47 首都を目指して
俺とドンさんはさっそくパトレイシア・クレストが近くにあるというオアシス都市リヴィラを目指して城塞都市カーメリアを出発した……というのは冗談だ。
ドンさん曰く、イルシプ王国首都であるアルハンドラへとまずは向かうようだ。
「なんでアルハンドラに行くんだ? 距離を考えるとここからリヴィラに向かった方がよくないか?」
ちなみに俺とドンさんは今冒険者ギルドの壁に張ってある巨大な地図の前にいる。この世界の地図は前世ほどの正確さはないが地理関係を把握するには十分な代物であると思う。
それを見ながら俺はドンさんに尋ねた。
「ここからまっすぐリヴィラに行くには大いなるイルシプ川を渡らなくてはならないからな! イルシプ川下流河畔にあるアルハンドラに行けば安全に川を渡ることができるのだ!」
そう言われて俺は改めて地図を見て納得した。
少しイルシプ内の地理関係を整理しておこう。
イルシプ王国は南方大陸の東側に軽く突き出た半島のようになっている地域に位置する。それを真っ二つに割るように巨大な川が流れている……それがイルシプ川だ。半島の先から西側に伸び、徐々に南側に逸れていくように流れるこの川こそがイルシプ王国の名前の由来となった川のようだ。
そんなイルシプ川の恵みによって各地に都市が築かれていった。その中でも半島の先の方かつイルシプ川下流河畔にあるアルハンドラは交通の要衝として大きく発展した。川を両岸で挟むようにして築かれたアルハンドラ内であれば船の定期便があるらしく安全に川を渡ることが可能なようだ。
城塞都市カーメリアやエルオア高原は帰らずの森が近くにある影響か自然が豊富だったが、イルシプ国内を縦横無尽に渡り歩くことは本来厳しいことらしい。その国土は基本的にサバンナや砂漠地帯になっているからだ。その中でイルシプ川を渡ろうとするなど自殺行為に等しいらしい。
城塞都市カーメリアとオアシス都市リヴィラはイルシプ川によって隔てられているので、まずは首都アルハンドラに行ってから安全にイルシプ川を渡り、それからリヴィラを目指そうということだ。
流石のドンさんもイルシプ川を泳いで渡るなどという脳筋すぎることはしないようで安心したよ。
「ノヴァスの望み通り、いつかは泳いで渡ることにも挑戦はしたいがな……」
ごめん、やっぱ脳筋だったわ。ギリギリ良識が残っているからよかったけど、絶対にそんなことするんじゃねぇぞ? ドンさんのかつての仲間もそんな理由で死んだらあの世でブチ切れるぞ……あと別に泳ぎたいわけじゃねぇから。
「なるほど、わかったよ。まずはアルハンドラに行ってそれからリヴィラだな。……あと冗談だと思うが、イルシプ川を泳いで渡るなんて絶対にするなよ?」
「ハッハッハ! わかっているとも! この命、無駄にする気など毛頭ない! 半分冗談だ!」
ならいいけど……っておい!? 半分本気なのかよ!
「それに女王陛下にもお会いしたいしな。あのとき……パトレイシア・クレストから命からがら帰ってきたときはおれも余裕がなく、カーメリアまで逃げるようにして旅立ってしまったからな……まあ会えるかはわからんがな!」
少しでも気を紛らわせるために帰らずの森最前線の危険なカーメリアに行くってなかなか荒んでいたんだな……今では大丈夫なようだが、未だに心のしこりとして残っていることもあるんだろうな。
ってか女王にそんな気軽に会える立場なのかよ! すげぇな銀って。それとも女王のおかげで昇級できたことが関係しているのか? まあ今気にしても仕方がないな……
「女王に会えるというなら楽しみだな……」
「女王陛下は大の冒険譚好きだからなっ! 冒険者にもとても寛容な方なのだ! ノヴァスほどの者なら特に興味を持たれるかもしれないぞ?」
そういうことならさっさとアルハンドラに向かおうぜ!
「そこのお2人っ! ちょっといいかい?」
俺たちの後ろから声が聞こえる。振り返るとそこにいたのはカリンさんだった。
「アルハンドラに行くなら一つ依頼を受けてくれないかい?」
「依頼?」
俺は首を傾げる。これからアルハンドラに行くってのに依頼って……
「あんたたちが捕獲したラージイーグルの雛をアルハンドラまで運んでおくれよ。どうにもあたしたち職員や他の冒険者たちが相手だと騒がしくてしょうがなくて……あんたたちがギルドに持ち込んだときは大人しかったしちょうどいいと思ってね。どうだい?」
そういうことか。アルハンドラまで行くついでに依頼を受けてくれって感じか。
「うむ! もちろん構わないぞっ! ノヴァス、お前もそれでいいか?」
「あぁ、その程度大した労力にもならないだろう。……その依頼引き受けますよ、カリンさん。あ、依頼自体を受けるのはドンさんか」
今回の依頼でも俺は付き添い扱いになるだろうしな。
「助かるよ! ありがとう2人ともっ! それからノヴァス、あんたの活躍はしっかりと冒険証石が示してくれるから安心しな! 懸命に目の前の依頼をこなしてればきっと昇級できるよ!」
冒険証石が示してくれる……冒険者ギルド特有の表現だろうか? まあいつかは俺の頑張りも評価されるということだろう。
その後俺たちはカリンさんに受付カウンターで依頼の手続きをしてもらい、雛ラージイーグルが入った鳥籠を受け取る。たしかに騒がしかったが、俺と目が合った瞬間に絶望したような表情を浮かべて急に静かになった。こいつも俺が親ラージイーグルをぶん殴ったのを知っているのかもな……まあ大人しいようなら問題ないな。
「もうここを出発するのかい?」
「あぁ! 最後に教会に寄ってから向かおうと思っている!」
「それならちょうどいい。これからアルハンドラに向けて商隊が出発するみたいだからね。それに随行するといいよ。街門で合流できるはずだよ」
それは都合がいいな。人が多く集まっていれば魔物や盗賊の脅威も軽減されるだろう。少しは気が休まるというものだ。
「わかったぞ! カリン、それでは行ってくる! 無事に戻ってくるからなっ!」
「カリンさん、色々とお世話になりました」
「あたしはここでの見送りになるからね……十分気をつけるんだよっ! ドンッ! 決して無茶な真似はするんじゃないよっ! ノヴァスッ! ドンのこと頼んだよっ!」
俺たちは別れの挨拶を済ませた。それにしてもカリンさんもすっかり俺の方がドンさんより強いと信じているようだな。どれだけドンさんの言うことを信頼しているのか……
まあ、いいか。俺がついている限りドンさんが死ぬことはないから安心してくれ。
別れを惜しむ気持ちを抑えて俺たちは冒険者ギルドの扉をくぐった。
◇◇◇
アルハンドラに向かう商隊と合流するまで時間があるのでその間に俺たちは聖竜神教の教会に行った。2枚の翼のようなマークが描かれた旗が目印の美しい教会だ。
相変わらず真っ白で神秘的な建物だなぁ……周囲の建物とは一線を画しており、冒険者ギルドの建物にも引けを取らない気がする。どうやら聖竜神教ってのはこの世界で少なくとも冒険者ギルド並みの影響力はあるのかもしれないな。
それにしても聖竜神教だもんな……機会があれば聖竜神教について勉強してみるかな。
そんなことを考えながら俺たちは教会の扉を開けて中に入った。
奥の方の祭壇のような場所にはラウル神父がいた。俺とドンさんは並んでラウル神父の元まで歩き、目の前にたどり着く。向こうも気づいたようだ。
「これはドンさんにノヴァスさん。本日はどうされましたか?」
ラウル神父がそう話しかけてきた。
「よぉ! ラウル神父! これから少し長めの依頼を受けることになってな! しばらくカーメリアを留守にするんで別れの挨拶に来たぞ! それと祝福を頼む!」
「どうも、ラウル神父。まあそういうことだ。今まで世話になったよ」
ドンさんに続いて俺もラウル神父にそう言った。
「そうでしたか……それは寂しくなりますね……あなた方のご活躍はこの教会にも届いていましたので、皆さんも別れを惜しまれることでしょう。……そちらはこの間のラージイーグルの雛でしたね? それを送り届けるのですか?」
ラウル神父がそう言って視線を向けたのはドンさんが持っている雛ラージイーグルが入った鳥籠だ。こいつマジで大人しい。偉い子だ。
「偉い子だな。頭を撫でてやろう」
「ピィィィィッ!?」バタリ
あれ? 気を失った?
「ノヴァスよ……あまりいじめてやるな……ショックで死んだらどうするのだ?」
「いや、頭を撫でようとしただけなのに……」
「大方、親ラージイーグルのように殴られるとでも思ったのだろう! ……ラウル神父、その通りだ! こいつをアルハンドラまで送り届けるのだ!」
カリンさんは騒いで困るとか言っていたけど、俺が一緒にいる方がこいつのストレスになりそうじゃね?
「それは長い旅路になりそうですが……仲がよろしいようで何よりです。きっと楽しい道中になることでしょう」
いや、俺に関しては絶賛怯えられまくっていたんだが……ちゃんと見てた?
「コイツをアルハンドラまで送り届けた後に……リヴィラへ向かうことにしたのだ。まだやり残したことがあるからな」
少しその場の空気が張り詰めたような気がした。
「……ドンさん、あなたがこのカーメリアに来たときはそれはもう……言葉を選ばずに言うと見ていられませんでした。仲間を失った苦しみ……私程度の人間に理解できるようなものではありませんが、あなたが懺悔したときのことは今でも鮮明に覚えています」
ラウル神父が真剣に、どこか懐かしむかのような表情でそう言う。今のドンさんを見ても信じられないが、きっと荒れた時期でもあったのだろう。
「カリンさんをはじめとした多くの人との交流を経て今ではすっかり元気な姿になって、私としても喜ばしい限りです。……だからこそあなたに問います。あなたを助けてくれた周りの人を悲しませるようなことになるかもしれないのをわかって尚その道を進むのですか?」
察するにドンさんはカーメリアに来たことで、荒んだ心を癒すことができた。そこにはカリンさんやラウル神父の尽力もあったのだろう。ドンさんの聖竜神教に対する信仰もこれがキッカケだったりして。
まあそういった経緯があるからこそ、ラウル神父は覚悟を問うているのか。きっと心配なんだろうな。以前の姿を知っているからこそ。
「……あぁ……決めたんだ! それにおれ1人では無理だろうが……ノヴァスがついてきてくれる。必ずやり遂げて……このカーメリアまで戻ってくると約束する……」
パトレイシア・クレスト……銅で構成されたかつてのドンさんのチーム。それがドンさんを除いて全滅をするなんて一体どんな脅威が待ち受けていることか……俺にそこへ行く覚悟はあるのだろうか?
「……これは私には止められませんね……わかりました。あなたと再会できる日を心よりお待ちしています。……ノヴァスさん、ドンさんがここまで信頼しているなんて、きっとあなたは凄い方なのでしょう。彼のこと、よろしくお願いします……」
そう言ってラウル神父が俺の方へと向き、頭を下げた。ここでも頼まれてしまった。一応、俺は白なんだけどな……関係ないか。カリンさんもラウル神父もドンさんが信頼している俺に頼んでいるんだからな。
「あぁ、任せてくれ。きっと大丈夫だよ」
俺はそう答えた。
「不思議な方ですね……何故かわかりませんが、その言葉を聞いただけで不安感が和らぎました……もしかしたら聖竜神教で語られる救世主様もあなたのような人なのかもしれませんね……」
救世主? そんなわけねぇだろ。名前は一緒だけど俺は別にそんなお人好しじゃねぇから。
「まあそういうわけだから祝福を頼むよ! ……あ、今回はちゃんとルハーム貨だからな。間違えてないぞ」
俺はルハーム銀貨を1枚取り出して無理矢理ラウル神父の手に握らせる。雛ラージイーグル捕獲の報酬だからなっ! ドンさんも俺に続いて銀貨を手渡したようだ。
「はい、しかと受け取りました。ありがとうございます。それでは祝福の準備をしますので少々お待ちください」
その後の流れは以前と特に変わるようなこともなく、無事に祝福の儀を終えた。
最後にラウル神父が俺とドンさんに向き直った。
「それでは……あなたたちが無事にこの街に戻って来ることを心よりお待ちしています。【あなたのこれからが素晴らしきものになりますように】」
そう言ってラウル神父が両手の指を交互に絡ませ胸の前で組み目を閉じる。これも随分と見慣れたな。
俺とドンさんも同様のポーズをとる。今はよくわからないがきっと大事なことだろうしな。
そして教会を発った。そろそろいい時間だろう。
アルハンドラ行きの商隊と合流するため、俺たちは街門を目指して歩き出した。
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