を引くラクダみたいな生物がいくつか並んでおり、その荷台の乗り場部分に商隊の責任者のような人物が座っている。それを囲むように商隊の護衛や俺とドンさんが随行しているといった感じだ。鳥籠はもちろんドンさんが手に持っている。今更だけどよく疲れないね……
まあそんな感じで旅路は概ね順調といっていいだろう。中規模の商隊ではあるが、これだけの人数で固まっていると魔物も盗賊も警戒しているのかそこまで煩わされることなくここまで進むことができた。
これまでにもいくつか街を経由しているのだが、それと照らし合わせると今俺たちがいる場所は城塞都市カーメリアと首都アルハンドラのちょうど中間地点に差し掛かっているようだ。後半も似たような旅路になるのだろうな。
そういうわけで特にトラブルもなく順調そのものなのだが、こうなってくると意外と暇なのである。かといって事件が起きてほしいわけでもないが、ただ歩いているだけってのも味気ない。
隣の方に顔を向けるとドンさんが全身にマントを纏った状態で鳥籠を担ぎ、元気に歩いている。流石のドンさんもこの厳しい環境には相応の格好をするようだ。相変わらず体力は有り余ってそうだが……
一方で、他の商隊の連中はみんな暑さと疲れでギリギリの状態だな。とてもお喋りする余裕なんてなさそうだ。
雛ラージイーグルもグロッキーになっているが、意外にも体が丈夫なのか命に別状はなさそうだ。流石は魔物といったところか? ドンさんは魔物以上に魔物染みているということになるな……
俺?俺はもちろんいつもの格好をしている。元々、ローブの上からマントを纏う服装だったからな。……まあ魔法による空調のおかげでとても快適に過ごせているがな……くくく……
「それにしてもノヴァス、この環境でもお前は本当に元気そうだなっ! 冒険者に出自を聞くのはマナー違反なのだが……あえて聞こう! お前は一体どこから来たのだ?」
俺よりも元気そうなドンさんが突然そんなことを聞いてきた。……どこから来た、か。何て答えたもんかな? いっそのこと正直に話してみるか? 実は帰らずの森で生まれたドラゴンだよ……って感じで。
そういえば俺は出会ったことはないが、俺以外にもドラゴンっているのだろうか? アルもドラゴンという存在自体には疑問を抱いていなかったようだから、もしかしたら普通にいるのかな?
「ドンさん、実はだな……俺は帰らずの森からやってきたドラゴンなのさ……」
ちょっとドキドキしている。一体どんな反応が返ってくるのか……
「ハッハッハ! お前は本当に愉快なヤツだな! そこまでして言いたくないのなら素直にそう言えばよかろう! 変なことを聞いて悪かったな!」
ドンさんが豪快に笑いながらそう言った。なるほど、俺が冗談を言ったと捉えたようだ。
「なぁ、実際ドラゴンっているのか? 俺見たことないんだけど」
これもついでに聞いてしまおう。
「そうだなぁ……聖竜神教の神話では古代ミリア帝国建国の父・ライハート1世が聖なる竜によって鍛えられたと語られているが、現存もしくは実際に存在するかどうかはわからんな。他にも伝説で似たようなことも聞くが、真偽のほどは不明だ……噂程度だがヴェルダーン帝国内にある竜鳴火山という特級指定ダンジョン……その最奥にある立入禁止区域・赤竜の間にはドラゴンがいると言われているぞ?」
基本的には神話に出てくる存在といった感じか。そして竜鳴火山と赤竜の間……めっちゃ竜がいそうだな。ヴェルダーン帝国はたしか中央大陸の国だったっけ。いつかは行ってみたいな。
「てっきりおれはお前が中央大陸のどこかの国の貴族かと思っていたぞ! 身なりもいいし、育ちも悪くなさそうだ。そして何より強い……高名な魔術師の家系の出身で家出か修行の旅をしているのかとな!」
その設定……悪くないね? 今度から同じようなこと聞かれたらそう答えるか。
「ドンさん、もう少し設定を練ってくれ。今度から使わせてもらうから」
「……詳しく突っ込まれたら困ることにならないか? 素直に出自を明かしたくない旨を伝えるのがいいだろう。お前に嘘は似合わないからな!」
ちなみに今の俺は人化の魔法で姿形を変えて、全員を騙しているようなもんだぜ? まあこれを嘘と捉えるかどうかはその人次第か。
「それもそうか……ってかそんなことよりも【パトレイシア1世の秘宝】やパトレイシア・クレストについて詳しく教えてくれないか? ……まあ話すのがキツいようなら無理しなくていいけど」
一応、危険な場所らしいし聞けることがあるなら聞いておきたい。ただドンさんにとっては辛い過去だろうから話しにくいかもしれないな。
「いや、大丈夫だ! そもそもおれが頼んでついてきてもらったようなものだからな! おれの知っていることは全て話そう!」
それは助かる。ドンさんも過去のことについては乗り越えているんだもんな。ただ敵討ちをしたいだけで……そうなんだよな。敵がいるんだよな。一体どんな化け物なのか……
「まずはパトレイシア・クレストから話すか! 以前も言った通り、イルシプの初代女王パトレイシア1世が造らせたクレストのことだ。その全貌は現在でもわかっていないほどに広大で深いと言われている。原因はよくわかっていないが、いつしか多くの魔物で溢れるようになりダンジョンと化してしまった。今では帰らずの森を除けば、南方大陸最難関のダンジョンとして有名な場所となっている」
この世界の技術レベルについてはよくわからないが、きっとかなり昔のことなんだろうな。そんな時代に現在でも全貌がわからないほどの空間を地下に造るって凄すぎるだろ……パトレイシア1世ってのは……
「元々はパトレイシア1世が所有する数多の財宝を保管するために造らせたクレストのようでな。不届き者によって荒らされることを懸念して複雑で広大な設計にしたとのことだ。研究者によっては魔物自体も仕掛けなのではないかと考える者もいるそうだ……」
それだけのためにそんな建物を造らせることができるってパトレイシア1世の権威ってのはとんでもないな。長年崩落することもなく残っているようだし、その時代にして建築についても高い技術力を持っていたということだし……ちょっと俺の常識では計り知れないな。
「浅層の財宝はあらかた回収されたようだが、深層についてはまだまだのようでな。イルシプ王室が冒険者ギルドに財宝の回収を依頼したというわけだ。パトレイシア1世が残した財宝についてイルシプ王室でも語り継がれているようでな……財宝を回収できた者は女王陛下との謁見も許されている」
「それで【パトレイシア1世の秘宝】か……」
「そういうわけだ! ただこの依頼の難易度はかなり高くてな……挑戦する冒険者もいるにはいるのだが、数回だけ挑戦を続けた後にキッパリと諦めてしまう者がほとんどでな……」
いくら広大といっても地下空間だし環境としては最悪だろう。空気も澱んでいるだろうし光源や食糧だって心許ないだろう。そんな状態で魔物に襲われるなんて発狂ものだ。それなら他にもっと割のいい依頼はいくらでもあるだろうしな。
「改めてノヴァス、お前には申し訳ないと思っている。こんな危険な場所についてきてくれだなんておれが頼んだばっかりにな……おれの我儘で命をかけさせるようなことを……」
おっと、それは違うぜ。女王と会える、冒険者ランクが上がる、いかにもな冒険ができるということで俺は既に乗り気なのだ。ドラゴンである俺にとっては大して危険じゃないかもしれないしな!
「ドンさん、それを言うならありがとう、だろ? あんたに申し訳なく思われたら、気持ち悪くて仕方がねぇよ」
あんま暗い顔するなよ。ただでさえ今砂漠のど真ん中でクソ暑いんだから。気まで滅入っちまうぞ?
「ノヴァス……! うおぉぉぉぉ! ありがとうっ!」
「……落ち着け、その汗だく状態で抱きつくんじゃねぇぞ。まじで殺すからな!」
「むぅ……仕方がない……」
何少し残念そうな顔してんだよ……気色悪りぃな。
「……それでは……おれがかつてのチームメンバーと挑戦したときのことを話すか。あまり面白い話でもないが、何かの役に立つかもしれない」
ドンさんが真剣な表情になってそう言った。
ここからが最も重要な部分になるだろう。
俺も少し気を引き締める。
聞かせてもらおうじゃないか。
かつて銅のチームが壊滅したという……パトレイシア・クレストの本当の恐ろしさというものを、な……
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