17 風呂
『ふわぁ〜。風呂にでも行くか』
いつものように真紅の楽園で気持ちよく日向ぼっこをしていたのだが、眠れそうにないのでこの眠気を飛ばしに風呂にでも行くとしよう。
アルは今、ハム吉たちと一緒に森の魔物たちに喧嘩を売りに行っているらしい。いよいよ、本格的な実戦訓練に入ったというところか。
目標は上位勢力である5種族と互角に戦えるようになることらしい。俺が以前、攫った……もとい平和的な手段で招集した長どもの種族だな。
いや……この森って冒険者ギルドでも絶対に入るなって言われてる場所だよな……? そんなところの上位勢力の魔物と互角に戦えるようになるのか? ってかハム吉は戦えるってことか? 強くなりすぎだろ……
なんだかんだアルという話し相手がいないと暇で仕方がない。俺がついていくと森の魔物たちがビビってしまい訓練にならなそうだしな。
ん? アルでも使えるいい感じの魔術の研究はどうしたのかだって? そんなもん、俺が本気を出せばすぐにつくれるので、まだ慌てるときではないのだ……
さて、そろそろ向かうか。
◇◇◇
『オオ、偉大ナル竜ノ王ヨ。シバラクブリデスネ』
『白き鱗の長か、風呂に入りにきたぞ。これは土産の酒と蜂蜜だ』
『アリガトウ。ユックリシテイクトイイ』
俺は真紅の楽園から少し離れたところにある巨大な湖(俺が勝手に風呂と命名)にやってきた。俺が全身浸かっても全然余裕なほどの大きさだ。
俺を出迎えたのは白き鱗の長だった。なんでもこの湖は白き鱗の縄張りの1つらしく、湖の中やほとりには白蛇が結構いる。お土産と引き換えに風呂に入らせてもらっているのだ。
『最近調子はどうだ?』
『特ニ問題ハナイ。タダ、非常食ノ覇夢鼠ガ、イナクナッタクライ』
『そいつは悪いな。俺が保護してやっているからな』
『気ニスルコトハナイ。アクマデ非常食ダッタカラ』
そんなたわいも無い話をしつつ、俺は首だけ湖のほとりにのせて全身を浸からせた。
『ふぅ〜』
まあ普通に冷たいのだが、この辺の気候は暖かいのでなかなか気持ちがいい。
『アア、ソウイエバ……』
何かを思い出したかのように白き鱗の長は俺の方へと振り向く。
『コノ間、森デハ見カケタコトガナイ鳥ガイタ。空高クカラ下ヲ見テイタ』
『他所からこの森に魔物がくることは珍しいのか?』
『少ナクトモ、ワタシハ知ラナイ』
『ふぅん……で、そいつはどうした?』
『ソノ後スグニ見失ッテシマッタ。申シ訳ナイナ』
『いや、別にいいけど……何もなければいいな』
『コノ森ヲ狙ウツモリナラ、容赦ハシナイ』
まあコイツもサイズは成人男性よりは全然デカそうだし、相当に強いのだろうな。
『どれくらい先になるかはわからんが、いずれは人間が侵攻してくるかもしれないからな。そのときは俺が追い払ってやるよ』
『アノ子供ミタイナヤツカ。アンナ弱ソウナモノニワタシタチハ遅レヲトラナイ』
『まあ予想外なことをしてくるかもしれんし一応警戒しておけ』
『……偉大ナル竜ノ王ガソコマデイウナラソウシヨウ』
まあ、少なくとも俺の前世の人間は世界を滅ぼすことができる最悪の兵器を開発していたからな。
『そうだ。今度アルが白き鱗に勝負を挑みに会いにくるかもしれんぞ? 全然弱いと思うが、お前のところの若いヤツでも当ててみたらどうだ?』
『フンッ、ワタシタチノ恐ロシサヲ体ニ刻ミツケテヤロウ』
お手柔らかに頼むよ。殺しちゃダメだぞ?
『さて、そろそろ体を洗おうと思うんだが、ハムスターたちを呼んでもいいか?』
『ムッ、少シオ待チヲ……イツデモ大丈夫』
白き鱗の長は何かから身を守るかのようにトグロを巻いている。周りを見ると、他の白き鱗も同様の体勢になっているな。よし……すぅー……
「グルルルルオオオオオォォォオォッ!!」
俺は咆哮をあげる。相変わらず周りのヤツらのビビり具合は凄いな。
しばらくすると、遠くの方から足跡が聞こえてくる。徐々にその音は大きくなっていき……
「ハムッ!」「ハム。」「ハム!」「ハムッ……」「ハムゥッ」「ハァム」「ハム……!」「なんなんだよっ……あ、ノヴァス様」
大量のハムスターが姿を現した。あ、アルもいる。連行されてきたのか。
『歓迎シヨウ、偉大ナル竜ノ王ノ客人アル、ソシテ美味ソウナ覇夢鼠タチヨ』
「うおっ……! ど、どうも……慣れねぇなぁ……」
「「「「「「…………」」」」」」
アルは白き鱗から話しかけられることに、違和感を隠せていないな。俺との会話はすっかり慣れたようだが。
そしてハムスターたちは相変わらず緊張している。その様はまさに蛇に睨まれたカエル……いや、蛇に睨まれたハムスターだな。
『アル、お前が来るなんて珍しいな。ハムスターたちの訓練当番と洗体当番でも被ったか?』
「さあ……どうなんですかね? それにしても何しようかな……」
『ついでにお前も入っていけ。熱った体を冷やすと気持ちがいいぞ?』
「あ、本当ですか? では遠慮なく」
そう言ってアルは服を脱ぎ出す。
コイツなかなか逞しい感じに体が仕上がっているな。過酷なトレーニングの片鱗が垣間見えるぞ。背も伸びて顔つきもどこか精悍な感じになっている。こりゃ帰ったら本人か疑われるんじゃないか?
『人間ガ美味ソウニナッタ。デモ我慢ヲシヨウ』じゅるり
「いや…まじで頼みますよ? ……いくらホワイトサーペントだからといって目の前で無防備な状態になるのってヤバいよなぁ……」
俺はアルと入れ替わりになるように風呂から上がり、ハムスターどもに体を洗わせる。どいつもこいつも手慣れたもんだ。
『アル、そういえばなんだが……』
「はい? なんですか?」
風呂に肩まで浸かったアルが聞き返す。
『会ったばかりの頃、ハム吉と初めて手合わせしたときに勝ったらなんでも1つ願いをきくって言ったことあるだろ? もし勝っていたら何を言うつもりだったんだ?』
俺はふとそのことを思い出して気になったので、せっかくなので聞いてみた。
「あぁ、そのことですか……懐かしいですね。でも、別に普通ですよ? ノヴァス様由来の武器か防具が欲しいなって」
『俺由来?』
「強力な魔物の素材を使ったアイテムを身につけるのは、冒険者として一種のステータスになるんです。ノヴァス様の場合は……鱗とか牙になりますかね?」
たしかに俺の素材を使った装備は強そうな気がするな。
『ふーん、そうなのか。まあ確かにお前の装備は貧弱だからな』
「いやぁ……反省してます。命を預ける装備をケチるなんて……まあ今となってはその革鎧も愛着が湧いていますが」
『体格がしっかりしてきたからか、様になってるぞ』
「あははっ、それは嬉しいですね」
アルは恥ずかしそうに笑う。その周りで白き鱗がニョロニョロ泳いでいる。いや本当に逞しくなったな……
『それにしても、お前も随分図太くなったな』
「ん? そうですか? あんま自分だとよくわからないです」
『初めて会ったときは紅蓮の翼……ヘルフェニクスに囲まれて固まっていたのに、今では白き鱗に囲まれていても動じないじゃないか』
「あぁ……そういえば……でも、ホワイトサーペントは魔物の中でも少し特殊なんですよね」
『ん? そうなのか?』
「なんでも聖竜神教ではホワイトサーペントは神の使いらしくて、実際にこちらから攻撃しない限りは攻撃して来ない温厚な魔物らしくて……冒険者ギルドでも見つけても絶対に攻撃するなって言われましたよ」
おう、なんとも宗教チックな話だな。こんな思念通話にも関わらず片言なヤツが神の使い? 冗談だろ。
『そうなのか、白き鱗の長?』
『他ニ食ウモノガナケレバ襲ウガナ』
『だってよ?』
「いや、この森にきてからというもの新しい発見が多すぎるというか、価値観がぶっ壊されるというか……」
自分の目で見たものだけ信じろ、とは言わないが常に疑問を持ち続けるっていうのは悪いことではないよな。場合によるか……?
『そういえば森の魔物との戦いはどうだった?』
「そうですね……魔物の種類によって戦い方が全然違うので、なかなか難しいです。予想外の動きをされるとキツイですね。なんとか逃げることはできたんですけど」
『お前ほど魔物との実戦経験があるヤツも珍しいんじゃないか?』
「自分でもそんな気がしますね……帰ったら魔物との戦闘に関するレポートでも書いてギルドに提出しようかな……?」
『それ提出したら、お前の目標である冒険者ギルドの評価も一気に上がりそうだな』
「帰らずの森の生態系調査にもなると考えるとその価値は計り知れないですね……あ、でもノヴァス様たちからしたら嫌ですよね?」
『別に遅かれ早かれな気もするけどな。どうせならお前がやってくれた方がマシだな』
『森ニ入ッタナラ、食ワレテモ文句ハイエヌ。イツデモカカッテクルトイイ』
「そうですか……? なら一応ソレを意識して森での特訓に励むか……俺の報告次第では冒険者ギルドでの立入禁止も解除されるかもしれないしな……」
そうか、忘れていたけどコイツはギルドの指示を無視してここまできたんだったな。立入禁止が解除されればソレが有耶無耶になるかも、ってことか? 悪知恵が働くなぁ……
『この人間め』
「なんなんですか……いきなり……?」
その後、俺たちは十分に風呂を堪能した。そして白き鱗の長たちと別れ、アルとハムスターたちと共に真紅の楽園の方へと帰った。
いつかは温かいお湯にも入りたいなぁ……
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