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21 加護

 アルは無事に真紅の楽園まで辿り着いたことで、最終試験を合格という形で終えることができた。よかったよかった。



 その後体力も精神も共に限界がきたのか、着いた時点で即意識を途切れさせて泥のように眠りについた。これは、当分目が覚めなさそうだな。



 一応、治癒魔法をかけて寝床に放り込んでおくようにとハム(よし)に言い付けておいた。



 ちなみにだが、アルのこの森での寝床は素材が100%自然由来の円錐状テント小屋である。木の枝を円錐状になるように並べて隙間に葉っぱを敷き詰めた、雨風をしのぐためだけの空間である。



 意外とちゃんとした寝床ではあるものの屋内に比べたら大層粗末であり、貧弱なアルはしょっちゅう風邪をひいていた。その度に治癒魔法で強制的に治すのだが……



 そんな劣悪な空間で寝ていたおかげで今ではもうどこでも寝れるようになってしまい、すっかり使われることがなくなってしまったので、久しぶりの寝床ということである。



 俺……? 俺はもちろん真紅の楽園のど真ん中で雨曝(あまざら)しになって寝ているよ。まあ雨風をしのぐ結界魔法を使っているけどな……



 最終試験に協力してくれた紅蓮の翼たちだが、(おさ)から説教をくらってすっかり萎縮してしまっていた。



 まあ仕方がないかもな。



 アルの立ち回りは100点満点だったが、紅蓮の翼たち次第では仕留められたんじゃないかな? 最初に巨大火球を避けられたことでその後ずっと小さな火球での狙い撃ちになったことが勝敗の分かれ目だったように思う。もっとバランスよく使っていればあっさり終了していたかもな。まあ所詮鳥だしな……



 紅蓮の翼の(おさ)もそれがなんとなくわかっていたのか見ている最中もヤキモキしていたし、その不満を最終試験が終わったこのタイミングで爆発させているようだ。アイツにはパワハラ上司の才能があるとみた……



 お、一段落ついたのかこっちに向かってくる。先に声をかけるか……



 『改めて協力感謝する。お礼になるかわからんが何かあれば手を貸そう』



 『いえ、まさかの結果にはなりましたが……彼らにはいい経験になったでしょう。この借りはいずれ……』



 『まあアルはあともう少しでこの森を去るけどな。よければ俺が相手をするぞ?』



 「「「「「チュッ!?」」」」」



 紅蓮の翼たちが凄い勢いでこちらを振り返った。



 『それも面白そうですが……流石に私もそこまで非情にはなれません。ただ、覇夢鼠(はむねずみ)たちがアレほど強くなった理由は気になりますね……』



 『教えてやってもいいんだが……俺に庇護を求めてきたヤツらのための措置だからなぁ。教えるなら色々条件をつけるかもしれんぞ?』



 『ふむ……なるほど。条件次第ではアリかもしれませんね……この返事はまた別の機会に』



 意外と乗り気で驚いてしまった。プライドが許さないかと思ったのだが……あぁ、そんなもん随分前にへし折ったっけ……



 『では私たちは失礼します。あの者たちに罰を与えないといけませんから……』



 「「「「「チュゥ……」」」」」



 『まあほどほどにしてやれ』



 紅蓮の翼の(おさ)項垂(うなだ)れる若い衆を連れて鬱蒼とした森の奥へと帰っていった。



 ◇◇◇



 こうして最終試験はめでたく終わり、無事アルを強くするという約束も果たすことができた。



 結局アルは俺の強化魔法を受けなかったので、圧倒的な強さは得られなかったが、人間の冒険者としては十分すぎる実力を手に入れることができたと本人は喜んでいた。絶賛爆睡中だが。



 紅蓮の翼の(おさ)もハムスターたちが急激に強くなったことに興味を持っていたが、実際にこの魔法の影響はかなり大きいだろう。



 もちろんアイツらの努力も大いに関係していると俺も信じたいが、この森の魔物だけでなく初級冒険者程度の強さだったアルにすら弱いといわれていた魔物だったのだから。



 もはや強化魔法なんて呼び方はやめよう。そうだなぁ……いっそ『加護』と呼ぶことにしようか。



 この加護だが実は以前に、俺が庇護しているミツバチとゴブリンにもかけてやっていたのだ。明らかに強くなったハムスターたちを見て、焦ったのかもしれないな。その後ハムスターたちの訓練にちょくちょく参加しているうちに目に見えて強くなっていったのだ。



 一見、ハムスターたちの訓練がすごいのではないか?と思うかもしれないが……もちろんその通りだ。アイツらの訓練強度は目を背けたくなるくらいには異常である。



 しかしだ……本来の能力であれば、そもそも訓練についていけないのだ。あの訓練は俺が見る限りどちらかというと精神がシンドいタイプのものだ。加護を受ける前のゴブリンとミツバチなんて訓練に参加して数分で逃げ出すくらいだ。



 つまり俺の加護には、身体能力爆増と魔力爆増に加えてメンタル強度爆増という効果があるということになる。あとついでに加護を受けた者を識別するために目が金色になるというオマケつき。



 まあ、これはあくまで予想なのだが『偉大なる竜の王の加護』を受けたことがとんでもない自信につながっているのではないかと思う。



 身体能力爆増や魔力爆増の効果は訓練によってその潜在能力をどんどん引き出されていく。その訓練についていくための強い心は俺の加護を得たという絶対的な自信を心の支えにして生み出される。そしてこんなヤバい加護を与えた者の責任として、加護を受けたヤツの目を俺と同じ金色に変えて管理をする。



 というように俺の加護は影響がかなり強いので加護を受けるヤツら、既に受けたヤツらにはある制約を与えた。



 それは不必要に森の魔物に対して過度な侵略をしないというものだ。



 俺がこの森の魔物を食い荒らしたときとか危なかったからなぁ。森の生態系を守るためにもこの条件は必須としたのだ。



 特に紅蓮の翼ってやけに宵闇の翼を目の敵にしているようだしな。特定の勢力が割を食わないようにしたいというわけだ。



 俺が睨みを利かせていればいいとも考えたが、ずっと気にかけ続けるのも面倒だしな。



 まあ紅蓮の翼に加護を与える場合は条件を追加する可能性もあるかもな。



 とりあえず、この明らかにヤバい加護をアルは恐れて受けなかったというわけだ。考えなしに突っ走っていたガキンチョはもうどこにもいないな。



 それに加護に代わるほどではないが、俺が改めて改良した身体強化魔術と治癒魔術を教えてやったのだ。



 効果は冒険者ギルドで公開されているものより少し効果が上がっている程度だ。た・だ・し、消費魔力をかなり抑えられるようになっている。最終試験でもガス欠にならなかったことでその効果を実感できたことだろう。



 加護など受けずともアルはもう十分に強くなったのである。





 つまり、アルと過ごすのもあと少しになるというわけだ。





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