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45 打ち上げ

 俺とドンさんは数日を要して、城塞都市カーメリアまで戻ってきた。空を見上げると夕陽が沈みかけている。暗くなる前に街にたどり着けてよかったぜ……



 帰り道にも魔物や盗賊のようなヤツらと遭遇することはあったが、いずれも難なく退けることができたし特に目立った問題もなく無事に帰ってくることができた。



 捕獲した雛ラージイーグルもあれからすっかり諦めたかのように大人しくなったので、水や餌を与えるのにも苦労せずに済んだ。



 今回の依頼は概ね大成功といっても過言ではないのではないだろうか?



 俺が雛ラージイーグルを考えなしに捕まえて親ラージイーグルを引き寄せることになったというミスもあったが……結果的にはぶん殴って黙らせることでことなきを得たので問題なし! 終わりよければ全てよしなのだ!



 街門でも冒険証石を提示することでスムーズに入ることができた。これ簡単に手に入る割には便利すぎやしないか? 冒険者個人というよりも冒険者ギルドという機関の信頼によって成り立っているということなのだろうが……これは下手なことしたら即座に資格剥奪になるのだろうな。登録する際の注意事項をもう一度確認するべきかもな。



 その後俺たちは真っ先に聖竜神教の教会に立ち寄ってラウル親父に挨拶がてら治癒魔術をかけてもらった。ドンさん曰く、まず冒険から帰ってきたら教会に行って治癒魔術をかけてもらうことが上級冒険者の間での常識なようだ。目立った外傷や疲れがなくても、体は冒険者の資本なのでこの辺は疎かにしてはいけないらしい。これからも定期的に教会に行く機会が増えそうだな。ちなみに治癒魔術をかけてもらうのも銀貨1枚だった。これ高いのかなぁ……?



 そうしてやっと冒険者ギルドに到着した。街中でもそうだったが、雛ラージイーグルの入った鳥籠を持っている俺たちはとても目立っていた。それはギルド内でも同じだった。ほとんどの人はドンさんを尊敬の眼差しで見ていたので俺なんて視界の隅にも入っていなかっただろうが、そっちの方が俺的には注目を浴びずに済むのでラッキーくらいに思っている。今まで好奇の目線に晒されていたので少しは気が休まるというものだ……



 そして受付カウンターに向かった俺たちを見たカリンさんが慌てて自分のいる受付カウンターに来るよう手で招いてきたのでそちらで対応をしてもらう。その後依頼の完遂についての手続きや鳥籠の引き渡し、報酬の受け取りも済ませた。この世界で初めての労働で得た賃金だ! もう盗んだお金を使わなくても済むので少しだけ心が軽くなったぜ……



 それにしても俺に対して普通に気さくに話しかけてくるカリンさん、とても俺のことを疑っているようには見えない。ドンさんが嘘を言っているようには見えなかったので事実なのだろうが……ポーカーフェイスなんてものではないな……



 それとも俺が鈍感すぎるだけ……? いや、それはないな。俺はアルとは違うのだ。しかもこちらに関しては好意じゃねぇしな……



 まあそんな感じでやるべきことを終えて一段落ついたところで、ドンさんがこれまでの慰労も兼ねて宴会をしないかと提案してきた。特に断る理由もないので俺は一も二もなく了承した。



 そして俺たちは冒険者ギルドに併設されている酒場へと向かった。



 ◇◇◇



 「ハッハッハ! とりあえずお疲れ様だなっ!」



 「まあ無事に終わってよかったよ」



 俺の向かいの席に座ったドンさんがジョッキに入った酒を豪快に(あお)る。



 俺もそれに合わせてジョッキを傾ける。う〜ん……ビールっぽいな、コレ。前世のものとは違った独特な味わいだが、これはこれで美味いな。



 森のゴブリン共も、もう少しバリエーションを増やしてくれればいいのにな。人間の国に留学させるか……? うん、無理だな。そんなどうでもいいことは置いといて……



 冒険者ギルドに併設されている酒場にて俺とドンさんは宴会をしているのだが、初めて冒険者ギルドに来た際に覗いたときとは比べ物にならないくらいの賑わいようである。周りの様子はというと……



 「おらっ! おれの一気飲みを見ろっ!」グビグビ


 「ガハハッ! その程度でイキがるんじゃねぇ!」


 「おい! あいつ鼻から飲んでるぞ! すげぇ……」



 こんな感じでとてもキモいことになっている。



 既に外はすっかり暗くなっており、今この酒場にいる冒険者たちは仕事を終えた者たちがほとんどなのだろう。凄い勢いで酒を飲み、騒ぎ、そしてぶっ倒れる。



 「オゥエェェェェェウォロエオォォ」ドバドバ


 「うわぁ!? 鼻から飲んだヤツがやらかした!」


 「よっしゃぁ! こいつの所持品全部飲み代に回すぞっ! 冒険証石以外を回収したら外に投げとけ!」



 あまりにも酔って迷惑なヤツらは迷惑代として必要最低限の所持品を残して周りの冒険者に身包み剥がされた後に外へ放り投げられている。それはもう手慣れた様子で。



 呆れるほどにバカ騒ぎしているが、逆にこれだけ我を忘れるまでにはしゃがなければ、普段の厳しい冒険者稼業のストレスに耐えられないのかもしれないな。



 今回の依頼を俺とドンさんは結果的にあっさりこなしてしまったのだが、他の冒険者が同じようにできるかと言ったら……おそらく無理だろう。ドンさんは(2等級冒険者)で俺はドラゴンだ。みんな無理して冒険者をやっているのかもしれない。こういう時間はきっと必要なのだろう。



 そういえば結構前に真紅の楽園でも宴会で魔物たちがはしゃぎすぎたことがあったっけなぁ……あのときはブチギレてしまったが、今思えばあいつらも森でのヒエラルキーが低いヤツらだったし、常に身に付き纏っていた恐怖の反動であぁなってしまったのかもな。



 そう考えるとその後の俺の暴走で犠牲者が出なくて本当によかったよ。あれ……? やっぱ犠牲者いたような気が……



 「ノヴァスッ! 何を難しそうな顔をしているっ! 酒が減っていないぞ! もっと飲めっ!」



 ドンさんが俺の顔にジョッキを押し付けてくる。おい、やめろや……



 「ったく……酒くらい好きなように飲ませろよ」グビグビ



 「酒は楽しんで飲むのが一番美味いからな! お前もそんなちびちび飲むのではなく、もっと豪快にいけっ!」



 楽しみ方は人それぞれだろうが! 俺はもっと時間をかけて味わって飲むのが好みなんだよ!



 「なんだい、楽しそうにやってるじゃないか? 私も混ぜてくれよ!」



 ドンさんと話していると横から声が聞こえたので振り向くと……そこにはカリンさんがいた。彼女も仕事が終わったのだろうか。



 「あ、カリンさん」



 「おぉ! カリンか! お前も付き合えっ!」



 「そうさせてもらうよ。注文いいかーい?」



 カリンさんはドンさんの隣に腰をかけ、店員を呼んで酒を注文をした。流石に潰れるような飲み方はしないよな……?



 「それにしてもノヴァス。あんたなかなか根性あるじゃないの。まさか、無事にあの依頼を完遂するなんてね」



 カリンさんが俺に話しかける。ラージイーグルの依頼に関しての手続きはカリンさんにやってもらったので、そのことについてだな。



 「いや、依頼に関してはドンさんがやったことですよ。俺なんか着いていくので精一杯で……」



 俺は適当に濁す。



 「それも十分凄いことなんだけどねぇ……そうだろっ! アンタたち!」



 するとカリンさんが周りの冒険者たちに問いかけた。



 「おう! ドンさんに着いていくってやべぇぞ!」


 「ドンさんは化け物だからな! おれらじゃ無理だな!」


 「中央大陸人の癖に根性あるな! 兄ちゃん!」



 冒険者たちが各々俺を讃えるようなことを口にする。意外にも俺を評価しているようだ。着いていくだけでここまで褒められるって……ドンさん、あんた一体何者だよ?



 「ま、こういうことだ! 素直に認めな」



 「ハッハッハ! おれはノヴァスの凄さを最初から見抜いていたぞっ!」



 まあ悪い気はしないからいいけど……俺は酒を飲む。



 「そうだっ! カリン! ノヴァスは怪しいヤツじゃなかったぞ! 盗賊どもとは無関係だ! おれが保証する!」



 突如ドンさんがそんなことを言い出した。



 「えっ? ……ちょっ!? ドン!?」



 カリンさんが少し慌て始めた。うん、まあそうだよね。おそらく俺にバレないように探るつもりだったのだろうが、ドンさんがそれを台無しにしたからな。



 「ドンさんから話は聞きました。まあそういうわけでその件と俺は無関係で……俺はただの挙動不審なだけの男なんです。不安にさせたようで申し訳ないです。」ペコリ



 先手で謝っておく。実際無関係だし素直にそう言う。信じてもらえるかわからないが、そうするしかないからな。



 「はぁ〜……まったく。なんでアンタが謝るのさ。そういうことなら疑ったこっちこそ悪かったね。元はと言えばあたしというより他の職員の子が不審に思っていたのがきっかけなんだけど……それは関係ないね……根拠もなく探るような真似をして申し訳なかったよ」



 カリンさんが気まずそうにしている。あぁ……どおりでカリンさんが専属みたいな感じで対応していたのか。俺そんなに怪しかったのか……



 受付カウンターの方に顔を向ける。あ、目線逸らされた……ちょい悲しい……



 目の前に向き直るとドンさんだけが豪快に笑いながら酒を飲んでいる。腹立つなぁ……まあそんなことはいい。それよりも……



 「それにしてもあっさりと信じるんですね。一応怪しんでいたわけでしょ?」



 あっさりと引き下がったのには何かわけがあるのか?



 「ん? だってドンのやつが言っているじゃないか? 信じないわけにはいかないよ」



 どうやらカリンさんは随分ドンさんのことを信頼しているようだ。なんだか余計に腹立ってくるなぁ……この筋肉野郎がぁ……



 「まあ、疑いが晴れたというなら…これからもよろしくお願いしますよ。カリンさんに話しかけてもらったのには素直に感謝してるんです。俺の方でも何か分かれば伝えますよ」



 これはマジである。それにカリンさん普通に綺麗だし是非これからも仲良くしたい……むふふ。



 「そうだね……ノヴァス、すまなかったね……それにしてもあんたやっぱ凄いやつだね! 流石はドンが認めた男だっ! こちらこそよろしく頼むよっ!」



 うん、その態度や言葉は嬉しいのだが……ドンさんの主張がちょっと激しいなぁ? 邪魔なんですけど!



 「邪魔だっ! 筋肉野郎っ!」



 「え!? どうしたんだい急に?」



 おっと、カリンさんを驚かせてしまった。反省反省。



 「ど、どうしたのだ、ノヴァス! 急におれのことを褒め始めて! そんなことを言ってもここのお代を奢るくらいしかしてやれないぞ?」



 めちゃくちゃ喜んでるじゃねぇか。とても不快だが完全に八つ当たりなので、引き下がることにしよう。誤魔化すようにジョッキを傾ける。



 「……まあいい! カリンの件についてはもういいな! では今度はおれから話したいことがある! 少しいいか? ノヴァス」



 今度は何だ、そう思いドンさんの顔を見る。



 先ほどまで笑いながら酒を飲んでいたドンさんは……この場に似合わないほどに真面目な表情をしていた。え? 何急に?



 カリンさんもドンさんのその様子に少し戸惑っているように見える。



 「ノヴァス。この間、お前がある依頼紙についておれに尋ねてきたことがあったな」



 まあ今はドンさんの話に集中するか……この間俺が尋ねた依頼紙って……たしか……



 「【パトレイシア1世の秘宝】とかいうやつか?」



 そんな感じだったはずだ。ラージイーグルの依頼の隣に張ってあったはずだ。



 「そうだ。それについてお前に頼みがある」



 そう言ったドンさんはいつもの豪放磊落(ごうほうらいらく)な様子とは打って変わって、どこまでも真面目な雰囲気であり……どこか緊張しているようにも感じた。



この作品に興味を持っていただき、ありがとうございます!


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