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28 アルの帰宅

 ◆◆◆



 オレはひとまず街門を抜け、ニルヴァニアへと入った。



 そして商隊の人たちやガスさんたち含む護衛冒険者にも感謝の言葉を伝えた。



 道中、たまたま出会っただけのオレを商隊に混ぜてくれただけでもありがたいのに、慣れないオレを気にかけてくれていた。



 ガスさんたち以外の人とはそこまで深く関わらなかったけど、長い旅路を共にしたという仲間意識はもちろん育まれていた。



 仕事で来たのだろうけど、是非ニルヴァニアの街並みや雰囲気を楽しんでいってほしい。



 その後一言挨拶を交わして、街門前広場で別れた。



 さて……



 「お前っ! どこに行ってたんだよっ! ウルのヤツ、お前がいなくなってから別人みたいになっちまったんだぞっ!」



 ファリスおじさんがオレに怒鳴りつけてくる。彼は一旦門兵の仕事を抜け出して、街門前広場まで来たのだ。



 その姿は衛兵用の制服の上に鎧を着ており、手には槍を持っている。ニルヴァニアの衛兵の標準的な格好であるが、これがなかなか威圧感がある。その上、(しかめ)めっ(つら)を浮かべているため余計おっかない。



 顔自体は結構なイケメンなのだ……どことなくアリスに似ている……いや、アリスが似ているのか?



 それはさておき、この件に関してはオレが全面的に悪いので黙ってお叱りを受けている。ウルとはオレの親父の名前なのだが、親父のヤツが別人みたいって……想像できないな……



 「ったく……! 反省してるならさっさと実家に帰れっ! どれだけ心配かけたと思ってんだっ! もちろんハルさんにもなっ!」



 オレの母さんの名前だ。まあ母さんが心配してたのはわかるけど、親父も心配してたんだな……



 さっそく会いに行かないとなっ。あぁ、そうだ……



 「うん、すぐ帰るよ。ありがとうファリスおじさん。それとなんだけど、アリスは元気?」



 アリスのことが気になったのできいてみた。一緒に暮らしているはずだしな。少しは心配してくれていたのだろうか?



 「うぐっ……!? い、いやぁ……べ、別に……めちゃくちゃ元気だったしぃ! お、お前がいなくても問題ないっていうかぁ? ……まあ浮かない顔をしてることが多いけど……お前は関係ないからなぁ! 早く帰れっ! あ、冒険者ギルド行くなよっ!」



 そうか、そんなに心配してなかったか。



 まあ少し寂しい気もするけど、オレも今まで素っ気なかったしな。まあ実家に戻って、一段落ついたらアリスにも会いに行こう。



 「お、おい! きいてるのかっ! なんか、ちょっとは大人っぽくなったからってなぁ! あんま調子乗るなよっ! うちの娘は安くないからなぁ! わかってるかぁっ!」



 「あの……隊長。ただでさえ人手足りてないんですから……遊んでるなら、早く仕事に戻ってください……」



 「あぁ!? 今、娘のピンチなんだよっ! 仕事なんかやってられるかっ……って!? おい、待て! 腕を掴むな! 力尽くで引っ張るな! まだ、話は終わって……うおぉー、アリスゥ! 逃げろぉ!」



 その後、ファリスおじさんの部下みたいな人が来て、オレに一度会釈をしてからなにやら騒がしいおじさんを無理矢理連行していった。随分手慣れてるなぁ……お疲れ様です……ペコリ



 それじゃあ行くか。ここにずっといても仕方がない。



 オレは見慣れた街の景色を横目で楽しみつつも、これからのことを考えながら歩き出す。



 その足取りはしっかりとオレの実家である酒場へと向かっている。



 ◇◇◇



 オレはある建物の前で立ち止まっている。



 酒場【ニルブニックバー・ヴァートル】



 なんだか妙に古臭いデザインの看板にはそう書かれている。店の大きさはそこそこってところか?大通りの大人気店には劣るが、そこから少し逸れた通りにある地元の人間に愛された知る人ぞ知る隠れ家のような酒場。



 そう、オレの実家だ。



 住み慣れた家でもあるこの建物だが……久しぶりなせいか、なんか威圧感というか近寄りがたい何かを感じる。入り辛いな……実家なのに……



 オレは自分が思っている以上に緊張しているのかもな。目の前まで来たっていうのに、いまだに中に入れていない。



 あぁ……めっちゃ動悸が激しくなってくる……



 一旦冒険者ギルドの方に行くか? まだアリスになら会いやすい気がする。そう考えて体を冒険者ギルドのある方へと向けようとしたところ……



 バタンッ



 目の前の扉が開いた。



 建物の中から1人のエプロンをつけた女性が出てくる。



 オレは心臓が止まるかと思った。



 茶色の髪をダンゴ状にまとめており、服の袖をまくって空のビンが複数本入った木箱を店の外に運んでいる。表情には一切の疲れを見せないが、その茶色の目は心なしかくすんでいるように感じる。あぁ……本当に帰ってきたんだな……



 「母さん……」



 オレがそう言うと、その女性……母さんがこちらへと顔を向ける。初めは呆然としていたが、次第にその表情は驚きに変わり、目から涙が溢れ出した。そして木箱から手を離し、こちらへ駆け寄ってくる。



 そしてオレに抱きついてきた。まるでその存在を確かめるかのように。オレは何の抵抗もせずにされるがままに抱擁を受ける。



 「あんた! どこに行ってたのよっ! こんなに心配かけてっ!」ギュー



 母さんがさらに思いっきり力強く抱きしめてきた。本当に心配かけたんだな……




 「あぁ……心配かけて、ごめん……ちょっと力強すぎない……? あのぅ、痛いんだけどって痛たたたたった痛いたいたいっ〜〜〜!?」




 「まったくしょうがない子ねぇ……!」ギューッ!




 そのまま母さんは満足のいくまでオレを抱きしめ続けた。オレがピクリとも動かなくなったことに母さんが気付いたのは、それからしばらく後のことだった。



 ◇◇◇



 「それにしても、アル。あんた随分雰囲気変わったわねっ」



 オレが息を吹き返すと、母さんがオレの全身を視線でなぞりながらそう言った。



 「まあ、体は結構成長したかな……?」



 「それもそうだけど……なんというか……大人になったわね……」



 オレはこの1年で少しくらいは成長できたということだろうか。以前の自分の考えなしの行動に嫌気がさすことはたびたびあるが……まあ、でもそう言われるとなんだか嬉しいな……



 「そうだっ! いいから中に入りなさい! お父さんもいるわっ!」



 母さんがオレを店の中に入れようと促す。とうとう対面のときが来たか……うぅ……まだ、心の準備が……



 「何してんの! 早くしなさい! お父さんがいつまでもあんな感じだと商売上がったりなのよっ!」



 母さんがオレの背中をグイグイ押す。うぉお…抵抗もむなしくどんどん扉に近づいていく……オレの1年の特訓の成果がぁ……




 そしてオレは店の中に入った。




 はあ、帰ってきた。




 緊張感やらなんやらで入り辛かったのに、いざ店に入るとさっきまでとは違ってひどく落ち着いている自分がいた。



 多分古い建物なんだろう。壁や天井にはいくつものシミが目立ち、机や椅子にもアルコールのにおいが染み付き綺麗とはいいがたい。カウンターや照明もデザインがどことなく古臭い……ただ、どこか安心するような……オレの育った家だ。



 そんな店内の奥の方、角の辺りの机に空いた酒瓶が散乱しており、そこに突っ伏している中年男性がいた。



 親父だ……



 どちらかといえばいつも豪快でやかましいタイプの人間だったが、今はその姿がとても小さく見える。まさか、こんな風になるなんてな……



 店内を見渡すが客は1人もいない。まだ日が出ている時間帯というのもあるが……この陰気な雰囲気が客足が遠のいている原因といっても過言ではないだろう。




 「お、親父……ただいま……オレだ。アルだ」




 オレが意を決して声をかけると、親父がゆっくりと顔を上げた。




 「…………アル……か」




 オレと同じ茶色の髪に茶色の目、オレが年をとったらこうなるんだろうなといった感じの顔。だが以前とは異なり、綺麗に後ろに撫で付けていた髪はボサボサであり、かつての活力に満ちた目は暗く濁っているかのようだ。



 ひどい顔だ……頬も痩せこけていて、どこか精気のない顔といった感じだ……



 

 ここまでオレのことを心配してたのか……




 「あ、あぁ……心配かけて……ごめんなさい。お、オレ……何もわかってなかった」




 上手く言葉が喋れない。まるで自分じゃないみたいだ。




 「親父の言ってたこと……冒険者ってのを……舐めてたよ。今さら、だけど……」




 だが、なんとか言葉を紡いだ。そして頭を深く下げる。




 「本当に……ごめんなさいっ……!」



 

 目を強く瞑る。思いっきり殴られるだろうか。いっそ、その方がスッキリしていいかもな……



 ガタッ



 親父が立ち上がる音が聞こえる。そしてゆっくりとこちらに近付いてきて、オレの目の前で立ち止まった。思わず目を開けて顔を上げた。親父が無表情でそこに立っている。そして、右手をオレの方へ伸ばし……




 オレの肩に手を乗せてきた。とても優しく……




 「おかえり……おれも、悪かったな……」




 僅かだが、微笑んだ。




 そこにいつものような豪快さはなかったが、どこか安心感のある穏やかな表情があった。




 「きかせてくれ……お前のことを……」




 何かが心の奥底から一気に溢れてくるような感じがした。まるで今まで自分を縛っていた鎖から解放されるような……救われるような……そんな感じが……




 「ああ、もちろん……!」




 オレは今、本当に帰ったきたんだ……



 


 このニルヴァニアに……

 




 この家に。




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