23 別れ
アルの出発の日が来た。
まだ夜が明けきっていないが、今から出発すれば移動しているうちに徐々に光が差してくるだろう。
灯りの魔道具なる便利なアイテムがこの世界にはあるらしいが、まだまだ夜の暗闇というのは人間の活動する時間ではないとのことだ。
それにしてもアルはよくこの森にまで辿り着けたものだと思う。詳しく聞いた感じ、いくつもの乗合馬車や行商の馬車を乗り継いで一月強かけて来たのだという。いや……凄すぎない……?
それ故に結構な額の金銭を消費する必要があったため、立入禁止区域である帰らずの森に行くにも関わらず、装備や食糧は最低限だったという。
実は俺たちが初めて出会ったときだが、もう既に手持ちの物資が尽きていて紅蓮の翼に襲われるまでもなく冗談抜きで絶体絶命だったのだ。無鉄砲にもほどがあるだろ……
結果的に俺と会うことができたのだから自分の不備は帳消しだ、と本人は呑気に言っていたが……マジで今回に関しては俺という天文学的確率のイレギュラーに偶然遭遇できただけなので、準備は万全を期すように言っておいた。
つまり、もう後は出発するだけというわけだ。
バックパックには水筒や保存食となる干し果物、干し肉を詰め込んでいる。保存食に関してはゴブリンどもがノウハウを持っていたらしく、役に立ったようだ。計画的に食えば全部消費するまでに街に着けると思うが……まあ最悪道中で魔物でも狩って食ってくれ。
そうそう、アルが準備している間ずっと暇だったので俺も最後にある便利アイテムをつくった。
それは魔術だ。
アルが持っていた冒険者ギルドで公開されている魔術式の写しだが、実は治癒魔術だけではなく他の魔術式も書いてあったのだが……それを参考にいくつか便利な魔術をつくったのだ。
ライター程度の火を指に灯す、一口分の飲み水を出す、そよ風を引き起こす、土でできた雨避けの屋根とそれを支える柱を作り出す……というような内容だ。
魔術には魔法のような柔軟性がなく融通がきかないので、ミニマイズ化することで必要魔力をかなり抑えることに成功した。以前教えた身体強化魔術や治癒魔術と同様にアルの役に立つことだろう。
俺はこれらの魔術をサバイバル魔術と名付け、準備している最中のアルにメモを渡したのだ。ちなみにそのメモはなんかの魔物の皮で、メモ自体を書いたのはハムスターだ。俺の右筆はハムスターなのだ。
アルはそのあまりの有用性に「冒険者ギルドで広めていいか?」と聞いてきたので『ええよ。』と言っておいた。広められて困るようなものでもないしな。お前の功績の一つに加えてしまえ。
それにしても今回のアルの功績は大きすぎるのではないか? と思わないこともない。帰らずの森から生きて帰ってくる、森の魔物の種類や対処法、サバイバル魔術などなど……俺の存在は隠すようだが、かえって不審に思われないか? もしも誤魔化せないようなら、謎の森の賢者に出会ったということにでもしてくれ。
少し心配な気もするが、まあ大丈夫だろ。この森に来るまでのこともそうだし、この森での生活を見ていても思ったが、コイツはかなり要領がよさそうなのだ。魔術だって結構すぐ覚えたしな。前よりも成長したし上手く立ち回ることだろう。
いよいよだ。
◇◇◇
「それでは、ノヴァス様。ハム吉先生。今まで本当にありがとうございました!」
そう言ってアルは深く頭を下げた。
アルは初めて会ったときと同じ質素な服を着ており、その上から綺麗になった革鎧をつけている。すっかりサイズもピッタリだな。
そして腰には宝剣が差してあり、その立ち姿はもはや素人などではなく、一端の戦士のような貫禄さえ感じられる。
背中には荷物の入ったバックパックを担いでおり、まさに準備万端といったところか。
見送りは俺とハム吉だけだ。他のヤツらには既に挨拶して回ったみたいだ。
「ハムッ!」
『ああ、気をつけて帰れ。それにしても……』
実は一点、以前とは違うところがある。それは……
『意外と悪くないぞ? その首飾り』
白い石のついたペンダントのようなソレ……7等級冒険者であることを示す冒険証石が首から下げられていた。
「えぇ……何かあったときに、これを見て油断してくれると楽ですからね」
本当に成長したね。
『今のお前はどう見ても初級冒険者って感じではなさそうだけどな』
「どうでしょうか? 自分ではよくわかりませんね……」
そうこう言っているうちにも時間は過ぎていく。名残惜しいが早く出発した方がいいだろう。
『まあ、何かあれば森に来い。お前の家族や知り合いくらいなら面倒見てやるぞ?』
「ハムッ!」
「ありがとうございますっ……! ……周りのことに整理をつけて、落ち着いたときには……また、会いにきてもいいですか……?」
『俺とお前は友だ。いつでも来るといい。ハム吉もお前の師匠としてまた訓練をつけてくれるぞ?』
「ハムッ!」
「そうですね……! オレたちは友達です! ハム吉先生もオレの師匠です! 訓練はちょっとアレですけど……」
『まあそもそもの話、森の調査に同行する可能性が高いんじゃないか? 意外と早くにまた戻ってくるかもしれんな』
「そうかもしれませんけど……そのときはお会いできませんからね」
俺の存在を隠すのならたしかに会うべきではないだろうな。てか、森の調査隊が来たら皆殺しにしないよう森の魔物たちに言っておいた方がいいか?
『長い間留守にしてたんだ。当分は街での生活を満喫しておけ。それに俺がそちらに行くという選択肢も……』
「いや……街が大混乱するので、それは流石に……」
『ククッ……では行くといい。さらばだ友よ。またいずれ会おう』
「ハムッ!」
「ええっ……! 必ず……!」
アルは目の前の光景を数瞬だけ、目に焼き付けるかのように見つめ……それから背中を見せて森の外を目指し歩き出した。
一部の隙も感じさせない、立派な戦士の背中だ。
アルはそのまま一度も振り返ることなく、鮮やかな森の奥へと姿を消した。
これからアルにはニルヴァニアに着くまでの間、長い旅が待っているだろう。
そんな彼に、偉大なる竜の王の加護があらんことを……
なんつってな。
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