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27 アルの帰郷

 ◆◆◆



 ガスさんたちと出会い、商隊の馬車に乗せてもらってから10日くらい経った。



 道中、特に問題はなかったな。むしろ快適だったといっても過言ではない。



 いくら身体強化魔術や治癒魔術が燃費がよかったといっても流石にずっと走りっぱなしってのはキツい……それに野営するときは常に周囲の警戒をしなくてはいけないから多少気疲れが残る。



 あと何と言っても、誰かと話せるというのはそれだけで気が落ち着く! 思えば、帰らずの森でもノヴァス様と特訓以外の時間は大抵何かしら話してたもんなぁ。やはり孤独というのは辛いものだ。



 そう、例えどんな相手だとしても……



 「おい……アル。もうニルヴァニアに着いちまうぞ? 久しぶりに故郷に帰るってのにスキンヘッドにしなくていいのか? お前なら絶対似合うのに……」



 「スキンヘッドは衛生的だぞ?」「おう! 頭を洗ってもすぐ乾くぞ!」「何よりスッキリしてカッコいいぜ!」「いやまずは筋肉だろ?」



 例えスキンヘッド髭モジャ筋肉マッチョに囲まれながら延々とスキンヘッドにしろ、髭を生やせ、筋肉をつけろ、と言われ続けてもそっちの方が……



 いや……待て……危ないっ! あやうく洗脳されるところだった。うるさいと思いつつも、もしかしてスキンヘッドっていいかもと少しだけ考えてしまった。危ねぇっ!



 うん、流石に鬱陶しかったわ。たまには孤独を感じたいときもあるよな。オレは今がまさにそのときだ。



 ってか衛生的云々の話するなら、そのモジャ髭をさっさと剃りやがれっ!



 「ってか衛生的云々の話するなら、そのモジャ髭をさっさと剃りやがれっ!」



 あ、やべ。口が滑った。



 「ん? 何を言ってるんだ? 髭は男の勲章だぞ? 衛生的だとか二の次に決まってるじゃねぇか!」



 「まさにその通りだ」「アルはわかってねぇなぁ!」「髭を生やせばいつかわかるさ」「おれは筋肉があればいいと思うぞ」



 このハゲどもがっ……! 最後のヤツは筋肉筋肉うるせぇんだよっ!



 まあこんな感じで退屈することなく旅を過ごせたわけだ。だが、この旅も残りわずかだ。もう遠くにうっすら懐かしきニルヴァニアの光景が見えている。



 ニルヴァニアが見えるということはそう……海が見えるということだ。



 このニルヴァニアはかつて中央大陸ミリア圏に存在した超大国・古代ミリア帝国から来た人間が築いた都市だ。



 航海の途中で偶然に南方大陸を発見した船乗りが海沿いに拠点をつくり、ミリア圏からどんどん人を呼び込みこのニルヴァニアをつくった。



 そしてニルヴァニアを中心に開拓を進め、南方大陸北部を支配するニルブニカ王国が誕生した。



 そうなるとオレたちニルブニカ人のルーツは中央大陸にあるわけだ。



 一方で、ガスさんたちの故郷であるイルシプ王国は遥か昔から南方大陸で暮らしていた人間が築いた国だ。



 だからオレたちの容姿は少し異なる。ニルブニカ人は肌が白くて髪が明るくスラっとした人が多いが、イルシプ人は肌が浅黒く髪も黒でガッシリした人が多い。



 まあそうは言っても本格的に争ったことはなく、イルシプ人だけでなく同じ大陸に住むアウロフ人とも現在は交易を通じて経済的にはいい関係が築けている。



 さらに中央大陸の五大帝国の国との貿易も盛んであるので、この地域一帯の交通の要所としての地位を確立したわけだ。



 そんな我らが故郷にオレは1年ぶり……いやもっとか? とにかくめちゃくちゃ久しぶりに帰ってきたのだ。



 「あぁ……やっと帰ってきた……」



 まさか帰ってこれるとはなぁ……なんだかんだこの街に無事帰ってくることができて心底ホッとしている。街の外観を見ているだけで涙が出てきそうなくらいだ。



 「久しぶりの故郷なんだって? やっぱいいもんだよなぁ……おれもアルハンドラが恋しいぜ」



 アルハンドラってのはたしかイルシプ最大の都市だったっけ? ガスさんたちは基本的にそこを活動拠点にしているんだろうな。オレみたいに住んでいる可能性もあるか。



 冒険者はあちこち移動してばっかなイメージがあるが、やはりみんな帰る場所があってこそ遠くに行っても頑張れるってことか? たしかにそうかもな……オレもここに帰るために森では頑張ったよ……



 「ガスさんたちはすぐイルシプに戻るんですか?」



 「ん? そうだなぁ……それも考えていたが、せっかくニルブニカ最大の都市に来たからな。どうせこの商隊がイルシプ方面に戻るときに護衛依頼が出るだろうし……それまではここを拠点にするのもありかもなっ!」



 すぐ帰るわけではないんだな。まあその自由さこそが冒険者って気がするし、オレもそういうところには憧れている。まあそれも帰る場所があってこその自由か。オレはそれをよく理解していなかったってことか……少し緊張してきたな……



 「お? どうかしたか? なんだか難しい顔しやがって。まさか……やっとスキンヘッドにする決心がついたか?」



 「ついてねぇよハゲッ!」



 また、口が滑った。



 「ガハハッ! 何を気にしてるか知らねぇが、もっと気を抜けっ! 多分そっちの方が上手くいくぞ?」



 「……たしかに、そうですね。ガスさん、それに他の皆さんもありがとうございました! おかげで無事ニルヴァニアに帰れました。もしよかったらうち酒場なんでいつでも飲みに来てください! あ、お金はもちろんとりますよ」



 騒がしくて鬱陶しく感じることもあったが、それ以上にオレにとっては頼れる気の良い冒険者の先輩だった。



 きっとスキンヘッドだの筋肉だのしつこく聞いてきたのだって、1人で旅をしていたオレの緊張をほぐすために冗談を言ってくれていたのだろう。



 「いいってことよっ! こっちも色々と助かったからなっ! それにしても酒場かぁ……いいのかぁ? おれらイルシプ人が行ったら置いてある酒全部なくなっちまうぞ?」



 「イルシプ人に酒を勧めたら終わりだぜ?」


 「酒を飲めないヤツはイルシプ人じゃねぇっ!」


 「イルシプ川を酒にして泳ぎたいくらいだぜ!」


 「ああっ! おれの筋肉も酒を欲している!」



 「いやいや余裕ですよ。潰れたらちゃんと店先に放り出してあげますから」



 「ガハハッ! そいつはいいぜっ! ……その調子なら大丈夫そうだな。まあ頑張れよ!もしなんかあったら酒の席で話くらいは聞いてやるからな!もちろんお前の奢りでなっ!」



 オレが何か思い詰めてることなんてすぐにわかったんだろうな。これがベテラン冒険者のなせる技ってやつか。ベテランって言っても見た目がオッサンなだけで意外と若いんだけどね……



 ニルヴァニアを飛び出した日から今日までのことを思い出しても、オレには経験というものが圧倒的に足りていないのかもな……



 どういう結果になるかわからないけど、たしかに気にしすぎても仕方がない。ここまで来たからには後はぶつかるだけだな!



 「えぇ、いつでも来てください!」



 そのときまでには終わらせますので。




 あ、お金は払ってくださいね?



 ◇◇◇

 


 そうして、とうとうニルヴァニアの街門まで到達した。



 街門をくぐればオレはその場で解放だ。他の護衛の冒険者たちは商隊の目的地まで着いて行くようだが、オレは正式に依頼を受けたわけではないからな。それかガスさんが気を遣って頼んでくれたのかな……?



 今はオレたちの商隊グループの責任者が門兵と話している。あともう少しでニルヴァニアだ。



 もちろん緊張している。喧嘩別れみたいな感じになってしまったというのもあるが、単純に久しぶりに会うということに気が引けてしまう……絶対怒ってるしな……



 だが、もう大丈夫だ。



 しっかりと真摯に話し合う。お互いに口が足りなさすぎたのだ。まずはそこに全力で取り組もう。例えどんな結果になろうと、誠意を見せて臨んだことには何かしらの価値ができるはずだ。一回でダメなら何度でも挑戦すればいいのだ。そう考えることにした。



 門兵がオレら護衛の冒険者を確認していく。オレは住民証明板をバックパックから取り出して見せる。



 「えーっと、市長の署名と……更新期限は……よしっ、問題なさそうだな。名前はアル=ヴァートルね…………はっ! お前アルかっ!」



 ん? 一体なんだ?



 門兵のオッサンがめちゃくちゃ驚いた様子でオレの顔を覗き込む。って、この人たしか……



 「あれ……ファリスおじさん?」



 この人はファリスおじさんだ。元(3等級冒険者)の冒険者であり、今はこの街の衛兵をしている。たしか結婚を機に冒険者を引退したんだっけな……?




 オレはこの人を知っている。




 なんてったって……




 オレが緊張していたもう一つの理由に関係している……





 この人は……





 アリスの父親だ……




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