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46 パトレイシア1世の秘宝

 「頼み?」



 いつもの様子と違うドンさんを見て、少し驚いたがひとまずは話を聞いてみよう。



 「あぁ。ノヴァス、おれとチームを組んで【パトレイシア1世の秘宝】の依頼を一緒に受けてくれないか?」



 そう言うドンさんの表情はどこまでいっても真剣であった。なんか調子狂うなぁ……別にそんくらい普通に言ってくれればよくね?



 カリンさんの方を見ると、俺とドンさんの会話を邪魔しないようにか静かにことの成り行きを見守っているようだ。先程は少し戸惑っているようだったが……事情を知っているのか?



 「えーっと、まずは事情を聞かせてくれ。いきなりそんな改まった感じで頼まれたら逆に気になる」



 俺は素直にそう言った。別に二つ返事でOKしてもいいのだが、事情が聞けるならそれに越したことはないからな。



 「そうだな……急にこんなことを言ってすまない。……だが! お前の実力を見てのことだ! この機会を逃したら、もうチャンスはないかもしれないと思ってしまったのだ! 頼むっ!」



 なんか切羽詰まってる感じだな。ますます気になるぞ……早く教えろ……



 「ドン……あんた本気かい……? いくらなんでも……」



 カリンさんが少し心配そうにドンさんに話しかけた。



 「あぁ……カリン。ノヴァスとならきっといける気がするのだ! 一度だけだがこいつとの冒険で実力はよくわかった! いや……むしろわからなかったと言った方が正しいか……」



 ドンさんが意味深な感じでそう言った。うん、そろそろ置いてけぼりにされてるようで少し寂しいんだけど……



 「わかったよ……あんたがそのつもりなら止めるのは野暮ってもんだね……必ず生きて帰ってくるんだよ……」



 カリンさんがまるで戦地に向かう夫を見送る妻のような雰囲気を醸し出してる。さっきから何を見せられているわけ?



 「もちろんだ! 俺とノヴァスなら必ず成し遂げることができるはずだ! それまで待っていてくれ!」



 「あのぅ……一応俺に頼み事してるんだよね? そろそろ俺にも教えてくれない? その気がないなら帰るよ?」



 なんか2人の間でいい感じに盛り上がっているけど一度俺の顔を見てみろよ。めっちゃ真顔だぞ。



 「ハッハッハ! 面白いことを言うな! 一体どこに帰るというのだ?」



 うぐっ……そういうことは突っ込むなよ!



 「もう帰らずの森に帰るっ!」ガタッ



 椅子を蹴って立ち上がる! 俺は本気だぞ!



 「ハッハッハ! お前は本当に愉快なやつだな! ちゃんと話すからそんなわけのわからないことを言うな!」



 「そうだよノヴァス。冗談でもそんなこと言うもんじゃないよ?」



 なんか俺が2人に(なだ)められている。まるで俺が聞き分けのない子供みたいじゃないか。



 「そうだぜ! 兄ちゃん!」


 「ガキじゃねぇんだからな!」


 「よくわからねぇが落ち着け!」



 こちらの話している内容や事情も知らないような周りのヤツらが一斉に俺を(たしな)める。なんでこのタイミングで入り込んでくるんだよ! この筋肉どもが……!



 やべぇ、イルシプ人が嫌いになりそうだ……




 「ノヴァスよ、お前はおれがチームを組んでいないことを疑問には思わなかったか?」



 急に真面目な雰囲気に戻ったドンさんが突然そんなことを聞いてきた。



 俺は椅子に座り直した。



 たしかに冒険者はチームを組んでいる者がほとんどだ。それに対してドンさんはソロらしい。別に他の冒険者とも交流はしているようだが、一緒に冒険に行っているという風ではない。



 「ドンさんの超人的な体力についていけるやつがいないからだろ?」



 (2等級冒険者)の冒険者だからな。上から2番目のランクとなると実力差も広がるもんだろう。



 「まあ、それもあるが……実はだな……おれもかつてはチームを組んでいたことがあってな……」



 「………………」



 「数々の冒険をしてきたものだ……あのときは何もかもうまくいっていてな……当時はおれも他のメンバーも(3等級冒険者)だったんで、怖いもの知らずだった……そんなときにとある常設の依頼を引き受けたのだ。上級冒険者のみが引き受けることができる依頼だ。それが……」



 「【パトレイシア1世の秘宝】……か」



 「そういうことだ。その依頼でおれは……チームのメンバー全員を失った。おれだけが唯一死に損なったのだ」



 冒険者にとって仲間との別れというのは珍しいものではないのかもしれない。ただ……実際に話にきくと……



 「それは……なんというか……」



 なんて言っていいのかわからないな。俺にはこういう状況で気の利いた言葉を言えるほどの人生経験がない。



 「ちょっと!? そんな卑下しなくても……」



 カリンさんが思わずといった感じで口を開いたが、ドンさんがそれを手で制す。



 「気を遣わせて申し訳なかったな。そのこと自体についてはおれなりに心の整理をつけたのだ。重要なのはこうなった経緯についてなのだ」



 カリンさんもそれを聞いてまだ何かを言いたそうにしていたが大人しく引き下がった。俺もドンさんの次の言葉を待つ。



 「【パトレイシア1世の秘宝】は城塞都市カーメリアから南東方向に進んだ先の砂漠地帯に囲まれたオアシス都市・リヴィラの近くにあるダンジョンから財宝を取ってくるという依頼なのだ」



 まさに冒険って感じの依頼だな。



 「そのダンジョンの名は【パトレイシア・クレスト】という。これはイルシプ王国初代女王であるパトレイシア1世が自分の権威を知らしめるために造らせた巨大地下神殿……クレストが長い時を経て魔物が棲みついたことで出来た後天的なダンジョンだ。ここにはイルシプの富がいまだに大量に眠っていると言われている。その価値は計り知れないが……その分危険度も桁違いだ。イルシプ国内でも最難関のダンジョンだからな」



 最難関のダンジョンか……(3等級冒険者)の冒険者で構成されたチームが壊滅するほどの脅威となると恐ろしいな……人間か疑わしいほどのドンさんでもなす術なく撤退するしかなかったとか人間の手には余りすぎるだろ。



 「ちなみにドンも何の成果もなかったわけじゃないんだ。そのときにパトレイシア1世のものと思われる財宝を持ち帰ったことで現女王陛下が(2等級冒険者)に推薦したことで、ドンは(2等級冒険者)へと昇級したのさ」



 カリンさんがそう付け加える。なるほど、それだけの功績をあげてやっと(2等級冒険者)にまで至れるということか。



 「まるで仲間を見捨てたみたいで当時は素直に受け入れられなかったがな……結果的に自分だけいい思いをすることになったのもな……」



 詳しいことはよくわからないが、冒険者として依頼を達成しようとしたんだしそこまで自分を悪者にしなくてもいいと思うがな……仲間を見捨てるような人間には見えないし……そういえばエルオア高原でも親ラージイーグルが現れたときには俺を助けるために駆けつけようとしていたな……



 「ノヴァス! おれは仲間たちの(かたき)を討ちたいのだ! そんなことをしてもあいつらが戻ってこないことはわかっている! それでも……! 頼むっ……! 力を貸してくれ……!」



 ドンさんがテーブルに頭を打ち付けて俺に頼み込んできた。まさに藁にもすがる思いといった感じに見える。敵討ちか……自分のチームをかつて壊滅させたやつ相手にそんなことを考えるなんて並大抵の覚悟ではないよな……



 「……なんで俺なんだ? 俺は(7等級冒険者)だぞ」



 ドンさんの前では普通に振る舞っていたつもりだったのだが……



 「ノヴァス、お前……ラージイーグルをひと殴りで気絶させただろう……? そんなことはおれでも無理だ。お前は……おれなんかよりも遥かに強い。自分の力だけで敵討ちできないことに情けなくも思うが……それでもおれは成し遂げたいっ! 依頼で得た報酬は全てお前に渡すし、おれに用意できるものなら何でも譲る! この通りだっ!」



 あぁ、親ラージイーグルをぶん殴ったのバレてたのか。咄嗟にとぼけたのは無駄だったか。



 俺の人化状態での強さは……おそらく加護を得たヘビ(よし)やキバ(よし)ら森の5種族の(おさ)には敵わないと思う。あいつらに一斉に攻撃されたときとか避けるので精一杯だったしな。それでもドンさんよりは強いだろう。それをドンさんは見抜いたというのか。流石はベテランか……



 パトレイシア・クレスト……察するに立入禁止区域ではないようだから、帰らずの森ほど危険ではないはず。それなら少なくとも俺が死ぬようなことは……ないよな……? ドンさんとは既に仲間意識が芽生えてるし力になってやりたい……



 「わかったよ、ドンさん。俺でよければ力を貸すよ。ドンさんの言う通り、結構強いからな……俺」



 まあ答えは決まっていたようなもんだ。ドンさんの手助けならやぶさかではないし、イルシプの女王が依頼を達成した冒険者のランクを昇級するくらいには関心があるみたいだしな。上級冒険者しか受けれないようだし……随行した俺のランクも一気に上がるかもしれないしな! くくく……



 「ありがとうっ! ノヴァスッ! お前はおれの救世主だっ!」ギュー!



 ドンさんが感極まったようにテーブルを飛び越えて俺を力強く抱きしめてきた。



 うぐぅあぁぁぁあぁ!? やめろっ!? 俺にそんな趣味はないし、身体中に筋肉が密着して気持ち悪ぃ! 離しやがれぇ! ……くそっ! こいつ力強ぇ!



 「や、やめろ……! 手伝わねぇぞ……!」



 「お前は最高の男だっ! 必ず生きて帰ろうっ!」ギューッ!



 「まったく……しょうがない男たちだねぇ、ふふ」



 カリンさんが目の前で男が男に抱きついている光景を微笑ましそうに見ている。あの、助けてくれませんか……?



 その後はそのまま細かい打ち合わせなどする雰囲気ではなくなり、周りの冒険者も交えて大宴会の様相を呈した。そんな感じで夜は更けていった。




 詳細についてはまだ把握していないが、こうして俺の次なる目的ができた。




 それは【パトレイシア1世の秘宝】。




 ドンさんの話を聞いた後で少し不謹慎かもしれないが……俺はまさに冒険といったその依頼にワクワクした気持ちが抑えられなかった。



 酒を大量に飲んだことで微睡んだ思考の中でも、確かにハッキリとそう感じたのだった。




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